3 / 13
一章、人喰い狼
三、死骸
しおりを挟む
『何をしている、お前も来い』
「え」
何を言われたのか分からないふりをしたが、当然、言葉の意味は凄まじい浸透力で脳を駆けめぐった。
「えっと……」
『いいから早く来い。か弱い乙女一人でこの依頼をこなせるわけなかろう』
「み、店番は……?」
『うちは同時に二つの依頼をこなさん。分かったらさっさと歩け』
「え、でもお客さ
何とか店にとどまる言い分を思い付いたが、それは現実を微塵も動かさなかった。お客さんにお断りをするためという口実はなんとも非の打ち所のないものだと思ったが、彼女の殺意のこもった目は、いとも簡単におれから声を奪った。
おれは日常が好きだ。途徹もない距離を歩かなくていいし、喰われた死体も見なくていいからだ。この老婆が来たのは昼頃だが、もう空は少し赤みを帯びてきていた。
「着きました、この中です」
いざ戸の前に立つと臭いがひどい。今にも吐きそうだ。半日ほど放置された死体は初めてであり、この臭いにも耐性はないが、任務なので仕方がない。
『おい、入るぞ』
「はい!」
しかし死体は見慣れている。この美女が、死体に怯えているのとは対照に、おれは平然としていられるはずであ
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぉおぉ、けへっぺっ」
『ったく、汚いな。ちゃんと自分でかたづ
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、かはっ、はぁ……
はぁ……」
吐くのはいつぶりだろうか。吐くものは体から無くなっているはずなのに、まだ気持ち悪い。
今まで見てきた死体とは全く違う。喰われたと聞いて覚悟はしていたが、想像のはるか上をゆく気持ち悪さだ。
太腿の中心から真上は、肉が正面からえぐられており、腕や足は形が分かるくらいに肉が残されている。それなのに顔と胸と腹と太腿は、前半分のみがいびつに削りとられていて、顔に至っては、骨の破片と肉がぐちゃぐちゃに混ぜられており、元々人間だったとは思えない。
「お願いがあるのですが……」
嘔吐物を片付けていると、老婆が腰を低くして、視界の斜め下からぬるっと顔を出す。
「な、なんですか」
「遺体を埋めたいのです。手伝ってもらえませんか」
『分かりました。嘔吐、そっち持て』
確実に馬鹿にされている。腹が立つがいたしかたない。
『どうした、まだ出せるのか?』
「い、いえ、では持ち上げますよ……せーのっ!」
彼女は肩のえぐれた部分を持っているのに対して、おれは足の形が残っている部分を持ち上げている。えっと、彼女は一体どのように生きてきたのだろう。あの死骸をみて、どうして無表情でいられるのか……不思議でたまらない……
『置くぞ』
「……あ、はい」
『埋めるのはご自分でされますか?』
「そうですね……それくらいは自分で……」
『そうですか、では私達は狼探しにいきます』
「はい、よろしくお願いします」
この家の庭の木の下に死骸を置き、老婆に埋葬を頼み、そして狼探しか……
『では、お前は左側の家を頼む』
「頼むとは……?」
『狼の情報を集めて来い』
「山に行けば会えるのでは? 」
『馬鹿なのか、入れ違いになってしまえば、またあの死骸を見ることになるだろう』
「情報というのは、どのような?」
『狼に関してならなんでもいい、分かったらさっさと行け』
「は、はぁ……」
狼に意志があるのなら意味があるのかもしれないが、相手は本能で行動するはずだ。狼の情報なんて意味があるのか?
そんな疑問を抱きながらをおれは目の前の大きめな戸に向かって声をかける。
「え」
何を言われたのか分からないふりをしたが、当然、言葉の意味は凄まじい浸透力で脳を駆けめぐった。
「えっと……」
『いいから早く来い。か弱い乙女一人でこの依頼をこなせるわけなかろう』
「み、店番は……?」
『うちは同時に二つの依頼をこなさん。分かったらさっさと歩け』
「え、でもお客さ
何とか店にとどまる言い分を思い付いたが、それは現実を微塵も動かさなかった。お客さんにお断りをするためという口実はなんとも非の打ち所のないものだと思ったが、彼女の殺意のこもった目は、いとも簡単におれから声を奪った。
おれは日常が好きだ。途徹もない距離を歩かなくていいし、喰われた死体も見なくていいからだ。この老婆が来たのは昼頃だが、もう空は少し赤みを帯びてきていた。
「着きました、この中です」
いざ戸の前に立つと臭いがひどい。今にも吐きそうだ。半日ほど放置された死体は初めてであり、この臭いにも耐性はないが、任務なので仕方がない。
『おい、入るぞ』
「はい!」
しかし死体は見慣れている。この美女が、死体に怯えているのとは対照に、おれは平然としていられるはずであ
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぉおぉ、けへっぺっ」
『ったく、汚いな。ちゃんと自分でかたづ
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、かはっ、はぁ……
はぁ……」
吐くのはいつぶりだろうか。吐くものは体から無くなっているはずなのに、まだ気持ち悪い。
今まで見てきた死体とは全く違う。喰われたと聞いて覚悟はしていたが、想像のはるか上をゆく気持ち悪さだ。
太腿の中心から真上は、肉が正面からえぐられており、腕や足は形が分かるくらいに肉が残されている。それなのに顔と胸と腹と太腿は、前半分のみがいびつに削りとられていて、顔に至っては、骨の破片と肉がぐちゃぐちゃに混ぜられており、元々人間だったとは思えない。
「お願いがあるのですが……」
嘔吐物を片付けていると、老婆が腰を低くして、視界の斜め下からぬるっと顔を出す。
「な、なんですか」
「遺体を埋めたいのです。手伝ってもらえませんか」
『分かりました。嘔吐、そっち持て』
確実に馬鹿にされている。腹が立つがいたしかたない。
『どうした、まだ出せるのか?』
「い、いえ、では持ち上げますよ……せーのっ!」
彼女は肩のえぐれた部分を持っているのに対して、おれは足の形が残っている部分を持ち上げている。えっと、彼女は一体どのように生きてきたのだろう。あの死骸をみて、どうして無表情でいられるのか……不思議でたまらない……
『置くぞ』
「……あ、はい」
『埋めるのはご自分でされますか?』
「そうですね……それくらいは自分で……」
『そうですか、では私達は狼探しにいきます』
「はい、よろしくお願いします」
この家の庭の木の下に死骸を置き、老婆に埋葬を頼み、そして狼探しか……
『では、お前は左側の家を頼む』
「頼むとは……?」
『狼の情報を集めて来い』
「山に行けば会えるのでは? 」
『馬鹿なのか、入れ違いになってしまえば、またあの死骸を見ることになるだろう』
「情報というのは、どのような?」
『狼に関してならなんでもいい、分かったらさっさと行け』
「は、はぁ……」
狼に意志があるのなら意味があるのかもしれないが、相手は本能で行動するはずだ。狼の情報なんて意味があるのか?
そんな疑問を抱きながらをおれは目の前の大きめな戸に向かって声をかける。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる