35 / 41
第35話 推理開始
しおりを挟む
休憩スペースの毛布の上に足を延ばして座っている信也が、認めると証言した。そして、あの時はこんなにも大掛かりなことが起こるなんて知らなかったんだと呟く。
「そうやってこっそり動ける場所を確保することで、聡明さんはその後の犯行を有利に進めていった。下の様子は足立さんから連絡してもらい、目立たないように動くことが出来たんです」
「なるほど。全員にアリバイがあるのに犯行が行われていたというのは、翻せば目撃者がゼロの状況下で出来たってことになるわけですね」
「ええ。ただ、そうすると行方不明の自分たちにばかり疑いの目が行くことになる。そこで、トリックです。まるで誰かがアリバイ工作をしているかのように見せかける。これが大事になってきます。そこで利用されたのが、あのドアが割れると鳴る防犯ベルというわけです」
「ということは」
「ええ。殺された時間と窓が割られた時間は一致しないことでしょう。それに犯行後の動きは俺たちがどう行動するかで左右される。聡明さんは誰にも見つからない安全な場所に移動しておく必要があったんです」
「そうか。その段階では隠れ場所である足立さんの部屋に戻っていないと、総てが水の泡になるってことですね」
「そういうことです」
適宜、日向がまとめるように話に入ってくれるので、美樹たちにも理解しやすくなった。
この人が会社で重宝されるわけだと、こういうところでも納得させられる。
「でも、最後は倫明さんに総てを擦り付けようとしていたんですよね。どうしてそんなことを」
そう質問してきたのは大関だ。回りくどいことをしなくても、最後に発見される倫明が怪しい。それでよかったのではないか。
「ええ。でも、それは無事に総てを成し終えて倫明を殺した場合に限りますよね。それまでは疑われては駄目なんですよ。しかも犯行をいくつか重ねなければならないんです。
目的はここを売却すること。それに該当するだけのスキャンダルですからね。すぐに自分たちに疑いの目が向いては困るんですよ。売る時に不利になってしまいますし、聡明さんは会社にいられなくなってしまいます」
「なるほど」
「そうなると、犯人として適切なのは誰か。非常に悩んでいたのではないでしょうか。聡明さんは非常に頭の回転がいい方なんでしょう。下手な言い訳では切り抜けられない。そう考えていた節があります。
特に、ここにいるのは倫明が呼んだ人ばかりなんです。犯人として仕立てやすいものの、殺す動機がないとみなされかねない。最後は自殺までして殺す理由がなかなか見つからない。ここがネックだったことでしょう。
しかも、倫明の目指す研究分野が実は祖父の目指していたものと違ったと知った時、そして研究の中心が倫明ではなく俺であるとなった時、焦ったと思います。
倫明がみんなを殺して研究を出来なくしようとした。その筋書きに若干の無理が生じることになったんですからね。出来れば俺を犯人に仕立てられたら良かったんでしょうけど、さすがにそのすり替えは不可能と判断したようですしね。仕方なく倫明のままで進めようとした」
そう。この事件は自分に疑いが向かず、しかも研究所の存続が危うくなればいいという条件に立っている。だから犯人役は別に誰でもよかったのだ。しかも、出来れば中心にいる人物がいい。それに該当するのは倫明か朝飛しかいなかった。
「そうか。小宮山君の性格についてみんなが議論して話題になってたもんね。そんな人が、いきなり次の日にいなくなってみんなを殺しまくるってのは、ちょっと筋書きとして無理があるか」
「そういうことだ」
美樹の身も蓋もない言い方に苦笑してしまうが、まさにその通りだ。
ここで下手に計画を変更するよりも、祖父のやり方に多少なりとも不満があり、さらには一族から役立たずとみなされている倫明がやったことにしよう。
理由としては十分だから、当初の計画から変更する必要はない。こう聡明は結論付けたのだろう。
「とはいえ、さっきも言ったように、単純に殺しただけではすぐに自分か倫明に疑いの目が向いてしまう。そうなると、実際には殺している聡明にとっては不利だ。
この建物内をいきなり大捜索なんてされると、逃げ隠れする場所が消えてしまいますからね。しかも、外は台風が上陸した後で逃げられない。非常に厄介な問題なんです」
「そうか。台風で出入りが不可能。そんな中でさらにみんなにアリバイがある中での犯行。この二重に不可能に見えている状態を維持しないと、色々と齟齬が出てくるんだ」
外から出入りが出来ないのならば、行方不明の佐久間兄弟には不可能である。だからこの建物の中にいる人が犯行を起こしたのではないか。そう考えさせることで、より聡明は動きやすくなっていたということになる。
「そう。そのとおり。しかも田中さんの場合は死体が外に落ちているという不可解な状況まで作り上げ、単純な発想が出来ないようにまでしたんです。目の前の不可解な状況に囚われれば、まさかこっそりと戻って来た聡明さんが殺しているなんて思わない。
しかも窓を割る必要なんてどこにもないのに割られているのは何故か。警報装置が鳴って厄介なだけなのに。こう思考が回転すれば、犯人が自ずとレストランにいた誰かではないかと思うだろう。これを利用したんです」
「そうやってこっそり動ける場所を確保することで、聡明さんはその後の犯行を有利に進めていった。下の様子は足立さんから連絡してもらい、目立たないように動くことが出来たんです」
「なるほど。全員にアリバイがあるのに犯行が行われていたというのは、翻せば目撃者がゼロの状況下で出来たってことになるわけですね」
「ええ。ただ、そうすると行方不明の自分たちにばかり疑いの目が行くことになる。そこで、トリックです。まるで誰かがアリバイ工作をしているかのように見せかける。これが大事になってきます。そこで利用されたのが、あのドアが割れると鳴る防犯ベルというわけです」
「ということは」
「ええ。殺された時間と窓が割られた時間は一致しないことでしょう。それに犯行後の動きは俺たちがどう行動するかで左右される。聡明さんは誰にも見つからない安全な場所に移動しておく必要があったんです」
「そうか。その段階では隠れ場所である足立さんの部屋に戻っていないと、総てが水の泡になるってことですね」
「そういうことです」
適宜、日向がまとめるように話に入ってくれるので、美樹たちにも理解しやすくなった。
この人が会社で重宝されるわけだと、こういうところでも納得させられる。
「でも、最後は倫明さんに総てを擦り付けようとしていたんですよね。どうしてそんなことを」
そう質問してきたのは大関だ。回りくどいことをしなくても、最後に発見される倫明が怪しい。それでよかったのではないか。
「ええ。でも、それは無事に総てを成し終えて倫明を殺した場合に限りますよね。それまでは疑われては駄目なんですよ。しかも犯行をいくつか重ねなければならないんです。
目的はここを売却すること。それに該当するだけのスキャンダルですからね。すぐに自分たちに疑いの目が向いては困るんですよ。売る時に不利になってしまいますし、聡明さんは会社にいられなくなってしまいます」
「なるほど」
「そうなると、犯人として適切なのは誰か。非常に悩んでいたのではないでしょうか。聡明さんは非常に頭の回転がいい方なんでしょう。下手な言い訳では切り抜けられない。そう考えていた節があります。
特に、ここにいるのは倫明が呼んだ人ばかりなんです。犯人として仕立てやすいものの、殺す動機がないとみなされかねない。最後は自殺までして殺す理由がなかなか見つからない。ここがネックだったことでしょう。
しかも、倫明の目指す研究分野が実は祖父の目指していたものと違ったと知った時、そして研究の中心が倫明ではなく俺であるとなった時、焦ったと思います。
倫明がみんなを殺して研究を出来なくしようとした。その筋書きに若干の無理が生じることになったんですからね。出来れば俺を犯人に仕立てられたら良かったんでしょうけど、さすがにそのすり替えは不可能と判断したようですしね。仕方なく倫明のままで進めようとした」
そう。この事件は自分に疑いが向かず、しかも研究所の存続が危うくなればいいという条件に立っている。だから犯人役は別に誰でもよかったのだ。しかも、出来れば中心にいる人物がいい。それに該当するのは倫明か朝飛しかいなかった。
「そうか。小宮山君の性格についてみんなが議論して話題になってたもんね。そんな人が、いきなり次の日にいなくなってみんなを殺しまくるってのは、ちょっと筋書きとして無理があるか」
「そういうことだ」
美樹の身も蓋もない言い方に苦笑してしまうが、まさにその通りだ。
ここで下手に計画を変更するよりも、祖父のやり方に多少なりとも不満があり、さらには一族から役立たずとみなされている倫明がやったことにしよう。
理由としては十分だから、当初の計画から変更する必要はない。こう聡明は結論付けたのだろう。
「とはいえ、さっきも言ったように、単純に殺しただけではすぐに自分か倫明に疑いの目が向いてしまう。そうなると、実際には殺している聡明にとっては不利だ。
この建物内をいきなり大捜索なんてされると、逃げ隠れする場所が消えてしまいますからね。しかも、外は台風が上陸した後で逃げられない。非常に厄介な問題なんです」
「そうか。台風で出入りが不可能。そんな中でさらにみんなにアリバイがある中での犯行。この二重に不可能に見えている状態を維持しないと、色々と齟齬が出てくるんだ」
外から出入りが出来ないのならば、行方不明の佐久間兄弟には不可能である。だからこの建物の中にいる人が犯行を起こしたのではないか。そう考えさせることで、より聡明は動きやすくなっていたということになる。
「そう。そのとおり。しかも田中さんの場合は死体が外に落ちているという不可解な状況まで作り上げ、単純な発想が出来ないようにまでしたんです。目の前の不可解な状況に囚われれば、まさかこっそりと戻って来た聡明さんが殺しているなんて思わない。
しかも窓を割る必要なんてどこにもないのに割られているのは何故か。警報装置が鳴って厄介なだけなのに。こう思考が回転すれば、犯人が自ずとレストランにいた誰かではないかと思うだろう。これを利用したんです」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる