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青薔薇騎士 イザーク
イザークの噂
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「日を改めて、もう一度行ってくるよ」
「今は、ギルベルトとランドルフがバーチュ王国に向かっている。青騎士団まで留守になると、皇国の守りが不安だ。彼らが帰ってからでいい」
ジークハルトは、イザークの言葉に軽く首を横に振るとそう返した。イザークは血を洗い流して制服を着替え直し、ジークハルトの執務室に来ていた。バウンドに邪魔されて、東の公国の偵察に向かえずにいた報告だ。
「ああ、そっちも揉めてるんだね。じゃあ、僕の怪我は治ったけど疲れてるし、しばらくは城内で休ませて貰うよ」
「――イザーク」
部屋を出ようとするイザークの背に、ジークハルトは声をかけた。
「治癒魔法は、どうだった?」
「――とても気持ちいいよ。癖になる位にね……ねえ、僕だけのものにしてくれない?」
ジークハルトは、溜息を大きく零した。
「カールにランドルフ、ギルベルトまで彼女に夢中だ。騎士団同士でいざこざを起こさないでくれ。賢いお前なら、分かってくれるだろ?」
「僕には関係ないよ」
唇の端を歪めて小さく笑うと、イザークは部屋を出た。浮かない顔で、ジークハルトはその背を見送った。
「ヴェンデルガルト様、今日も贈り物が届いていますよ」
カリーナとビルギットは、大きな荷物を抱えて部屋に入って来た。イザークや青薔薇団の傷から出た血が付着した手を綺麗に洗った後、カールに連れられて部屋に戻って来ていた。すると直ぐに彼はジークハルトに呼ばれて、赤薔薇騎士団の執務室に向かう為に部屋を出て行った。彼を見送りお茶を飲んでいたヴェンデルガルトは、その荷物に驚いてティーカップを置いた。
「ギルベルト様からは、ドレス。ランドルフ様から、アクセサリーや花束ですね」
「お二人は南の国に行かれるので、ヴェンデルガルト様に忘れられ無いようにでしょう。可愛らしい所があるんですね」
ランドルフからの花束を花瓶に活け、ビルギットは微笑んだ。
「カール様が見たら対抗して贈り物をしそうだったので、今お知らせしました」
カリーナが、楽しそうにくすくすと笑う。ビルギットも「本当に」と同意した。ヴェンデルガルトは、今までこの様な沢山の贈り物を貰った事が無いので困惑するばかりだ。
「まあ――ヴェンデルガルト様。青薔薇騎士団長のイザーク様より今晩一緒に食事がしたい、とお手紙がありました。どうお返事しておきましょうか?」
贈り物の中に紛れていたカードを見たビルギットが、ヴェンデルガルトに尋ねた。
「ねぇ、カリーナさん。イザーク様ってどのような方なのでしょう?」
何故か自分を知っているかのような素振りをしていた彼を思い出して、ヴェンデルガルトはカリーナに訊ねた。
「そうですね、不思議なお方です。ギルベルト様と同じく賢いと聞きます。ですが、人の好き嫌いが激しいらしくてあまり仲の良い方はいらっしゃらないみたいです。古文書を読むのがお好きで、あと魔獣の研究もされています」
「そうなんですね――ビルギット、一緒に食事させて頂くと連絡してくれない? でも、こちらで用意する、と念押ししておいてね」
「賢明です」
カリーナはそう頷き、ヴェンデルガルトの前に返事用のカードと筆を用意した。ヴェンデルガルトは丁寧に返事を書き、ビルギットはそれをイザークも元に届けた。
「返事を有難う、ビルギット」
青薔薇団執務室に向かうと、張り付いたような笑顔でイザークは彼女を迎えた。ビルギットは、自分の名前を把握している彼とその笑顔に少し背中に冷たいものが走るのを感じた。
「食前酒はメロ。メインは、フラックを頼めるかな? 多分、ヴェーも気に入ると思うから――ああ、君も多分分からないよね? メロはメロの実のお酒。フラックは、魚だよ。東の方で獲れるんだ。君たちの時代だと、スカーって魚に似ているかな?」
その言葉を聞いて、ビルギットは驚いた。スカーはヴェンデルガルトの好物で、今この国では絶滅したのか知らない魚だとカリーナに教えられた。スカーを知っているのは古文書が好きだと聞いていたからあり得るかもしれないが……ヴェンデルガルトの好物だと知っている事が、ビルギットには不思議に思えたのだ。
「承知いたしました、ご用意いたします」
深々と頭を下げて、ビルギットはヴェンデルガルトの部屋に急いで戻った。何故か、イザークの青い瞳が怖かった。
「そう言えば、イザーク様には変な噂がありました」
「噂?」
「千年生きている――そう、言われています」
カリーナの言葉に、ヴェンデルガルトは驚いたように息を飲んだ。
「今は、ギルベルトとランドルフがバーチュ王国に向かっている。青騎士団まで留守になると、皇国の守りが不安だ。彼らが帰ってからでいい」
ジークハルトは、イザークの言葉に軽く首を横に振るとそう返した。イザークは血を洗い流して制服を着替え直し、ジークハルトの執務室に来ていた。バウンドに邪魔されて、東の公国の偵察に向かえずにいた報告だ。
「ああ、そっちも揉めてるんだね。じゃあ、僕の怪我は治ったけど疲れてるし、しばらくは城内で休ませて貰うよ」
「――イザーク」
部屋を出ようとするイザークの背に、ジークハルトは声をかけた。
「治癒魔法は、どうだった?」
「――とても気持ちいいよ。癖になる位にね……ねえ、僕だけのものにしてくれない?」
ジークハルトは、溜息を大きく零した。
「カールにランドルフ、ギルベルトまで彼女に夢中だ。騎士団同士でいざこざを起こさないでくれ。賢いお前なら、分かってくれるだろ?」
「僕には関係ないよ」
唇の端を歪めて小さく笑うと、イザークは部屋を出た。浮かない顔で、ジークハルトはその背を見送った。
「ヴェンデルガルト様、今日も贈り物が届いていますよ」
カリーナとビルギットは、大きな荷物を抱えて部屋に入って来た。イザークや青薔薇団の傷から出た血が付着した手を綺麗に洗った後、カールに連れられて部屋に戻って来ていた。すると直ぐに彼はジークハルトに呼ばれて、赤薔薇騎士団の執務室に向かう為に部屋を出て行った。彼を見送りお茶を飲んでいたヴェンデルガルトは、その荷物に驚いてティーカップを置いた。
「ギルベルト様からは、ドレス。ランドルフ様から、アクセサリーや花束ですね」
「お二人は南の国に行かれるので、ヴェンデルガルト様に忘れられ無いようにでしょう。可愛らしい所があるんですね」
ランドルフからの花束を花瓶に活け、ビルギットは微笑んだ。
「カール様が見たら対抗して贈り物をしそうだったので、今お知らせしました」
カリーナが、楽しそうにくすくすと笑う。ビルギットも「本当に」と同意した。ヴェンデルガルトは、今までこの様な沢山の贈り物を貰った事が無いので困惑するばかりだ。
「まあ――ヴェンデルガルト様。青薔薇騎士団長のイザーク様より今晩一緒に食事がしたい、とお手紙がありました。どうお返事しておきましょうか?」
贈り物の中に紛れていたカードを見たビルギットが、ヴェンデルガルトに尋ねた。
「ねぇ、カリーナさん。イザーク様ってどのような方なのでしょう?」
何故か自分を知っているかのような素振りをしていた彼を思い出して、ヴェンデルガルトはカリーナに訊ねた。
「そうですね、不思議なお方です。ギルベルト様と同じく賢いと聞きます。ですが、人の好き嫌いが激しいらしくてあまり仲の良い方はいらっしゃらないみたいです。古文書を読むのがお好きで、あと魔獣の研究もされています」
「そうなんですね――ビルギット、一緒に食事させて頂くと連絡してくれない? でも、こちらで用意する、と念押ししておいてね」
「賢明です」
カリーナはそう頷き、ヴェンデルガルトの前に返事用のカードと筆を用意した。ヴェンデルガルトは丁寧に返事を書き、ビルギットはそれをイザークも元に届けた。
「返事を有難う、ビルギット」
青薔薇団執務室に向かうと、張り付いたような笑顔でイザークは彼女を迎えた。ビルギットは、自分の名前を把握している彼とその笑顔に少し背中に冷たいものが走るのを感じた。
「食前酒はメロ。メインは、フラックを頼めるかな? 多分、ヴェーも気に入ると思うから――ああ、君も多分分からないよね? メロはメロの実のお酒。フラックは、魚だよ。東の方で獲れるんだ。君たちの時代だと、スカーって魚に似ているかな?」
その言葉を聞いて、ビルギットは驚いた。スカーはヴェンデルガルトの好物で、今この国では絶滅したのか知らない魚だとカリーナに教えられた。スカーを知っているのは古文書が好きだと聞いていたからあり得るかもしれないが……ヴェンデルガルトの好物だと知っている事が、ビルギットには不思議に思えたのだ。
「承知いたしました、ご用意いたします」
深々と頭を下げて、ビルギットはヴェンデルガルトの部屋に急いで戻った。何故か、イザークの青い瞳が怖かった。
「そう言えば、イザーク様には変な噂がありました」
「噂?」
「千年生きている――そう、言われています」
カリーナの言葉に、ヴェンデルガルトは驚いたように息を飲んだ。
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