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第1章 碧柱石(ベリル)
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風の音が聞こえる。
フィオレがふわっと瞼を開くと、そこはたくさんの緑に囲まれたところだった。周りはまだ明るい。よく状況が飲み込めず、フィオレは考える。
――何が……、あったのかしら? わたしは……。
「フィオレ!」
その声で、フィオレは全てを思い出した。
「ルーク……?」
「フィオレ……! 良かった……。俺、どうしていいのか分からなくて……――ああ、まだだめだよ」
フィオレが起きあがろうとするのを、ルークは急いで制止する。
「…………。ルーク」
何? とルークは返事を返してくる。その声で、今まで彼がどれだけ自分を心配していたかを痛切に感じた。
「あの人達は?」
ルークはしばらく黙る。フィオレがそれ以上何も言わないことを悟って、口を開いた。
「フィオレが倒れてから……、しばらくして意識を取り戻して……、どこかに行ったよ」
「そう……」
二人の会話が途切れて、あたりには静けさがたちこめる。フィオレは何を話していいのか分からなかった。そして、ルークも何を聞けばいいのか分からなかった。
不意に、ルークがフィオレを抱き上げた。
「とりあえず移動しよう。話は……、それからかな。少し揺れるけど我慢して」
ルークはそう言うと、早足に車がある方へ向かって歩き出した。
ルークはフィオレを車に乗せると、急いで出発した。日が暮れるまでに次の街〝エリアドフ〟に着かないと、またあの三人がやってくる可能性がある。ルークは今だに事情をよく飲み込めていなかったが、とりあえず、それを優先することにした。
「寝てていいよ」
まだ疲れの色を残しているフィオレに、ルークは言った。フィオレは小さく頷くと、眠りに落ちていった。
――フィオレがずっと怯えていたのは、あれだったのかな。
車を走らせながら、ルークは思う。それにしても、あの三人はいったい何なんだろう。言葉からして、ずっとフィオレを探していたような言い方だった。
――それに……、あの三人、どこかで見たことあるような……。
ルークは形の良い眉を寄せる。
剣の腕は、三人ともよく達つ者だった。正規に訓練をしている者だとルークは直感的に思う。でもどうしてそんな奴らにフィオレが?
隣で眠っているフィオレを見つめながら、ルークは思った。
自分は、彼女に〝聞く〟ということができるだろうか。
フィオレは話したがらないかもしれない。自分のことをあまり人に知ってほしくないようだし、こんなこととなればなおさらだ。
街が見えてくる。電灯の明かりが、ぽつぽつと見え始めた。
あさってにはアストラルシティーに着く。そこで、フィオレとは別れることになっている。
でも、本当に自分はそこでフィオレと別れることができるだろうか。
その自問に、ルークはきっと無理だ、と自分に返した。このままの状態で彼女を一人にするわけにはいかない。また〝あの時〟のようになってしまうかもしれないから。長期休暇を取ってでも、彼女のことは何とかしようと、ルークは思った。
とりあえず任務は終わっているのだ。おそらく、休暇を取ることを軍は許可してくれるだろう。
そう考えていたとき、車はすでに街の中へ入っていた。
* * *
宿に着いても、フィオレはぐっすり眠っていた。車から宿に行く際ルークが彼女を抱き上げると、ふっと一度目を覚ましたが、フィオレはルークの名前を呼んで、ルークの顔を見ると、再び眠りに落ちていった。
術を使うということは、そんなに疲労するものなのだろうか。そんな話は聞いたことがなかった。ルークの〝術〟について知っている情報は、〝素質がないとできない〟〝術士の中でも上下がある〟〝術士は主に女性が多い〟ということだけだった。
「…………」
フィオレを見る。
昨日の夏祭りのあと、ずっと黙っていたのは術のことがあったからだろうか。フィオレが自分に能力を持っていると話さなかったのはどうしてだろう。隠したかったのはどうしてだろう。
いくらでも疑問は出てきた。
ルークはその疑問を振り払うかのように、左右に頭を振った。今は考えても仕方がない。
それからルークはシャワーを浴び、不安の募る心をわざと無視し、ベッドに潜り込んだ。
フィオレがふわっと瞼を開くと、そこはたくさんの緑に囲まれたところだった。周りはまだ明るい。よく状況が飲み込めず、フィオレは考える。
――何が……、あったのかしら? わたしは……。
「フィオレ!」
その声で、フィオレは全てを思い出した。
「ルーク……?」
「フィオレ……! 良かった……。俺、どうしていいのか分からなくて……――ああ、まだだめだよ」
フィオレが起きあがろうとするのを、ルークは急いで制止する。
「…………。ルーク」
何? とルークは返事を返してくる。その声で、今まで彼がどれだけ自分を心配していたかを痛切に感じた。
「あの人達は?」
ルークはしばらく黙る。フィオレがそれ以上何も言わないことを悟って、口を開いた。
「フィオレが倒れてから……、しばらくして意識を取り戻して……、どこかに行ったよ」
「そう……」
二人の会話が途切れて、あたりには静けさがたちこめる。フィオレは何を話していいのか分からなかった。そして、ルークも何を聞けばいいのか分からなかった。
不意に、ルークがフィオレを抱き上げた。
「とりあえず移動しよう。話は……、それからかな。少し揺れるけど我慢して」
ルークはそう言うと、早足に車がある方へ向かって歩き出した。
ルークはフィオレを車に乗せると、急いで出発した。日が暮れるまでに次の街〝エリアドフ〟に着かないと、またあの三人がやってくる可能性がある。ルークは今だに事情をよく飲み込めていなかったが、とりあえず、それを優先することにした。
「寝てていいよ」
まだ疲れの色を残しているフィオレに、ルークは言った。フィオレは小さく頷くと、眠りに落ちていった。
――フィオレがずっと怯えていたのは、あれだったのかな。
車を走らせながら、ルークは思う。それにしても、あの三人はいったい何なんだろう。言葉からして、ずっとフィオレを探していたような言い方だった。
――それに……、あの三人、どこかで見たことあるような……。
ルークは形の良い眉を寄せる。
剣の腕は、三人ともよく達つ者だった。正規に訓練をしている者だとルークは直感的に思う。でもどうしてそんな奴らにフィオレが?
隣で眠っているフィオレを見つめながら、ルークは思った。
自分は、彼女に〝聞く〟ということができるだろうか。
フィオレは話したがらないかもしれない。自分のことをあまり人に知ってほしくないようだし、こんなこととなればなおさらだ。
街が見えてくる。電灯の明かりが、ぽつぽつと見え始めた。
あさってにはアストラルシティーに着く。そこで、フィオレとは別れることになっている。
でも、本当に自分はそこでフィオレと別れることができるだろうか。
その自問に、ルークはきっと無理だ、と自分に返した。このままの状態で彼女を一人にするわけにはいかない。また〝あの時〟のようになってしまうかもしれないから。長期休暇を取ってでも、彼女のことは何とかしようと、ルークは思った。
とりあえず任務は終わっているのだ。おそらく、休暇を取ることを軍は許可してくれるだろう。
そう考えていたとき、車はすでに街の中へ入っていた。
* * *
宿に着いても、フィオレはぐっすり眠っていた。車から宿に行く際ルークが彼女を抱き上げると、ふっと一度目を覚ましたが、フィオレはルークの名前を呼んで、ルークの顔を見ると、再び眠りに落ちていった。
術を使うということは、そんなに疲労するものなのだろうか。そんな話は聞いたことがなかった。ルークの〝術〟について知っている情報は、〝素質がないとできない〟〝術士の中でも上下がある〟〝術士は主に女性が多い〟ということだけだった。
「…………」
フィオレを見る。
昨日の夏祭りのあと、ずっと黙っていたのは術のことがあったからだろうか。フィオレが自分に能力を持っていると話さなかったのはどうしてだろう。隠したかったのはどうしてだろう。
いくらでも疑問は出てきた。
ルークはその疑問を振り払うかのように、左右に頭を振った。今は考えても仕方がない。
それからルークはシャワーを浴び、不安の募る心をわざと無視し、ベッドに潜り込んだ。
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