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どこか変
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「……くしゅんっ」
ぶるぶる、と震えて、わたしは布団を頭の上まで引っ張り上げた。寒いし頭も痛い。最悪だ。
「おい、それじゃ薬飲めないだろ」
布団の一枚向こうで翔ちゃんの声がして、わたしはしぶしぶ布団から顔だけを出した。そして、薬を飲むためにだるい身体を起こす。
「えー、錠剤なの」
わたしは錠剤が嫌いだ。何故ってそれは、のどに詰まったら怖いから。そんな話は実際に聞いたことはないけれど、あの魚の骨がささって以来、わたしは『刺さる』とか『詰まる』とかいう言葉に敏感になってしまった。
「今時この歳で粉薬飲む奴なんているわけないだろ。ほら、早く飲めよ」
しかし無情にもそんなわたしに翔ちゃんは錠剤を3個も渡してくる。馬鹿みたいだがわたしはそれを1個ずつ飲んだ。できるだけ詰まる危険は回避したいし。
ごくりと3個目の薬を飲み込んで、わたしは大きく息をはき出した。翔ちゃんを見ると、思った通り勝手にわたしのパソコン用の椅子に座っていた。
「急に倒れるからマジびびった」
翔ちゃんと目が合ったところで、翔ちゃんがそう言った。
「熱あるならそう言ってくれりゃ良かったのに。そしたらあんなことしなかったのにさー」
うんうんと頷きながら、翔ちゃんはそんなことを言う。わたしはむかっとして口を開いた。
「あってもなくてもあんなことしないでよね。というか同じ大学なのにわたしが今日休んだことも知らないなんてひどいんじゃない? 翔ちゃんの馬鹿っ」
ベッドの上にあったクッションを投げつけてみるが、当然のごとくそれは避けられてしまう。ぽんっとそのクッションを元あった位置に投げ返されて、それが余計むかついた。
「同じったって学部の学年も違うだろ? それに一学部約1000人いんの!」
「幼馴染みでしょ。それくらい察してよね!」
「どうやって察しろってんだよ。俺はエスパーじゃねー」
ぐぐぐ。何だか今日は翔ちゃんの機嫌が悪い。
……というより最近何だか翔ちゃんは変だ。いや、いつも変なんだけれどそういう変じゃなくて、種類が違う変というか……。
「なんでそんな機嫌悪いの」
ここはもう直球勝負だ。わたしは聞きたいことをそのままずばりと言葉にして、翔ちゃんからの反応を待った。
そして案の定、
「恵理が一緒に釣りに行ってくれなかったから」
との答えが返ってきた。
「だーかーらー。わたしは魚が死ぬほど嫌いなの! なのになんでわざわざ自ら魚を見なきゃいけないとこなんかに行かなくちゃいけないの?」
この前の休日、翔ちゃんとの恒例の『お出掛け』は釣りということになっていた。だからわたしは嫌で嫌で「釣りだったら行かない」と最初からきちんと言ってあったのだ。
「でもお前、あの日違う奴と出掛けただろ」
不機嫌そうな表情を隠さないで翔ちゃんが言った。わたしは翔ちゃんがそのことを知っていたことにびっくりしてしまう。
「な、なんで知ってるの?」
誰かから聞いたのだろうか。いや、でもあれはたまたま会って、それで成り行きで行ったものだから誰かが知っているはずはない(と思う)。
ちょっと、やっぱり翔ちゃんってエスパーなんじゃないの?
わたしがそんなことを思っていると、翔ちゃんはますますもって機嫌が悪くなったのか、わたしの部屋には負のオーラが漂いだした。
「知ってちゃいけないことだったわけ?」
「別に違うけど……」
まあ、知られちゃまずいことではないけれど、でもやっぱり翔ちゃんとの約束を反故にした日に行ったから、何となく気まずい気もする。たとえそれがたまたま会って、成り行きのものだったとしても。これまでわたしは私的な用事で翔ちゃんとの約束を破ったことはなかったから。
「わたしにだって都合くらいあるの。別にいいでしょ」
「へえ……」
感情を押し殺したような声だった。
なんかものすっごく怖いんですけど!
翔ちゃんから放たれる負のオーラがぐるぐる身体に巻き付いてきて、熱がもっと上がりそう。
もう、そんな機嫌が悪くなるほど釣りに行きたかったの?
「な、何よ。……というかもう寝るから出てってよね。翔ちゃんだって、いろいろすることあるんじゃないの?」
そう言ったわたしを翔ちゃんはしばらくじっと――探るように見つめていたが、やがて席を立つとわたしの部屋を出て行った。
「な……んなのよ、ほんと、もう」
最近、翔ちゃんがあんなふうだから、わたしも調子が狂う。いつもだったらへらへら笑って「へー」って感じで終わるのに。
何だか、喧嘩したあとみたいに気分が悪い。別に、そういうのじゃないのに。
「翔ちゃんの馬鹿……」
ぼすっと枕に顔をうずめる。
熱が上がってたら、絶対翔ちゃんのせいだ。
わたしは馬鹿馬鹿、と心の中で翔ちゃんに罵倒を浴びせながら、微睡みの中に落ちていった。
ぶるぶる、と震えて、わたしは布団を頭の上まで引っ張り上げた。寒いし頭も痛い。最悪だ。
「おい、それじゃ薬飲めないだろ」
布団の一枚向こうで翔ちゃんの声がして、わたしはしぶしぶ布団から顔だけを出した。そして、薬を飲むためにだるい身体を起こす。
「えー、錠剤なの」
わたしは錠剤が嫌いだ。何故ってそれは、のどに詰まったら怖いから。そんな話は実際に聞いたことはないけれど、あの魚の骨がささって以来、わたしは『刺さる』とか『詰まる』とかいう言葉に敏感になってしまった。
「今時この歳で粉薬飲む奴なんているわけないだろ。ほら、早く飲めよ」
しかし無情にもそんなわたしに翔ちゃんは錠剤を3個も渡してくる。馬鹿みたいだがわたしはそれを1個ずつ飲んだ。できるだけ詰まる危険は回避したいし。
ごくりと3個目の薬を飲み込んで、わたしは大きく息をはき出した。翔ちゃんを見ると、思った通り勝手にわたしのパソコン用の椅子に座っていた。
「急に倒れるからマジびびった」
翔ちゃんと目が合ったところで、翔ちゃんがそう言った。
「熱あるならそう言ってくれりゃ良かったのに。そしたらあんなことしなかったのにさー」
うんうんと頷きながら、翔ちゃんはそんなことを言う。わたしはむかっとして口を開いた。
「あってもなくてもあんなことしないでよね。というか同じ大学なのにわたしが今日休んだことも知らないなんてひどいんじゃない? 翔ちゃんの馬鹿っ」
ベッドの上にあったクッションを投げつけてみるが、当然のごとくそれは避けられてしまう。ぽんっとそのクッションを元あった位置に投げ返されて、それが余計むかついた。
「同じったって学部の学年も違うだろ? それに一学部約1000人いんの!」
「幼馴染みでしょ。それくらい察してよね!」
「どうやって察しろってんだよ。俺はエスパーじゃねー」
ぐぐぐ。何だか今日は翔ちゃんの機嫌が悪い。
……というより最近何だか翔ちゃんは変だ。いや、いつも変なんだけれどそういう変じゃなくて、種類が違う変というか……。
「なんでそんな機嫌悪いの」
ここはもう直球勝負だ。わたしは聞きたいことをそのままずばりと言葉にして、翔ちゃんからの反応を待った。
そして案の定、
「恵理が一緒に釣りに行ってくれなかったから」
との答えが返ってきた。
「だーかーらー。わたしは魚が死ぬほど嫌いなの! なのになんでわざわざ自ら魚を見なきゃいけないとこなんかに行かなくちゃいけないの?」
この前の休日、翔ちゃんとの恒例の『お出掛け』は釣りということになっていた。だからわたしは嫌で嫌で「釣りだったら行かない」と最初からきちんと言ってあったのだ。
「でもお前、あの日違う奴と出掛けただろ」
不機嫌そうな表情を隠さないで翔ちゃんが言った。わたしは翔ちゃんがそのことを知っていたことにびっくりしてしまう。
「な、なんで知ってるの?」
誰かから聞いたのだろうか。いや、でもあれはたまたま会って、それで成り行きで行ったものだから誰かが知っているはずはない(と思う)。
ちょっと、やっぱり翔ちゃんってエスパーなんじゃないの?
わたしがそんなことを思っていると、翔ちゃんはますますもって機嫌が悪くなったのか、わたしの部屋には負のオーラが漂いだした。
「知ってちゃいけないことだったわけ?」
「別に違うけど……」
まあ、知られちゃまずいことではないけれど、でもやっぱり翔ちゃんとの約束を反故にした日に行ったから、何となく気まずい気もする。たとえそれがたまたま会って、成り行きのものだったとしても。これまでわたしは私的な用事で翔ちゃんとの約束を破ったことはなかったから。
「わたしにだって都合くらいあるの。別にいいでしょ」
「へえ……」
感情を押し殺したような声だった。
なんかものすっごく怖いんですけど!
翔ちゃんから放たれる負のオーラがぐるぐる身体に巻き付いてきて、熱がもっと上がりそう。
もう、そんな機嫌が悪くなるほど釣りに行きたかったの?
「な、何よ。……というかもう寝るから出てってよね。翔ちゃんだって、いろいろすることあるんじゃないの?」
そう言ったわたしを翔ちゃんはしばらくじっと――探るように見つめていたが、やがて席を立つとわたしの部屋を出て行った。
「な……んなのよ、ほんと、もう」
最近、翔ちゃんがあんなふうだから、わたしも調子が狂う。いつもだったらへらへら笑って「へー」って感じで終わるのに。
何だか、喧嘩したあとみたいに気分が悪い。別に、そういうのじゃないのに。
「翔ちゃんの馬鹿……」
ぼすっと枕に顔をうずめる。
熱が上がってたら、絶対翔ちゃんのせいだ。
わたしは馬鹿馬鹿、と心の中で翔ちゃんに罵倒を浴びせながら、微睡みの中に落ちていった。
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