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第34話 輪郭
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「だから、兄は俺を殺そうと計画した。しかし、ただ俺が殺されただけでは自分に疑いが向く。だから、仲間に引き込んだ足立さんが恨む田中さん手始めに、二人ほど殺してしまおうと考えたんだ」
「なるほど」
ぼんやりとしか見えなかった事件の真相が、ようやく輪郭を表したのだ。
「この先は俺が代わりに話そう。倫明、お前は安静にしていろ。間違っていたら指摘してくれ」
そこからは朝飛の推理が合っているだろうと、喋るのを交代してもらう。けが人にこれ以上の負担は掛けたくない。
「わ、解った」
あんな複雑なものが解ったのかと倫明は驚いたが、すぐに朝飛ならば可能かと頷いた。そして緊張の糸が切れたように息を吐く。
そこにすかさず、藤本が濡れたタオルを渡した。倫明は左手で受け取ると、顔に載せてほっとした顔をする。
美樹が頭痛止めとして持っていた痛み止めを飲んでいるが、あの傷だ。失血量が多いから、普通に喋るのも辛くて当然だろう。すでに無理をさせてしまった。
「今の倫明の説明で俺が理解できていなかった部分が埋まりました。ということで、ここからは何があったのか、俺が説明します」
朝飛が全員にいいかと確認すると、誰もが頷いた。
この奇妙な事件を解いてくれるならば、高校生探偵の手に委ねたい。それが信也を含めて全員の本音なのだ。
「では、最初、二人が行方不明になったところから順番に行きましょう。呼び出したのは聡明さんで、倫明はそれに応じた。場所は加速器だった。これがスタートです」
「そうだな。行方不明になったって後、全部の部屋をチェックしたんだから」
「そうです。この段階では二人とも、加速器に移動していた。そこで、聡明さんは倫明を閉じ込めた。そうだな」
「ああ。制御室で問題があったって言われて、呼び出されたんだ。そこで、不意打ちを食らって小さな倉庫に閉じ込められる羽目になったんだ」
朝飛の確認に、僅かにタオルをずらして倫明は答える。その顔は傷のせいだけではなく青かった。
いきなり閉じ込められた。それだけでも恐怖だろう。しかも台風の最中のことだ。その間は助けが来る可能性はゼロに近い。相当な不安が襲ったことだろう。
「食べ物はあったんですか」
そう訊くのは藤本だ。何か用意した方がいいか。そう思ったのだろう。
「乾パンとか缶詰とか置いてありました。水も僅かですが置いてありましたよ。兄はすぐに俺を殺すつもりはなかったですからね」
「ふむ。というより、罪を擦り付けるためにも、総ての犯行が終わるまでは生きていてもらわなければ困るということだった」
「っつ」
その指摘に倫明が顔を引き攣らせる。それが今のこの結果に繋がっているのだ。
「ただ殺すだけならば、水や食料を用意するはずがない。この事件のポイントは犯人が最後に自殺したと見せかけることにあったんだ。だからこそ、最低限の食料と水が置かれていた」
「うん。そう、ごめん」
「謝らなくていい。今、聡明さんが殺されてお前が生き残っている状況だ。ちょっとのことで疑心暗鬼になるのは解る」
「ああ。だって、正当防衛って言っても、証明できないからね」
「大丈夫だ。少なくとも、俺はお前を信じている」
「う、うん」
一体倫明は何を恐れているのか。朝飛は解っているようだが周囲は誰も理解できていない。
「あの」
だから美樹が代表して質問しようとしたが、順番に話すと遮られてしまった。
「悪い。だが、順番に話さなければ、こいつの疑惑が晴れないのも事実だからな。なぜあの聡明さんの死体の顔がぐちゃぐちゃだったのか。その点も含めて明解にしておかなければならない」
その言葉に、視線が自然と倫明に集まった。
そうだ。今、殺人犯かもしれない聡明は死んでしまった。事実を知るのは倫明ただ一人。
実際は殺されそうになったと誤魔化しているだけかもしれない。そう疑うことは可能なのだ。
「そうか。倫明君が不可能だったことを証明しなければならないってことね。そうでなければ、他の事件もまた倫明君が犯人ということになる」
「そうだ。まあ、その辺りの真相は足立さんに聞けば解る部分もあるでしょうが、証明は何事も順序立ててするものだからね。何がどうなってこの結果を生んだのか。船が来るまでに検証しましょう」
「解りました」
そう頷いたのは日向だった。
この中で真相を最も知りたいと願っているのは日向だろう。僅かながらにも倫明に加担していたのだ。だからこそ、朝飛に事件を探ってくれと頼んだことにも繋がっている。
「さて、倫明を閉じ込めた後、すぐに聡明さんはこの宿泊棟に戻ってきました。倫明が行方不明になった時間帯は、雨が降り始めていたものの、外に出られないほどではなかったですからね。行って戻ってくるのは容易だったはずです。そして向かったのが、足立さんの部屋です」
「ああ、なるほど」
信也が果たした役割の一つが、居場所を提供することだった。それは先ほどあった指摘だ。日向は二人が行方不明になった時の様子を思い出す。
最初、いなくなった時に疑ったのは空室にいるのではというもの。誰かが使っている部屋は、そこを使っている人の証言しか取っていない。
「そう。普通は行方不明になったというだけならば、誰かが使っている部屋にまで無理に捜索することはない。その人に訊ねればいいだけですからね。足立さんはどうやって連絡を受けたのかは不明ですが、下の部屋にしてくれと頼むように指示を出されていた。そして、戻って来た聡明さんを匿ったんです」
「ああ、そうだよ。俺の部屋にいた」
「なるほど」
ぼんやりとしか見えなかった事件の真相が、ようやく輪郭を表したのだ。
「この先は俺が代わりに話そう。倫明、お前は安静にしていろ。間違っていたら指摘してくれ」
そこからは朝飛の推理が合っているだろうと、喋るのを交代してもらう。けが人にこれ以上の負担は掛けたくない。
「わ、解った」
あんな複雑なものが解ったのかと倫明は驚いたが、すぐに朝飛ならば可能かと頷いた。そして緊張の糸が切れたように息を吐く。
そこにすかさず、藤本が濡れたタオルを渡した。倫明は左手で受け取ると、顔に載せてほっとした顔をする。
美樹が頭痛止めとして持っていた痛み止めを飲んでいるが、あの傷だ。失血量が多いから、普通に喋るのも辛くて当然だろう。すでに無理をさせてしまった。
「今の倫明の説明で俺が理解できていなかった部分が埋まりました。ということで、ここからは何があったのか、俺が説明します」
朝飛が全員にいいかと確認すると、誰もが頷いた。
この奇妙な事件を解いてくれるならば、高校生探偵の手に委ねたい。それが信也を含めて全員の本音なのだ。
「では、最初、二人が行方不明になったところから順番に行きましょう。呼び出したのは聡明さんで、倫明はそれに応じた。場所は加速器だった。これがスタートです」
「そうだな。行方不明になったって後、全部の部屋をチェックしたんだから」
「そうです。この段階では二人とも、加速器に移動していた。そこで、聡明さんは倫明を閉じ込めた。そうだな」
「ああ。制御室で問題があったって言われて、呼び出されたんだ。そこで、不意打ちを食らって小さな倉庫に閉じ込められる羽目になったんだ」
朝飛の確認に、僅かにタオルをずらして倫明は答える。その顔は傷のせいだけではなく青かった。
いきなり閉じ込められた。それだけでも恐怖だろう。しかも台風の最中のことだ。その間は助けが来る可能性はゼロに近い。相当な不安が襲ったことだろう。
「食べ物はあったんですか」
そう訊くのは藤本だ。何か用意した方がいいか。そう思ったのだろう。
「乾パンとか缶詰とか置いてありました。水も僅かですが置いてありましたよ。兄はすぐに俺を殺すつもりはなかったですからね」
「ふむ。というより、罪を擦り付けるためにも、総ての犯行が終わるまでは生きていてもらわなければ困るということだった」
「っつ」
その指摘に倫明が顔を引き攣らせる。それが今のこの結果に繋がっているのだ。
「ただ殺すだけならば、水や食料を用意するはずがない。この事件のポイントは犯人が最後に自殺したと見せかけることにあったんだ。だからこそ、最低限の食料と水が置かれていた」
「うん。そう、ごめん」
「謝らなくていい。今、聡明さんが殺されてお前が生き残っている状況だ。ちょっとのことで疑心暗鬼になるのは解る」
「ああ。だって、正当防衛って言っても、証明できないからね」
「大丈夫だ。少なくとも、俺はお前を信じている」
「う、うん」
一体倫明は何を恐れているのか。朝飛は解っているようだが周囲は誰も理解できていない。
「あの」
だから美樹が代表して質問しようとしたが、順番に話すと遮られてしまった。
「悪い。だが、順番に話さなければ、こいつの疑惑が晴れないのも事実だからな。なぜあの聡明さんの死体の顔がぐちゃぐちゃだったのか。その点も含めて明解にしておかなければならない」
その言葉に、視線が自然と倫明に集まった。
そうだ。今、殺人犯かもしれない聡明は死んでしまった。事実を知るのは倫明ただ一人。
実際は殺されそうになったと誤魔化しているだけかもしれない。そう疑うことは可能なのだ。
「そうか。倫明君が不可能だったことを証明しなければならないってことね。そうでなければ、他の事件もまた倫明君が犯人ということになる」
「そうだ。まあ、その辺りの真相は足立さんに聞けば解る部分もあるでしょうが、証明は何事も順序立ててするものだからね。何がどうなってこの結果を生んだのか。船が来るまでに検証しましょう」
「解りました」
そう頷いたのは日向だった。
この中で真相を最も知りたいと願っているのは日向だろう。僅かながらにも倫明に加担していたのだ。だからこそ、朝飛に事件を探ってくれと頼んだことにも繋がっている。
「さて、倫明を閉じ込めた後、すぐに聡明さんはこの宿泊棟に戻ってきました。倫明が行方不明になった時間帯は、雨が降り始めていたものの、外に出られないほどではなかったですからね。行って戻ってくるのは容易だったはずです。そして向かったのが、足立さんの部屋です」
「ああ、なるほど」
信也が果たした役割の一つが、居場所を提供することだった。それは先ほどあった指摘だ。日向は二人が行方不明になった時の様子を思い出す。
最初、いなくなった時に疑ったのは空室にいるのではというもの。誰かが使っている部屋は、そこを使っている人の証言しか取っていない。
「そう。普通は行方不明になったというだけならば、誰かが使っている部屋にまで無理に捜索することはない。その人に訊ねればいいだけですからね。足立さんはどうやって連絡を受けたのかは不明ですが、下の部屋にしてくれと頼むように指示を出されていた。そして、戻って来た聡明さんを匿ったんです」
「ああ、そうだよ。俺の部屋にいた」
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