王子様な彼

nonnbirihimawari

文字の大きさ
19 / 30
隆太郎サイド STORY.1 どうしようもないくらい

しおりを挟む
 俺には2つ歳の離れた姉がいる。名前をゆりといい、百合のように美しく、清らかに優しく育つよう名付けられたらしいがまったくその気配はない。人のことをあごで使うわ蹴るわ殴るわとにかく半端ない。幼い頃、時折強引に聞かされたおとぎ話にも、なんでねーちゃんはそのお姫さまみたいにおしとやかで優しくないんだと心の中で思っていた。
 だからなのか、美緒と初めて顔を合わせたとき、俺は彼女をまじまじと見つめてしまった。
 背中へ真っ直ぐにおろされた長い黒髪、服からのぞく肌はまっ白で、その姿はどこか儚げだった。
 それまで周りにいた女子といえばやたら元気な奴が多く、当時小柄な体型だった俺はそのパワーに圧倒されていた。外で遊んでいたいのに無理矢理おままごとに付き合わされたり、よくどつかれたりして転ぶこともしょっちゅうだった。今思い返してみれば情けないことこの上ないが、家には凶暴な姉がいて、それが当たり前だった俺には、〝女の子〟、その存在自体が脅威だったのだ。
 俺を見る美緒のぱっちりとした瞳は、胸の奥をずーんとさせた。可愛い。こういう子を可愛いっていうんだ。そう思った。
 お姫さま――おとぎ話にでてくる女の子は、こういう子なんだ。
 俺はそのとき本気でそう思った。

 その日から、美緒は俺の大切な女の子になった。お姫様な彼女は可愛くて優しかった。ちょっと気の強いところもあったけれど、俺を頼ってくれるその姿はひどく庇護欲をそそられた。俺が守ってあげたいと思った。
 家が近かったということもあるが、その日から俺は毎日美緒と学校の行き帰りをともにした。
 事故で足を悪くしたという彼女。俺は左足を少し引きずって歩く彼女に合わせて、ゆっくりと道を進んだ。朝の澄んだ空や、風になびく薄い雲、雨の露だとか道に咲く花にかかる七色の虹だとか、美緒と足をともにすればたくさんの発見があった。テンポがゆっくりなぶんだけ、視界に映る景色も広がる。そんなものを見つけては美緒は嬉しそうに笑い、俺はそんな彼女の表情に笑んだ。固く結ばれた手のひらは俺の視野を大きく広げてくれた。
 小学校中学年に上がるころには、もう美緒は普通の人と変わらずに歩けるようになった。ときどき足をもたつかせて転んでしまうことはあったけれど、軽く走ったりもできるようになった。毎日のように握っていた手もそのころには離れ、俺の中には少し寂しい気持ちもあった。

 美緒への恋心をはっきり自覚したのは、中学に上がってからだった。
 俺と美緒は、徒歩で通える地元の公立中学へそのまま進学した。あいにくクラスは離れてしまったけれど、俺たちは相変わらずの関係を続けていた。
 毎朝美緒を迎えに行っては学校へ向かう。美緒は調理部に入り、部活がないときは教室で友達と暇をつぶしたり、勉強をしたりと、俺の部活が終わるのを待っていてくれる。
 きっかけは廊下で呼びかけられた低い声。その男の一声だった。

「佐藤ってお前の何?」
 夏も色を濃くしてきた頃。
 そう尋ねてきたのは、隣のクラス――美緒のクラスの男子だった。
 ホームルームが終わり、部室へ行こうとした矢先のこと。突然知らない奴から声を掛けられたと思ったら相手の表情は堅いし機嫌は悪そうだしで、俺は大きく戸惑った。
「何って……そっちこそ何?」
 訳分かんねえ。
 相手の乱暴な物言いにむかついた俺は眉をひそめた。その男は、そんな俺を睨み付け、なんというか、これまたきっぱりと言った。
「お前、むかつく」
「はあ?」
 むかつく。
 ぎりっと強く瞳を睨まれた。なんでそんなことを見ず知らずの奴に言われなくちゃいけないんだと思った俺は心底気分を悪くした。
「幼馴染か何だか知らないけど、佐藤を引っ張り回すなよ。朝も放課後も見せつけみたいにいやがって。彼氏でもないくせに佐藤に近付くな!」
 呆然。
 返す言葉も見つからず、口を半開きにしたまま俺はそいつのことをまじまじと見つめてしまった。隆、と部活仲間の前田雄介から声を掛けられるまでそれはもうまじまじと。
 そいつは最後に俺をもうひと睨みして、その場から去っていった。不思議そうにそのようすを見ていた雄介がしびれを切らして俺の肩をたたくまで、俺はそいつが去っていった先をただじっと見つめていた。
 分かったことといえば。
 あいつは美緒が好きで、俺が邪魔だということ。
 でも、なんであんなことを言われなくちゃならない。俺と美緒のことだ。あいつには関係ない。
「今の奴誰?」
 隣で佇んでいた雄介が美緒と同じクラスだったことを思い出して、俺は眉間に皺を寄せたままそう尋ねた。俺の形相にびっくりしたのか、雄介は少し身を引いて口を開いた。
「飯嶋和輝。うちのクラスの学級委員」
「がっきゅういいん~?」
 あれが、学級委員。
 あんなのがクラスをまとめていて大丈夫なのだろうか。
「なんか飯嶋すっげえ怒ってなかった? なんで?」
「知らねーよ」
 顔をしかめたままで言う俺に雄介は不敵な笑みを浮かべた。
「あ、もしかして佐藤のこと何か言われたんだ?」
「え」
 的を射た発言に、俺は不覚にも驚いてしまい、顔を固まらせた。すると雄介はそんな俺に驚いたのか、俺よりもびっくりしたようすで目を見開いた。
「え、マジ? 飯嶋、マジで佐藤のこと言いにきたの」
 自分で言ったくせに、雄介にとってそれは予想外のことだったらしい。しばし空中に視線をさまよわせたあと、ぼそりと口を開いた。
「そーいう奴じゃないと思うんだけど」
 思うんだけど、じゃない。実際飯嶋は俺のところにやってきた。嫌悪感を隠そうともせず、真っ正面から。
「あいつ、美緒と仲いいのか?」
 尋ねると、雄介は曖昧に首をかしげた。
「仲いいっつーかなんつーか……まあ、普通よりはいいんじゃない?」
「はっきりしろよ」
 少しきつい口調で切り返した。けれど雄介はやっぱり曖昧に首をかしげるだけでそれ以上答えようとはしなかった。
「お前ら、付き合ってるんだろ?」
「は?」
 誰と誰が。
 問いかけの意味が分からず顔をしかめた。
「だから、佐藤とお前。飯嶋の奴かなり本気だから早めに牽制しといたほうがいいんじゃないの?」
「……付き合ってない」
 もう、何十回聞かれたことだろう。ため息をつきながら言葉をはきだした。するとまたもや雄介はびっくりしたようすで目を大きく見開いた。
「それって嘘なんじゃねーの?」
「嘘じゃねえ。なんでこんなこと嘘付くんだよ」
「……いや、だって、さ」
 雄介は言葉を濁らせた。
「美緒とは幼馴染。あいつだってそんなこと一度も思ったことないと思うぜ」
「…………」
 しばしの無言。
 俺をじっと見つめる雄介は、どこか確かめるように、その口を開いた。
「でも、お前は佐藤のこと好きなんだろ?」
 好き。
 俺が、美緒のことを好き?

 美緒のことは好きだ。好きじゃないならこんなに長い時間を一緒にいたりなんかしない。
 彼女は、俺にとって大切な女の子だ。何よりも、誰よりも、一番に守ってあげたい女の子だ。
「嫌いな奴と一緒にいるかよ」
 答えるのに躊躇って。
 俺はそのとき、雄介にやけくそ気味な返答を投げつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

幼馴染みとアオハル恋事情

有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。 「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。 明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!? 思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。 アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ! 【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定 ※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】 □ショートストーリー https://privatter.net/p/9716586 □イラスト&漫画 https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/ ⇒いずれも不定期に更新していきます

処理中です...