御連舎におねがい

tomatobomb

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一章、人喰い狼

三、死骸

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『何をしている、お前も来い』
「え」

何を言われたのか分からないふりをしたが、当然、言葉の意味は凄まじい浸透力で脳を駆けめぐった。

「えっと……」
『いいから早く来い。か弱い乙女一人でこの依頼をこなせるわけなかろう』
「み、店番は……?」
『うちは同時に二つの依頼をこなさん。分かったらさっさと歩け』
「え、でもお客さ

何とか店にとどまる言い分を思い付いたが、それは現実を微塵も動かさなかった。お客さんにお断りをするためという口実はなんとも非の打ち所のないものだと思ったが、彼女の殺意のこもった目は、いとも簡単におれから声を奪った。






おれは日常が好きだ。途徹もない距離を歩かなくていいし、喰われた死体も見なくていいからだ。この老婆が来たのは昼頃だが、もう空は少し赤みを帯びてきていた。



「着きました、この中です」



いざ戸の前に立つと臭いがひどい。今にも吐きそうだ。半日ほど放置された死体は初めてであり、この臭いにも耐性はないが、任務なので仕方がない。

『おい、入るぞ』
「はい!」

しかし死体は見慣れている。この美女が、死体に怯えているのとは対照に、おれは平然としていられるはずであ




「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぉおぉ、けへっぺっ」
『ったく、汚いな。ちゃんと自分でかたづ
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、かはっ、はぁ……
はぁ……」

吐くのはいつぶりだろうか。吐くものは体から無くなっているはずなのに、まだ気持ち悪い。
今まで見てきた死体とは全く違う。喰われたと聞いて覚悟はしていたが、想像のはるか上をゆく気持ち悪さだ。

太腿の中心から真上は、肉が正面からえぐられており、腕や足は形が分かるくらいに肉が残されている。それなのに顔と胸と腹と太腿は、前半分のみがいびつに削りとられていて、顔に至っては、骨の破片と肉がぐちゃぐちゃに混ぜられており、元々人間だったとは思えない。

「お願いがあるのですが……」

嘔吐物を片付けていると、老婆が腰を低くして、視界の斜め下からぬるっと顔を出す。

「な、なんですか」
「遺体を埋めたいのです。手伝ってもらえませんか」
『分かりました。嘔吐、そっち持て』

確実に馬鹿にされている。腹が立つがいたしかたない。

『どうした、まだ出せるのか?』
「い、いえ、では持ち上げますよ……せーのっ!」

彼女は肩のえぐれた部分を持っているのに対して、おれは足の形が残っている部分を持ち上げている。えっと、彼女は一体どのように生きてきたのだろう。あの死骸をみて、どうして無表情でいられるのか……不思議でたまらない……

『置くぞ』
「……あ、はい」






『埋めるのはご自分でされますか?』
「そうですね……それくらいは自分で……」
『そうですか、では私達は狼探しにいきます』
「はい、よろしくお願いします」

この家の庭の木の下に死骸を置き、老婆に埋葬を頼み、そして狼探しか……






『では、お前は左側の家を頼む』
「頼むとは……?」
『狼の情報を集めて来い』
「山に行けば会えるのでは? 」
『馬鹿なのか、入れ違いになってしまえば、またあの死骸を見ることになるだろう』
「情報というのは、どのような?」
『狼に関してならなんでもいい、分かったらさっさと行け』
「は、はぁ……」

狼に意志があるのなら意味があるのかもしれないが、相手は本能で行動するはずだ。狼の情報なんて意味があるのか?




そんな疑問を抱きながらをおれは目の前の大きめな戸に向かって声をかける。







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