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お目付け役
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うわわわわ、こんな道ばたでなにすんだ……!
口はぱくぱくと動いていたが、肝心の声が出ない。
翔ちゃんはそのままわたしをなだめるようにぽんぽんと頭を優しくたたいてきて、それから顔を覗き込んできた。その翔ちゃんの顔がやたらと嬉しそうだったのはわたしの気のせいだったのだろうか……。
「なあ……恵理」
「…………」
わたしは間近な翔ちゃんの顔をきっと睨んでやる。
だって、まだ謝ってもらってない。それに反省した様子も見せないし。さすがに1週間前の昨日で、昨日はどこにも出掛けなかったみたいだけれど、来週からはまたあの『出掛け病』が再発するするかもしれないし。
「俺がいなくなったら寂しいか?」
なんてことを聞いてくるんだろうと思った。
寂しいなんて……そんなの当たり前だ。生まれたときからずっと一緒にいたから、翔ちゃんはもうわたしの空気みたいな存在になっている。
だからわたしは素直に頷いた。すると翔ちゃんは嬉しそうにわたしの髪をぐちゃぐちゃと掻き回すように撫でた。
「俺も! だから、もう無視なんてやめようぜ? この1週間でさえきつかったんだから」
「……じゃあ、もう週末出掛けない?」
わたしがそう言うと、翔ちゃんはちょっと驚いたような、それでいて困ったようなばつの悪そうな顔をした。
「うーん……それはなあ……」
……確かにこの約束は無理かも知れない。だって、週末出掛けることが翔ちゃんにとっての生き甲斐みたいなものだったし。
わたしはちょっと考えて、それから再び口を開く。
「じゃあ……もう危ないことはしない?」
それに、今度は翔ちゃんがちょっと考える。
「危ないことって……例えばどんな?」
「こないだみたいなこと」
なんて単純で基本的な質問をするんだと思いながらも、わたしは翔ちゃんの問いに律儀にもきちんと答えてやる。
すると翔ちゃんは、
「マジ? 俺、あんなの何回も経験してるんだけど」
……なんてとんでもないことを言った。
「う、うううそっ」
あまりの精神的打撃に声が裏返ってしまった。
「あー、でも経験したっていっても死にかけたのは3回くらいか? でも大丈夫、めったにないから」
だ、大丈夫じゃないでしょ~?!
「もうぜっっったいだめ! 出掛けちゃだめ! 翔ちゃんったら信じらんない!!」
わたしはもう我を忘れて、かなりの大声でそう言った。
多分……ものすごい近所迷惑だっただろう。そのときは全然気付いてなかったのだけれど、結構人がいたらしい。
いや……というより思い出すだけで、本当に顔から火が出るのではないかと思うほど恥ずかしい。このとき、翔ちゃんに抱きしめられていたせいでわたしたちはかなり密着してたから、端から見れば恋人同士の痴話喧嘩に見えただろう。「出掛けちゃだめ! 信じらんない!」……なんて言葉を周りの通行人が聞けば、いったいその女はどれだけ独占欲が強いと思われたか……。
「じゃあわたしも行く! わたしも翔ちゃんについてく!」
「……は?」
「絶対お兄ちゃんと翔ちゃんだけじゃ危ないもの! わたしみたいなまともな人間がいなきゃ絶対いつか2人とも死ぬ!!」
「まともって……自分で言うか?」
「分かんないけどとりあえず翔ちゃんよりはまとも!」
わたしの言葉に翔ちゃんは少しの間考えて。
そして何故かにやりと笑い、
「よし、分かった。じゃあ今度からは恵理が仲間な。ちょうどカズが就活で無理そうだからさー、これからは1人で行こうかと思ってたんだよ」
……と嬉しそうに言ったのだった。
このときから、わたしの休日は180度変化することになる。
それまではテレビを観たり本を読んだりお菓子を作ったりと家でのんびり過ごしていたものが、突然外出サバイバルだ。
そしてそれ以来、わたしはもう5年間もの間、翔ちゃんの『お出掛け』に付き合っている――。
口はぱくぱくと動いていたが、肝心の声が出ない。
翔ちゃんはそのままわたしをなだめるようにぽんぽんと頭を優しくたたいてきて、それから顔を覗き込んできた。その翔ちゃんの顔がやたらと嬉しそうだったのはわたしの気のせいだったのだろうか……。
「なあ……恵理」
「…………」
わたしは間近な翔ちゃんの顔をきっと睨んでやる。
だって、まだ謝ってもらってない。それに反省した様子も見せないし。さすがに1週間前の昨日で、昨日はどこにも出掛けなかったみたいだけれど、来週からはまたあの『出掛け病』が再発するするかもしれないし。
「俺がいなくなったら寂しいか?」
なんてことを聞いてくるんだろうと思った。
寂しいなんて……そんなの当たり前だ。生まれたときからずっと一緒にいたから、翔ちゃんはもうわたしの空気みたいな存在になっている。
だからわたしは素直に頷いた。すると翔ちゃんは嬉しそうにわたしの髪をぐちゃぐちゃと掻き回すように撫でた。
「俺も! だから、もう無視なんてやめようぜ? この1週間でさえきつかったんだから」
「……じゃあ、もう週末出掛けない?」
わたしがそう言うと、翔ちゃんはちょっと驚いたような、それでいて困ったようなばつの悪そうな顔をした。
「うーん……それはなあ……」
……確かにこの約束は無理かも知れない。だって、週末出掛けることが翔ちゃんにとっての生き甲斐みたいなものだったし。
わたしはちょっと考えて、それから再び口を開く。
「じゃあ……もう危ないことはしない?」
それに、今度は翔ちゃんがちょっと考える。
「危ないことって……例えばどんな?」
「こないだみたいなこと」
なんて単純で基本的な質問をするんだと思いながらも、わたしは翔ちゃんの問いに律儀にもきちんと答えてやる。
すると翔ちゃんは、
「マジ? 俺、あんなの何回も経験してるんだけど」
……なんてとんでもないことを言った。
「う、うううそっ」
あまりの精神的打撃に声が裏返ってしまった。
「あー、でも経験したっていっても死にかけたのは3回くらいか? でも大丈夫、めったにないから」
だ、大丈夫じゃないでしょ~?!
「もうぜっっったいだめ! 出掛けちゃだめ! 翔ちゃんったら信じらんない!!」
わたしはもう我を忘れて、かなりの大声でそう言った。
多分……ものすごい近所迷惑だっただろう。そのときは全然気付いてなかったのだけれど、結構人がいたらしい。
いや……というより思い出すだけで、本当に顔から火が出るのではないかと思うほど恥ずかしい。このとき、翔ちゃんに抱きしめられていたせいでわたしたちはかなり密着してたから、端から見れば恋人同士の痴話喧嘩に見えただろう。「出掛けちゃだめ! 信じらんない!」……なんて言葉を周りの通行人が聞けば、いったいその女はどれだけ独占欲が強いと思われたか……。
「じゃあわたしも行く! わたしも翔ちゃんについてく!」
「……は?」
「絶対お兄ちゃんと翔ちゃんだけじゃ危ないもの! わたしみたいなまともな人間がいなきゃ絶対いつか2人とも死ぬ!!」
「まともって……自分で言うか?」
「分かんないけどとりあえず翔ちゃんよりはまとも!」
わたしの言葉に翔ちゃんは少しの間考えて。
そして何故かにやりと笑い、
「よし、分かった。じゃあ今度からは恵理が仲間な。ちょうどカズが就活で無理そうだからさー、これからは1人で行こうかと思ってたんだよ」
……と嬉しそうに言ったのだった。
このときから、わたしの休日は180度変化することになる。
それまではテレビを観たり本を読んだりお菓子を作ったりと家でのんびり過ごしていたものが、突然外出サバイバルだ。
そしてそれ以来、わたしはもう5年間もの間、翔ちゃんの『お出掛け』に付き合っている――。
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