111 / 125
陰謀
ヴェンデルガルトがすべき事
しおりを挟む
朝食を食べ終えたヴェンデルガルトの元に、白薔薇騎士副団長のエルマーが現れた。
「……との事で、少女から話を聞きだす時にお傍にいて欲しいのです。勝手な申し出とは承知ですが、我々はヴェンデルガルト様しか頼れない状態です」
「いいのですよ、頭を上げて下さい。私はこの国の為にお役に立つなら、ぜひ協力させて頂きます。その女性も心配ですし」
ヴェンデルガルトは笑顔を浮かべて、ビルギットとロルフを振り返った。
「行きましょう。ロルフ、カリーナのお土産は買ってきてくれた?」
「ええ、勿論です」
なるべく人の目に入らないように気を付けながらエルマーに続いて、ヴェンデルガルトはビルギットとロルフを連れて医務室に向かった。
「あ、ヴェンデルガルト様!」
医務室の前に立つ騎士に頭を下げてから部屋に入ったヴェンデルガルトを、カリーナは眠そうな目ですぐに見つけた。
「まあ、カリーナ寝てないの?」
それに気付いたのは、ビルギットだ。心配そうに、カリーナに駆け寄った。
「このお方が何時目覚めても大丈夫なように……起きてました。でも、余程お疲れの様か起きる様子がないですね」
ごしごしと目を擦りながら、カリーナはそう言うと小さく欠伸をした。
「私たちがいるから、少し寝て? カリーナまで調子が悪くなると、心配だわ」
ベッドで寝ている少女は、まだ起きる様子がない。その隣のベッドに、ビルギットはカリーナを寝かせた。
「では……お言葉に甘えまして……おやすみなさい」
カリーナは、本当に眠かったのだろう。言いながらすぐに寝てしまった。その彼女に自分のショールをかけたヴェンデルガルトは、困った様にエルマーを見た。
「カリーナ一人では、お世話は大変だと思うのです。他に、信頼出来るメイドはいないのでしょうか?」
「……お恥ずかしい事です。ジークハルト様から説明があると思いますが、今我が国は……誰が味方で誰が敵なのか、分からない状態なのです。本当に信頼出来る者は、皇帝や皇族の傍にいます。足りないのです……」
その言葉は、二百年前に滅びたバッハシュタイン王国を彷彿とさせた。今度は、自分が起きている時に謀反が起きる。王国を滅ぼした皇国が、誰かにまた攻められる――南の国で起きたような、あの恐ろしい戦争が始まる。そう考えると、ヴェンデルガルトは身を震わせた。
「分かりました、出来る限り私も手伝います。ビルギットも――」
「勿論です、ヴェンデルガルト様。私は何時でも、ヴェンデルガルト様の為に頑張ります」
「感謝します――本当に、あなたは女神です」
エルマーは片膝をついて、ヴェンデルガルトに頭を下げた。
「この子の身元は、分かったの?」
「失礼――ヴェンデルガルト嬢、おはよう。すまない、まだ治りきっていない君に頼みごとをして」
ノックと共に、ジークハルトとランドルフが入って来た。
「おはよう、ヴェンデル。身体はどうだ?」
「おはようございます、ジークハルト様、ランドルフ様。私の体調は、問題ないので気にしないでください。出来る限り、お手伝いさせて頂きますね」
「感謝する――彼女は、カンナビヒ子爵の二女のクラーラだ。ラムブレヒト公爵邸で社交界の勉強をする為預けた、という事らしい。沢山の令嬢にお教えできないから内密に、と言われていたそうだ」
「……なんてひどい事を」
ランドルフがヴェンデルガルトの横に座ると、優しく彼女の肩を抱いた。ヴェンデルガルトの顔が、青くなり倒れないか心配したのだ。
「他に何人いるか、身元が分かるか――彼女から聞き出したい。下手に踏み込んで、地下牢にいる彼女たちの身に危険があったら、助けられない」
誘拐された令嬢たちを心配しているジークハルトの言葉に、ヴェンデルガルトはホッとした。助けない、と言われたらどうしようかと悩んでいたのだ。
「しかし――まだ、起きそうにないな」
少女は、ぐっすりと寝ている。余程疲労していたのだ。
「しばらくは、私はここで過ごします。カリーナ一人では大変ですので……皆様、調べる事など沢山あるのではないですか? どうぞ、この子は私にお任せください」
しっかりとした声音で、ヴェンデルガルトはジークハルトとランドルフにそう言った。確かに、ラムブレヒト公爵と娘であるフロレンツィアの事で調べる事は沢山あった。
「助かるよ。兄貴、ヴェンデルに任せよう、早めに行動しねぇと先に向こうが行動するかもしれねぇ。今は、ヴェンデルに助けて貰おう」
ランドルフはヴェンデルガルトの頭を撫でると、兄に視線を向けた。ビルギットも傍にいるし、ロルフが必ず傍にいる。国を立て直すためにも、ラムブレヒト公爵をしっかり調べて処分しなければならない。
「分かった。だが、何かあれば必ず薔薇騎士団に報告してくれ――君の事は、本当にみんなが大事に思っている。無理をしないでくれ」
ジークハルトの言葉に、ランドルフも同意と言うように頷いた。
「はい。どうぞ、この国をお守りください」
ヴェンデルガルトは、優しく微笑んだ。
「……との事で、少女から話を聞きだす時にお傍にいて欲しいのです。勝手な申し出とは承知ですが、我々はヴェンデルガルト様しか頼れない状態です」
「いいのですよ、頭を上げて下さい。私はこの国の為にお役に立つなら、ぜひ協力させて頂きます。その女性も心配ですし」
ヴェンデルガルトは笑顔を浮かべて、ビルギットとロルフを振り返った。
「行きましょう。ロルフ、カリーナのお土産は買ってきてくれた?」
「ええ、勿論です」
なるべく人の目に入らないように気を付けながらエルマーに続いて、ヴェンデルガルトはビルギットとロルフを連れて医務室に向かった。
「あ、ヴェンデルガルト様!」
医務室の前に立つ騎士に頭を下げてから部屋に入ったヴェンデルガルトを、カリーナは眠そうな目ですぐに見つけた。
「まあ、カリーナ寝てないの?」
それに気付いたのは、ビルギットだ。心配そうに、カリーナに駆け寄った。
「このお方が何時目覚めても大丈夫なように……起きてました。でも、余程お疲れの様か起きる様子がないですね」
ごしごしと目を擦りながら、カリーナはそう言うと小さく欠伸をした。
「私たちがいるから、少し寝て? カリーナまで調子が悪くなると、心配だわ」
ベッドで寝ている少女は、まだ起きる様子がない。その隣のベッドに、ビルギットはカリーナを寝かせた。
「では……お言葉に甘えまして……おやすみなさい」
カリーナは、本当に眠かったのだろう。言いながらすぐに寝てしまった。その彼女に自分のショールをかけたヴェンデルガルトは、困った様にエルマーを見た。
「カリーナ一人では、お世話は大変だと思うのです。他に、信頼出来るメイドはいないのでしょうか?」
「……お恥ずかしい事です。ジークハルト様から説明があると思いますが、今我が国は……誰が味方で誰が敵なのか、分からない状態なのです。本当に信頼出来る者は、皇帝や皇族の傍にいます。足りないのです……」
その言葉は、二百年前に滅びたバッハシュタイン王国を彷彿とさせた。今度は、自分が起きている時に謀反が起きる。王国を滅ぼした皇国が、誰かにまた攻められる――南の国で起きたような、あの恐ろしい戦争が始まる。そう考えると、ヴェンデルガルトは身を震わせた。
「分かりました、出来る限り私も手伝います。ビルギットも――」
「勿論です、ヴェンデルガルト様。私は何時でも、ヴェンデルガルト様の為に頑張ります」
「感謝します――本当に、あなたは女神です」
エルマーは片膝をついて、ヴェンデルガルトに頭を下げた。
「この子の身元は、分かったの?」
「失礼――ヴェンデルガルト嬢、おはよう。すまない、まだ治りきっていない君に頼みごとをして」
ノックと共に、ジークハルトとランドルフが入って来た。
「おはよう、ヴェンデル。身体はどうだ?」
「おはようございます、ジークハルト様、ランドルフ様。私の体調は、問題ないので気にしないでください。出来る限り、お手伝いさせて頂きますね」
「感謝する――彼女は、カンナビヒ子爵の二女のクラーラだ。ラムブレヒト公爵邸で社交界の勉強をする為預けた、という事らしい。沢山の令嬢にお教えできないから内密に、と言われていたそうだ」
「……なんてひどい事を」
ランドルフがヴェンデルガルトの横に座ると、優しく彼女の肩を抱いた。ヴェンデルガルトの顔が、青くなり倒れないか心配したのだ。
「他に何人いるか、身元が分かるか――彼女から聞き出したい。下手に踏み込んで、地下牢にいる彼女たちの身に危険があったら、助けられない」
誘拐された令嬢たちを心配しているジークハルトの言葉に、ヴェンデルガルトはホッとした。助けない、と言われたらどうしようかと悩んでいたのだ。
「しかし――まだ、起きそうにないな」
少女は、ぐっすりと寝ている。余程疲労していたのだ。
「しばらくは、私はここで過ごします。カリーナ一人では大変ですので……皆様、調べる事など沢山あるのではないですか? どうぞ、この子は私にお任せください」
しっかりとした声音で、ヴェンデルガルトはジークハルトとランドルフにそう言った。確かに、ラムブレヒト公爵と娘であるフロレンツィアの事で調べる事は沢山あった。
「助かるよ。兄貴、ヴェンデルに任せよう、早めに行動しねぇと先に向こうが行動するかもしれねぇ。今は、ヴェンデルに助けて貰おう」
ランドルフはヴェンデルガルトの頭を撫でると、兄に視線を向けた。ビルギットも傍にいるし、ロルフが必ず傍にいる。国を立て直すためにも、ラムブレヒト公爵をしっかり調べて処分しなければならない。
「分かった。だが、何かあれば必ず薔薇騎士団に報告してくれ――君の事は、本当にみんなが大事に思っている。無理をしないでくれ」
ジークハルトの言葉に、ランドルフも同意と言うように頷いた。
「はい。どうぞ、この国をお守りください」
ヴェンデルガルトは、優しく微笑んだ。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる