空のない世界(裏)

石田氏

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6章 空のない世界

02

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ギィ…ギィ…

「なんで立て続けに怖いのばっかなのかな」
「知らないわよ」
真紀と山吹は古びた廃病棟の中にいた。

ギィ…ギィ…

車椅子の音が廊下に響きわたる。

カチ…カチ…カチ…

病棟の中を照らす蛍光灯がカチカチする。そんな薄暗い廊下の奥から、その車椅子が見えきた。

ギィ…ギィ…

包帯で全身ぐるぐる巻きにされた状態でやって来たそれは、顔にまで包帯をしていて苦しくありませんか?と、少し気になりもし、また素顔が見れない相手ほど怖いものはないというか、とにかく不気味で幽霊と一緒にしてしまう。
 しかし、レムが再び別れる際に「ここに霊などいない。いるのは悪戯好きの子ども達だけだ」と語った。
 四天王の一人とされる車椅子の少女は何を語る訳でもなく、目の前で止まり、ずっとこの状態が続いた。
 真紀は恐る恐るこちらから声をかけることにした。
「あの・・・・」
「・・・・」
「すいません・・・」
「・・・・」
「聞いてますか?」
「・・・・」
「・・・・」
「かくれんぼ」
「えっ?」
「かくれんぼしましょ」
「えっと・・・・」
「ルールは簡単。数え終わるまでに隠れて、私達が見つけられなかったら私達の負け。逆に見てかったらあなた達の負け。じゃあ、いくよ~♪」
「いや、ちょっと待って」
「100…99…98…97…96…95…」
どうやら本当に始まってしまったらしい。
「真紀ちゃん、急ぐよ」
「うん」



 レムは言っていた。子ども達は遊びが好きで好きで、出会った人に「子ども遊び」を持ちかける。「子ども遊び」は普通の遊びとは違う。命懸けの遊びである。


《子ども遊び・かくれんぼ》

ルールは以下の通り。

・隠れて見つかれば、その魂頂く。

・隠れて見つからなければ、敗者は大人しく帰るべし。

・病棟の中にある緑の札を見つけると、頭に札をつけることで透明化できる。子どもから姿を消せるが、1つだけ姿を消せないものがある。それは、両耳だ。耳だけは隠すことが出来ない。ただし、耳が聞こえない者だけは耳も透明化される。

・病棟の中に手鏡を見つけると、1度だけ見つかっても鏡で子どもをうつせば、遊びは続行可能。しかし、その際に一人だけ犠牲者を選ぶ。

・かくれんぼは、鬼以外は常に複数で行動する。一人になった場合は金縛りにあい、動けなくなる。

・鬼は子どもがやり、鬼も複数存在する。


 さて、このルールだと一番不利は鬼から隠れる私達となる。まず、鬼は既に決められ、しかも複数いる。人数は不明で制限もない。勿論、隠れる側にも不利にならないようオプションらしきものが存在するが、不完全な助っ人アイテムばかりでどれも使えない。しかも、探す必要があるのだ。隠れながら探すというリスクを負ってまで手に入れるべきアイテムでもない。しかも、あっても使えない。例えば鏡にしても、犠牲者を必要とする。ルール上真紀と山吹は常に行動しなければならない。だが、一人犠牲者を出せば、残された者は金縛りで動けなくなる。勿論、犠牲者を必要とする物なんて使いたくもない。
 札も、耳を隠せなければ、部分的でも見つかったことになってしまう。つまり無意味。勿論、透明化された手で耳を覆えばすむんだろうが、そこが怪しい。札の効果が永続的ならかくれんぼの意味がなくなってしまう。時間制限の効果である可能性が高い。そして、なにより子どもが有利になるような遊びであることは確実である。
 故に隠れうまく逃げる必要がある。おそらく、同じ場所にずっと隠れていては確実に見つかってしまうだろう。まさに、高難易度のかくれんぼとなる。




「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…もういいかい?」
勿論、聞いておきながら既に探し始めていた。
「どこかな、どこかな」

ギィ…ギィ…

車椅子はひとりでに動きながら病棟の中を巡回する。





「ふきちゃん、何か怖いよ」
「うん」
古びた病棟の廊下は、子どもの笑い声が響いていた。
 真紀達が隠れている場所はリネン庫だった。

ギィ…ギィ…

「来た!ねぇ、ふきちゃん。ここ見つからない?」
「確かに倉庫とか一番隠れていそうな場所だけど、だからと言って病室やナースステーションとかよりはマシだと思うけど」

ギィ…ギィ…

真紀達は近く車椅子の音に、鼓動を大きくした。

ギィ…ギィ…

車椅子はそのまま通り過ぎて行った。
「ねぇ、このままここにいれば見つからないんじゃない?」
「それは違うよ真紀ちゃん。鬼は複数いるんだよ。いずれここも見つかる。それに、さっきの車椅子だって、他を探してもいなかったらここにまた来て、今度こそ見つかるのかもしれない。だから、隠れながら逃げなきゃ駄目なの。例えリスクがあってもね。
 さぁ、行くよ」
「う、うん」
真紀達は周りに警戒しながら次の場所に移動した。



                             +  +  +



 真紀達は現在、手術室にいた。

カチッ

時計の針の進む音がする。確か、子ども遊びのかくれんぼは1時間だったはず。こちらの世界で4時から始めたから、あと40分である。
 まだ半分も過ぎてないことに、真紀は疲れ溜め息をつく。

ガシャン!

「!」
「!?」
何かが落ちた音がした。
「誰かいませんか~」
子どもだ。
「誰かいませんか~」
真紀達は気づかれないよう、子どもの位置を把握する。
 子どもは丁度真紀達と反対の位置にいた。真紀達は、子どもの動きに合わせ移動し、うまく避ける。そのまま子どもは行ってしまった。
「はぁ~、緊張した」
「今のはちょっとヤバかったね」

ギィ…ギィ…

「えっ?」
「もう他のが来た!早く真紀ちゃん、ここ移動しよう」
「うん」



                              +  +  +


カチッ

あと20分。

 真紀達は、特別室にいた。
「ここ、古い病院なのに特別室はあるんだ」
「確かに、意外ね」
特別室とは、金持ちが泊まる病室で、普通の個室とは大きく違う。広いし、豪華で、まるでちょっとしたホテルである。
「ふぅ~、ちょっと休憩」
真紀はソファーに腰をおとし、くつろいだ。
「ちょっと、くつろがないでよ」
「だって、この部屋だけ鍵があったんだよ。もう、ここに引きこもるしかないでしょ」
確かに、全ての病室には鍵が取り壊されていた。それはかくれんぼするにされたことだろうと考えていた。何故なら、見つからなければいいのだ。見つからないよう鍵をかけ、引きこもることはルール上駄目だとは言っていない。勿論、普通のかくれんぼなら駄目だろう。だが、これは普通ではない。子ども遊びのかくれんぼである。最初っから鬼が複数いるんだ。もはや普通のルールではない。
 ただ、何故ここだけ鍵があるのは不思議だった。

カチッ

どれくらいたったであろうか、こちらに鬼が来る気配はない。こんなに同じ場所に長くいたことはなかったのに。
 山吹は時計を見た。

残り10分。

「もしかして、このままいけるんじゃない?」
「だといいけど」

ギィ…ギィ…

「!」
「!?」
車椅子の音である。ドア越しに響く音は徐々に近いていく。
 思わず真紀と山吹はゴクリと唾を飲み込んだ。


ガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!

ドアノブを回す音が響いた。
「だ、大丈夫だよね?」
「さ、さぁ」

カチッ

残り9分。


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