空のない世界(裏)

石田氏

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3章 青い世界

01

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 修学旅行どこに行きたいかと聞かれれば、海外旅行と言うだろうか。海外旅行は憧れで、特にヨーロッパあたりに行きたいなんて夢もいいだろう。
 うちの学校は豪華客船で旅をするという、これが学生の今の修学旅行か!と言いたくなるような感じ。


船の名は『オアシス・オブ・ザ・シーズ』


 生徒達の興奮はとまらなかった。豪華客船内部は、商業施設、エンターテイメント、スポーツが兼ね揃えた大型客船で、2706室あるうちの2210室がオーシャンビューとなっている。そして、学生が泊まる客室はオーシャンビューの客室である。
 これはツインタワー事件の際、北館にいた緑の少女を攻略した褒美であった。更に、東のはからいで門限なしの完全自由行動となった。これには水口教官も頭を痛めた。
「真紀ちゃん、商業施設に行こうよ」
「ふきちゃんは相変わらず買い物が好きだね。でも、今は楽しもうよ。買い物はその後でね」
「うん、分かった」

 


 場所がかわって、とある客室。そこには、カタカタとパソコンを打ち込む東がいた。その東の目の前に、水口教官は東に聞いた。
「よろしかったのですか、総会にでなくても」
「あぁ、その事なんだけど、ツインタワー事件が目眩ましだったことは知ってるね」
「はい。黄色の少女が自分が囮だと言うような発言をしていたのを、私も聞いておりました」
「その事件が目眩ましなら、他に本命があるってことも話していたよね」
「はい。ですが、あの後の調査では特にどこかで被害があったという話しはなかったはずです」
「それがあったんだよ。その本命が何なのかもね」
「それはいったい?」
「実はあの事件の際、多くの軍が出動したんだ。まぁ、無理もない。色ありの少女が同じ場所に二人も現れたんだからね。
 それで、沢山の軍が出動し軍の基地はものけのから。そこにいたのは、僅かな兵とその兵を指揮するーー」
「まさか!?」
「そう。陸軍、海軍、空軍の最高指揮官モリスさんだ。その僅かな兵と一緒に横たわるモリスさんの死体が発見された」
「あの英雄、モリスさんが!?」
「モリスさんは殺される前に現在の首相、キャプラさんにメールを送信していた。それは短い文章だったが『気をつけろ。俺たちは狙われている』。これが意味する内容だけど、『俺たち』は多分かつての仲間のこと。勿論、今も仲間のつもりだよ。だから、モリスさんはキャプラさんにメールを送信した」
「つまり、東様を含む英雄達が狙われていると」
「トリニティの狙いは、僕たちだ。恐らく、世界構築の少女の行方を知りたいんだろう。この世界に『空のない世界』がないのは、世界構築の少女が、空の穴を塞いだからだ。だから、世界構築の少女に接触をはかり、再び『空のない世界』を出現させようとしている可能性がある。
 僕たちは唯一、世界構築の少女と接触し寿命を増やしてもらっている。僕たちがこんな若さで長生きしているのは、世界構築の少女の計らいだから。世界構築の少女は、この世界に安定をもたらす為に、僕たちに寿命を与えている。なら、僕たちと接触すれば結果として、世界構築の少女に会えると考えたんだと思う。それなら、モリスさんが狙われた理由に納得がいく。
 だけど今、世界構築の少女に会える手段を持っているのはこの僕だけだ。しかし、それを知らないトリニティは、モリスさんが抵抗されたと勘違いをして殺したんだと思う」
「なら、今の東様はとても危険な状況では?ここにいるより安全な場所にいた方がいいのではないんですか」
「確かにね」
「もしかして、総会と言うのは・・・」
「僕の身柄確保さ。だけど、キャプラさんには悪いがどんなに警備を強化しても、色ありの少女を相手にすることはできない。唯一の抵抗は、色なしの少女だけだからだ」
「だから、修学旅行に参加されたのですか」
「不満でしょうね。私がここにいれば、生徒にまで危険が及んでしまうかもしれないですし」
「いいえ。東様が言うトリニティの唯一の抵抗が彼女らだけというなら、ここにいるのは得策かと。私も教官として彼女らを指揮します。もし、のこのこ現れるようなら返り討ちにあわせるまでです」
「頼りにしています」
「それより、東様はパソコンで何をなさっているんですか」
すると、東はパソコンの画面を水口教官の方に向けた。
「この船の内部構造です。敵を迎え撃つなら、内部のことも知らないといけませんから」
「成る程、参考になります」
そんな、いつ襲って来るか分からない敵を迎え撃つ対策を講じていたが、特にその日は何もおきなかった。





【豪華客船の旅・2日目】


  船内の厨房室。昼の昼食作りに厨房は忙しかった。そんな中、一人だけいっこうに姿をあらわさない従業員がいた。
「あいつはまだ来てないのか。全くこの忙しい時間に何やってるんだ」
「すいません、料理長。先程、呼びに部屋に行ったのですが、部屋にはおらず、何処を探しても見つかりませんでした」
「何っ!?」



 一人の船員が行方不明の頃、真紀と山吹はメインプールで楽しんでいた。
「船の中にプールがあるとか凄いね、ふきちゃん」
「うん。でも、他の豪華客船にも大抵はプールがあるんだよ」
「へぇ~」
「他にもこの船にはロッククライミングや、ミニゴルフ、シアターとか色々あるらしいよ」
「何か遊園地みたいだね」
「あ、もうすぐお昼じゃない?」
山吹は船内にある時計を見て言った。
「じゃあ、そろそろレストランに行こうか」
「うん」
山吹と真紀は、プールを出て更衣室へと向かった。そのあと、そのままメインダイニングルームへと向かった。
 


 メインダイニングルームは、1920年代をイメージした3層吹き抜けの開放的空間となっている。勿論、日本語のメニューもあり、英語が苦手な真紀でも注文することができた。
「美味しいね、真紀ちゃん」
「うん」
そう言いながらも、ちゃっかりと嫌いな野菜を端にどけていた。
「真紀ちゃん、野菜も食べないと駄目だよ」
「げっ。ふきちゃん、うちのお母さんと同じこと言うんだ」
「だって、真紀ちゃんのお母さんに宜しくって言われてるもん」
「なんか、ふきちゃん。私のお母さんみたい・・・」
そう言いながら、渋々野菜を口にした。そして水で勢いよく飲みこんだ。


同じく昼食をとっていた東と水口教官は、生徒達とは少し離れた席で食事をしていた。
「昨日は何もおきませんでしたね」
「えぇ、そうですね。それより、水口教官。ちゃんと昨日眠れましたか?何か目の下の辺りが黒いんですが・・・」
「いやぁ~、来るかも知れないって考えると、やはり夜に動くだろって。そんなこと思っていると眠れなくなりまして」
「今日はいいですので、ゆっくり寝て下さい」
「しかし・・・」
「私なら大丈夫です。それでも何かありましたら連絡いれます」
「す、すいません。なんか気を使わせてしまい」
「いえ、こちらこそ助かってます。なんてお礼を言えばいいのか分かりません」
「そんな、滅相もありません」
「ここは素直に自分を評価すべきですよ、水口教官」
「は、はい」
「それより、先程の船員が言っていた行方不明者が気になりますね」
「はい。一様、生徒は全員いるので問題ありませんが、そちらの方は一様調べておきます」
「お願いします。あっ、あと、それと今日の夜暇ですか?」
「夜!?」
「はい」
「そ、そんな、私達はそんな関係でしたっけ!?」
「はい?今日の夜、キャプテンズ・シャンパン・レセプションがあるんです。2日目の夜に船長主催のカクテルパーティーが開かれるんです」
「あっ、な、なる程。そうですか、あはははー、是非参加させて頂きます。あっ、でも教師が修学旅行の夜に酒を飲むのはまずいですよね?」
「まぁ、ここは楽しんでいきましょう」
その言葉に、水口教官はまんまとのってしまうのであった。





【豪華客船の旅・3日目】


 朝、日の光で真紀は目覚めた。隣のベッドを見ると、いるはずの山吹がいなかった。
「あれ?ふきちゃん、どこいっちゃったの」
真紀は服に着替えると山吹を探しに回った。
 すると、皆外に集まっていた。そこに、山吹の姿もあった。
「ふきちゃん!」
「あっ、真紀ちゃん」
「ふきちゃん、皆どうしたの?」
「それが、ここにいるはずの大人達がいないの」
「えっ?」
「船内にいる大人達が全員いなくて、当然船員も船長もいないの。皆、あちこち探したんだけど見つからなくて。まるで神隠しにでもあったような感じなの。だから、皆ずっとこう。ねぇ、真紀ちゃん。私達どうなるの?」
「とにかく、先生に相談しよう」
しかし、山吹は返事をしなかった。
「もしかして・・・先生達も?」
山吹は頷いた。
 それは、少女以外誰もいない無人の大型客船を意味していた。
 

 


【豪華客船の旅・4日目】


 生徒以外誰もいない船に、各々分担して生活をしていた。次の港までの食料もあり、なんとかやっていけそうだった。
 しかし、問題は大人達がどこに消えたかだ。定期的に生徒会を中心に集会を開き、対策を話し合っていた。
「どこを探しても大人の人は見つかりませんでした」
「いや、さすがにあの人数が一斉に消えたんだ。どこかに監禁したとかは考えられないんじゃないのか」
「じゃあ、どこに大人達はいったの?」
「ねぇ、多分・・・色ありの少女の仕業だったりして」
「可能性あるな!なら、この現象は色ありの少女によるものか」
「だけど、そしたらその色ありの少女はどこにいるんだよ。今まで、全校生徒が隅々まで調べてもいなかったんだぞ。ここは海の上だ。他にどこにいるって言うんだよ」
「海の上・・・・ねぇ、海ならどうかな?」
「はっ?」
「海の中なら・・・・」
「おいおい、海の中に潜んでるって言うのか。そんな話しあるか」
「でも、もしそれが少女の能力だとしたら」
「海に関する能力か・・・・」
「もしくは水に関する能力じゃーー」
「水の能力って、まさか!」
全員が皆同じことを考えた。そしてゾッとした。


 場所は変わって海の中。船の深く真下に、青髪の少女がいた。それは、トリニティの No.2だった。




「どうするんだよ」
「皆で協力すれば何とかなるんじゃないのか?」
「何とかって、何よ」
「だから、まずは海にいる奴をおびき出す為、遠距離攻撃が可能な能力者が海に向かって攻撃して、出てきたところを皆で一斉攻撃するんだよ」
「それで何とかなるかな・・・・」
「何とかするんだよ、私たちで!」
「そうだよね・・・皆、やろう!」
「うん、やろう」
「そうだね」
「じゃあ生徒会長、決まりでいいか?」
「それでは皆さん。本作戦に賛成の方は挙手を」
その声かけに、ほとんどの生徒が手を挙げた。
「それでは本作戦の決行をおこないます」
こうして、大規模な少女攻略戦が始まった。




 全員が甲板にあがった。これは大規模な戦争である。色なしの少女が総勢300人弱に対して、トリニティのNo.2と戦う。
 まず、配置の説明。最初の列は、遠距離攻撃を専門とした能力者。これにより、青の少女をおびき出す。次に、これまた攻撃型の能力を得意とした能力者。その後ろの列がサポート系能力者で、最後の列が戦闘に向かない者や、回復系の能力者達である。
 因みに、300人弱いるわけだが、色なしの少女は色ありの少女に、能力では劣っている点がある。その為、数でカバーしているのがやっとであり、これでも接戦に持ち込めるかがやっとであろう。
「よし、カウントダウンでゼロになったら一斉に攻撃だ」
「「了解!!」」
「10・・9・・8・・」
「大丈夫だよね」
「分からない。でも、信じるしかない」
「うん」
「6・・5・・」
「真紀ちゃん」
「大丈夫だよふきちゃん」
二人は一瞬に手をつないだ。
「3・・2・・1・・0」


「    無数の刃の大豪雨       」
    (ブレイド・レイン)


「    超音速・音波砲     」


「   海をも両断せよ!!一刀両断・斬撃破     」



 同時にくり出された、無数の刃と音波と斬撃は海深くまで向かっていった。
「さぁ、皆構えるんだ!!」
 しかし、あれからただ時間が過ぎるだけで、一向にあらわれる気配がない。
「何で来ないの?」
「間違ってたんじゃないの?」
「もしかして、今のでやられたとか?」
皆どよめく。そんな皆に生徒会は叫ぶ。
「静かにしろ!皆、まだ安心は早いぞ」
その声で、静かになった。
「どうする?海の中を少し覗いて確認するか?」
「駄目だ。危険過ぎる」
「ねぇ、私の能力で海の中を覗こうか?私なら、目線を遠くにとばすことができるよ」
「よし、それでいこう。頼む」
「分かった」
頷いた子は、目をつむり念じた。そうすることによって、目線をとばすことができた。
「どうだ?」
「ちょっと待って」
彼女の目線は海の中に転写されていた。そして、どんどん海の深くへと入っていく。
「うーん、見あたらないなぁ・・・あっ、ちょっと待って。何か近づいて来る」
目線の行く先を止め、そこでじっとしていると、近づいて来る何かがあった。
「影?」
その影は徐々に近づいてくにつれ、その影の持ち主の姿を見せた。それはーー
「青髪!」
「青の少女か!皆、来るぞ!!」
海表面が突然、ブクブクし始め、それはだんだん大きくなっていく。そして、

ドバァーーーー


大きな水しぶきと共に、それはあらわれた。
「青色の少女・・・」
空中に空高く浮かぶ、青髪の少女。
「まさか、こんなに早くバレるとは、人間にも知性というのが多少たりと、あったようだな。
 さて、君らは私と対等にやり合うつもりらしいが、いかほどのものか見せてみろ」
「言われなくてもやってやらぁ!」
「皆、いくぞ!」
「「おぉーー!!」」


「    雷鳴の轟き・イナズマ!    」


「    紅蓮の砲火・ファイアキャノン   」


雷と、火の玉が発生し、青髪の少女に直撃する。
「ふきちゃん、うちらもいくよ」
「うん」


「    破壊の蛇・マサライ    」


「     念力波      」


 更に念力による衝撃波に加え、水の蛇が青髪の少女を丸呑みした。
 全ての技が青髪の少女に直撃し、終わった頃には水中でぷかぷか浮いている姿だった。
「やったのか?」
しかし、真紀は否定した。
「いや、まだだ」
青髪の少女の体は突然、水に変化し、海に溶け込んでしまった。
 すると、再び水に波が発生し、水から再び青髪の少女のような形を作り始めた。それも複数に。
 気づいた時は、青髪の少女は何十体と姿をあらわした。
「まさか、これ全部が分身か!?」
すると、複数いる青色の少女のうち、一人が答えた。
「その通り。私の能力は水に関する能力。そして、ここには大量の水が存在する。今や、陸より海のほうが、この地球上をしめているのは知っているだろう。陸があるなら、そこに大波を発生させ、陸地すら飲み込み我が領域にすることが可能だ。
 だが、そんなことをせずとも、君らはのこのこ我が領域に入って来た。海は、私にとって無限の力を供給する場所。我が領域で君らに勝ち目はそもそも存在しない。だが、そんな状況でもあらがおうとした人間に興味はあった。しかし、それがこのざまとはね。やはり、人間に期待するものではないな」
「そ、そんな・・・・」
皆が絶望する中、それでも何人かは攻撃の手をやめなかった。攻撃の手を休めれば、殺されるからだ。しかし、青色の少女の体はどれも水のように貫かれては再生し、それを永遠に繰り返した。
「そろそろ、やられるのも飽きたことだし、反撃といきますか」



 「      大波        」


大型船すらも飲み込んでしまうであろう、大波が襲ってきた。
 皆、パニクった。ある者は、あまりにものパニックで失禁した者もいた。
「ど、どうしよう。漏らしちゃった」
ズボンの又のあたりが湿ったのを気にするが、今はそれどころではなかった。
「ヤバイよふきちゃん。私、浮き輪がないと泳げないよ」
「大丈夫。泳げたとしてもこの波じゃ、皆溺れ死ぬから」
山吹に限っては諦めがついたのか、涼しい顔をしている。
「ふきちゃん!まだ、諦めるのは早いよ。相手は水だと考えて、何か弱点を探るしかないよ」
「水の弱点・・・あっ!」
「えっ、何?」
「水の弱点、私考えついちゃった。ちょっと耳をかして」
そう言われ、真紀は耳をさしだす。
ゴニョゴニョ……
「成る程!ふきちゃん、天才」
「いやぁ~、それほどでも」
「早速、やってみる」
そう言って、全精神力を出しきる。



「    凍てつけ、大いなる暗黒      」
    (マハーカーラ・シヴァ)



その場が全て凍りついた。一瞬だった。この大風景に、皆驚いた。





 凍てつく世界となり、船は動く手段を失った。助かったのか、助かってないのかという状況に、空高く飛ぶ軍用ヘリが近づいたのが見えた。そして、今度こそ助かったと皆一安心した。一部を除いて。
「結局、先生達はどうなったんだろうね?」
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