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第一章 流星は帝都を覆う

8 なんでもしますから

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 一応、言い訳はしておこう。

 ほんの、一秒だ。

 一秒だけ、見てしまった。

 部屋の中に入ってきた二人の少女の裸を。

 一人はさきほどあの王宮で俺と闘った、白髪の少女。

 手当てはされていないらしく全身傷だらけのままだ。

 かわいそうに。

 もう一人はその妹だろう。

 ロリ女帝よりもさらに年下っぽい、少女というよりもむしろ、……幼女。

 十歳になったかどうかくらいの、ちびっ子だった。

 その二人が俺の目の前で、裸だった。

 妹の方は姉と同じように白髪、長さは肩にかかるくらいでかすかにウェーブしている。

 真っ白な髪色の姉とは違い、少し銀色がかかっていた。

 それがほとんど沈みかかっている夕日の光に反射して、キラキラと輝いている。

 肌も姉と同じく真っ白。

 紅い瞳を伏せて不安そうに俯いている。

 身長は多分一三〇センチないくらい、まだくびれも膨らみもないほんとの子どもだ。

 姉妹二人で胸と下の大事な部分を腕で隠し、身をギュッと縮めている。

 巨乳の姉とロリ(というよりもはやペド?)の妹、裸、首輪、リード、鎖で繋がれた足かせ。

 姉の方は唇を噛み締めて震え、妹の方は半ば泣きそうな顔で姉の身体に隠れようとしている。

 あ、だめだこれ、見ちゃだめなやつだ!

 人間として、現代文明人として、この光景を喜んで見ちゃったら、なんか終わりな気がする! 


「悪い!」


 俺は手にしたリードを放り投げ、すぐにその場で回れ右、後ろを向いて裸を見ないようにする。

 だけどさ、俺も男だし、まあ、うん、姉妹の裸はしっかりと網膜に焼き付いてしまった……。

 ……どうしよう……。

 昨日までの俺はエロ動画でしかおにゃのこの裸を見たことなかったのに……。

 裸の女の子が俺の奴隷になっちまった……。

 あれ、これって、俺、この子たちにイロイロいたしちゃっていいんだろうか?

 うわあ。

 やりたい放題?

 やったあ。

 でもなあ。

 違うんだよなあ。

 そういうんじゃないんだよ、俺が求めているのはこう、もっと、こう……。

 わかるだろ?

 俺の動画コレクションで一番のお気に入りは「バーチャル恋人気分でらぶらぶえっち」とかそういうのでさー。

 無理やり力づくでどうこうするようなのって、気分悪くなることがあるから、たまにしか見ないんだよなー。

 たまには見るけど!

 ……えーと。

 とりあえずヴェルは明朝まで帰ってこないみたいだし、この異世界の裸少女奴隷姉妹と会話を試みてみよう。

 よく考えたら俺、この世界のこと全然知らないし。

 こいつらから情報をできるだけ得ておこう。


「あのさー……」


 後ろを向いたまま、話しかけてみる。

 ビジネス街のオフィスに飛び込み訪問するのはさんざんやったことある。

 だけど裸の女の子と部屋で二人きり、じゃなかった、三人きりになって会話だなんて、想像でしかやったことないぞ。

 いったい何を話したらいいんだ?

 ひとまず思いつきで話しかけてみよう。


「えーと、お前ら、裸でいるのが普通の種族?」


 ここは帝城の中、奴隷といえど素っ裸はおかしすぎるしな。

 異世界だし、裸族なのかもしれない。

 そうだったとしたら、俺がガン見してもかまわないということになる。

 見ちゃいけないと思いつつも、そこは悲しい男の性、少しだけ顔を向けて視界の端っこに二人を捕らえてしまう。

 いやほら見たいか見たくないかでいったら見たいじゃん!

 かわいい女の子の裸だぜ!?

 こいつら俺の奴隷ってことはがっつり隅から隅まで、いやいやそれどころか奥の奥まで見たとしてもおまわりさんに捕まることもないだろうし!

 でも良心が痛む。

 でも見たい。

 そんなわけで、二人に背中を見せつつも、五秒に一回の割合で、チラッチラッと視線を送ってしまう。

 そんな自分が情けない。


「つまり、お前ら、普段から裸なの?」


 俺の質問に、


「戦争捕虜奴隷は、こうして見せしめに裸で歩かせるのがここの風習らしいですね。屈辱を与えるためです」


 闘いの最中とは打って変わって、静かな声で姉の方が答えた。


「ってことは……」

「さんざん恥辱を与えられました……。裸で城内を練り歩かされて……くっ……」


 ブルン、と大きく震えたかと思うと、姉奴隷は紅い目の端からポロポロと涙をこぼし始めた。


「ごめんね、シュシュ……」


 姉にそう言われて、妹幼女奴隷は気丈にもぐっと唇を引き締め、泣くのを我慢している表情で姉を見上げる。


「ううん、お姉ちゃん、私は大丈夫だよお……」


 でもやっぱり耐えきれなくなったらしく、


「ぐすっ……うう……ひっく……」


 嗚咽を漏らし始めた。

 えーとさ。

 俺、こういうの、駄目なの。

 特に妹奴隷くらいの年齢の幼女が泣いているのはほんとに弱いの。

 あやうくもらい泣きしそうになった。

 チラ見も一切やめにして、俺はキョロキョロと室内を見回し、手頃な布がないのがわかると着ていたスーツとYシャツを脱いだ。

 姉妹に背中を向けたまま、それを姉妹に差し出す。


「ま、まずこれ着ろ、話はそれからだ」

「…………ありがとうございます」


 姉妹が俺のスーツとシャツを着る衣擦れの音。

 そろそろいいかなと振り向くと、スーツの上着は姉が、Yシャツは妹が着ていた。

 っていうか。

 妹の方はさ、身体がちっちゃいってこともあって、俺のYシャツでどうにか太腿のあたりまで隠せているようだった。

 袖が余ってプラプラになっているのとか、わりとかわいらしく見える。

 でもさ。

 姉の方は、こりゃ駄目だ。

 シングルのスーツだから裾が分かれていて女の子の一番大事なところを隠せてないし、胸もバインバインにでかいからかろうじてギリギリ乳首が隠せている程度。

 裸エプロンならぬ裸スーツは逆にエロく見えすぎる。

 っていうかまじ胸でかいな……。

 こないだ見たエロ動画に出てたIカップ女優と同じくらいある。

 これは、ほんと、なんというか、やばいよこれ、たっぷんたっぷんの女の柔肉が生々しすぎて、やばい。

 本人も自覚しているのか、胸元と下腹部に手をやり、頬を赤くしてモジモジしている。


「あー……。あ! そうだ! ちょ、ちょっと待って!」


 俺は思いついてバスルームに駆け込む。

 クローゼットを手当たり次第に開けると、あった。

 バスローブっぽいものと、タオル。

 なるべく姉奴隷を見ないようにしながら、それらを放り投げる。


「こ、これを着て!」


 ふう。

 これでやっとまともに会話できるようになった。

 結局Iカップ姉奴隷がバスローブを着、ぺったんこ幼女妹奴隷がYシャツとスーツの上着を身につけることになった。妹の方は下半身にタオルを巻いている。

 非常に奇妙な格好ではあるけれど、他に着れそうな服はないし、仕方が無い。


「ええと、それでいろいろこの世界について聞きたいんだけど、まあそこのソファにでも座ったらどうだ?」


 豪奢な布で覆われたふかふかのソファを指し示す。

 だけど、姉奴隷は首を振り、


「いえ。これは貴族専用の刺繍がしてあります。これに私たちが腰をかけると、それだけで罪になるかもしれません」

「あ、ああ、そう……。じゃ、そこの床にでも座ろうか」


 姉妹は絨毯の上に正座する。

 ここヨーロッパ風世界なのに、正座なのかよ。

 しかし、姉奴隷はさっき王の間で俺に魔獣をけしかけた時とは本当に全然雰囲気が違う。

 物静かな口調、少しハスキーな声、きっとこれが本来の性格なのだろう。

 あの時は妹を人質にとられ、自分の命は処刑確定で、極限状態にあったってことだと思う。

 さてその姉奴隷は絨毯の上に正座すると、俺の顔を見上げた。

 そしてそのまま床に手をつけ、ゴツンと床に額をつける。

 つまり、俺に向かって土下座した。


「さきほどは命を助けていただいてありがとうございました。私には何をしてもかまいません。なんでもしますから、妹だけは……妹だけは、いじめないでやってください。妹にはなにもしないでください。ひどいことしないでください。そのかわり、私がなんでもしますから。……なんでも、どんなことでも」




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