20 / 30
隆太郎サイド STORY.1 どうしようもないくらい
2
しおりを挟む
それからしばらく時は過ぎて、その日からあっという間に1ヶ月のときを数えた。季節は完全に夏へと色を変え、じりじりと地を焼く太陽は高く光を降り注いでいた。
あの日の帰り道、何ともなしに飯嶋のことを会話の中で触れてみた。飯嶋って奴知ってる? と聞くと、当然のように美緒は頷いた。
「隆太郎こそ、なんで飯嶋くん知ってるの?」
尋ねられて少々狼狽してしまった。
「お前んとこの学級委員だろ」
その日知ったばかりだというのに、そんな理由にもならない言い訳をした。基本的にちょっと人より鈍い美緒はふーんと納得したようにつぶやいただけで、それ以上言葉を切り返してくることはなかった。
「そいつに何か言われたりした?」
それをいいことに、俺はさらに美緒に尋ねた。
「別に……何も言われてない……あー隆太郎のことちょっとだけ言われたかなあ」
「俺?」
予想していたとはいえ反射的に顔をしかめてしまった。美緒はうん、と頷くと、笑顔をこちらに向けた。
「仲いいねって。幼馴染っていいねって言われた」
「い」
嫌みだ。思いっ切り嫌みだ。
思わず口に出しそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。
「でも隆太郎と幼馴染でもねえ」
空を見上げて、美緒はどこか嬉しそうに、笑顔のまま口を開いた。
「朝は遅刻するし、宿題は忘れるし、なーんもいいことないかも」
「おい」
なんだその表情と合ってない言葉は。
顔をしかめると、美緒はにっこりとした微笑みを俺に向けた。
「うーそ」
楽しそうな笑い声とともに、美緒の長い髪がさらりと風に揺れた。
……飯嶋は、あの日以来俺に何か言ってくるようなことはなかった。廊下ですれ違っても無視。微妙に睨まれている気もしたが、いちいち気にするだけ無駄だと思ったので特に何かしようとも思わなかった。
「あ」
そしてそれは数学の授業中のことだった。窓の外に美緒の姿を見つけた。学校指定の紺色のジャージを着て、髪を2つに結わえていた。
50メートル走のタイムを測っているようだった。美緒は足のせいで体育に参加できない。けれど、小学校のときとは違い、見学することなく教師の手伝いをしていた。ゴールのところに立ち、ストップウォッチとタイムの記録を書き込んでいる姿が見えた。
美緒は足のことを悲観することは決してない。クラスメイトにどうして体育にでないのかと聞かれれば、気にするようすもなく自分の足のことを話した。
「次ー!」
窓を全開にしているせいで、グラウンドの声はこちらの教室に筒抜けだった。
教師が笛を鳴らすと、遠くグラウンドの向こう側で並んでいた2人の男子が同時に地面を蹴った。
美緒のようすをぼんやりと眺めていた。クラスが変わってから学校での美緒をあまり見ていないような気がした。今までは授業中真剣にノートを取っている姿や、睡魔に負けないよう健気に頑張っているところなんかを当たり前のように視界に入れていたから、どこか不思議な感じがした。
笛の音が再び響き渡った。どうやらさっきの男子2人が最後らしかった。ふと見ればその一人はあの飯嶋だった。
美緒は持っている紙に何やら書き込んだあと、他のクラスメイトがいる場所へと足を向けた。小走りでグラウンドを行く。
いくら足がよくなったといっても、やっぱり走るのはあまり良いことではない。俺と美緒の遠い距離がものすごくもどかしかった。そして心配したとおり、美緒は足を躓かせた。
危ない――思わず立ち上がりかけた俺は、次の瞬間カッと頬を熱くした。
転ぶ寸前、美緒は一人のクラスメイトに抱き留められた。飯嶋、だ。あの飯嶋。素早い動作だった。美緒をずっと見つめていない限り、できるはずのない行動だった。
ふざけんな――。
美緒に触れていいのは俺だけだ。艶のある長い黒髪も、柔らかい身体も、全部、全部、触れていいのは俺だけだ。あの可愛い笑顔だって、向けられるのは俺だけでいい。
心臓が熱かった。心の奥底から何かがこみ上げてきた。
これは、嫉妬だ。
美緒のことは好きだ。好きじゃないならこんなに長い時間を一緒にいたりなんかしない。
彼女は、俺にとって大切な女の子だ。何よりも、誰よりも、一番に守ってあげたい女の子だ。
違う。
もう、そんな次元じゃない。
俺は、もうどうしようもないくらい。
どうしようもないくらい、美緒が愛しくてたまらないんだ。
あの日の帰り道、何ともなしに飯嶋のことを会話の中で触れてみた。飯嶋って奴知ってる? と聞くと、当然のように美緒は頷いた。
「隆太郎こそ、なんで飯嶋くん知ってるの?」
尋ねられて少々狼狽してしまった。
「お前んとこの学級委員だろ」
その日知ったばかりだというのに、そんな理由にもならない言い訳をした。基本的にちょっと人より鈍い美緒はふーんと納得したようにつぶやいただけで、それ以上言葉を切り返してくることはなかった。
「そいつに何か言われたりした?」
それをいいことに、俺はさらに美緒に尋ねた。
「別に……何も言われてない……あー隆太郎のことちょっとだけ言われたかなあ」
「俺?」
予想していたとはいえ反射的に顔をしかめてしまった。美緒はうん、と頷くと、笑顔をこちらに向けた。
「仲いいねって。幼馴染っていいねって言われた」
「い」
嫌みだ。思いっ切り嫌みだ。
思わず口に出しそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。
「でも隆太郎と幼馴染でもねえ」
空を見上げて、美緒はどこか嬉しそうに、笑顔のまま口を開いた。
「朝は遅刻するし、宿題は忘れるし、なーんもいいことないかも」
「おい」
なんだその表情と合ってない言葉は。
顔をしかめると、美緒はにっこりとした微笑みを俺に向けた。
「うーそ」
楽しそうな笑い声とともに、美緒の長い髪がさらりと風に揺れた。
……飯嶋は、あの日以来俺に何か言ってくるようなことはなかった。廊下ですれ違っても無視。微妙に睨まれている気もしたが、いちいち気にするだけ無駄だと思ったので特に何かしようとも思わなかった。
「あ」
そしてそれは数学の授業中のことだった。窓の外に美緒の姿を見つけた。学校指定の紺色のジャージを着て、髪を2つに結わえていた。
50メートル走のタイムを測っているようだった。美緒は足のせいで体育に参加できない。けれど、小学校のときとは違い、見学することなく教師の手伝いをしていた。ゴールのところに立ち、ストップウォッチとタイムの記録を書き込んでいる姿が見えた。
美緒は足のことを悲観することは決してない。クラスメイトにどうして体育にでないのかと聞かれれば、気にするようすもなく自分の足のことを話した。
「次ー!」
窓を全開にしているせいで、グラウンドの声はこちらの教室に筒抜けだった。
教師が笛を鳴らすと、遠くグラウンドの向こう側で並んでいた2人の男子が同時に地面を蹴った。
美緒のようすをぼんやりと眺めていた。クラスが変わってから学校での美緒をあまり見ていないような気がした。今までは授業中真剣にノートを取っている姿や、睡魔に負けないよう健気に頑張っているところなんかを当たり前のように視界に入れていたから、どこか不思議な感じがした。
笛の音が再び響き渡った。どうやらさっきの男子2人が最後らしかった。ふと見ればその一人はあの飯嶋だった。
美緒は持っている紙に何やら書き込んだあと、他のクラスメイトがいる場所へと足を向けた。小走りでグラウンドを行く。
いくら足がよくなったといっても、やっぱり走るのはあまり良いことではない。俺と美緒の遠い距離がものすごくもどかしかった。そして心配したとおり、美緒は足を躓かせた。
危ない――思わず立ち上がりかけた俺は、次の瞬間カッと頬を熱くした。
転ぶ寸前、美緒は一人のクラスメイトに抱き留められた。飯嶋、だ。あの飯嶋。素早い動作だった。美緒をずっと見つめていない限り、できるはずのない行動だった。
ふざけんな――。
美緒に触れていいのは俺だけだ。艶のある長い黒髪も、柔らかい身体も、全部、全部、触れていいのは俺だけだ。あの可愛い笑顔だって、向けられるのは俺だけでいい。
心臓が熱かった。心の奥底から何かがこみ上げてきた。
これは、嫉妬だ。
美緒のことは好きだ。好きじゃないならこんなに長い時間を一緒にいたりなんかしない。
彼女は、俺にとって大切な女の子だ。何よりも、誰よりも、一番に守ってあげたい女の子だ。
違う。
もう、そんな次元じゃない。
俺は、もうどうしようもないくらい。
どうしようもないくらい、美緒が愛しくてたまらないんだ。
0
あなたにおすすめの小説
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ホウセンカ
えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー!
誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。
そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。
目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。
「明確な理由がないと、不安?」
桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは――
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※イラストは自作です。転載禁止。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
幼馴染みとアオハル恋事情
有村千代
BL
日比谷千佳、十七歳――高校二年生にして初めて迎えた春は、あっけなく終わりを告げるのだった…。
「他に気になる人ができたから」と、せっかくできた彼女に一週間でフられてしまった千佳。その恋敵が幼馴染み・瀬川明だと聞き、千佳は告白現場を目撃することに。
明はあっさりと告白を断るも、どうやら想い人がいるらしい。相手が誰なのか無性に気になって詰め寄れば、「お前が好きだって言ったらどうする?」と返されて!?
思わずどぎまぎする千佳だったが、冗談だと明かされた途端にショックを受けてしまう。しかし気づいてしまった――明のことが好きなのだと。そして、すでに失恋しているのだと…。
アオハル、そして「性」春!? 両片思いの幼馴染みが織りなす、じれじれ甘々王道ラブ!
【一途なクールモテ男×天真爛漫な平凡男子(幼馴染み/高校生)】
※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています
※全70回程度(本編9話+番外編2話)、毎日更新予定
※作者Twitter【https://twitter.com/tiyo_arimura_】
※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】
※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】
□ショートストーリー
https://privatter.net/p/9716586
□イラスト&漫画
https://poipiku.com/401008/">https://poipiku.com/401008/
⇒いずれも不定期に更新していきます
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる