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8話・真意
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浅井長政の裏切りにより窮地に立たされた織田軍は俺と木下藤吉郎が殿を務める撤退戦が幕を開けた。
浅井、朝倉は連合軍となり総勢は2万5000に上る。木下藤吉郎の部隊が火縄銃や弓で距離を取って攻撃を加え、入れ替わりで俺を含める槍部隊が正面切ってぶつかる。しかし、数は相手の方が上回っており、戦況は劣勢であった。
俺も一人一人首を刎ねて対応するが持久戦となると分が悪い。
「怯むな。敵の進軍を何としても食い止めよ」
朝倉軍は兵の質はそこまで高くはないが、浅井が援軍に駆け付けたことで士気は高まっている。
浅井の強者たちの稼いで俺と藤吉郎の軍はジワジワトと消耗を強いられた。その時……
後方からおよそ1万ほどの軍勢が後詰めとして敵を押し返した。振り返ると馬上に見慣れない男の姿があった。男とはゆっくりと馬を俺の下に近づける。
「勝手な加勢で申し訳ない。某、明智十兵衛光秀と申す」
(明智? 聞き覚えのある名前だ)
「親方様の軍勢はこの越前の地は脱したそうだ。最後尾の徳川勢が撤退次第、一緒に撤退いたしますぞ」
「承知」
明智勢の稼いで息を吹き返した織田軍は朝倉、浅井の追撃を振り払いながら攻撃と撤退を繰り返した。戦いが長期時間に及んだことで敵も追撃の速度が落ちていった。その瞬間をついて俺も藤吉郎も撤退を開始した。
京までの道中は何も考えずにひたすら前だけを見て、馬を走らせた。
俺と藤吉郎が京に就いたのは2日後の明け方であった。共に戦ってくれた兵士たちも完全に疲弊していた。
「義麗、秀吉」
遠くから大きな叫び声が聞こえてきた。俺はふと顔を上げると早馬に乗った利家が迎えに来た。
「おお、利家じゃないか」
二人は古くからの家族ぐるみでの付き合いだったのだ。藤吉郎は年が利家と近く、妻同士が若い頃から親交が深い間柄でもある親友であった。
「秀吉、義麗、お前ら怪我は無いのか?」
「明智殿のご尽力もあり、命拾いをしました」
「そうか。でも二人とも無事で何よりだ」
「利家、信長様の様子は?」
「既に岐阜に戻られ、軍の再編を進めている」
「浅井とぶつかるおつもりですね?」
利家は無言で頷いた。その表情から信長は恐らく浅井長政の裏切りを絶対に許さないという強い意志を人伝でも感じ取れた。
織田信長が京へ戻ったのは数週間後のことであった。俺と秀吉、利家は信長と謁見した。
「猿、義麗、先の戦での働き見事であった。其方たちの殿としての働きのおかげで我が軍はほとんど被害なく済んだ。
「親方様のお役に立てて、猿は幸せでございます」
「しかし、浅井の力はやはり侮れませぬ。朝倉よりも今後、警戒すべきはは浅井長政であるかと」
「うむ。義麗の言う通り、朝倉は所詮烏合の衆よ。だが、長政は戦のみならず、あの知恵は最大の敵となる」
「親方様、お願いの義がございます」
「何じゃ?」
「戦を前に一度だけ長政殿に会うことをお許しいただけませんでしょうか?」
「お、おい義麗、正気か?」
利家が驚きと慌てた様子で俺に問いかける。しかし、俺の考えに迷いは無かった。それに確かめなくてはいけない。
「長政殿は聡明な武将です。一時の感情に流されてか、己の信念で動いているのかをこの目で確かめ等ございます」
「其方のこれまでの武働きに免じて許すとしよう。長政が心を入れ替えて天下布武の為に働くのであれば、此度の裏切りは水に流そう。だが、なおこの信長に歯向かうのであれば容赦はしない」
「心得ております」
俺は早馬を飛ばして近江・小谷へと赴いた。関所は封鎖され、門番の衛兵たちが俺に刃や槍を向ける。
「織田信長公の名代として参った。ご当主・長政殿と話したい」
睨み合いの中、ある方が姿を現し、兵たちに言い聞かせた。
「刃を降ろしなさい」
奥から聞こえてきたのは女性の声であった。初めて聞く声でもあった。煌びやかな着物に身を包んだ可憐な女性の姿だった。
「戦う意志のない方に武器を向けるとは何事です」
彼女の一言で衛兵たちが武器を下ろす。俺はその光景に驚愕した。
「黒生義麗ですね。お初にお目にかかります。浅井長政が妻にして織田信長の妹・市でございます」
「あなたが? お噂は耳にしておりました。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませぬ」
「いえ、長政様が城でお待ちです」
彼女に付き添われ、俺は浅井長政との対面を果たした。
「単身で敵地に赴くとはなかなかに大胆なことをされますな黒生殿」
「戦う前にあなたの真意を確かめておきたかった。それに某はあなたと信長様には戦ってほしくありませぬ」
「某も黒生殿、其方との戦いだけ避けたかった。だが、そなたの迷いなき姿のおかげで決断出来たと某は思っておる」
「何を仰っているのです?」
「信長様はこの世を大きく変えられる人、それは某も認めております。ですが、その為に人を利用し、踏みつけるようなやり方には賛同しかねる」
「将軍を蔑ろにしているという義昭公の書状のことですか?」
「ああ」
「あの方に何の力があります? 自分は矢面に立たずに汚れ仕事を大名に任せて、己の言いなりになれと言う考えの方が馬鹿げている」
「黒生殿、私は足利将軍家を守りたいという訳ではありませぬ」
俺は長政が何を伝えたいのか、この時は理解に苦しんだ。力の無い物の見栄の為に己を犠牲にする意味が分からなかったからだ。
しかし、彼は決してそのようなことが理由では無いときっぱりと否定した。
「では、何故敵対するのですか?」
「一つは朝倉攻めの件である。無論、朝倉殿の態度に落ち度があったのやもしれぬ。しかし、朝倉は浅井家にとってかけ外の無い盟友。間違いを犯したのなら共に背負いたい。それ故に勝手に戦を仕掛けたことが一つのきっかけでござった」
「一つの? 他にも理由があると?」
「わしは信長様のように一人で歯車を回せる器ではない。故に民や人の力を大切にしたいと考えておる。しかし、信長様は自らが風の如くという考えのお方だ。使えないと判断すれば容易に切り捨てる。敵も味方を問わずに……」
「義を欠いた故に信用でき無くなられたと?」
「そうとも言うかもしれない。しかし、黒生殿が生きる意味を探しているのであれば、某は和を重んじる生き方を目指したい。頂点では無く、多くの人の輪の中にいたい。それが某の答えです」
力強く答える長政に対して、横ではお市が涙を堪えるように黙っていた。
「お市様はどうされたいのですか?」
俺は不意に彼女に問いかけた。その時、廊下をドタドタドタ駆ける音が近づいてきた。
するとお市によく似た娘が1人部屋にやってきた。
「これ茶々、また勝手に抜け出したのですか?」
その娘子は茶々と呼ばれ、お市が抱き上げた。顔はお市に似ているが目元は長政にそっくりであった。
「お市様の娘ですか?」
「はい。長女の茶々です」
こんな幼い子を戦に巻き込んでしまうのかと考えると俺は心が痛んだ。
「お市様は戦う覚悟は出来ておるのですか?」
「私は長政の妻です。最後までお傍にいるつもりです。ですが、今日あなたにお会いしたのは殿に決断させたのは黒生殿であると伺ったからです」
「某が?」
「あなたは芯がしっかりしたお方であると、伺いました。兄上には心から気を許せるお方が少ない。進む道は違えども、長政の代わりに支える存在になると仰ってました」
俺は予想外の言葉に自然と涙を流した。長政も目を潤ませて俺を見ていた。多く顔を合わせた訳ではないが、人として本当に信頼を置ける嘘の付けない人というに相応しい方と改めて感じた。
この男の道を俺は閉ざすことは出来なかった。袂を分かつことになるが、自分の生きる道を見つけた彼の立派の姿を俺は応援したくなった。
「あなたは覚悟を決められたようですね。これ以上、某は何も言えませぬ。その強い意志は信長様にしっかりとお伝えさせていただきます」
「黒生殿、最後に其方と話せたこと嬉しかった」
交渉は決裂に終わり、浅井家は正式に織田家と敵対することとなった。しかし同時に後ろにも後にも引けない戦国時代の生きる厳しさと男との覚悟を俺は胸に受け止めることが出来た。
覚悟を決めた俺は正々堂々と彼を迎え撃つ。
浅井、朝倉は連合軍となり総勢は2万5000に上る。木下藤吉郎の部隊が火縄銃や弓で距離を取って攻撃を加え、入れ替わりで俺を含める槍部隊が正面切ってぶつかる。しかし、数は相手の方が上回っており、戦況は劣勢であった。
俺も一人一人首を刎ねて対応するが持久戦となると分が悪い。
「怯むな。敵の進軍を何としても食い止めよ」
朝倉軍は兵の質はそこまで高くはないが、浅井が援軍に駆け付けたことで士気は高まっている。
浅井の強者たちの稼いで俺と藤吉郎の軍はジワジワトと消耗を強いられた。その時……
後方からおよそ1万ほどの軍勢が後詰めとして敵を押し返した。振り返ると馬上に見慣れない男の姿があった。男とはゆっくりと馬を俺の下に近づける。
「勝手な加勢で申し訳ない。某、明智十兵衛光秀と申す」
(明智? 聞き覚えのある名前だ)
「親方様の軍勢はこの越前の地は脱したそうだ。最後尾の徳川勢が撤退次第、一緒に撤退いたしますぞ」
「承知」
明智勢の稼いで息を吹き返した織田軍は朝倉、浅井の追撃を振り払いながら攻撃と撤退を繰り返した。戦いが長期時間に及んだことで敵も追撃の速度が落ちていった。その瞬間をついて俺も藤吉郎も撤退を開始した。
京までの道中は何も考えずにひたすら前だけを見て、馬を走らせた。
俺と藤吉郎が京に就いたのは2日後の明け方であった。共に戦ってくれた兵士たちも完全に疲弊していた。
「義麗、秀吉」
遠くから大きな叫び声が聞こえてきた。俺はふと顔を上げると早馬に乗った利家が迎えに来た。
「おお、利家じゃないか」
二人は古くからの家族ぐるみでの付き合いだったのだ。藤吉郎は年が利家と近く、妻同士が若い頃から親交が深い間柄でもある親友であった。
「秀吉、義麗、お前ら怪我は無いのか?」
「明智殿のご尽力もあり、命拾いをしました」
「そうか。でも二人とも無事で何よりだ」
「利家、信長様の様子は?」
「既に岐阜に戻られ、軍の再編を進めている」
「浅井とぶつかるおつもりですね?」
利家は無言で頷いた。その表情から信長は恐らく浅井長政の裏切りを絶対に許さないという強い意志を人伝でも感じ取れた。
織田信長が京へ戻ったのは数週間後のことであった。俺と秀吉、利家は信長と謁見した。
「猿、義麗、先の戦での働き見事であった。其方たちの殿としての働きのおかげで我が軍はほとんど被害なく済んだ。
「親方様のお役に立てて、猿は幸せでございます」
「しかし、浅井の力はやはり侮れませぬ。朝倉よりも今後、警戒すべきはは浅井長政であるかと」
「うむ。義麗の言う通り、朝倉は所詮烏合の衆よ。だが、長政は戦のみならず、あの知恵は最大の敵となる」
「親方様、お願いの義がございます」
「何じゃ?」
「戦を前に一度だけ長政殿に会うことをお許しいただけませんでしょうか?」
「お、おい義麗、正気か?」
利家が驚きと慌てた様子で俺に問いかける。しかし、俺の考えに迷いは無かった。それに確かめなくてはいけない。
「長政殿は聡明な武将です。一時の感情に流されてか、己の信念で動いているのかをこの目で確かめ等ございます」
「其方のこれまでの武働きに免じて許すとしよう。長政が心を入れ替えて天下布武の為に働くのであれば、此度の裏切りは水に流そう。だが、なおこの信長に歯向かうのであれば容赦はしない」
「心得ております」
俺は早馬を飛ばして近江・小谷へと赴いた。関所は封鎖され、門番の衛兵たちが俺に刃や槍を向ける。
「織田信長公の名代として参った。ご当主・長政殿と話したい」
睨み合いの中、ある方が姿を現し、兵たちに言い聞かせた。
「刃を降ろしなさい」
奥から聞こえてきたのは女性の声であった。初めて聞く声でもあった。煌びやかな着物に身を包んだ可憐な女性の姿だった。
「戦う意志のない方に武器を向けるとは何事です」
彼女の一言で衛兵たちが武器を下ろす。俺はその光景に驚愕した。
「黒生義麗ですね。お初にお目にかかります。浅井長政が妻にして織田信長の妹・市でございます」
「あなたが? お噂は耳にしておりました。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませぬ」
「いえ、長政様が城でお待ちです」
彼女に付き添われ、俺は浅井長政との対面を果たした。
「単身で敵地に赴くとはなかなかに大胆なことをされますな黒生殿」
「戦う前にあなたの真意を確かめておきたかった。それに某はあなたと信長様には戦ってほしくありませぬ」
「某も黒生殿、其方との戦いだけ避けたかった。だが、そなたの迷いなき姿のおかげで決断出来たと某は思っておる」
「何を仰っているのです?」
「信長様はこの世を大きく変えられる人、それは某も認めております。ですが、その為に人を利用し、踏みつけるようなやり方には賛同しかねる」
「将軍を蔑ろにしているという義昭公の書状のことですか?」
「ああ」
「あの方に何の力があります? 自分は矢面に立たずに汚れ仕事を大名に任せて、己の言いなりになれと言う考えの方が馬鹿げている」
「黒生殿、私は足利将軍家を守りたいという訳ではありませぬ」
俺は長政が何を伝えたいのか、この時は理解に苦しんだ。力の無い物の見栄の為に己を犠牲にする意味が分からなかったからだ。
しかし、彼は決してそのようなことが理由では無いときっぱりと否定した。
「では、何故敵対するのですか?」
「一つは朝倉攻めの件である。無論、朝倉殿の態度に落ち度があったのやもしれぬ。しかし、朝倉は浅井家にとってかけ外の無い盟友。間違いを犯したのなら共に背負いたい。それ故に勝手に戦を仕掛けたことが一つのきっかけでござった」
「一つの? 他にも理由があると?」
「わしは信長様のように一人で歯車を回せる器ではない。故に民や人の力を大切にしたいと考えておる。しかし、信長様は自らが風の如くという考えのお方だ。使えないと判断すれば容易に切り捨てる。敵も味方を問わずに……」
「義を欠いた故に信用でき無くなられたと?」
「そうとも言うかもしれない。しかし、黒生殿が生きる意味を探しているのであれば、某は和を重んじる生き方を目指したい。頂点では無く、多くの人の輪の中にいたい。それが某の答えです」
力強く答える長政に対して、横ではお市が涙を堪えるように黙っていた。
「お市様はどうされたいのですか?」
俺は不意に彼女に問いかけた。その時、廊下をドタドタドタ駆ける音が近づいてきた。
するとお市によく似た娘が1人部屋にやってきた。
「これ茶々、また勝手に抜け出したのですか?」
その娘子は茶々と呼ばれ、お市が抱き上げた。顔はお市に似ているが目元は長政にそっくりであった。
「お市様の娘ですか?」
「はい。長女の茶々です」
こんな幼い子を戦に巻き込んでしまうのかと考えると俺は心が痛んだ。
「お市様は戦う覚悟は出来ておるのですか?」
「私は長政の妻です。最後までお傍にいるつもりです。ですが、今日あなたにお会いしたのは殿に決断させたのは黒生殿であると伺ったからです」
「某が?」
「あなたは芯がしっかりしたお方であると、伺いました。兄上には心から気を許せるお方が少ない。進む道は違えども、長政の代わりに支える存在になると仰ってました」
俺は予想外の言葉に自然と涙を流した。長政も目を潤ませて俺を見ていた。多く顔を合わせた訳ではないが、人として本当に信頼を置ける嘘の付けない人というに相応しい方と改めて感じた。
この男の道を俺は閉ざすことは出来なかった。袂を分かつことになるが、自分の生きる道を見つけた彼の立派の姿を俺は応援したくなった。
「あなたは覚悟を決められたようですね。これ以上、某は何も言えませぬ。その強い意志は信長様にしっかりとお伝えさせていただきます」
「黒生殿、最後に其方と話せたこと嬉しかった」
交渉は決裂に終わり、浅井家は正式に織田家と敵対することとなった。しかし同時に後ろにも後にも引けない戦国時代の生きる厳しさと男との覚悟を俺は胸に受け止めることが出来た。
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