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第五章 僭称

83 天幕

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 身体がしびれて動かない。

 頭がぼーっとする。

 どうやら俺はどこかに寝かされているようだ。

 どこかって、どこだ?

 八王子の安アパートか?

 今はいつだ?

 あれ、今日って仕事だっけ。

 なんだか右腕が温かい。

 ついでにいうと左腕も温かい。

 むにゅむにゅほわほわで熱いくらいだ。

 あれ、俺、この感覚、知っているぞ……。

 俺を挟んで左右から、女の子の声が聞こえてくる。


「んーそろそろ、私の副作用も抜けてきたけど……」

「もう一回くらいはいいんじゃないですか?」

「んじゃ、最後に一回ずつ、しようか?」

「あ、はい。じゃ、お先にどうぞ」

「うん、遠慮無く」


 ぐいっと無理やり顔を右に向けられる。

 いててててっ!

 パッと目を開けた。

 と、そこに見えたのは、少女の顔だった。


「わ。エージ様、起きた!」


 キッサが驚いた顔で言った。

 そうか、キッサだったか。

 って。

 なんだかデジャヴュを感じるようなシチュエーションなんだけど今。

 俺は、どこかしらんが天幕、つまりテントだ、その中に寝かされていた。

 分厚い毛布をかけられ、その毛布の中に俺をはさんでキッサと夜伽三十五番も一緒に潜り込んでいる。

 ……裸で。

 三人の男女が裸で毛布に潜り込んでいるのだ。

 しかも二人とも推定Iカップはあろうかという巨乳奴隷。

 ふかふかのポカポカのもちもちだ。

 天国かここは。

 意味わからん、と叫びたいところだけど、以前にも経験したことがあったな、これ。

 法力を使いすぎて、俺は瀕死になり、体温が下がっていたのだろう。

 で、俺の奴隷たちが俺を助けるためにこうして身体で暖めていたのだ。


「そうなんですよ、エージ様。まあ、前ほどひどい状態ではありませんでしたけどね。でも、ほら、アレの処理もしなきゃいけないし、騎士様もお許しになったので」

「アレの処理ってなんだよ!?」


 なんだかすげえ卑猥な表現なんですけど。


「だから、これです」


 裸のキッサが裸の俺に強く抱きつく。

 キッサの肌って、見た目どおりすべすべだなあ。

 俺の身体にぴったり吸い付いてくる感じ。

 んで、赤い瞳で俺をみつめたかと思ったら、


「んふふふー、ほんとはもう副作用ほとんど抜けてるんですけど……最後の、一回、いいですか?」


 俺が頷くか頷かないかのうちに、キッサは俺に唇をよせてキス。

 ああ、こんな美少女とキスするのが日常的になるなんて、数日前の俺ならまったく思いもつかなかっただろう。

 しかも裸で抱き合ってんだぜ!

 なんというか、こう、ファンタジーな気分だ。……なんだそりゃ。

 で。


「あの、こっちも、お願いします、ご主人様」


 キッサとのキスが終わると、今度は夜伽三十五番が俺に抱きつく。

 もっちりした肌、気持ちがいい。

 そしてぽってりとしたふかふかの唇で俺にくちづけする。


「んちゅ、んん……んんんー……」


 二人が俺の唇を堪能したあと、キッサが言う。


「エージ様、丸一日寝ていたんですよ」

「そっか、あの戦いは昨日か……今、何時だ?」

「お昼くらいですね」

「いったいなにがどうなったんだか……」


 すると、キッサが俺に笑いかけながら、


「昨日の戦い、騎士様が褒めてましたよ! 絶賛でした! 今日の朝までは騎士様も一緒にエージ様を暖めていたんですから! 今は、会議があるとかであっちの天幕にいってますけど……」


 ヴェルも……。

 前回の時を思い出す。

 ヴェルのあの弾力のある胸。

 あれもなかなかいいよなあ……意識を失っているなんて、惜しいことをした。


「あれ、今、私がむっとするようなこと考えてません?」

「いいや、全然」


 なにをむっとすることがあるのだ。

 俺は平等に、みんなの裸とおっぱいが好きなだけだ。

 でもキッサのおっぱいが一番だよ。夜伽三十五番はナンバーワンで、ヴェルのは最高だ。

 ……うーん、我ながら男ってやつは業が深い。

 と、そこに、


「それよりおにいちゃーーーーん!!」


 枕元で、元気な声が聞こえてきた。


「シュシュか……」

「起きたんだね、おにいちゃん、よかったね! それよりおにいちゃん!」

「なんだよ……」

「おなかすいたーーーーーーー!!」


 俺が目覚めて第一声がそれかよ。

 一応俺はお前の命の恩人なんだから、もうちょっとこう……ま、いいか、年齢が年齢だし。

 しっかし、この九歳幼女って、いつも腹すかせてるな。

 あれ、九歳って幼女か、少女か?

 うわあ、我ながら超どうでもいい。

 ずっと戦い続きだったから、安全っぽいところで寝て俺の気も緩んでるなあ。


「ご主人様、そろそろお昼ごはん召し上がりますか?」


 言われてみれば、腹が減った。

 牛丼特盛り、卵と味噌汁付きを食べたい気分だ。

 ま、そんな贅沢いってられんが。

 おれたちはのそのそ起きだして身支度すると、天幕の外に出た。

 すげえいい天気だ。

 太陽はもう天高く昇り、遠くにつらなる山脈も、ものすごく綺麗に見える。

 どうやらここは、昨日俺たちが一泊した水場みたいだ。

 ってことは、東に戻ってきたってことか。

 まわりを見ると、無数の天幕がたっていて、その周りをたくさんの軽装の歩兵たちが歩哨にたっている。おそらくヴェルと第二軍の軍勢が野営できるような場所が限られるから、ここにしたのだろう。

 しかし、東に戻ってきたってことは、この辺り一帯は制圧したってことでいいのだろうか。


「キッサ、ヴェルはどこにいるんだ?」

「ええと……」


 キッサが答える前に、俺は足に衝撃を感じた。

 衝撃、というよりも、痛みだ。

 っていうか、蹴られた。


「な、なんだよ……」


 そこには、赤い衣服に赤い鎧を身につけた、ヴェルがいた。


「よお、ヴェル……」


 ゲシッ! とまた蹴られた、っていうかお前金属製のすね当てしてるんだから痛いどころじゃねーぞ! 力加減間違えたら折れるぞ、俺の骨が!


「ヴェルってなによ」


 と、ヴェルが言った。


「はあ?」

「あんた、第五等準騎士でしょ、第三等騎士様に対してなんで呼び捨てなの」

「いやそれはそうなんだけど、今までお前、なにもいわなかったじゃないか」


 ゲシゲシ。

 今度は二連発で蹴られた。

 なんだよくそ、なにが気に食わねえんだよ、一昨日の夜はあんなにいい感じだったのに!


「ヴェル卿、もしくはイアリー卿、せめて様づけ。そう呼びなさい」

「今更……」


 と、目の前の人物をよく見てみると、あれ、なんか違う。

 ヴェルと同じ顔だが、ヴェルよりも髪が短い。

 体格もヴェルよりも一回り小さく、なにより顔が若干幼い。

 そういえば昨日、気を失う直前に、二人のヴェルを見たような……。


「私の敬愛するお姉さまを、たかが準騎士が呼び捨てにするなんて……」


 そいつは、そう言った。

 あ、こいつヴェルじゃねえ、


「ヴェルの偽物か!?」


 ゲシゲシゲシゲシゲシ。


「痛い痛い折れる折れる!」

「誰が偽物よ! 私は本物になりたくて日々鍛錬してるってのに! ……私の名前はエステル・アルゼリオン・レイラ・イアリー。帝国第四等騎士、天下一の大騎士、ヴェル・アルゼリオン・レイラ・イアリー卿の実の妹よ」


 そいつは、いやエステルは、胸を張ってそう言ったのだった。

 ……胸は姉よりもさらに小さいが。

 ゲシゲシゲシゲシゲシゲシゲシ!!


「なんだよなにもいってねえだろ!」

「なんか何かいいたそうな顔をしたじゃない、私の胸をちら見して!」

「お、おいやめろ、うお、あぶねっ、ハイキックはヤバイからやめろお!」


 ほんと、いったいなんなんだよ。


        
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