怪物と呼ばれたモノ

神崎 詩乃

文字の大きさ
12 / 17
第一章 占領

都市奪還戦其ノ弍

しおりを挟む
 爆音、爆風とともに瓦礫と何かの肉片が降ってくる。時折、軍服姿の兵隊が何が起きたか分からないと言った表情で爆発で吹き飛んだ腕の傷口を見つめている。
 絶妙に調合された爆薬は兵隊を即死にはさせず、瀕死のまま生かしていた。

「あら、あらまぁまぁ。とても最悪な光景ですわ。」
 そんな血なまぐさい戦場を上空から眺めている。それが今の私の状況。
「第2班に伝達。既に敵陣の爆破は成功。伏兵に注意して指揮官を狙い撃ちにしなさい。」
「了解ってこの声レティシア?どうしたの?なんか雰囲気違うけど」

『 雰囲気というか…人格が違います。』

 そう、戦場に立っているのは龍化している私、先程急に翼を生やして急速飛行をしやがった。お陰で血と火薬と気圧の変化に吐き気を催している。

「情けないわね。」
 『心と体のバランスは重要なんだよ?私。』
「……ねぇ。私が私とお互いを呼称するのはやめない?なんか変よ?」
『 私は貴女で貴女は私って言い出したのはどっちだよ。どう呼べと?』
「そうね、後で話し合いましょう。」
「おい、レティシア?さっきから誰と話しているんだ?それにお前、その姿…。」
 夜闇を切り裂くように現れたザックが偵察を終え、戻ってきた。
「あれ?説明していなかったの?全く…。」
「何者だお前!?」
「ストップ。そんな殺気を出さないで。奴らに気付かれると厄介よ?」
「……。確かにな」

 『奴ら?』
「えぇ。連中巨人の郷まで手に入れたのかしら?」
「よくきく鼻だな。どうやらそうらしい。」
『巨人種……ってあの?』
「そう。大きくて強いあの巨人種よ。」
『郷に人質を置いて無理やり言うことをきかせているの?』
「いや?多分人間の街をいくつか渡すかわりに同盟を組んでるって所じゃないかしら?」
『なるほど。』
「……。本当にお前、誰と話しているんだ?」
「私の中のもう一人の私よ」
「……。飛翔中に頭をどこかにぶつけたのか?お前」
「……。簡潔にまとめると、『レティシア』の中の龍種人格と人間人格が乖離して今の私がいるの。」
「な…なるほど…何となく…。」
「それで?偵察の結果はどうなったのかしら?」
「あ?あぁ。ここから北西に少し進んだ所に大型の発電所があった。どうやらそこがこの拠点の本丸らしい。」
「ご苦労様。それで?敵将はどこに?」


「此処に居るよお嬢さん」

 振り返ると蒸気の流れる配管に青い渦があった。咄嗟にバックステップで回避を試みるがそんな事させてくれるほど甘くはなく、青い渦の中から何かが射出された。

「あら?ストーキング?随分暇なのね貴方。」
「いやぁ綺麗なお嬢さんを見れただけでそこの仏頂面を追いかけてきた甲斐がありましたよ」
「追跡?どうやって?」
「臭いだよ。僕はとても鼻がいいんだ。」
「嘘おっしゃい。大方その水に特殊インクを混ぜて飛ばしてそれを追ってきたんでしょ?」
「おぉ、お嬢さん、賢いね。ご名答だよ。僕の異能は液体を自由に操れるって奴でね。お嬢さん『異能』については?」
「昔読んだ古い本に『異能や異才を持って生まれる人間もいる』程度のことは書いてあったわね」
『何それ初耳』
「液体を自由に操れる。だからね?こんな事も出来るんだよ。」

 男は通行人を見えない何かで引っ張り、その首を掴んだ。
「ウ、ウグァ…」
 声と共に男ははじけ飛んだ。

「…参考までに…あの通行人に何をしたの?」
「え?知りたい?じゃあ教えてあげよう。血液って液体だよね?それを逆流させた。高速でね?」
「因みにあの男を殺した理由は?」
「たまたま目に付いたから。」
「な、なるほど…。」
『あの人まだなにか隠してるよきっと』
「……。お名前…伺ってませんでしたよね?」
「あぁ。僕の名前はシュレーネ・バルトムンク帝国軍第一師団で団長の椅子を汚すものさ。」

 違和感を感じた。青い渦が高速で回り出す。すると初めに腕が、足が、顔が、体が出てくる。
 金髪緑眼。美形と呼ばれそうな見た目で装飾の凝らされた衣装と言った出で立ちの男が現れた。

「気をつけろ。こいつ、既になにか仕掛けている。」

 ザックの言う通り。こいつは既に何かを仕掛けている。龍に液体操作が効くのかは不明だが、警戒は怠らない方がいい。
『何か…来る!』
 即座に飛翔し上空で右に大きく移動した。すると、先程立っていた位置から蒸気が噴出した。
「なっ」
「おやおや?設備が劣化でもしてたかな?」
「レティシア、下がれ。こいつはやばい。」
「あら、珍しい。貴方がそんなことを言うだなんて。でも、私なら大丈夫。それより、貴方のステルス性が失われる前に本丸の制圧を。その方が効率的でしょ?」
「しかし!」
『レティシア、敵将シュレーネと会敵。戦闘に入ります。』
『中央了解。死ぬなよ?』
『了解。』

「ザック、命令です。ここは私に任せて先に行きなさい。今は時間が惜しい。」
「グッ…了解。」

 その言葉と同時にザックの気配が遠ざかる。まるで、初めからいなかったように。
「さて、君が僕の相手をしてくれるの?美人が相手だとなんだかドキドキするね。」
「龍種に喧嘩を売った事、せいぜい後悔する事ね。」

 龍種と異能者の力比べが狂乱と動乱の都市中心部で始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...