二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
62 / 125
南の国の戦

仲良くしましょ

しおりを挟む
「バルドゥルが、ヴェンデルガルトちゃんを知って、手を出してくるかもしれないのよ。あの子のハーレムに入れられたら、ちょっと面倒な事になるのよねぇ」
「は、ハーレム!?」
 ヴェンデルガルトは、驚いたように隣のアロイスにしがみついた。安心させるように、アロイスはヴェンデルガルトの頭を反対側の手で撫でた。
「醜い女の争いばかりの所にあなたを巻き込みたくないし、バルドゥルに汚されるのも困るし。アロイスが安心して使者として国を出ていけるように、あたしが護っちゃうわ」
「よろしくお願いします、兄上。必ず同盟を結び、早く帰ってきます」
「ツェーザル様は、内政やら国が攻撃されるときの対応でお忙しいのではないのでしょうか? 私の護衛なんて、申し訳ないです」
 ヴェンデルガルトは、ジークハルトを思い出した。彼も忙しい身でありながら、自分を守っていてくれた。
「いいのよ、むしろそうさせて欲しいの。いずれ愚弟は処分をすると決めているから、先に処分した方が早いんだけど……アンゲラー王国に寝返って情報を漏らされたら怖いから、この戦いが終わるまで延期しているのよ。だから、あなたを護らせて頂戴?」
 ウィンクされて、ヴェンデルガルトは頷くしかなかった。
「あなたは何も悪くないんだから、気にしないでね。それより、早く食べないと冷めちゃうわ」
「そうですね、頂きましょう」
 それから三人は食事を始めた。食事の間にもツェーザルは楽しませる話を沢山して、ヴェンデルガルトは沢山笑った。アロイスが信頼している人物だから、警戒していないようだった。

「旅の準備と、仮眠をしてヘンライン王国まで南下する。帰ってきたら、また傍にいるから――寂しい思いをさせてすまない」
 食事が終わると、使用人が片付けに来た。ツェーザルと共に立ち上がったアロイスは、ヴェンデルガルトに申し訳なさそうな顔をした。ヴェンデルガルトも、慌てて立ち上がる。
「いいえ……旅の無事をお祈りしています」
「そうよ、さっさと行って帰ってきなさい。でないと、ヴェンデルガルトちゃんはあたしが貰うわよ?」
 ツェーザルが、ヴェンデルガルトの肩を抱いて楽しそうに笑った。アロイスは、そんな兄を軽く睨んだ。
「兄上には、許嫁いいなづけがいるではないですか。兄貴みたいな事をしないでください」
「いやぁね、冗談じゃない。これぐらいの冗談で、カリカリしないでよ」
 ねぇ? と、ツェーザルはヴェンデルガルトに笑いかけた。
「それぐらい、彼女が大事なんです」
「あら、アロイスったら可愛らしい事言うのね」
 言ったアロイスも、ヴェンデルガルトも赤くなる。ツェーザルは、くすくすと笑ってヴェンデルガルトから手を離すと、先に歩き出した。
「おやすみ、ヴェンデルガルトちゃん。明日から、仲良くしましょ。念の為、部屋の前にあたしの兵を置いて、見張らせておくから安心してね」
 ひらひらと手を振って、ツェーザルは行ってしまった。
「私、何処にいても守られてばかりで……ごめんなさい、迷惑をおかけして」
 ヴェンデルガルトは、アロイスに申し訳なさそうに頭を下げた。バルシュミーデ皇国でも、五人の薔薇騎士団に守られてばかりで――眠る前には、コンスタンティンにもずっと護られていた。そんなに守られる程、自分は特別な存在なのか彼女自身には分からなかった。
「謝るな――俺が望んだ事だ」
 アロイスの言葉に、ヴェンデルガルトは顔を上げた。アロイスは真面目な顔で、ヴェンデルガルトを見つめていた。龍族の名残の、赤い瞳で。
「出逢った時に――分かったんだ。俺は、お前に恋をすると。お前に会う為に、俺は生きてきたんだと。だから、お前を護る事は俺の喜びだ」
 アロイスは腕を伸ばして、ヴェンデルガルトの頬を撫でた。柔らかくて滑らかで、甘い香りがする。
「急いで帰って来る。それまで、待っていてくれ。戦争を早く終わらせるために、俺は行ってくる」
「分かりました、お気をつけ――」

 ヴェンデルガルトの言葉は、そこで途切れた。アロイスが身を屈めて、ヴェンデルガルトの唇に自分の唇を重ねたのだ。そっと、かすめる様に。

「行ってくる――愛している、ヴェンデル」
 名残惜し気にヴェンデルガルトの顔を見つめて、アロイスはきびすを返すと部屋を出て行った。赤い顔のヴェンデルガルトは、へなへなと床に腰を落としてしまった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...