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第33話 開示
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ようやく吐き出していいんだ。もう隠さなくていいんだ。そんな顔だ。
それに、経験のある朝飛はぎゅっと胸を締め付けられる。
ああ、俺と同じように生きている奴がここにもいる。
「びっくりするだろうけど、うちでは稼げるかどうかが総てなんだよ。稼げない奴は駄目な奴だって、そう決めつけられる。だから、学者なんていう、それも基礎研究なんていう金にならないことをやろうとしている俺は、一族一の駄目な男。それが佐久間での俺の評価だ」
「ふうむ」
ところ変わればというか、評価の基準が違うというのは驚くことだ。それも金を稼ぐか否かが総てだというのは、今の社会には合わない考え方のように感じてしまう。
「そんな散々駄目な奴と言っていた俺と同じようなことをする。当然、一族の反対が出て当然だった。兄さんがここをすぐに売り払う前提だったのだって、そういうことなんだ。総ては金にならないから。それだけさ」
「しかし、繁明さんはここを建設するまでやり遂げた」
「まあね。最初は隠居先って誤魔化していたからさ。家族もそれならばと納得していた。しかし、額が巨大だし、こんな離島だ。何かがおかしいとすぐにばれる。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だ。こいつにも一族としてやる気の出る場所を与えるとかなんとかね。まあ、俺をなんとか佐久間ホールディングスに縛り付けたい。その思いはあっただろうさ。でも、ここは祖父の夢を形にしただけの場所だよ」
そう言って寝転んだままの倫明は溜め息を吐く。失血が多いからしんどいのだろう。
日向はその様子にはっとして、すぐに電話を掛けた。
「すみません。船をこちらまで。ええ。怪我人がいるんです。出せそうですか」
「俺は逃げたかった。佐久間から。でも、逃げても逃げても、佐久間の家が付いて回る。物理学に自由を求めていたというのに、その物理学で佐久間に貢献しろと求められる日が来るなんて、皮肉でしかないよ」
その間も倫明は譫言のように喋り続けていた。
それまで我慢していたものが、堰を切って吐き出されている。そして吐き出されているのは事件の真相ではなく、倫明が抱えていた感情なのだ。
「夢を形にしてみたが、それが非常に難しいことを祖父は気づいていなかった。今の技術ならば可能だと思っていたんだろうね。実際、可能だとする論文や本が出ている。しかし、それは精密な実験を続けて得られるかどうか微妙なものだ。俺は説明役に呼ばれて、非常に困惑したよ」
「そうだろうな」
つまり、今回の研究会はそんな紆余曲折の上に決まったものだったということだ。ということは、朝飛たちが聞かされた説明は嘘が混ざっていたことになる。
「そう。嘘を吐いた。基礎研究を進める第一歩のための会合というのは嘘で、実際はすぐに加速器を稼働させて成果を挙げさせたい。それが祖父の願いだった。
もちろん、難しいことは兄にも、そして斎藤さんにも言った。二人は理解していた。しかし、祖父は違ったんだ。あの人は、寿命が見えてきたこともあって焦っていた。巨額を投じて作ったこの施設で何としても成果を。そればかりに頭が向いていた」
それが、今回の悲劇の始まりなのだと、倫明は大きく溜め息を吐く。
この事件が突発的ではないことは、複雑なトリックを用いたらしいことから何となく解っていたことだ。しかし、主犯格が誰なのかは解らないままだった。それが今、開陳されようとしている。
「繁明さんはあえて俺たちを帰れなくし、研究を進めさせるつもりだったということか。高校生や大学生が選ばれたのも、無理をさせるためだった。さらにはここでは一切金が掛からないのも、結果が出るまで出られないことへの不満回避のためだった」
「ああ。そうさ。どこまでも狡猾なんだ。台風の日を選び、俺たちを島に行かせる。帰れなくなったところで、今回の本当の目的を告げる」
「本当の目的」
「実験を成功しなければ帰れないだけではなく、島から二度と生きて出られない」
「うわっ、そんなの漫画の世界じゃん」
そこで健輔が間の抜けた声を上げた。そんな計画があったのかと驚くと同時に非現実的だなと思ったのだろう。
「そう。現実問題、そんなことをしても初期宇宙の再現なんて無理だ。俺はともかく、呼ぶ人を最小限にすることにした。そして無理であることを証明することにしたんだ。それには、斎藤さんを引き込む必要があってね」
「えっ」
そこで朝飛は驚きの声を上げる。
まさかその部分にも嘘があったのか。
朝飛が振り向いて日向を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみません。実は倫明さんの手伝いをしていました。実際、私は会社の意向を受けていましたし、立場的にも会社の考えを優先すべきです。しかし、その会社にとって不利益になることが起ころうとしていると、そう相談されては黙っていられませんでした。
丁度よく聡明が実験内容を理解できる人材を連れて行きたいと言っていたので、私が立候補しました」
「なるほど」
ずっと朝飛と行動を共にし、そして信頼している理由が解った。
要するに、日向はどちらの思惑も知っていた。それなのに二人が消え、さらに事件が起こってしまって驚いたのだろう。
そこで、倫明が信頼していた朝飛と一緒に動くのが得策と判断したわけだ。
「そう。兄も、事件を起こしてまで実験をさせるのは賛成していなかった。しかし、これを利用できるとも考えていた。ここで不祥事があれば閉めるしかない。そうなれば売るだけだとね」
「ああ」
それに、経験のある朝飛はぎゅっと胸を締め付けられる。
ああ、俺と同じように生きている奴がここにもいる。
「びっくりするだろうけど、うちでは稼げるかどうかが総てなんだよ。稼げない奴は駄目な奴だって、そう決めつけられる。だから、学者なんていう、それも基礎研究なんていう金にならないことをやろうとしている俺は、一族一の駄目な男。それが佐久間での俺の評価だ」
「ふうむ」
ところ変わればというか、評価の基準が違うというのは驚くことだ。それも金を稼ぐか否かが総てだというのは、今の社会には合わない考え方のように感じてしまう。
「そんな散々駄目な奴と言っていた俺と同じようなことをする。当然、一族の反対が出て当然だった。兄さんがここをすぐに売り払う前提だったのだって、そういうことなんだ。総ては金にならないから。それだけさ」
「しかし、繁明さんはここを建設するまでやり遂げた」
「まあね。最初は隠居先って誤魔化していたからさ。家族もそれならばと納得していた。しかし、額が巨大だし、こんな離島だ。何かがおかしいとすぐにばれる。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だ。こいつにも一族としてやる気の出る場所を与えるとかなんとかね。まあ、俺をなんとか佐久間ホールディングスに縛り付けたい。その思いはあっただろうさ。でも、ここは祖父の夢を形にしただけの場所だよ」
そう言って寝転んだままの倫明は溜め息を吐く。失血が多いからしんどいのだろう。
日向はその様子にはっとして、すぐに電話を掛けた。
「すみません。船をこちらまで。ええ。怪我人がいるんです。出せそうですか」
「俺は逃げたかった。佐久間から。でも、逃げても逃げても、佐久間の家が付いて回る。物理学に自由を求めていたというのに、その物理学で佐久間に貢献しろと求められる日が来るなんて、皮肉でしかないよ」
その間も倫明は譫言のように喋り続けていた。
それまで我慢していたものが、堰を切って吐き出されている。そして吐き出されているのは事件の真相ではなく、倫明が抱えていた感情なのだ。
「夢を形にしてみたが、それが非常に難しいことを祖父は気づいていなかった。今の技術ならば可能だと思っていたんだろうね。実際、可能だとする論文や本が出ている。しかし、それは精密な実験を続けて得られるかどうか微妙なものだ。俺は説明役に呼ばれて、非常に困惑したよ」
「そうだろうな」
つまり、今回の研究会はそんな紆余曲折の上に決まったものだったということだ。ということは、朝飛たちが聞かされた説明は嘘が混ざっていたことになる。
「そう。嘘を吐いた。基礎研究を進める第一歩のための会合というのは嘘で、実際はすぐに加速器を稼働させて成果を挙げさせたい。それが祖父の願いだった。
もちろん、難しいことは兄にも、そして斎藤さんにも言った。二人は理解していた。しかし、祖父は違ったんだ。あの人は、寿命が見えてきたこともあって焦っていた。巨額を投じて作ったこの施設で何としても成果を。そればかりに頭が向いていた」
それが、今回の悲劇の始まりなのだと、倫明は大きく溜め息を吐く。
この事件が突発的ではないことは、複雑なトリックを用いたらしいことから何となく解っていたことだ。しかし、主犯格が誰なのかは解らないままだった。それが今、開陳されようとしている。
「繁明さんはあえて俺たちを帰れなくし、研究を進めさせるつもりだったということか。高校生や大学生が選ばれたのも、無理をさせるためだった。さらにはここでは一切金が掛からないのも、結果が出るまで出られないことへの不満回避のためだった」
「ああ。そうさ。どこまでも狡猾なんだ。台風の日を選び、俺たちを島に行かせる。帰れなくなったところで、今回の本当の目的を告げる」
「本当の目的」
「実験を成功しなければ帰れないだけではなく、島から二度と生きて出られない」
「うわっ、そんなの漫画の世界じゃん」
そこで健輔が間の抜けた声を上げた。そんな計画があったのかと驚くと同時に非現実的だなと思ったのだろう。
「そう。現実問題、そんなことをしても初期宇宙の再現なんて無理だ。俺はともかく、呼ぶ人を最小限にすることにした。そして無理であることを証明することにしたんだ。それには、斎藤さんを引き込む必要があってね」
「えっ」
そこで朝飛は驚きの声を上げる。
まさかその部分にも嘘があったのか。
朝飛が振り向いて日向を見ると、申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみません。実は倫明さんの手伝いをしていました。実際、私は会社の意向を受けていましたし、立場的にも会社の考えを優先すべきです。しかし、その会社にとって不利益になることが起ころうとしていると、そう相談されては黙っていられませんでした。
丁度よく聡明が実験内容を理解できる人材を連れて行きたいと言っていたので、私が立候補しました」
「なるほど」
ずっと朝飛と行動を共にし、そして信頼している理由が解った。
要するに、日向はどちらの思惑も知っていた。それなのに二人が消え、さらに事件が起こってしまって驚いたのだろう。
そこで、倫明が信頼していた朝飛と一緒に動くのが得策と判断したわけだ。
「そう。兄も、事件を起こしてまで実験をさせるのは賛成していなかった。しかし、これを利用できるとも考えていた。ここで不祥事があれば閉めるしかない。そうなれば売るだけだとね」
「ああ」
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