御連舎におねがい

tomatobomb

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一章、人喰い狼

二、内容

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『どのようなご依頼でしょうか』
「えっとですね……その……」

老婆はしばらく黙りこんだ。どこから話せば良いのか分からないといった風だ。これには、刃物威圧女もさすがに嫌な顔をするであろう。

『ゆっくりでいいですよ』

おっと、あれれれなにか違うぞ?なんだなんだおれは立っているだけで殺されそうになったのにこの老婆は人を待たせるという不愉快指数の高めなことをしても許されちゃうのか?許されちゃうのか……そうかそうか

「あ、ああ、ごめんなさいね……」

おれからは老婆の顔は見えないが、微笑したように感じた。目の前の人間に心配かけまいとしたのだろうか。となると、刃物ちら見せ女は、老婆の不安そうな表情を察知して、気を遣ったのかもしれない。道理で、さぼりたいと思っていたおれとは対応が違うわけだ。おれとは違って何かつらいことでもあったのだろう。








「実は、夫が殺されたのです」
『どのようにしてですか?』







老婆は固まった。おれも固まった。そりゃそうだ。身内が殺されたんだ。それを聞いたなら驚いたっていいだろう。状況の飲み込みがいくらなんでも早すぎる。立ってたら殺すぞ女はおそらく、心ってのを持っていない。

「え……えっとですね……食べられたのです。おそらく、狼に」
『おそらく?』
「息子が、最近向こうの山の麓に狼が見える気がすると言っていました。夫が殺されたのはその数日経った今日でした。そして夫の体は明らかに何かに貪られたあとがありました。多分、狼に喰われたのです」
『今日……ということは、まだ死体はそのままですか?』
「はい、今朝、夫を見つけてすぐにここへ来ました」
『つまり依頼というのは……?』

老婆は下を向いたあと、意を決したように顔を上げて、刃物女と目を合わせる。そして言ったのだ。

「狼を、殺してもらえないでしょうか」

静かに、老婆はそういったが、おれにはもっと情熱的に聞こえた。

『分かりました。報酬として何か食料をいただきます。よろしいでしょうか。』
「大根の漬け物があります。それでいいですか?」
『美味しそうですね。では、まずあなたのいる村にご案内願えますか』
「はい、ちょっと歩きますが……」
『了解です』

なんか大変そうだな。はぁ、店番一人ですんのかぁ。ま、ぐちゃぐちゃの死体なんか見たくないしこっちの方が十倍は楽だよな。いや、もしかすると百倍くらいは






『何をしている、お前も来い』




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