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第二章 サソリの毒針
25 セーフハウス
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帝城の中には兵隊しかいないわけではない。
文官の役人たちも多数いるし、当然、たくさんの民間人もいた。
出入りの商人や城内の補修をする職人たち、たまたま訪れていた兵の家族。
もちろんその中には、奴隷商人もいるわけで。
俺たちは、奴隷商人になりすまして帝城を脱出することにしたのだった。
「この世界には女しかいないんだろ? 俺みたいな男、逆に目立たないのか?」
と訊いたが、ヴェルがいうところによると、
「大丈夫、あんた南のガルド族そっくりだから、ローブのフードかぶればわかりゃしないわよ。夜だし、かなり混乱してるしね」
だそうだ。
ふーん、俺にそっくりな部族がいるのか。
女なのに?
うわっ、可哀想!
………………。
いやいや、今の軽く自虐だぞ俺。
俺にそっくりだなんて、なんて美しく素晴らしく幸運な部族なんだ!
……悲しくなってきたので、もうやめよう。
さて、そんなわけで俺は四本の紐――犬をつなぐリードそっくりの奴だ――を持って、北の城門へと向かう。
リードは四人の少女の首輪につながっている。
正確に言うと、ヴェルの分の首輪はなかったので、ヴェルは首に縄(ほんとはミーシアを縛る予定だったやつだ)を巻き、その縄の先を俺が持っている。
キッサとシュシュは最初から奴隷の首輪をしているし、ミーシアも奴隷プレイのために首輪をしている。
四人の少女たちを犬の散歩みたいにリードで引っ張って城門に向かう俺は、どこからどう見ても城内から逃げ出す奴隷商人にしか見えないだろう。
突然の反乱に城内の人々はパニックに陥り、我先にと逃げ出していた。
その人混みにまぎれ、俺達はあっさりと城門から抜け出すことができた。
民間人が逃げられるようにと衛兵が城門を開け放していたのだ。
あの衛兵、無事だといいけどな。
本当は帝城を守るべき騎士であるヴェルと、そもそも帝城の主であるミーシアも同じことを考えていたのか、俺たちを逃してくれた衛兵の顔を暗い顔で見ていた。
石造りの家が立ち並ぶ帝都の道を、俺たちは小走りで北へと向かう。
深夜だというのに、道には人があふれていた。
魔王軍の襲来、反乱軍の攻撃。
民衆たちは皆怯えた顔で往来に出てきている。
不安そうに燃え上がる帝城を眺め、帝都を逃げ出すべきなのかどうか迷っているようだった。
というか、すでに馬車や荷車に荷物をのせて、逃げ出し始めている人々も大勢いた。
人混みをかき分け、大通りを北へ移動しながらヴェルが言う。
「あたしの邸宅が帝都の西側にあるの。でも、それはヘンナマリやリューシアも知っているわ、危険だと思う。帝都の城壁を越えて三カルマルト北西にあたしのセーフハウスがある」
「セーフハウス?」
俺が訊くと、
「そう。まあ、秘密の隠れ家みたいなところよ。帝都の北側は農場が広がっていて、農家の集落がいくつもあるわ。その集落の中にあたしが管理させている農家があるってわけ。……あのへん、皇帝陛下の直轄地だからほんとは駄目なんだけど、こっそりとね。武器も馬も馬車もあるし、そこで移動手段を手に入れたら、街道沿いに西へ行きましょう」
「……ヴェル、そんなとこ持ってたんだ」
ミーシアがすこし驚いたように言う。
自分の直轄地の中に、他の貴族が管理する場所があるというのだから、驚くのも当然だろう。
「ごめんねミーシア、でも多かれ少なかれ貴族なら帝都の近くにいくつかそういうところがあるのよ。とにかくそこに急ぎましょう。……あたし、寒くて風邪ひきそうだし」
そう言うヴェルの全身をミーシアはじろりと見て、
「ヴェル、そのローブの下に何も着てないんだよね? まっぱだよね?」
「……そうだけど」
口元をにやにやさせ、ミーシアは小さな声で、
「……………………ぃぃ……………………」
と呟いた。
「………………………………ああ、うん」
なんとも言えぬ表情をするヴェル。
「ね、ヴェル、どうなの、こんな街中を素っ裸で歩くってどんな感じなの?」
「どんなもこんなも、ローブ羽織ってるし……」
「でもそれ一枚だけだよね? ね? その下素っ裸だよね? 首に縄つけられて、エージみたいな従者にひっぱられて……うわ、私、ドキドキしてきた!」
皇帝陛下はあいかわらずだ。
ヴェルもつきあってやろうと思ったのか、
「まあ、変な感じではあるわね。ほら、こう、ローブの布地にこすれるし、……」
ちらっと俺を見、小声になってミーシアに言うヴェル。
まあ、聞こえてるけどな!
「ヴェル、こすれるって、どこが?」
「ほら、ええと、胸の先っぽとか?」
「きゃぁっ! えへへ、うふふ……あとはあとは?」
「うーん、胸からお腹にかけて直接空気がとおるから、こう、ちょっとスースーして、落ち着かないかな。無防備って感じ?」
「いいないいな……。私もやってみたい……ね、ほら、なんか、こう、ムズムズしちゃうとか、ある?」
「あたしはないけど。ミーシアならそう思うかもね」
「えー! やってみたいやってみたい!」
「そうねえ、どうしようかな、とりあえずセーフハウスにたどり着いてから、ミーシアが一番喜ぶ方法を考えようかしら」
文官の役人たちも多数いるし、当然、たくさんの民間人もいた。
出入りの商人や城内の補修をする職人たち、たまたま訪れていた兵の家族。
もちろんその中には、奴隷商人もいるわけで。
俺たちは、奴隷商人になりすまして帝城を脱出することにしたのだった。
「この世界には女しかいないんだろ? 俺みたいな男、逆に目立たないのか?」
と訊いたが、ヴェルがいうところによると、
「大丈夫、あんた南のガルド族そっくりだから、ローブのフードかぶればわかりゃしないわよ。夜だし、かなり混乱してるしね」
だそうだ。
ふーん、俺にそっくりな部族がいるのか。
女なのに?
うわっ、可哀想!
………………。
いやいや、今の軽く自虐だぞ俺。
俺にそっくりだなんて、なんて美しく素晴らしく幸運な部族なんだ!
……悲しくなってきたので、もうやめよう。
さて、そんなわけで俺は四本の紐――犬をつなぐリードそっくりの奴だ――を持って、北の城門へと向かう。
リードは四人の少女の首輪につながっている。
正確に言うと、ヴェルの分の首輪はなかったので、ヴェルは首に縄(ほんとはミーシアを縛る予定だったやつだ)を巻き、その縄の先を俺が持っている。
キッサとシュシュは最初から奴隷の首輪をしているし、ミーシアも奴隷プレイのために首輪をしている。
四人の少女たちを犬の散歩みたいにリードで引っ張って城門に向かう俺は、どこからどう見ても城内から逃げ出す奴隷商人にしか見えないだろう。
突然の反乱に城内の人々はパニックに陥り、我先にと逃げ出していた。
その人混みにまぎれ、俺達はあっさりと城門から抜け出すことができた。
民間人が逃げられるようにと衛兵が城門を開け放していたのだ。
あの衛兵、無事だといいけどな。
本当は帝城を守るべき騎士であるヴェルと、そもそも帝城の主であるミーシアも同じことを考えていたのか、俺たちを逃してくれた衛兵の顔を暗い顔で見ていた。
石造りの家が立ち並ぶ帝都の道を、俺たちは小走りで北へと向かう。
深夜だというのに、道には人があふれていた。
魔王軍の襲来、反乱軍の攻撃。
民衆たちは皆怯えた顔で往来に出てきている。
不安そうに燃え上がる帝城を眺め、帝都を逃げ出すべきなのかどうか迷っているようだった。
というか、すでに馬車や荷車に荷物をのせて、逃げ出し始めている人々も大勢いた。
人混みをかき分け、大通りを北へ移動しながらヴェルが言う。
「あたしの邸宅が帝都の西側にあるの。でも、それはヘンナマリやリューシアも知っているわ、危険だと思う。帝都の城壁を越えて三カルマルト北西にあたしのセーフハウスがある」
「セーフハウス?」
俺が訊くと、
「そう。まあ、秘密の隠れ家みたいなところよ。帝都の北側は農場が広がっていて、農家の集落がいくつもあるわ。その集落の中にあたしが管理させている農家があるってわけ。……あのへん、皇帝陛下の直轄地だからほんとは駄目なんだけど、こっそりとね。武器も馬も馬車もあるし、そこで移動手段を手に入れたら、街道沿いに西へ行きましょう」
「……ヴェル、そんなとこ持ってたんだ」
ミーシアがすこし驚いたように言う。
自分の直轄地の中に、他の貴族が管理する場所があるというのだから、驚くのも当然だろう。
「ごめんねミーシア、でも多かれ少なかれ貴族なら帝都の近くにいくつかそういうところがあるのよ。とにかくそこに急ぎましょう。……あたし、寒くて風邪ひきそうだし」
そう言うヴェルの全身をミーシアはじろりと見て、
「ヴェル、そのローブの下に何も着てないんだよね? まっぱだよね?」
「……そうだけど」
口元をにやにやさせ、ミーシアは小さな声で、
「……………………ぃぃ……………………」
と呟いた。
「………………………………ああ、うん」
なんとも言えぬ表情をするヴェル。
「ね、ヴェル、どうなの、こんな街中を素っ裸で歩くってどんな感じなの?」
「どんなもこんなも、ローブ羽織ってるし……」
「でもそれ一枚だけだよね? ね? その下素っ裸だよね? 首に縄つけられて、エージみたいな従者にひっぱられて……うわ、私、ドキドキしてきた!」
皇帝陛下はあいかわらずだ。
ヴェルもつきあってやろうと思ったのか、
「まあ、変な感じではあるわね。ほら、こう、ローブの布地にこすれるし、……」
ちらっと俺を見、小声になってミーシアに言うヴェル。
まあ、聞こえてるけどな!
「ヴェル、こすれるって、どこが?」
「ほら、ええと、胸の先っぽとか?」
「きゃぁっ! えへへ、うふふ……あとはあとは?」
「うーん、胸からお腹にかけて直接空気がとおるから、こう、ちょっとスースーして、落ち着かないかな。無防備って感じ?」
「いいないいな……。私もやってみたい……ね、ほら、なんか、こう、ムズムズしちゃうとか、ある?」
「あたしはないけど。ミーシアならそう思うかもね」
「えー! やってみたいやってみたい!」
「そうねえ、どうしようかな、とりあえずセーフハウスにたどり着いてから、ミーシアが一番喜ぶ方法を考えようかしら」
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