13 / 15
13:告発
しおりを挟む
「おい!」
「!?」
ソフィアははっと起き上がった。
見回すと2人のゲール兵が立っている。
「む、むぅん!」
防声具の下からくぐもった悲鳴が上がる。
姿勢を崩した咎でまたスタンガンを押し付けられると思ったソフィアは、体を丸めて衝撃に備えた。
(ひ、ひいっ、た、助けて)
ガタガタと震えるソフィアに、女兵士たちがゆっくりと近づく。
体に手が触れた瞬間、ビクッとソフィアは体が震わせ息を吸い込んだ。
だがゲール女兵士の行動は、彼女の想像とは異なるものだった。
「429番、防声具と拘束衣を脱がせます、静かにしなさい」
(えっ)
驚くソフィアから、ゲールの女兵士たちは防声具を外した。
久しぶりに自由になった口で、新鮮な空気を肺に吸い込む。
その間に拘束衣のベルトも外された
「429番、本日をもってあなたの懲罰房での罰を終了します」
そう言うとゲールの兵士は、ソフィアの前に丁寧に畳まれた清潔な囚人服を置いた。
(ほ、本当に、本当に休んでいいの?)
罰が終わったことにソフィアは安堵する。
濡れたタオルで体を拭くと、長時間拘束されていた体に血流が戻っていく。
囚人服を着替えようと立ち上がると、長時間立たされていた脚が震えてきた。
それは脚の疲労によるものだけではない。
ソフィアの蒼い目は、懲罰房の扉に釘付けになっていた。
(これはもしかするとマクダ少尉の罠なのでは?)
あの扉が勢いよく開かれ、また復讐に囚われた女少尉が自分を怒鳴りつけるのではないか。
そう考えるだけでソフィアの心臓は激しく鼓動する。
(ひょっとすると本当はどこかで見張っていて、自分の咎を探しているかもしれない)
妄想がソフィアの恐怖を煽り立てる。
呼吸が荒くなり、彼女の青い目はうろうろ動いた。
「では429番、独房に戻りますよ」
「は、はい」
新しい囚人服に着替えたソフィアが懲罰房から連れ出される。
なぜか手錠も腰縄もされなかった。
疲労と痛みが取れない脚はまだ震えている。
そして懲罰房から出た所で、ソフィアはつまづき転んでしまった。
「あっ!」
廊下にごろりと転がったソフィアは、顔を真っ青にする。
今度こそ懲罰を受けると思ったソフィアは、兵士にすがりついて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
必死に謝る女囚を見たゲール兵は、目を合わせて首を振った。
そしてソフィアに落ち着いた声で語り掛ける。
「429番、大丈夫か、足が痛むのか? もし動けないなら担架を用意するぞ」
「い、いえっ、だ、大丈夫です、な、何とか歩けます」
どもりながら立ち上がるソフィアに、ゲールの女兵士は肩を貸してくれた。
独房までの道もソフィアを気遣い、ゆっくりと歩いてくれる。
今までの事を考えると、驚くほど丁寧で優しい対応だ。
そんなゲール兵たちに、ソフィアは不気味さを感じた。
(ど、どうしたの、一体)
女看守たちの親切な対応は、独房に到着してからも続いた。
彼女たちはソフィアを独房のベッドに寝かせると
「何か必要なものはないか?」
「体が痛むならすぐに医者に見せるから、看守を呼ぶように」
そう何度も優しく声をかけて気遣った。
常時装着を命じられていた手錠と足枷についても、嵌められることはなかった。
おそるおそるソフィアの方から両手を兵士たちの前に差し出すと、
「429番、もう貴女に独房内での拘束は必要ありません。ただし外での移動時のみは拘束するから、覚えておくように」
そう言って兵士たちは独房から出て行った。
その日からソフィアには穏やかな生活が始まった。
看守は相変わらず親切であるし、些細なことで罰を受けることもなくなった。
その態度にソフィアは訝しみ、そしてある結論に達する。
(ひょっとすると私の処刑の日が決まったのでは?)
そう考えてから、再びソフィアの恐怖の日々が始まる。
兵士の足音が聞こえる度に、心臓が高鳴りが止まらない。
夜が来るたびに今日生き残れたことを神に感謝し、そして明日が来ることに怯える。
(もう嫌だ、助けて)
気が狂いそうになる独房での生活に、ソフィアの精神は次第に病んでいった。
そして限界に達しようとしたある日。
点呼を終わった彼女の独房に、看守の足音が聞こえてきた。
コツ、コツ、コツ
(いつもより人数が多い。点呼は終わったばかりなのに、ま、まさか)
ソフィアの全身の血が冷えわたって、動悸が高まる。
看守が扉を開けた瞬間、彼女は小さく悲鳴を上げた。
「ひ、ひいっ!」
「429番、面会です、独房から出なさい」
面会という言葉を聞いて、ソフィアの体からヘナヘナと力が抜ける。
久しぶりに嵌める手錠と腰縄に戒められて面会室へと向かう。
待っていたのはアレックスであった。
「ソフィア中尉、お久しぶりです」
アクリル板の向こうで敬礼する元部下は、顔一面に満悦の笑みを浮かべていた。
「ど、どうしたの、アレックス上等兵」
「中尉、お喜びください! ゲールの占領軍司令部がバンナ島捕虜殺害事件の判決に、再検討を行うことが決定しました」
「えっ……」
ソフィアはあまりのことに声が出ない。
両手で口を押え、目じりからは涙が溢れている。
「ほ、本当……なの……」
「本当です! これで死刑が覆るのは確実です、助かりますよ、中尉!」
「うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁ」
元部下の前でソフィアは突っ伏して泣き出した。
死刑になってから涙は何度も流した。
だが嬉し涙は初めてだった。
「諦めていたのに、まさか、まさか本当に助かるなんて。あ、ありがとう、アレックス上等兵」
「いえ、僕ではありません。僕は頑張ったけど大して役に立てませんでした」
そう言ってアレックスは、ゲールの新聞をソフィアに見せた。
「ゲール軍を動かしたのはこいつです」
アレックスが読み上げた記事は、アルトリア人の戦犯に対する虐待について書かれたものだ。
記事には裁判の経緯も書かれていて、弁護人のハンス弁護士がいかに不当な判決であるかを強く訴えている。
この記事がきっかけでゲール国内の世論も動き、占領軍司令官のヘルムート元帥直々の命令で裁判が再検討されることに決まったとのことだ。
「この記事に書かれている女の死刑囚って、まさか私?」
「そうです、マクダ少尉が中尉にしたことが、ゲールの新聞社で報道されたんですよ」
記事には問題が発覚したのは『軍関係者の内部告発によって』と書かれている。
その告発者の顔はすぐに思い浮かんだ。
「告発したのは、ルイーゼ伍長ね」
「ええ、写真の隠し撮りをしていたそうです。それでゲール軍も動くしか無くなったようですね」
「彼女が……」
そう呟いた後、ソフィアは心の中で何度もルイーゼに謝った。
(ごめんなさい、最後まで信じられなくて本当にごめんなさい)
ソフィアは再び元部下の前で泣いてしまった。
「!?」
ソフィアははっと起き上がった。
見回すと2人のゲール兵が立っている。
「む、むぅん!」
防声具の下からくぐもった悲鳴が上がる。
姿勢を崩した咎でまたスタンガンを押し付けられると思ったソフィアは、体を丸めて衝撃に備えた。
(ひ、ひいっ、た、助けて)
ガタガタと震えるソフィアに、女兵士たちがゆっくりと近づく。
体に手が触れた瞬間、ビクッとソフィアは体が震わせ息を吸い込んだ。
だがゲール女兵士の行動は、彼女の想像とは異なるものだった。
「429番、防声具と拘束衣を脱がせます、静かにしなさい」
(えっ)
驚くソフィアから、ゲールの女兵士たちは防声具を外した。
久しぶりに自由になった口で、新鮮な空気を肺に吸い込む。
その間に拘束衣のベルトも外された
「429番、本日をもってあなたの懲罰房での罰を終了します」
そう言うとゲールの兵士は、ソフィアの前に丁寧に畳まれた清潔な囚人服を置いた。
(ほ、本当に、本当に休んでいいの?)
罰が終わったことにソフィアは安堵する。
濡れたタオルで体を拭くと、長時間拘束されていた体に血流が戻っていく。
囚人服を着替えようと立ち上がると、長時間立たされていた脚が震えてきた。
それは脚の疲労によるものだけではない。
ソフィアの蒼い目は、懲罰房の扉に釘付けになっていた。
(これはもしかするとマクダ少尉の罠なのでは?)
あの扉が勢いよく開かれ、また復讐に囚われた女少尉が自分を怒鳴りつけるのではないか。
そう考えるだけでソフィアの心臓は激しく鼓動する。
(ひょっとすると本当はどこかで見張っていて、自分の咎を探しているかもしれない)
妄想がソフィアの恐怖を煽り立てる。
呼吸が荒くなり、彼女の青い目はうろうろ動いた。
「では429番、独房に戻りますよ」
「は、はい」
新しい囚人服に着替えたソフィアが懲罰房から連れ出される。
なぜか手錠も腰縄もされなかった。
疲労と痛みが取れない脚はまだ震えている。
そして懲罰房から出た所で、ソフィアはつまづき転んでしまった。
「あっ!」
廊下にごろりと転がったソフィアは、顔を真っ青にする。
今度こそ懲罰を受けると思ったソフィアは、兵士にすがりついて頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
必死に謝る女囚を見たゲール兵は、目を合わせて首を振った。
そしてソフィアに落ち着いた声で語り掛ける。
「429番、大丈夫か、足が痛むのか? もし動けないなら担架を用意するぞ」
「い、いえっ、だ、大丈夫です、な、何とか歩けます」
どもりながら立ち上がるソフィアに、ゲールの女兵士は肩を貸してくれた。
独房までの道もソフィアを気遣い、ゆっくりと歩いてくれる。
今までの事を考えると、驚くほど丁寧で優しい対応だ。
そんなゲール兵たちに、ソフィアは不気味さを感じた。
(ど、どうしたの、一体)
女看守たちの親切な対応は、独房に到着してからも続いた。
彼女たちはソフィアを独房のベッドに寝かせると
「何か必要なものはないか?」
「体が痛むならすぐに医者に見せるから、看守を呼ぶように」
そう何度も優しく声をかけて気遣った。
常時装着を命じられていた手錠と足枷についても、嵌められることはなかった。
おそるおそるソフィアの方から両手を兵士たちの前に差し出すと、
「429番、もう貴女に独房内での拘束は必要ありません。ただし外での移動時のみは拘束するから、覚えておくように」
そう言って兵士たちは独房から出て行った。
その日からソフィアには穏やかな生活が始まった。
看守は相変わらず親切であるし、些細なことで罰を受けることもなくなった。
その態度にソフィアは訝しみ、そしてある結論に達する。
(ひょっとすると私の処刑の日が決まったのでは?)
そう考えてから、再びソフィアの恐怖の日々が始まる。
兵士の足音が聞こえる度に、心臓が高鳴りが止まらない。
夜が来るたびに今日生き残れたことを神に感謝し、そして明日が来ることに怯える。
(もう嫌だ、助けて)
気が狂いそうになる独房での生活に、ソフィアの精神は次第に病んでいった。
そして限界に達しようとしたある日。
点呼を終わった彼女の独房に、看守の足音が聞こえてきた。
コツ、コツ、コツ
(いつもより人数が多い。点呼は終わったばかりなのに、ま、まさか)
ソフィアの全身の血が冷えわたって、動悸が高まる。
看守が扉を開けた瞬間、彼女は小さく悲鳴を上げた。
「ひ、ひいっ!」
「429番、面会です、独房から出なさい」
面会という言葉を聞いて、ソフィアの体からヘナヘナと力が抜ける。
久しぶりに嵌める手錠と腰縄に戒められて面会室へと向かう。
待っていたのはアレックスであった。
「ソフィア中尉、お久しぶりです」
アクリル板の向こうで敬礼する元部下は、顔一面に満悦の笑みを浮かべていた。
「ど、どうしたの、アレックス上等兵」
「中尉、お喜びください! ゲールの占領軍司令部がバンナ島捕虜殺害事件の判決に、再検討を行うことが決定しました」
「えっ……」
ソフィアはあまりのことに声が出ない。
両手で口を押え、目じりからは涙が溢れている。
「ほ、本当……なの……」
「本当です! これで死刑が覆るのは確実です、助かりますよ、中尉!」
「うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁ」
元部下の前でソフィアは突っ伏して泣き出した。
死刑になってから涙は何度も流した。
だが嬉し涙は初めてだった。
「諦めていたのに、まさか、まさか本当に助かるなんて。あ、ありがとう、アレックス上等兵」
「いえ、僕ではありません。僕は頑張ったけど大して役に立てませんでした」
そう言ってアレックスは、ゲールの新聞をソフィアに見せた。
「ゲール軍を動かしたのはこいつです」
アレックスが読み上げた記事は、アルトリア人の戦犯に対する虐待について書かれたものだ。
記事には裁判の経緯も書かれていて、弁護人のハンス弁護士がいかに不当な判決であるかを強く訴えている。
この記事がきっかけでゲール国内の世論も動き、占領軍司令官のヘルムート元帥直々の命令で裁判が再検討されることに決まったとのことだ。
「この記事に書かれている女の死刑囚って、まさか私?」
「そうです、マクダ少尉が中尉にしたことが、ゲールの新聞社で報道されたんですよ」
記事には問題が発覚したのは『軍関係者の内部告発によって』と書かれている。
その告発者の顔はすぐに思い浮かんだ。
「告発したのは、ルイーゼ伍長ね」
「ええ、写真の隠し撮りをしていたそうです。それでゲール軍も動くしか無くなったようですね」
「彼女が……」
そう呟いた後、ソフィアは心の中で何度もルイーゼに謝った。
(ごめんなさい、最後まで信じられなくて本当にごめんなさい)
ソフィアは再び元部下の前で泣いてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる