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白薔薇から青薔薇

襲撃事件

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 昼から、早速ギルベルトは仕事があると名残惜し気にジークハルトの元に向かった。薔薇園でその事を伝え忘れたと、赤薔薇騎士団と白薔薇騎士団員が揃ってヴェンデルガルトの部屋まで迎えに来たのだ。

「バーチュ王国の第三王子の願いで、紛争が起こりそうな隣国との和解の為ギルベルトとランドルフが仲裁として南に向かう事になったらしいです」
 カールはギルベルトを迎えに来た騎士から聞いた事を、早速ヴェンデルガルトに話した。食後のお茶を用意しながら、カリーナは少し不安げに首を傾げた。
「普通カール様かイザーク様が、ギルベルト様に付いて行かれるのではないですか? もし向こうが武装していたら、危ないと思うのですが」
「ギルベルトの剣の腕は、目が見ない時でもすごかった。目が見えるようになったから、後方支援を任せられるくらい心強いと思う。ランドルフが行くのは、バルシュミーデ皇国皇族代表だからだよ」

「でも、ギルベルトの様があんなにお綺麗な灰色の瞳をしていたなんて知りませんでした。素敵でしたね、ヴェンデルガルト様」
 ビルギットがそう言うと、ヴェンデルガルトは少し赤くなって両手で顔を隠す。
「どうしましょう、ビルギット。私、ギルベルト様に求婚されたの」
「えぇ!?」
 カールが大きな声を上げ、「まぁ」とビルギットは微笑み、カリーナは驚いてティーポットを落としそうになった。
「ダメダメ、俺反対! 俺だって、ヴェンデルガルト様に婚礼を申し込もうと思っていたのに!」
 カールの言葉に、ますますヴェンデルガルトの顔が赤くなる。
「それに、どうもランドルフもヴェンデルガルト様の事を気に入ってるように見える。ヴェンデルガルト様の事を、ヴェンデルと愛称で呼んでいたよね?」
 最初、皆厄介事を自分に任せていたのに。カールは、日頃みんなと仲良くしていたが、ヴェンデルガルトの事では譲るつもりはなかった。目覚めた時から傍に居るのは、自分なのに――他の騎士団長達が彼女を連れて行く度に、カールは歯痒く見送っていたのに。
「カール様も、私の事は呼びやすい様に呼んで下さい」
「え?」
 ヴェンデルガルトにそう言われると、今度はカールが赤い顔になる。
「え? じゃあ――ヴェン、と呼んでも?」
「ええ。勿論構いません、カール様」
 そう言われると、カールは途端嬉しそうに笑って紅茶を一口飲んだ。

「カール様は、随分可愛らしいお方なのですね」
「騎士団の人気者ですから」
 カリーナとビルギットが、小さく笑いながらそう話していた――が、不意にドンドンと部屋のドアが強く叩かれた。
「どなたです?」
「青薔薇騎士団の、副団長のライナーです! ヴェンデルガルト様に至急、お願いがあり参りました!」
 カールは声と名前に覚えがあったので、慌てて立ち上がりドアを開けた。そこには、マントを血で汚した青年が立っていた。走って来たのか、息を切らせている。

「ヴェンデルガルト様、どうぞお力をお貸しください! イザーク団長が……!」
「聞きながら行きましょう、大変な事になっているようですね」
 カリーナとビルギットは、血の匂いに怯えたように表情を強張らせている。立ち上がってライナーの元に向かうヴェンデルガルトは、ライナーを促した。カールも慌ててヴェンデルガルトに付き添う。
「実は東の端の公国に向かう最中に、三体のバウンドが現れまして――不意を突かれ部隊が乱れ、イザーク様が大怪我を負いました」
「バウンドだと!?」
 カールが驚いた顔になる。その名のものが何か分からないヴェンデルガルトは、怪訝そうに眉を寄せる。
獰猛どうもうな魔獣です。東の方に生息しています――何人で応戦したんだ? 他の負傷者は?」
「一名が死亡、三名が大きな怪我を負いました。我々は十名で向かっていました。先ずは、どうかイザーク様を! 俺達を護りながら戦ってくださったので、怪我で今意識が……!」
 早足で歩きながらも、二人は状況を確認し合っている。ヴェンデルガルトは、二人に付いて行くので精一杯だ。

 ライナーに連れられて来たのは、騎士団の医務室だ。医師が大慌てで治療をしているが、呻き声と強い血の匂いが漂っていた。
「ヴェンデルガルト様が来られた!」
 ライナーが叫ぶと、青騎士団員と医師が驚いたようにその声に振り返った。
「私に、治療させてください」
 息を切らしながら、ヴェンデルガルトが大きくそう声にした。ライナーが、急いでイザークの元にヴェンデルガルトを連れて行く。ベッドには、四人の青年が寝かされていた。その中の手前の、瞳を伏せて荒く息を繰り返す青年の前に立つ。肩や腕、足にも切り裂かれた傷があり、出血が多い。
 ヴェンデルガルトはまた血が乾かない彼の手を、ぎゅっと握った。
「私が治します、イザーク様」
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