女怪盗アクア 電子の監獄

司条西

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5:天海弥生の日常②

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「じゃあね」

「うん、また明日ね」

講義が終わり駅で友人と別れた弥生は、バックから手帳を取り出した。
そこにはターゲットとなる美術館や金持ちの屋敷のリストが並んでいる。

(さて、今日はどこにしようかな)

手帳の上を細い指がつつっと滑る。
飾りっ気はないが整えられた指先は、リストの一番下にある『葉月国際美術館』の所で止まった。

(よし、まだ一度も見に行ったことが無いし、今日はここにしよう)

さっそく電車に乗り込み、最寄り駅へと向かう。
到着するまでスマホで葉月国際美術館のことを調べた。

(へぇ、オーナーはあの葉月火虎なんだ)

葉月火虎は高校1年の時にゲームソフトの開発で起業して成功。
大学時代は稼いだ資金を元に外国のベンチャー企業へと出資し、巨万の富を得たという実業家だ。
その後もテック企業を中心に幾多の投資に成功し、まだ20代ながら日本有数の資産家として知られている。

(若い成功者にありがちな派手な生活とは無縁で、独身なのに女遊びもせず質素な生活をしてると聞いていたけど、最近になって急に美術品を買い集めたらしいわね。いったいどうしたのかしら?)

そう考えをめぐらせていると、隣の座席にいるスーツ姿の男性が読んでいる週刊誌が目に入った。
グラビアアイドルのセクシーな水着写真に、思わず苦笑いする。

(男の人ってああいうのが本当に好きよね、いったい何が面白いのやら……って、えっ、ええっ!!)

弥生の目に飛び込んできたのは、次のページに載っていた怪盗アクアの特集だった。
ビルからビルへ飛び移るために大股を開いている写真や、ワイヤーに掴まって腋を見せている写真など、女怪盗のセクシーショットがこれでもかと掲載されている。

(あぁ、やっぱりアクアって、世間ではこういう扱いなんだ)

己の青いレオタード姿に、弥生はまるで穢れたものでも見るような目を向ける。
すると隣に座っていた男は、急いで雑誌を閉じてカバンの中へとしまった。

「す、すみません」

肩をすぼめて謝る男に、弥生は後ろめたい気分になる。

(あっちゃ~、そういうつもりじゃ無かったんだけどな。そもそも悪いのは雑誌を盗み見した私だし)

電車が駅に到着するまで、弥生は気まずい思いに耐えねばならなかった。
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