春の洗礼を受けて僕は

さつま

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春の洗礼を受けて僕は

18話 月曜日1 ★

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「木之内」
 肩を揺さぶられる。
 そっとしておいてほしい。
「木之内」
 頬を撫でられる。
 眠たいのに。
「木之内、起きられるか? 朝だぞ」
「あさ」
 自分の声で目が覚めた。
 朝!
 目を開けると、どまん前に香月がいて、二度驚いた。
「わっわ、わ!」
 支えにしていた手が滑って、勢いよくベッドから落ちる。
「い…」
 さすがに驚いた顔をして、香月がしゃがみ込んだ。
「大丈夫か」
「だいじょ…」
 ばない。だいじょばない。
 腰がおかしい。足も力が入らない。
「立てない」
「ガッチガチに力入れてたからな…まあ仕方ないけど」
 香月に持ち上げられて、ベッドの上に座らされる。
 下を見たら、体にかけていたらしいケットから、自分の生足が際どいところまで覗いていた。
 これ、下は…履いていないのではないか…? それってどういう…?
 とぐるぐると自問したら、突然、激流のように記憶が戻ってきた。
 顔をはね上げると、香月もつられて目を丸くする。
「せっせっせ、せせせ、せ」
「セックスをした」
「答えないでよ!!!」
「悪い」
「悪くないけど!!!」
 シャツだけは昨日のままだけど、体はベタベタしていない。多分綺麗になっている。それって。
「ヒィィィィ…これは…これは…」
 口がわなないて、変な声が出てしまった。
 数日前に精通を迎えたばかりの人間が、体がおかしくなって、同級生を誘って、同性同士でセックスをした。
 情報量が多すぎる。
「顔色が悪いけど、大丈夫か」
 これって強姦になるんだろうか。香月さんちのお坊ちゃんを誘って…したっていうのは、まずい感じがする…。
 というかそもそもまずい。クラスメイトだし。全体的にこれはまずい。
 無かったことにしたい。
 無かったことにできないか?
「……その方がいいなら、それでいいけど」
「…へ?」
「無かったことにしたいのなら、別に構わないけど」
 もう一度、香月が言う。
 どうやら、口に出してしまっていたようだ。
 香月は少しひねくれたような表情をしているように見えたけど、多分気のせいだろう。
「……ほんと?」
 ほんとう、と香月がうなずく。
「まあ…同級生とセフレになりましたっていうのも、俺の倫理に反してるし」
「倫理」
 それってどんな倫理だよと思ったけど、まあ言わないでおいた。
 尻がじわじわと痺れていて、自分としてはまったく無かったことにはならないのだけど、これで関係が元に戻るのならその方がいい。


「そういえば、ひとつ聞きたいと思っていたことがあって」
 香月が、部屋の窓を開けながら言う。
「オナニーしてる?」
 喉からグフっと音が出た。
「何を藪から棒に」
 咳き込みながら返す。
「そんなことないだろ」
 この部屋を出たらもう無かったことになるから今言うけど、と前置きされる。
「木之内がムラムラすると、謎の香りが分泌されるんじゃないのか?」
「……?」
「木曜の朝はどうだった?」
「………あ」
「思い当たる節が?」
「………あります」
「詳細を聞いても?」
 香月が横に座って、顔を覗き込んでくる。
「………」
「何があった?」
「言えません…言いたくない…」
 顔がほてっているのがわかる。そんなのを見られたくなくて、ケットの端っこで顔を隠した。
「ここを触ったことはあるのか?」
 いきなり握られて、わっと叫んだ。
「なっなっな、な」
 ケットから露わになった部分を、握られている。
 すり、すりと撫でられて、膝がふるっと揺れる。
「なんで、香月っ」
 無かったことになったんじゃ、と叫んだら、まだなってないとあしらわれた。
 また、唇に触れられる。
 ヒッと息が漏れて、体がガチガチに固まってしまった。
 下唇の中央が突っ張っている感覚。
「口噛んでるから、切れるんだよ」
 下を握る手が、ぬるりと湿るものを伸ばすように動いて、言葉が紡げなくなった。
「あ、はぁ、や…」
 肩を抱き寄せられる。
 香月の胸のあたりから、やっぱりいい香りがした。
 これもハーブの香りなのかな…。
「いい香りがする」
 耳のそばで、香月がつぶやいた。
 一度抗えなくなった体は、もう抵抗する術を持っていない。
「口を噛むなよ」
 また注意される。
「ふ、ふぅ、う」
 悲しくないのに涙が出る。胸が詰まって、腰を香月に擦り付けてしまう。
 それを優しく引き寄せられて、たまらなく嬉しくなった。
「ああ、あ、もう」
 だから止めてと言いたかったけど、香月の動きが強くなる。
「いいよ」
「……ンッ、ン!」
 ぶるりと震える体はしっかり抱きとめられたまま、香月の手を汚して果てた。
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