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解決編
その5
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「わたしには、分かってた!!あなたは心の底ではずっとあの女の事を愛していたのよっ!今は自分を誤魔化しているだけっ!いつかあなたはきっとその事に気づいてしまう。そしたらわたしはー。あの女が生きてる限りわたしは常にあなたを失う不安に怯えながら暮らさなきゃいけない。もうーっ、こんなのうんざりよっ!!!」
近づこうとする俺を拒否するみたいに身を縮こまらせながらも自らの思いの丈をこちらに向かって叫び続けるなな子。
そんななな子に対して俺は甲板上で呆然と立ちすくみ、ただあんぐりと口を半開きにしながら、彼女の言葉を聞くしかなかった。
そんな俺たち夫婦の間に割り込む様に俺の側にいた山形刑事が口を挟んできた。
「なな子さん。あなたのアリバイ作りに関与した連中からはもうすでに証言を得ています。彼らは全員、自白しましたよ。まぁ、アリバイの仕組みがバレたからにはもうどうしようも無いですからな。流石にあなたをかばい切る事は出来なかったんでしょう。あなたの父親の大徳寺一郎氏も含めてねー」
それを聞いた俺の心に更なる衝撃が走る。
まさかお義父さんまでもが今回の事件に関与していたとはー。
あまりの事に甲板上に倒れそうになっている俺を横目に山形刑事は少し離れた場所で本田刑事と一緒にいるなな子に向かって静かに声をかける。
「さぁ、そろそろ一緒に警察署に行きましょう、奥さん。取り調べを受けて下さい。あっ、もちろんその前に、弁護士を呼んでいただいてもいいですよ」
山形刑事がそう言うとなな子の側にいる本田刑事は彼女の肩にそっと片手を載せた。
「それじゃ、行きましょうか、奥さん。俺が署まで付き添いますので」
そして、なな子を背後から支える様な姿勢を取りながら彼女と共にこの場を去ってゆく。
俺は本田刑事と共に背中を見せながら甲板上を歩きここから階下に向かって立ち去ろうとしているなな子を見やりそんな彼女に対して後ろから声をかける。
「なな子っ!!」
すると、なな子か肩をビクンと震わせ一瞬その足を止める。
俺はそのなな子に対し背後から更に声をかけた。
「俺、待ってる!いつまでも、待ってるからな!!」
しかしなな子はこちらを振り返る事もなくその顔を深く俯かせると本田刑事に肩を抱かれながらこの場から去って行く。
やがて二人の姿は俺たちがこの偽物の甲板の上に出る時にそこを通過した階下へと通じる螺旋階段のとば口がその中にある四角い出入り口の奥へとゆっくりと消えていった。
「なな子ー」
甲板上にポツンと残された俺はしばしの間、なな子が本田刑事と共にそこに消えていった船の内部へと通じる四角い出入り口をじっと見つめていたがやがてそんな俺の方に俺と同じくこの場所に残った山形刑事が音もなく静かに近づいて来た。
「お気持ちお察しします、野原伸太さん。あなたにはさぞショックだった事でしょう。でも、野原さん。あなたの慰めになるかどうかは分かりませんがこれだけは言わせて下さい。あなたの奥さんは本当にあなたの事を愛していたのですよ。心からね。だから、こんな事件を起こしたのです」
俺は山形刑事の言葉に首を振ると逆に彼に向かって問いを発した。
「愛ですか・・・。でも、いくらなんでも人を殺すだなんてー。しかも、あいつみたいに恵まれた人間がこんな事件を起こすだなんて俺にはとても信じられません。なな子は才色兼備の上に家もすごい資産家だし誰しもが羨む立場のはずです。それなのにこんな事をしてー。全てが台無しじゃないですか」
しかし、山形刑事は俺のそんな言葉に首を振ると、何故か俺の方を真っ直ぐに見つめてから言った。
「そこが、人間の不思議な所でしょうね。一見恵まれている様でも一皮剥けば焦燥感にかられ苦しんでいる人間は大勢います。奥さんもそんな哀しい人間の一人だったのかもしれませんな。きっと、全てを犠牲にしてでも手に入れたいものが彼女にはあったのだと思います」
一瞬、俺は何だかデジャブみたいな奇妙な気持ちを感じたが、それを押し殺して近くに立つベテラン刑事に聞いた。
「それって、一体何ですか?彼女が手に入れたかったものと言うのはー」
すると、山形刑事は俺に最敬礼をするとその最中に片目をつむりながら言った。
「あなたの心です」
そして、彼は俺にくるりと背を向けるとそのまま後ろを振り返りもせずに甲板上を歩きなな子と本田刑事がそこから消えていったこの船を模した建物の階下へと通じる四角い出入り口の中へと自分も去って行く。
その姿は周りの非日常的な光景ともあいまってまるで主題歌が流れる映画のラストシーンであるかの様で俺はまたしても強い既視感を感じた。
そして、今度も置いてきぼりを食った俺が周りを見回すと何組かの家族とカップルがこのまがい物の船の甲板の上でたむろしており何やら楽しげであった。
俺はもう一度船の舳先の方へ身体を振り向かせると足元から生えた白い欄干へと手を伸ばしそれに前のめりとなってぐったりと寄りかかる。
俺が両手でその白い欄干を掴みながら前を見ると相変わらず船の舳先には前方に広がる海から白い波がとうとうと押し寄せていた。
その雄大ではあるが造り物の景色を眺めながら俺はふと考える。
俺はどこで道を間違えたのだろうかと。
今もまだ俺の目には自分が乗るこの船が波をかき分けながら広い海の上を真っ直ぐに前へ前へと突き進んでいる様に見えた。
だけど実際には俺は一歩も前へなど進んではいなかった。
そう、この偽りの船と同じ様にー。
まさしく、それこそが愚かなこの俺の「蒼き航路」であった。
[完]
近づこうとする俺を拒否するみたいに身を縮こまらせながらも自らの思いの丈をこちらに向かって叫び続けるなな子。
そんななな子に対して俺は甲板上で呆然と立ちすくみ、ただあんぐりと口を半開きにしながら、彼女の言葉を聞くしかなかった。
そんな俺たち夫婦の間に割り込む様に俺の側にいた山形刑事が口を挟んできた。
「なな子さん。あなたのアリバイ作りに関与した連中からはもうすでに証言を得ています。彼らは全員、自白しましたよ。まぁ、アリバイの仕組みがバレたからにはもうどうしようも無いですからな。流石にあなたをかばい切る事は出来なかったんでしょう。あなたの父親の大徳寺一郎氏も含めてねー」
それを聞いた俺の心に更なる衝撃が走る。
まさかお義父さんまでもが今回の事件に関与していたとはー。
あまりの事に甲板上に倒れそうになっている俺を横目に山形刑事は少し離れた場所で本田刑事と一緒にいるなな子に向かって静かに声をかける。
「さぁ、そろそろ一緒に警察署に行きましょう、奥さん。取り調べを受けて下さい。あっ、もちろんその前に、弁護士を呼んでいただいてもいいですよ」
山形刑事がそう言うとなな子の側にいる本田刑事は彼女の肩にそっと片手を載せた。
「それじゃ、行きましょうか、奥さん。俺が署まで付き添いますので」
そして、なな子を背後から支える様な姿勢を取りながら彼女と共にこの場を去ってゆく。
俺は本田刑事と共に背中を見せながら甲板上を歩きここから階下に向かって立ち去ろうとしているなな子を見やりそんな彼女に対して後ろから声をかける。
「なな子っ!!」
すると、なな子か肩をビクンと震わせ一瞬その足を止める。
俺はそのなな子に対し背後から更に声をかけた。
「俺、待ってる!いつまでも、待ってるからな!!」
しかしなな子はこちらを振り返る事もなくその顔を深く俯かせると本田刑事に肩を抱かれながらこの場から去って行く。
やがて二人の姿は俺たちがこの偽物の甲板の上に出る時にそこを通過した階下へと通じる螺旋階段のとば口がその中にある四角い出入り口の奥へとゆっくりと消えていった。
「なな子ー」
甲板上にポツンと残された俺はしばしの間、なな子が本田刑事と共にそこに消えていった船の内部へと通じる四角い出入り口をじっと見つめていたがやがてそんな俺の方に俺と同じくこの場所に残った山形刑事が音もなく静かに近づいて来た。
「お気持ちお察しします、野原伸太さん。あなたにはさぞショックだった事でしょう。でも、野原さん。あなたの慰めになるかどうかは分かりませんがこれだけは言わせて下さい。あなたの奥さんは本当にあなたの事を愛していたのですよ。心からね。だから、こんな事件を起こしたのです」
俺は山形刑事の言葉に首を振ると逆に彼に向かって問いを発した。
「愛ですか・・・。でも、いくらなんでも人を殺すだなんてー。しかも、あいつみたいに恵まれた人間がこんな事件を起こすだなんて俺にはとても信じられません。なな子は才色兼備の上に家もすごい資産家だし誰しもが羨む立場のはずです。それなのにこんな事をしてー。全てが台無しじゃないですか」
しかし、山形刑事は俺のそんな言葉に首を振ると、何故か俺の方を真っ直ぐに見つめてから言った。
「そこが、人間の不思議な所でしょうね。一見恵まれている様でも一皮剥けば焦燥感にかられ苦しんでいる人間は大勢います。奥さんもそんな哀しい人間の一人だったのかもしれませんな。きっと、全てを犠牲にしてでも手に入れたいものが彼女にはあったのだと思います」
一瞬、俺は何だかデジャブみたいな奇妙な気持ちを感じたが、それを押し殺して近くに立つベテラン刑事に聞いた。
「それって、一体何ですか?彼女が手に入れたかったものと言うのはー」
すると、山形刑事は俺に最敬礼をするとその最中に片目をつむりながら言った。
「あなたの心です」
そして、彼は俺にくるりと背を向けるとそのまま後ろを振り返りもせずに甲板上を歩きなな子と本田刑事がそこから消えていったこの船を模した建物の階下へと通じる四角い出入り口の中へと自分も去って行く。
その姿は周りの非日常的な光景ともあいまってまるで主題歌が流れる映画のラストシーンであるかの様で俺はまたしても強い既視感を感じた。
そして、今度も置いてきぼりを食った俺が周りを見回すと何組かの家族とカップルがこのまがい物の船の甲板の上でたむろしており何やら楽しげであった。
俺はもう一度船の舳先の方へ身体を振り向かせると足元から生えた白い欄干へと手を伸ばしそれに前のめりとなってぐったりと寄りかかる。
俺が両手でその白い欄干を掴みながら前を見ると相変わらず船の舳先には前方に広がる海から白い波がとうとうと押し寄せていた。
その雄大ではあるが造り物の景色を眺めながら俺はふと考える。
俺はどこで道を間違えたのだろうかと。
今もまだ俺の目には自分が乗るこの船が波をかき分けながら広い海の上を真っ直ぐに前へ前へと突き進んでいる様に見えた。
だけど実際には俺は一歩も前へなど進んではいなかった。
そう、この偽りの船と同じ様にー。
まさしく、それこそが愚かなこの俺の「蒼き航路」であった。
[完]
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