二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

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南の国の戦

フロレンツィアの怒り

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 ヴェンデルガルトが帰ってくることと、アンゲラー王国が滅亡した報告はバルシュミーデ皇国へ伝令がすぐに届けられた。ヘンライン王国を護った騎士団の勇敢な行動に皇国の民は喜び、騎士が帰ってくる時に向けて小さな祭りが開かれる事になった。

「どういう事なのよ! 婚約者の執務室は出禁になるし、知らない間にあの金髪の悪魔を迎えに行ってるなんて! 弟のあんたが説明しなさい!」
 ランドルフの執務室で、フロレンツィアが金切り声を上げていた。ランドルフは不機嫌そうに眉を顰めると、紫薔薇騎士に視線を送った。彼は、執務室のドアを開けた。
「俺は忙しい。お前の下らねぇ話を聞く時間はねぇんだよ。出ていけ」
「何よ! あんたもあの悪魔の虜なんでしょ!? 女に手を出しまくって遊んでいた男が、なんて情けない。とにかく、あの女をジークハルト様に近付けないで! わたくしが婚約者なのよ! 私が未来の皇妃なんだから!」
 ドン! と、大きな音を立ててランドルフが机の上に足を投げ出した。その大きな音に、フロレンツィアの付き添いのメイドが身を震わせた。ランドルフが怒っているのは、フロレンツィア以外の人物には分かっていた。

「お前、たかが公爵令嬢だろう。俺も兄貴も、皇族だ。口の利き方には気を付けろ」

 静かに、ゆっくりとランドルフはそう言って腰に下げた剣を鞘から抜いた。鈍い光を放つ剣に、メイドたちは怯えていた。
「でも、私は婚約者で――」
「同じことを言わせるな。俺に命令が出来るのは、皇帝と兄貴とヴェンデルガルトだけだ。さっさと消えろ、女狐」
 ランドルフが剣をフロレンツィアに向けてそう言った。メイドは「失礼しました!」と慌ててフロレンツィアを引っ張り、ランドルフの執務室を出て行った。

「お疲れ様でございます」
 ランドルフの横で黙ったまま立っていた副団長のアルバンがそう言ってから、言葉を続けた。
「足を降ろしてください。品がないですよ」
 仕方なく、ランドルフは足を降ろした。そうして、深々と溜息を零しながら剣を鞘に戻した。
「毎日毎日、あの金切り声を聞く身になってくれ。疲れた、茶を頼む」
 騎士団の一人が、部屋を出て行った。ジークハルト達がヴェンデルガルト奪還で城を出て行ってから、しばらくはジークハルト不在を隠せていた。しかし、出禁を言われていたフロレンツィアが勝手にジークハルトの執務室に入って、彼が居ない事が城中に知られた。

「ジークハルトは、カールとイザークを連れてヘンライン王国を助けに向かいました。これは、皇帝の命でもあります」
 とギルベルトが発表する事になり、第一王子の行方不明という不安を抱いていた城の者は落ち着いた。しかし、それが余計にフロレンツィアの怒りに火が付いた。毎日ランドルフの元に来て、ジークハルトを直ぐに国に返せと怒鳴り騒いだ。

「そうだ――あのメイドたち……ビルギット達にも、帰還予定を教えてやってくれ。毎日気丈に振舞っているが、不憫だ。無事帰ってくることが分かったら、元気になるだろう」
 先ほど部屋を出て行った騎士が、お茶をランドルフの机に置いた。アルバンは、少しおかしそうに笑った。
「ランドルフ様も、不器用な方ですね。彼女達を気遣って、ヴェンデルガルト様が不在の間ギルベルト様の世話をするように命じて、仕事をさせて気を紛らわせていた。そうして、お菓子やら差し入れをして、気に掛けていたではありませんか。ご自分で伝えればよろしいのに」
「ヴェンデルガルトの為だ。あいつらが元気じゃねぇと、帰って来たヴェンデルガルトが心配するじゃねぇか。ギルベルトも、気に病んでいたからな」
 負傷したのは、自分の責任だ。それなのに、それすらもギルベルトは自分のせいだと落ち込んでいた。そんな状態で、目の前でヴェンデルガルトが連れ去られた。ヴェンデルガルトが無事だという報告を受けるまで、彼は食事にはほとんど手を付けなかった。
「帰って来るまで、あと三日ほどだ。仕方ねぇな、ギルベルトの執務室に向かう」
 お茶を一息に飲んで、「お行儀悪いですよ」と叱るアルバンに軽く手を振り、ランドルフは自分の執務室を出て行った。

 早く、あの笑顔が見たい。

 ヴェンデルガルトが帰ってくることを心待ちにしているのは、自分も同じだ。あの花の様な可憐なヴェンデルガルトが、無事に帰って来る――迎えに行きたい気持ちを、ぐっと我慢していた。
 ギルベルトもメイドたちも、喜ぶだろう。ヴェンデルガルトがいない城は、色褪せていた。
「花にドレスに――何を送れば喜ぶだろうか」
 ランドルフは、自然笑みを浮かべていた。そうしてギルベルトの執務室に向かい、丁度メイドたちもいたので帰還予定日を知らせた。
 ギルベルトはホッとした顔を浮かべて、メイドたちは泣いて喜んだ。

 バルシュミーデ皇国は、フロレンツィアの一派を除いて彼らの帰りを心から喜び待っていた。
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