二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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南の国の戦

ビルギットの想いとランドルフの危機

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「……私も、父が戦争で亡くなりました。苦労して育ててくれた母に、恩返ししたくて仕事を頑張っています」
 あふれる涙を掌で拭いながら、カリーナはそう言った。
「西の国と、大きな戦があったんです。騎士や兵士では足りず、民間人からも沢山兵を募りました。俺はその頃東の国にいて、傭兵募集に父が申込み戦に参加して爵位も何とか頂けました」
 ヴェンデルガルトが眠る前、戦争はなかった。他国とのもめ事はあったが、戦争までなかったのは――古龍がいたからだろう。
 ヴェンデルガルトがハンカチでカリーナの涙を拭き、落ち着けさせるように背中を撫でた。騎士団の年齢層が若い理由が、分かった気がする。

「お茶のお替りを持ってきます」
 泣いた顔が恥ずかしいのか、カリーナがポットを持って部屋を出て行った。話しの最中も、ビルギットはじっとロルフを見つめていた。感情的ではないヴェンデルガルトは落ち着いてロルフを見て、やはりルーカスではないと分かる。しかし恋したまま離れたビルギットは、どうしてもルーカスと思いたいのだろう。
 古龍と出会いたいと思っている自分の姿と重なり、ヴェンデルガルトはビルギットの想いを理解して見守る事にした。
「ロルフは、東の国で育ったの? お父様が十年前の戦争でこちらに来たと聞きましたが」
 ビルギットの為にも、ロルフの話を聞こうと彼に話を振った。ロルフは頬張ったクッキーを食べ終わってお茶をひと口飲んでから、ヴェンデルガルトに視線を向けた。
「俺は東の国と言っても、レーヴェニヒ王国のような大きな国ではなく、少し離れた小さな国で育ちました。貴族と言っても貧しい男爵家で、それなら母の実家の方を頼ろうとこの国に来ました。俺も成人して騎士の試験に受かり、何とか家への仕送りも出来て助かってます」
 十年前の戦で爵位を貰っても、ロルフは東の国から来た身で土地なども満足に与えられなかったのだろう。
「苦労したのですね。でも、あなたの頑張りは神が見ていますわ」
「そうだと嬉しいです」
 ロルフはにっこりと笑い、再びお茶を口にした。自然に接すると言ったものの、ビルギットの視線を真っ直ぐに受けて、動揺しているようだ。

「大変です!」
 お茶のお替りの入ったポットを手に、カリーナが慌てて部屋に入って来た。
「ギルベルト様とランドルフ様はあともう少しで我が国に到着されるそうですが――国を出る際、何者かに襲われてランドルフ様が大怪我を追われたそうです!」
「まあ、大変!」
 ヴェンデルガルトは口元を手で覆って、立ち上がった。ロルフも驚いた顔をしている。
「何とか急いでこちらに戻っているようで、先程の白薔薇騎士の様に知らせの馬が先に到着しました。今、赤薔薇騎士団と黄薔薇騎士団、青薔薇騎士団の方が話し合をされているそうです――城内が、今この話でもちきりです」
 ヴェンデルガルトは、大怪我をしたというランドルフの事が心配で、カリーナに訊ねた。
「ジークハルト様たちは、何処で話しているのかしら?」
「多分、ジークハルト様の執務室だと思います」
 その言葉を聞くと、慌ててヴェンデルガルトは部屋を飛び出した。ロルフが慌ててヴェンデルガルトの後を追いかけていく。
「ヴェンデルガルト様、部屋にお戻りください!」
「駄目よ、私も話を聞くわ。ランドルフ様を見捨てる事なんて出来ないわ!」

 ジークハルト様の執務室に来ると、カールやイザークがびっくりした顔でヴェンデルガルトを見つめている。
「ヴェー、今は少し大変な話し合いなんだ。部屋でゆっくりしててくれないかな?」
 イザークはそう声をかけるが、ヴェンデルガルトは黙ったままヴェンデルガルトを見つめるジークハルトを見返した。
「私、ランドルフ様を助けに行きます!」
「ヴェンデル、駄目だよ。危ない」
 カールがヴェンデルガルトの肩を抱いて止めるが、ヴェンデルガルトは首を振った。
「駄目だ、ヴェンデルガルト嬢。追手が来ているかもしれない。君をそんな危険な所に向かわせる事は出来ない」
 ジークハルトがはっきりそう言うが、ヴェンデルガルトは引き下がらなかった。
「ランドルフ様に何かあっては、国の一大事です! 私なら、助ける事が出来ます。絶対に、助けます!」
 聞いた事が無い、ヴェンデルガルトの強い声だった。更にそれは正論で、みんな何も言えなくなる。皇子であるランドルフが命を落とす事になれば、三国間の戦争にバルシュミーデ皇国も敵討ちという名で参戦せざるを得ない。

「――騎士団や軍の装備で行っては、大事になるかもしれない。すぐに、貿易の旅団に扮したものを用意しろ。それで、ヴェンデルガルト嬢をランドルフの元に送る」
 ジークハルトの言葉に、カールとイザークが驚いた顔になる。
「そんな危険な事、反対だよ!」
「ジークハルト、正気なの!?」

「俺は――ヴェンデルガルト嬢を信じる。彼女しか、ランドルフを助けられない」
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