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11章 蟲
02
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バタンッ!
山吹のいる部屋の扉が音をたてて開き、ブライアンが入って来た。
「ブライアンさん」
「待たせたな。それにしても随分やられたな」
山吹達が傍聴していた頃、警察は家宅捜査していた。そのあとが見事に残り、部屋は散らかり放題になっていた。
「それで、何か分かったんですか?」
「あぁ。まず、被害者のおじさんについてだが、彼の奥さんは病気で数年前に亡くなっていて、今は独り暮らしだと分かったんだが、彼はここ最近老人のせいか通院してたんだ。まぁ、病気はただの糖尿病だったんだが、おかしいのは2ヶ月前に大きな手術をしていたらしいんだ」
「糖尿病ですよね?」
「そうだ。ただ、近所の話しによると認知症の症状があったようだ。かなり酷く、夜中の徘徊でいつも警察に補導されていたようだ」
「それが今回と何か関係があるんですか?」
「おかしいだろ。認知症の酷い人が毎回洗濯しに来てまるで普通の生活を送っているかのように。近所もその手術以降、徘徊がなくなったから驚いていたよ」
「つまり、認知症が手術後治ったってことですか?でも、認知症って完治できないんじゃなかった?」
「もし、本当に治ったらその医者はノーベル賞ものだな。多くの認知症患者に、老後に不安を抱える多く人間がその医者に感謝し尊敬するだろう。
だが、実際は違った」
「何かあったんですか?」
「あいつは手術後に腐ったパンを真紀に渡している。奴はそれを知らなかった。いや、覚えてなかった」
「つまり、認知症は完治されなかった」
「それと、被害者のネビルが通っていた病院だが、他にネビル同様に認知症だった老人が次々に症状がなくなっていることが分かった」
「ネビルさんだけじゃなく、他の人もいたんですね」
「そうだ。ただ、彼だけは他の人と違っていた。彼だけ完治されなかったんだ。とにかく、俺はその手術とやらが怪しくてしかたがないない。これから、その病院と担当医を調べるつもりだ。そっちは何か分かったか?」
「私、ドッドさんの所にお見舞いに行ってきたんです」
「あぁ、山吹を庇った奴か。奴はどうだった?」
「元気でしたよ。医者ももうすぐ退院するだろうって」
「そりゃあ良かった」
「それで聞いてみたんです。ドッドさんにその事件のことを」
「ドッドに?何故?」
「ドッドさんは頭がいいし、私達が気づかない点を知ってるかもって思って」
「成る程」
「それで、ドッドさんの話しによると、まるで真紀ちゃんに罪をなすりつけるような大きな力が働いているように感じるとのことを言ってました。警察を動かす程の強い権力が今回の裏にはあるんじゃないかって」
「おいおい、それを刑事の前で言うか?」
「あっ、すいませんでした」
「それに、警察を動かすってドラマか映像の見すぎだろ。……まぁ、そうは言っても実際のところあったりするかもな」
「え?そうなんですか」
「政治家の息子が殺人を犯した時、警察は別の人間を殺人者にあてた。政治家という権力に、警察は動かされた例が過去にある。無論、無実の人間が裁かれるのは間違ってる。俺はそれを許す気はないし、例え警察組織が誰かを庇っているとしたら、必ず真相を暴いてやる。それはどの警官も同じ気持ちだ。たがら、それまで警察を信用して欲しい。俺が必ず真相を暴いてやる」
「はい」
「それで、話を戻すがこれからについてだ」
こっからがまさに本題であった。今、真紀の現状からして裁判の行方は陪審員によって左右される可能性があった。判決までの期間も考えると、さほど時間もあるとは言えない。それまでになんとしてでも真紀が犯人でないという新情報(証拠)を探し、陪審員を説得できるだけの行動を起こさなきゃいけない。
「まず、被害者のネビルについての聞き込みからの情報はあらかた手に入ったが、限界がある。まだ、被害者についての情報が欠如している。また、傍聴から聞いても検察側が被害者について多く語っていない点も気になる。そこで、被害者のネビルを担当した医者にあたろうと思う」
「でも、病院って中々個人情報がどうのとかで教えてくれないんじゃないの?捜査令状がなきゃ教えられません的な」
「よく知ってるな」
「あはは……私もドラマに影響された者ですから」
「まぁ、警察だと分かれば大抵は情報提供してくれるんだが、全てがそうでないのは本当だ。それは情報提供した結果、例え凶悪な犯罪者だったとしても、本人の了承なしで提供してしまった場合、逆に病院側に訴えることができるんだ。しかし、令状があれば別になる。だから、求める情報によっては病院は公開出来ないんだ。
しかし、今回は死人だ。生きている人間と違い、個人情報の取り扱いが変化するんだ。だから、今回はすんなり情報は手にはいるはずさ」
「それでも、警察関係者じゃなきゃ病院は情報公開しないんじゃないんですか?警察だと病院に証明したら、ブライアンさんが勝手に捜査していることが知られちゃうじゃないんですか?」
「なんだ、俺のこと心配してくれてるのか?安心しろ。せいぜい謹慎処分だろうよ。無職になる訳じゃない。それよりも、冤罪を阻止することが先決さ。もし、罪のない人を檻に入れたら、俺は刑事を辞める。こんな仕事をして人が報われるどころか不幸にしている仕事なんぞ続けたいと思わない」
「ブライアンさん……」
「なんだ、見直したか?」
「はい」
「今更だな」
「そうですね。私、気づくのいつも遅いんです。気づいた時にはどんどん超されてるんです」
「真紀のことか?」
「はい。最初は私がしっかりしなきゃって思っていたのが、いつの間にか色々な事件の中心にいて、全てを一人で背負って戦おうとしてる。私はそれに手助けも出来ず、見守るしか出来ないでいる」
「それでも、真紀にはお前が必要だ。現に、奴は檻の中に閉じ込められようとしている。もし、その間に今までのようなことが起きたら、多くの命が奪われることになる。間接的だが、真紀を救おうとするお前さんは立派に世界にも役立ってるんだ。そんなに落ち込むことはない」
「ブライアンさんは本当に優しいんですね」
「本当、今更だな」
二度も同じことを言われ、山吹は思わず笑いが吹き出る。それを見たブライアンも同じく笑ってしまった。
「とにかく、俺は今から病院に行く。山吹はどうする?」
「私も行きます!」
「そうか。場所は車で行けばそこまで遠くない。私が運転しよう」
「その病院って、どこにあるんですか?」
「ほら、テグレーションセンターの近くに一軒あるだろ?その病院はファミリードクターだから、そこまで大きくないんだが、そこには手術室もあって、ほとんど本格的な病院と変わらないんだよ。定期的に大学病院から医者が来て、そこで診察や手術とかやりに来るんだ」
「そうなんですか。って、あれ?その病院ってシュタイン・メディカルですか?」
「そうだが?」
「そこ、ドッドさんが手術した場所ですよ。入院は他の病院ですが」
「これはまた、狭い世界だな」
とりあえず二人は、そのシュタイン・メディカルに向かって、ホテルをあとにした。
ーーーーーー
何故、電子レンジで物が温まるのか?そんな疑問を持たず、普通に我々は一般的な家電製品として使用している。ほとんどのお弁当の中身が電子レンジで作られたとしても、電子レンジの仕組みがどうなってるのかを考えて弁当を食べる社会人や、学生はいないだろう。
では、電子レンジで物が温まるのは何故なのか?と、聞かれて答えられる人はどれだけいるのか。以外に分かっていなかったりして。例えば、電子レンジの光るライトの熱で温めてるんだと答えたり。それは幼稚な答えだと知らずして羞恥をさらすのだろうか。
電子レンジはマイクロ波によって水分子を回転させ、水分子の摩擦によって熱を生み出している。
そんな話を、ある男は子ども達の前で話をしていた。
「では、今日はここまでにしとこう」
先程までノートに書き込みしていた子ども達は片付けを始めた。
男は、外で待っているブライアンを見て、素早く教材を片付けブライアン刑事にかけよった。
「お待たせしました」
「いえ。それより、これは?」
「あぁ、たまにこうして子ども達に勉強を教えてるんですよ。最初はここで働く前に勤めていた病院で、入院していた子ども達に、学校が行けない変わりに勉強を教え始めたのがきっかけなんです」
「へぇ。でも、普通の勉強と言うよりも難しい話をされていた気がしましたが」
「刑事さんは物理が苦手なんですかね。これは一般常識として学校で学ぶ範囲内ですよ。それより、刑事さんがどんな用で?」
「あぁ、そうだった。ネビルさんを御存じですよね?」
「えぇ。ネビルさんは糖尿病の治療をこちらで受けていました。お亡くなりになられたということで、凄く残念に思います。犯人には必ず制裁されることを望みますね」
「そうですか」
おそらく、この男も真紀が真犯人だと思って言ってるのだろう。あの事件は今じゃ、ロサンゼルス市内ならどのチャンネルもあの事件のことを報道している。そして、ほとんどの人が彼女を犯人だと思ってるはずだ。
ブライアンは思った。報道の怖さは、それを視聴した市民が己の考え出さずして、報道をそのまま受け入れてしまう点だと。
「私もネビルさんの死の真相を突き止めたいと思っています。ですので、御協力お願いしますロナウド・シュタイン先生」
そう呼ばれた男こそまさしく、ここの医長である。
「えぇ、是非とも協力させて頂きます。ただ、犯人は捕まったのですよね?やはり、有罪するにはまだ証拠が足りないんでしょうか」
「ロナウドさん、私は彼女が犯人だとまだ決めつけておりません」
「え?どういうことだい。捕まった犯人じゃないのかい?」
「少なくとも警察はそのように判断しています。ただ、冤罪を防ぐ為にも他の可能性も考えねばなりません」
「それは君だけの行動か?」
「と言うと?」
「個人的な捜査には協力出来ない。組織に君ははむかうのかい?悪いことは言わない、組織に逆らうな。孤立するぞ。そうなった時には君の居場所はないだろ」
「ロナウドさん、警察に何を言われたんですか?」
「それを答える義理はない。君のことは署に報告しておこう。さぁ、帰ってくれ」
「これだけは聞かせてもらう。それまでは帰るわけにはいかない。お前さんが被害者のネビルに手術をしたことについて話せ」
すると、ロナウドの顔が一変した。
「な、なんのことだ?とにかく、帰ってくれ。でなきゃ、警察に通報するぞ」
「俺は刑事だぞ」
「そんなの関係ない。君は警察組織にさからってるんだ。今更、警察だと言っても遅い。誰もお前さんを庇ったりしない。当ててやろうか、君は一匹狼だ。そいつは必ず仲間に入れず、君を追い出そうとするだろう。さぁ、そうと分かったらそっそと出てくんだ」
ブライアンは大きく舌打ちした。
(こいつ、俺が捜査から外れてるのを知っているのか)
ブライアンは仕方なく、一旦引き返すことにした。
「策を考えなきゃな」
ブライアンはそう言って、車の中で待つ山吹の所へと戻った。
ーーーーーー
その頃真紀は拘置所にいた。檻の中ではたいしてやることはなく、寝そべり天井をずっと見ていた。
「おい、面会だ」
監視員がそう言って、冷たい鉄格子の扉を開けた。
面会室に行くと、そこには弁護士がいた。
「やぁ」
弁護士は優しく声をかけた。真紀は椅子に座ると、弁護士は早速本題にうつった。
「さて、君の今の状況だが、かなりヤバイとしか言いようがない。私としても、今回の裁判はかなりやられたよ。予想外の検察の行動に見事に振り回された結果、陪審員の判断は君の有罪に票を入れるのがほとんどだと考えている。この展開を覆すには君が犯人でないという新たな証拠が出るか、他の容疑者の浮上しか残されていない。だが、現状的にその考えは現実的ではない。そこで提案なんだが、君がこのまま否認し続けもし有罪になった場合、君は確実的に死刑になる。それを回避するには自供するしかない。君は次の法廷で自分がやりましたと自供するだけでいい。あとは、弁護士がやる」
「弁護士さん、私はやってないんですよ。あの殺人の計画書なんて見覚えがないし」
「分かっています。あの計画書のようなものを書いて残す犯人はいないでしょ。ただ、だからと言ってあなたの部屋から出てきたことを覆す程の言い分でもないことは確かなのです。正直、私もあなたを疑ってます」
「弁護士さんまで私を疑うんですか!」
「それまでぐらいに、あの計画書が出てきたことはかなり判決に影響するということです。それとも、あれ以上に陪審員を説得できる材料に心当たりでもあるんですか?」
「………いえ」
「なら、決まりですね。殺人の場合、実刑は間逃れないでしょうが、初犯ということもあり、減刑できるようなんとかしましょう」
「あの、どれくらいの刑期になるんですか?」
「殺害動機が腐ったパンで腹を壊した理由以外にあるとしたら別ですが、今はなんとも言えませんね」
真紀は重く肩を落とした。
「ふきちゃん………」
ーーーーーー
次の裁判まで残り24時間をきった。
「どうしよう。このままじゃ、真紀ちゃんは本当に犯罪者になっちゃうよ」
真紀は電話越しにいるブライアン刑事に訴えていた。
「分かっている。もう、あの病院しかない」
「でも、それで本当になかったら」
「いや、絶対にある。実は医長に帰された後、密かにもう一度あの場所に行ったんだ。すると、見取り図にはなかった地下に続く階段があったんだ。その先にあったのは地下室だったわけだが、そこはものけのからだった。普通なら、単に使われてない部屋だと思うが、そこは新しいペンキの臭いがしたんだ。おかしいだろ、見取り図にない地下室、使われてない部屋なのに新しいペンキ。あの部屋で何かあったはずさ」
「でも、それならネビルさん以外にも手術をした人はいるんですよね?そちらの聞き込みはいいんですか?」
「全員、俺が病院で追い返された日を境に行方不明だと」
「行方不明?全員ですか」
「あぁ。とにかく、もう一度病院へと行く」
「分かりました。私は真紀ちゃんと面会できるかお願いしてみます」
「どうだろうな、家族じゃなきゃ会わしてくれないと思うが」
「それでもじっとしてられないんです」
「あぁ、分かった。もし、駄目だったら真紀の弁護士と会って話すといい」
「分かりました」
ーーーーーー
電話を終えたブライアン刑事は、再びシュタイン・メディカルに来ていた。
「また貴方ですか」
「俺はしつこいぞ」
「何度来ても同じです。お帰り下さい」
「今度は令状を持って来た」
「な、バカな!?」
ブライアン刑事は令状をロナウド・シュタインに見せた。
「これが令状だ」
「え?行方不明者の捜索だと」
「これはリストだ」
そう言って、ブライアンはロナウド・シュタインにそれを手渡した。
「ここにあるリスト全員はここのかかりつけだった。被害者の共通点は他にもある。全員、糖尿病で認知症があった。そう言えば、被害者のネビルも共通している。これは偶然か?さぁ、早く言え!」
ブライアンは、今度は強気であたった。彼の胸ぐらを掴んで刑事の目をして、彼を凝視した。
ロナウド・シュタインはおびえ、震えながらも正常をなんとか保とうとしていた。
「私は知らない。何も知らないんだ」
震える声ながらも、少し張ったような声を出し、彼なりの抵抗を見せた。それはまさしく、彼にとっての最後の抵抗だった。
明らか様に彼の様子から知ってるのはブライアン刑事の目には見えていた。
「早く答えろ」
「ひっ!」
最早、抵抗は無駄に終わり、彼の精神だけ削れただけだった。
「わ、分かった。話す。話すから、その手をどけてくれ」
ブライアンは、彼の胸ぐらから手を離した。
「私は言われた通りにしただけさ」
「誰にだ」
「名前は知らない。誰かも覚えていないんだ。ただ、誰かに指示をされたのは覚えてる。とにかく、気付いたら勝手に体が動いたんだ」
「ふざけるな!ちゃんと答えろ」
「本当だ。不思議なことが起きたんだ。まるでマインドコントロールされた気分だよ。だけど、本来のマインドコントロールとは違う。意識がしっかりあるんだ。ただ、意識とは逆らって体が動くんだ。だから、本当にあやつられた感じなんだ。信じてもらえないかもしれないが、本当なんだ」
「嘘をつくな」
「本当だ。頼む、暴力だけはやめてくれ」
ブライアンは彼のそばの壁を思いっきり拳を叩きつける。
「ひっ」
ブライアンは彼が嘘を言っていないことぐらい分かっていた。しかし、そんな現象聞いたことないし、突き止めようとする程、謎が増えていく気がしていらだちが隠せないでいた。そんな時、自然に目線が下にいくと、蟻がぞろぞろと行進していた。
「ん?」
建物の中で蟻を見るなんて初めてだった。
「何で蟻がいる。ここは、衛生管理が悪いのか?」
「あ、あぁ……それか。私も困っているんだ」
「まぁ、いい。とにかく、知ってることを話してもらおうか」
ロナウド・シュタインは唾を飲み込んだ。
ーーーーーー
その頃、山吹は真紀の所へと行き、受付で面会を要請していた。
「残念ですが、ご家族以外面会には立ち会えません」
「そこを何とかお願いします」
「何度お願いされても同じです。これはきまりですので」
流石に、これ以上しつこくすると問題になりそうなので、山吹は大人しく引き返すことにした。
それとすれ違うかのように、今度は真夏に暑そうな、スーツを着込んだ男性が受付に向かった。無論、冷房の効いていない警察署ではあまりの暑さで、男はジャケットを脱いで手にかけた。
案の定、汗をかなりかき、クールビズのワイシャツは汗を吸収しまくってびしょびしょだった。
「真紀さんに面会に来た」
そう言って、弁護士の証明書を受付に提示し、名前を書く欄にペンをはしらせる。
「あの人が真紀ちゃんの弁護士」
山吹は直ぐに引き返し、弁護士が行ってしまう寸土のところで、彼に声をかけた。
「あの、弁護士さんですか?」
声をかけられた男性は振り向き、山吹を見た。
「あぁ、そうだよ。君は?」
「私は山吹すずらと言います。真紀ちゃんの友人で、面会しに来たんですけど断られてしまって」
「あぁ、成る程。確かに、私は君の友人を弁護してるよ。面会出来なかったのは残念だったね。何か伝えることがあったら言っとくよ」
「あの、一つ聞きたいことがあるんですが、よろしいですか」
「あぁ……いいよ。何かな?」
「真紀ちゃんの裁判、正直今の現状勝てますか?」
「その事なら、真紀さんは自供することに決まった」
「え!?それって、真紀ちゃんは犯行を認めたってことですか?」
「いや、最後まで否定していたよ。だけど、現状打開する方法がない以上、自供して減刑を望むしかないんだ」
「そんな!」
山吹は頭がかっとなった。
「それでも弁護士何ですか!犯行を否定しているなら、最後までそれを信じてあげるべきじゃないんですか。何故、弁護士のあなたが先に諦めてるんですか」
「君は素人だから何も分かってないんだ。このまま否認し続けていたら爆死するのは目に見えている。それだけは回避しなければならない」
「私には分かりません。無実の人が裁かれる理由が私には分かりません!」
「分からなくていい。少なくとも今は分からないだろうが、いずれは分かってくるはずだ」
「いやです。分かりたくありません」
「君は強情だな。いいかい、裁判は言わば取引さ。完全勝利の裁判なんてごくまれなんだよ。いかに上手く交渉するかなんだ。強情のままでは、誰も聞き入れてくれない。こっちは、聞いてもらわなきゃ、弁護にならないんだよ」
「それが、貴方の仕事ですか」
その質問には、弁護士は答えなかった。
「ここで言い合っても、どうやら平行線のままのようだな。こんなことに時間を使いたくない。私は行かせてもらうよ」
「待って下さい」
「まだ、何かあるのか?」
「真紀ちゃんに伝えて下さい。諦めないでって」
「それは出来ない。やっと、自供する気になったんだ。だけど、君が来ていたことだけは伝えておこう」
そう言い残すと、弁護士の男は行ってしまった。
山吹はとにかく、今の怒りをどこかにぶつけたくて仕方がなかった。
ーーーーーー
一方、シュタイン・メディカルにいるブライアン刑事は、ロナウド・シュタイン医師に事情聴取をしていた。
「私は、認知症患者にある注射を打ったんだ。それは何かは知らされなかったが、とにかくそいつの指示だったんだ。まさか、それが認知症を直す薬だとは知らなかったんだ。だけど、一人だけそれが効かなかった患者がいた」
「それが被害者のネビルだな。何故、ネビルは死んだ?」
「分からない。薬が何かは分からないが、後遺症ではないだろう。
ただ、私を指示した奴に聞いたんだ。何でこんなことをさせるんだと。そしたら、奴はある計画があると答えたんだ」
「計画?何だ、それは」
「戦争の準備だと言っていた。それがなんのことかは言わなかったが」
流石に、計画のことまでは話さないだろう。だが、戦争の準備というのには気になる話しである。
ふと、ロナウド・シュタインの後ろにぞろぞろと蜘蛛が動いているのが見えた。
「虫が随分いるんだな。こんな町中に虫がここまで大量発生する理由はなんだ」
「もしかして、虫がお嫌い何ですか」
「うるさい、答えろ」
「あ、はい。ここの地下室からどうも虫が大量発生しているようで」
あの、見取り図になかった地下室のことか。
「あの場所はなんだ」
「ここを建てる前に、昔あった建物の地下室が今も残っているだけです。そのまま利用しようとしましたが、虫が出てくるので今は使われいません」
「昔は何に使っていたんだ」
「備蓄庫として使用していました。しかし、虫に食われて、あそこに置けなくなったんです。君が悪いので、あの場所は使用しないようにしたんですよ」
「何故、虫が出てくるかは分からないのか」
「あの地下室の壁はかつてぼろぼろで、壁の小さな穴から虫が出てきたんです。だから、壁をリフォームして、綺麗にしたんです」
それで、新しいペンキの臭いがしたのか。
「だけど、それでも虫はどこからかあらわれてくるんです。建築の専門家に聞いてみましたが原因は分かっていません」
「その地下室を案内しろ」
「分かりました」
そう言うと、地下室へと二人は向かった。
ーーーーーー
地下室にたどり着いた二人は、何もない部屋を見渡した。
ブライアンは更に、前はさほど見なかった地下室の壁や、床をこまめに見渡した。
「ん?」
すると、地下室の中心辺りの床の音が、他の床と音が違っていた。まるで、そこに空洞があるかのように。
「おい、シャベルとハンマーを持ってこい」
「え?」
「いいから持って来い」
そう言うと、ロナウド・シュタインは急いでハンマーとシャベルを探しに向かった。
それから、多少の時間をかけ、ロナウド・シュタイン医師は戻ってきた。まぁ、当然病院にシャベルも、ハンマーもあるわけはなく、遠くから持って来たのだろう。
ブライアンはハンマーを彼から受けとると、思いっきり床に叩きつけた。
「な、何を!?」
コンクリートの床は簡単に割れた。どうやら、床自体薄かったらしい。すぐにコンクリートの破片をどけるとすぐに土が見えた。それを、今度はシャベルに持ち変え、そこを掘った。すると、すぐにその土はなくなり、変わりに棺があらわれた。
「なんだ、これは……」
ブライアンは棺の蓋を開ける。すると、白骨化された人骨がその中に入っていた。
「これはどういうことだ」
振り返り、彼にそう問いかける前に、後ろから思いっきりブライアンの後頭部に衝撃がはしった。
「ぐはっ」
ブライアンはそのまま倒れ、気絶した。その後ろで、ハンマーを持っているロナウド・シュタイン医師がいた。
「余計なことをしなければ良かったものを」
彼は、気絶しているブライアンを見て言った。
ーーーーーー
場所は変わって面会室。真紀の向かいには弁護士が座っていた。
「いよいよ、明日が裁判だ。君は、私の言う通りに供述すればいい」
しかし、真紀は正直弁護士の言っていることは頭に入ってはいなかった。
弁護士はそれを見て溜め息をついた。
「そう言えば、君の友人が受付まで来ていたよ」
その言葉にピクリと反応し、顔を上げた。
「確か、山吹とか言ってたな。下の名前はなんだったか忘れたが」
「ふきちゃん!ふきちゃんが来たの?」
「あぁ。受付で引き返されてたけどな。面会出来るのは血縁者だけになっている。そう言えば、伝言を頼まれたんだった」
「え!?ふきちゃんは何て?」
「さようならと」
「?」
真紀がなんのこと?と思っていると、後ろから急に手がまわり、そのまま真紀の首を締め付けた。
「ぐっ!」
かろうじて、後ろの相手が見えた。それは、警官の制服を来た男だった。
向かいにいる弁護士はこの状況に平然と見ていた。
「ど、どうして……」
すると、よく見ると弁護士の目が赤く光っているのが見えた。
「こ、これは!?」
と、先程まで首を閉めていた手にビュンッと風が舞うと、その警官の腕から血が吹き出た。
「があああ!!」
警官の男はとっさに真紀の首から手を離す。真紀はその間に素早く、警官から離れた。
すると、真紀の腰に突然刀があらわれた。
「我が主よ、大丈夫か?」
「これはいったいどういうこと?」
よく見たら、あの警官の目も赤く光っていた。
「我が主よ、ここから今すぐ退避するのだ。これは六大武将の仕業だ」
「なんだって!?」
「名は空亡。最後の六大武将にして、六大武将の中でも最強を誇る武将だ。奴の武具は指揮。相手を操る能力を持っている。だが、能力以外でも奴を相手にするには問題がある。とにかく、ここから脱出するのだ」
「でも、そしたら私は逃走犯になって、全国に指名手配されちゃうよ」
「どちらにせよ、ここにいたら殺されてしまう。唯一の解決策は空亡を倒すしかない。奴を倒せば、主の無実は証明される。今までの話しがバカになるぐらい、簡単に終結できるだろう」
真紀は少し考えてから、刀に手をかけ
「分かった。とにかく、ここを脱出すればいいんだね」
「うむ」
「なら!」
真紀は壁に刀を振るう。普通の刀ならば、壁を切り裂くことは出来ない。そんなことをすれば、刀が逆に折れてしまう。しかし、真紀の持つ刀はその常識にとらわれない。何故なら、その刀は普通ではないからだ。
見事に切り裂かれた壁は、そこに逃げ道に続く大きな穴ができた。真紀は、その大きな穴へと飛び込んで行った。
山吹のいる部屋の扉が音をたてて開き、ブライアンが入って来た。
「ブライアンさん」
「待たせたな。それにしても随分やられたな」
山吹達が傍聴していた頃、警察は家宅捜査していた。そのあとが見事に残り、部屋は散らかり放題になっていた。
「それで、何か分かったんですか?」
「あぁ。まず、被害者のおじさんについてだが、彼の奥さんは病気で数年前に亡くなっていて、今は独り暮らしだと分かったんだが、彼はここ最近老人のせいか通院してたんだ。まぁ、病気はただの糖尿病だったんだが、おかしいのは2ヶ月前に大きな手術をしていたらしいんだ」
「糖尿病ですよね?」
「そうだ。ただ、近所の話しによると認知症の症状があったようだ。かなり酷く、夜中の徘徊でいつも警察に補導されていたようだ」
「それが今回と何か関係があるんですか?」
「おかしいだろ。認知症の酷い人が毎回洗濯しに来てまるで普通の生活を送っているかのように。近所もその手術以降、徘徊がなくなったから驚いていたよ」
「つまり、認知症が手術後治ったってことですか?でも、認知症って完治できないんじゃなかった?」
「もし、本当に治ったらその医者はノーベル賞ものだな。多くの認知症患者に、老後に不安を抱える多く人間がその医者に感謝し尊敬するだろう。
だが、実際は違った」
「何かあったんですか?」
「あいつは手術後に腐ったパンを真紀に渡している。奴はそれを知らなかった。いや、覚えてなかった」
「つまり、認知症は完治されなかった」
「それと、被害者のネビルが通っていた病院だが、他にネビル同様に認知症だった老人が次々に症状がなくなっていることが分かった」
「ネビルさんだけじゃなく、他の人もいたんですね」
「そうだ。ただ、彼だけは他の人と違っていた。彼だけ完治されなかったんだ。とにかく、俺はその手術とやらが怪しくてしかたがないない。これから、その病院と担当医を調べるつもりだ。そっちは何か分かったか?」
「私、ドッドさんの所にお見舞いに行ってきたんです」
「あぁ、山吹を庇った奴か。奴はどうだった?」
「元気でしたよ。医者ももうすぐ退院するだろうって」
「そりゃあ良かった」
「それで聞いてみたんです。ドッドさんにその事件のことを」
「ドッドに?何故?」
「ドッドさんは頭がいいし、私達が気づかない点を知ってるかもって思って」
「成る程」
「それで、ドッドさんの話しによると、まるで真紀ちゃんに罪をなすりつけるような大きな力が働いているように感じるとのことを言ってました。警察を動かす程の強い権力が今回の裏にはあるんじゃないかって」
「おいおい、それを刑事の前で言うか?」
「あっ、すいませんでした」
「それに、警察を動かすってドラマか映像の見すぎだろ。……まぁ、そうは言っても実際のところあったりするかもな」
「え?そうなんですか」
「政治家の息子が殺人を犯した時、警察は別の人間を殺人者にあてた。政治家という権力に、警察は動かされた例が過去にある。無論、無実の人間が裁かれるのは間違ってる。俺はそれを許す気はないし、例え警察組織が誰かを庇っているとしたら、必ず真相を暴いてやる。それはどの警官も同じ気持ちだ。たがら、それまで警察を信用して欲しい。俺が必ず真相を暴いてやる」
「はい」
「それで、話を戻すがこれからについてだ」
こっからがまさに本題であった。今、真紀の現状からして裁判の行方は陪審員によって左右される可能性があった。判決までの期間も考えると、さほど時間もあるとは言えない。それまでになんとしてでも真紀が犯人でないという新情報(証拠)を探し、陪審員を説得できるだけの行動を起こさなきゃいけない。
「まず、被害者のネビルについての聞き込みからの情報はあらかた手に入ったが、限界がある。まだ、被害者についての情報が欠如している。また、傍聴から聞いても検察側が被害者について多く語っていない点も気になる。そこで、被害者のネビルを担当した医者にあたろうと思う」
「でも、病院って中々個人情報がどうのとかで教えてくれないんじゃないの?捜査令状がなきゃ教えられません的な」
「よく知ってるな」
「あはは……私もドラマに影響された者ですから」
「まぁ、警察だと分かれば大抵は情報提供してくれるんだが、全てがそうでないのは本当だ。それは情報提供した結果、例え凶悪な犯罪者だったとしても、本人の了承なしで提供してしまった場合、逆に病院側に訴えることができるんだ。しかし、令状があれば別になる。だから、求める情報によっては病院は公開出来ないんだ。
しかし、今回は死人だ。生きている人間と違い、個人情報の取り扱いが変化するんだ。だから、今回はすんなり情報は手にはいるはずさ」
「それでも、警察関係者じゃなきゃ病院は情報公開しないんじゃないんですか?警察だと病院に証明したら、ブライアンさんが勝手に捜査していることが知られちゃうじゃないんですか?」
「なんだ、俺のこと心配してくれてるのか?安心しろ。せいぜい謹慎処分だろうよ。無職になる訳じゃない。それよりも、冤罪を阻止することが先決さ。もし、罪のない人を檻に入れたら、俺は刑事を辞める。こんな仕事をして人が報われるどころか不幸にしている仕事なんぞ続けたいと思わない」
「ブライアンさん……」
「なんだ、見直したか?」
「はい」
「今更だな」
「そうですね。私、気づくのいつも遅いんです。気づいた時にはどんどん超されてるんです」
「真紀のことか?」
「はい。最初は私がしっかりしなきゃって思っていたのが、いつの間にか色々な事件の中心にいて、全てを一人で背負って戦おうとしてる。私はそれに手助けも出来ず、見守るしか出来ないでいる」
「それでも、真紀にはお前が必要だ。現に、奴は檻の中に閉じ込められようとしている。もし、その間に今までのようなことが起きたら、多くの命が奪われることになる。間接的だが、真紀を救おうとするお前さんは立派に世界にも役立ってるんだ。そんなに落ち込むことはない」
「ブライアンさんは本当に優しいんですね」
「本当、今更だな」
二度も同じことを言われ、山吹は思わず笑いが吹き出る。それを見たブライアンも同じく笑ってしまった。
「とにかく、俺は今から病院に行く。山吹はどうする?」
「私も行きます!」
「そうか。場所は車で行けばそこまで遠くない。私が運転しよう」
「その病院って、どこにあるんですか?」
「ほら、テグレーションセンターの近くに一軒あるだろ?その病院はファミリードクターだから、そこまで大きくないんだが、そこには手術室もあって、ほとんど本格的な病院と変わらないんだよ。定期的に大学病院から医者が来て、そこで診察や手術とかやりに来るんだ」
「そうなんですか。って、あれ?その病院ってシュタイン・メディカルですか?」
「そうだが?」
「そこ、ドッドさんが手術した場所ですよ。入院は他の病院ですが」
「これはまた、狭い世界だな」
とりあえず二人は、そのシュタイン・メディカルに向かって、ホテルをあとにした。
ーーーーーー
何故、電子レンジで物が温まるのか?そんな疑問を持たず、普通に我々は一般的な家電製品として使用している。ほとんどのお弁当の中身が電子レンジで作られたとしても、電子レンジの仕組みがどうなってるのかを考えて弁当を食べる社会人や、学生はいないだろう。
では、電子レンジで物が温まるのは何故なのか?と、聞かれて答えられる人はどれだけいるのか。以外に分かっていなかったりして。例えば、電子レンジの光るライトの熱で温めてるんだと答えたり。それは幼稚な答えだと知らずして羞恥をさらすのだろうか。
電子レンジはマイクロ波によって水分子を回転させ、水分子の摩擦によって熱を生み出している。
そんな話を、ある男は子ども達の前で話をしていた。
「では、今日はここまでにしとこう」
先程までノートに書き込みしていた子ども達は片付けを始めた。
男は、外で待っているブライアンを見て、素早く教材を片付けブライアン刑事にかけよった。
「お待たせしました」
「いえ。それより、これは?」
「あぁ、たまにこうして子ども達に勉強を教えてるんですよ。最初はここで働く前に勤めていた病院で、入院していた子ども達に、学校が行けない変わりに勉強を教え始めたのがきっかけなんです」
「へぇ。でも、普通の勉強と言うよりも難しい話をされていた気がしましたが」
「刑事さんは物理が苦手なんですかね。これは一般常識として学校で学ぶ範囲内ですよ。それより、刑事さんがどんな用で?」
「あぁ、そうだった。ネビルさんを御存じですよね?」
「えぇ。ネビルさんは糖尿病の治療をこちらで受けていました。お亡くなりになられたということで、凄く残念に思います。犯人には必ず制裁されることを望みますね」
「そうですか」
おそらく、この男も真紀が真犯人だと思って言ってるのだろう。あの事件は今じゃ、ロサンゼルス市内ならどのチャンネルもあの事件のことを報道している。そして、ほとんどの人が彼女を犯人だと思ってるはずだ。
ブライアンは思った。報道の怖さは、それを視聴した市民が己の考え出さずして、報道をそのまま受け入れてしまう点だと。
「私もネビルさんの死の真相を突き止めたいと思っています。ですので、御協力お願いしますロナウド・シュタイン先生」
そう呼ばれた男こそまさしく、ここの医長である。
「えぇ、是非とも協力させて頂きます。ただ、犯人は捕まったのですよね?やはり、有罪するにはまだ証拠が足りないんでしょうか」
「ロナウドさん、私は彼女が犯人だとまだ決めつけておりません」
「え?どういうことだい。捕まった犯人じゃないのかい?」
「少なくとも警察はそのように判断しています。ただ、冤罪を防ぐ為にも他の可能性も考えねばなりません」
「それは君だけの行動か?」
「と言うと?」
「個人的な捜査には協力出来ない。組織に君ははむかうのかい?悪いことは言わない、組織に逆らうな。孤立するぞ。そうなった時には君の居場所はないだろ」
「ロナウドさん、警察に何を言われたんですか?」
「それを答える義理はない。君のことは署に報告しておこう。さぁ、帰ってくれ」
「これだけは聞かせてもらう。それまでは帰るわけにはいかない。お前さんが被害者のネビルに手術をしたことについて話せ」
すると、ロナウドの顔が一変した。
「な、なんのことだ?とにかく、帰ってくれ。でなきゃ、警察に通報するぞ」
「俺は刑事だぞ」
「そんなの関係ない。君は警察組織にさからってるんだ。今更、警察だと言っても遅い。誰もお前さんを庇ったりしない。当ててやろうか、君は一匹狼だ。そいつは必ず仲間に入れず、君を追い出そうとするだろう。さぁ、そうと分かったらそっそと出てくんだ」
ブライアンは大きく舌打ちした。
(こいつ、俺が捜査から外れてるのを知っているのか)
ブライアンは仕方なく、一旦引き返すことにした。
「策を考えなきゃな」
ブライアンはそう言って、車の中で待つ山吹の所へと戻った。
ーーーーーー
その頃真紀は拘置所にいた。檻の中ではたいしてやることはなく、寝そべり天井をずっと見ていた。
「おい、面会だ」
監視員がそう言って、冷たい鉄格子の扉を開けた。
面会室に行くと、そこには弁護士がいた。
「やぁ」
弁護士は優しく声をかけた。真紀は椅子に座ると、弁護士は早速本題にうつった。
「さて、君の今の状況だが、かなりヤバイとしか言いようがない。私としても、今回の裁判はかなりやられたよ。予想外の検察の行動に見事に振り回された結果、陪審員の判断は君の有罪に票を入れるのがほとんどだと考えている。この展開を覆すには君が犯人でないという新たな証拠が出るか、他の容疑者の浮上しか残されていない。だが、現状的にその考えは現実的ではない。そこで提案なんだが、君がこのまま否認し続けもし有罪になった場合、君は確実的に死刑になる。それを回避するには自供するしかない。君は次の法廷で自分がやりましたと自供するだけでいい。あとは、弁護士がやる」
「弁護士さん、私はやってないんですよ。あの殺人の計画書なんて見覚えがないし」
「分かっています。あの計画書のようなものを書いて残す犯人はいないでしょ。ただ、だからと言ってあなたの部屋から出てきたことを覆す程の言い分でもないことは確かなのです。正直、私もあなたを疑ってます」
「弁護士さんまで私を疑うんですか!」
「それまでぐらいに、あの計画書が出てきたことはかなり判決に影響するということです。それとも、あれ以上に陪審員を説得できる材料に心当たりでもあるんですか?」
「………いえ」
「なら、決まりですね。殺人の場合、実刑は間逃れないでしょうが、初犯ということもあり、減刑できるようなんとかしましょう」
「あの、どれくらいの刑期になるんですか?」
「殺害動機が腐ったパンで腹を壊した理由以外にあるとしたら別ですが、今はなんとも言えませんね」
真紀は重く肩を落とした。
「ふきちゃん………」
ーーーーーー
次の裁判まで残り24時間をきった。
「どうしよう。このままじゃ、真紀ちゃんは本当に犯罪者になっちゃうよ」
真紀は電話越しにいるブライアン刑事に訴えていた。
「分かっている。もう、あの病院しかない」
「でも、それで本当になかったら」
「いや、絶対にある。実は医長に帰された後、密かにもう一度あの場所に行ったんだ。すると、見取り図にはなかった地下に続く階段があったんだ。その先にあったのは地下室だったわけだが、そこはものけのからだった。普通なら、単に使われてない部屋だと思うが、そこは新しいペンキの臭いがしたんだ。おかしいだろ、見取り図にない地下室、使われてない部屋なのに新しいペンキ。あの部屋で何かあったはずさ」
「でも、それならネビルさん以外にも手術をした人はいるんですよね?そちらの聞き込みはいいんですか?」
「全員、俺が病院で追い返された日を境に行方不明だと」
「行方不明?全員ですか」
「あぁ。とにかく、もう一度病院へと行く」
「分かりました。私は真紀ちゃんと面会できるかお願いしてみます」
「どうだろうな、家族じゃなきゃ会わしてくれないと思うが」
「それでもじっとしてられないんです」
「あぁ、分かった。もし、駄目だったら真紀の弁護士と会って話すといい」
「分かりました」
ーーーーーー
電話を終えたブライアン刑事は、再びシュタイン・メディカルに来ていた。
「また貴方ですか」
「俺はしつこいぞ」
「何度来ても同じです。お帰り下さい」
「今度は令状を持って来た」
「な、バカな!?」
ブライアン刑事は令状をロナウド・シュタインに見せた。
「これが令状だ」
「え?行方不明者の捜索だと」
「これはリストだ」
そう言って、ブライアンはロナウド・シュタインにそれを手渡した。
「ここにあるリスト全員はここのかかりつけだった。被害者の共通点は他にもある。全員、糖尿病で認知症があった。そう言えば、被害者のネビルも共通している。これは偶然か?さぁ、早く言え!」
ブライアンは、今度は強気であたった。彼の胸ぐらを掴んで刑事の目をして、彼を凝視した。
ロナウド・シュタインはおびえ、震えながらも正常をなんとか保とうとしていた。
「私は知らない。何も知らないんだ」
震える声ながらも、少し張ったような声を出し、彼なりの抵抗を見せた。それはまさしく、彼にとっての最後の抵抗だった。
明らか様に彼の様子から知ってるのはブライアン刑事の目には見えていた。
「早く答えろ」
「ひっ!」
最早、抵抗は無駄に終わり、彼の精神だけ削れただけだった。
「わ、分かった。話す。話すから、その手をどけてくれ」
ブライアンは、彼の胸ぐらから手を離した。
「私は言われた通りにしただけさ」
「誰にだ」
「名前は知らない。誰かも覚えていないんだ。ただ、誰かに指示をされたのは覚えてる。とにかく、気付いたら勝手に体が動いたんだ」
「ふざけるな!ちゃんと答えろ」
「本当だ。不思議なことが起きたんだ。まるでマインドコントロールされた気分だよ。だけど、本来のマインドコントロールとは違う。意識がしっかりあるんだ。ただ、意識とは逆らって体が動くんだ。だから、本当にあやつられた感じなんだ。信じてもらえないかもしれないが、本当なんだ」
「嘘をつくな」
「本当だ。頼む、暴力だけはやめてくれ」
ブライアンは彼のそばの壁を思いっきり拳を叩きつける。
「ひっ」
ブライアンは彼が嘘を言っていないことぐらい分かっていた。しかし、そんな現象聞いたことないし、突き止めようとする程、謎が増えていく気がしていらだちが隠せないでいた。そんな時、自然に目線が下にいくと、蟻がぞろぞろと行進していた。
「ん?」
建物の中で蟻を見るなんて初めてだった。
「何で蟻がいる。ここは、衛生管理が悪いのか?」
「あ、あぁ……それか。私も困っているんだ」
「まぁ、いい。とにかく、知ってることを話してもらおうか」
ロナウド・シュタインは唾を飲み込んだ。
ーーーーーー
その頃、山吹は真紀の所へと行き、受付で面会を要請していた。
「残念ですが、ご家族以外面会には立ち会えません」
「そこを何とかお願いします」
「何度お願いされても同じです。これはきまりですので」
流石に、これ以上しつこくすると問題になりそうなので、山吹は大人しく引き返すことにした。
それとすれ違うかのように、今度は真夏に暑そうな、スーツを着込んだ男性が受付に向かった。無論、冷房の効いていない警察署ではあまりの暑さで、男はジャケットを脱いで手にかけた。
案の定、汗をかなりかき、クールビズのワイシャツは汗を吸収しまくってびしょびしょだった。
「真紀さんに面会に来た」
そう言って、弁護士の証明書を受付に提示し、名前を書く欄にペンをはしらせる。
「あの人が真紀ちゃんの弁護士」
山吹は直ぐに引き返し、弁護士が行ってしまう寸土のところで、彼に声をかけた。
「あの、弁護士さんですか?」
声をかけられた男性は振り向き、山吹を見た。
「あぁ、そうだよ。君は?」
「私は山吹すずらと言います。真紀ちゃんの友人で、面会しに来たんですけど断られてしまって」
「あぁ、成る程。確かに、私は君の友人を弁護してるよ。面会出来なかったのは残念だったね。何か伝えることがあったら言っとくよ」
「あの、一つ聞きたいことがあるんですが、よろしいですか」
「あぁ……いいよ。何かな?」
「真紀ちゃんの裁判、正直今の現状勝てますか?」
「その事なら、真紀さんは自供することに決まった」
「え!?それって、真紀ちゃんは犯行を認めたってことですか?」
「いや、最後まで否定していたよ。だけど、現状打開する方法がない以上、自供して減刑を望むしかないんだ」
「そんな!」
山吹は頭がかっとなった。
「それでも弁護士何ですか!犯行を否定しているなら、最後までそれを信じてあげるべきじゃないんですか。何故、弁護士のあなたが先に諦めてるんですか」
「君は素人だから何も分かってないんだ。このまま否認し続けていたら爆死するのは目に見えている。それだけは回避しなければならない」
「私には分かりません。無実の人が裁かれる理由が私には分かりません!」
「分からなくていい。少なくとも今は分からないだろうが、いずれは分かってくるはずだ」
「いやです。分かりたくありません」
「君は強情だな。いいかい、裁判は言わば取引さ。完全勝利の裁判なんてごくまれなんだよ。いかに上手く交渉するかなんだ。強情のままでは、誰も聞き入れてくれない。こっちは、聞いてもらわなきゃ、弁護にならないんだよ」
「それが、貴方の仕事ですか」
その質問には、弁護士は答えなかった。
「ここで言い合っても、どうやら平行線のままのようだな。こんなことに時間を使いたくない。私は行かせてもらうよ」
「待って下さい」
「まだ、何かあるのか?」
「真紀ちゃんに伝えて下さい。諦めないでって」
「それは出来ない。やっと、自供する気になったんだ。だけど、君が来ていたことだけは伝えておこう」
そう言い残すと、弁護士の男は行ってしまった。
山吹はとにかく、今の怒りをどこかにぶつけたくて仕方がなかった。
ーーーーーー
一方、シュタイン・メディカルにいるブライアン刑事は、ロナウド・シュタイン医師に事情聴取をしていた。
「私は、認知症患者にある注射を打ったんだ。それは何かは知らされなかったが、とにかくそいつの指示だったんだ。まさか、それが認知症を直す薬だとは知らなかったんだ。だけど、一人だけそれが効かなかった患者がいた」
「それが被害者のネビルだな。何故、ネビルは死んだ?」
「分からない。薬が何かは分からないが、後遺症ではないだろう。
ただ、私を指示した奴に聞いたんだ。何でこんなことをさせるんだと。そしたら、奴はある計画があると答えたんだ」
「計画?何だ、それは」
「戦争の準備だと言っていた。それがなんのことかは言わなかったが」
流石に、計画のことまでは話さないだろう。だが、戦争の準備というのには気になる話しである。
ふと、ロナウド・シュタインの後ろにぞろぞろと蜘蛛が動いているのが見えた。
「虫が随分いるんだな。こんな町中に虫がここまで大量発生する理由はなんだ」
「もしかして、虫がお嫌い何ですか」
「うるさい、答えろ」
「あ、はい。ここの地下室からどうも虫が大量発生しているようで」
あの、見取り図になかった地下室のことか。
「あの場所はなんだ」
「ここを建てる前に、昔あった建物の地下室が今も残っているだけです。そのまま利用しようとしましたが、虫が出てくるので今は使われいません」
「昔は何に使っていたんだ」
「備蓄庫として使用していました。しかし、虫に食われて、あそこに置けなくなったんです。君が悪いので、あの場所は使用しないようにしたんですよ」
「何故、虫が出てくるかは分からないのか」
「あの地下室の壁はかつてぼろぼろで、壁の小さな穴から虫が出てきたんです。だから、壁をリフォームして、綺麗にしたんです」
それで、新しいペンキの臭いがしたのか。
「だけど、それでも虫はどこからかあらわれてくるんです。建築の専門家に聞いてみましたが原因は分かっていません」
「その地下室を案内しろ」
「分かりました」
そう言うと、地下室へと二人は向かった。
ーーーーーー
地下室にたどり着いた二人は、何もない部屋を見渡した。
ブライアンは更に、前はさほど見なかった地下室の壁や、床をこまめに見渡した。
「ん?」
すると、地下室の中心辺りの床の音が、他の床と音が違っていた。まるで、そこに空洞があるかのように。
「おい、シャベルとハンマーを持ってこい」
「え?」
「いいから持って来い」
そう言うと、ロナウド・シュタインは急いでハンマーとシャベルを探しに向かった。
それから、多少の時間をかけ、ロナウド・シュタイン医師は戻ってきた。まぁ、当然病院にシャベルも、ハンマーもあるわけはなく、遠くから持って来たのだろう。
ブライアンはハンマーを彼から受けとると、思いっきり床に叩きつけた。
「な、何を!?」
コンクリートの床は簡単に割れた。どうやら、床自体薄かったらしい。すぐにコンクリートの破片をどけるとすぐに土が見えた。それを、今度はシャベルに持ち変え、そこを掘った。すると、すぐにその土はなくなり、変わりに棺があらわれた。
「なんだ、これは……」
ブライアンは棺の蓋を開ける。すると、白骨化された人骨がその中に入っていた。
「これはどういうことだ」
振り返り、彼にそう問いかける前に、後ろから思いっきりブライアンの後頭部に衝撃がはしった。
「ぐはっ」
ブライアンはそのまま倒れ、気絶した。その後ろで、ハンマーを持っているロナウド・シュタイン医師がいた。
「余計なことをしなければ良かったものを」
彼は、気絶しているブライアンを見て言った。
ーーーーーー
場所は変わって面会室。真紀の向かいには弁護士が座っていた。
「いよいよ、明日が裁判だ。君は、私の言う通りに供述すればいい」
しかし、真紀は正直弁護士の言っていることは頭に入ってはいなかった。
弁護士はそれを見て溜め息をついた。
「そう言えば、君の友人が受付まで来ていたよ」
その言葉にピクリと反応し、顔を上げた。
「確か、山吹とか言ってたな。下の名前はなんだったか忘れたが」
「ふきちゃん!ふきちゃんが来たの?」
「あぁ。受付で引き返されてたけどな。面会出来るのは血縁者だけになっている。そう言えば、伝言を頼まれたんだった」
「え!?ふきちゃんは何て?」
「さようならと」
「?」
真紀がなんのこと?と思っていると、後ろから急に手がまわり、そのまま真紀の首を締め付けた。
「ぐっ!」
かろうじて、後ろの相手が見えた。それは、警官の制服を来た男だった。
向かいにいる弁護士はこの状況に平然と見ていた。
「ど、どうして……」
すると、よく見ると弁護士の目が赤く光っているのが見えた。
「こ、これは!?」
と、先程まで首を閉めていた手にビュンッと風が舞うと、その警官の腕から血が吹き出た。
「があああ!!」
警官の男はとっさに真紀の首から手を離す。真紀はその間に素早く、警官から離れた。
すると、真紀の腰に突然刀があらわれた。
「我が主よ、大丈夫か?」
「これはいったいどういうこと?」
よく見たら、あの警官の目も赤く光っていた。
「我が主よ、ここから今すぐ退避するのだ。これは六大武将の仕業だ」
「なんだって!?」
「名は空亡。最後の六大武将にして、六大武将の中でも最強を誇る武将だ。奴の武具は指揮。相手を操る能力を持っている。だが、能力以外でも奴を相手にするには問題がある。とにかく、ここから脱出するのだ」
「でも、そしたら私は逃走犯になって、全国に指名手配されちゃうよ」
「どちらにせよ、ここにいたら殺されてしまう。唯一の解決策は空亡を倒すしかない。奴を倒せば、主の無実は証明される。今までの話しがバカになるぐらい、簡単に終結できるだろう」
真紀は少し考えてから、刀に手をかけ
「分かった。とにかく、ここを脱出すればいいんだね」
「うむ」
「なら!」
真紀は壁に刀を振るう。普通の刀ならば、壁を切り裂くことは出来ない。そんなことをすれば、刀が逆に折れてしまう。しかし、真紀の持つ刀はその常識にとらわれない。何故なら、その刀は普通ではないからだ。
見事に切り裂かれた壁は、そこに逃げ道に続く大きな穴ができた。真紀は、その大きな穴へと飛び込んで行った。
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