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二夜(1)
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翌日。就業の挨拶を終え無人と化した待機室で荷物を整えているとき、ひょこりとダリスが寄ってきた。
「ねぇ。あのさ。渡してもらっていいかな?」
「何のことだ」
突然の話に困惑しながら問うと、呆れ顔でダリスが返した。
「その……お金。約束はちゃんと終わらせたよ。貸してくれるって話だったでしょ?」
「……ああ、そういえばそうだったな。分かった。明日にでも渡そう」
そう言うと、得意げにダリスが笑む。
「ん、ありがと。じゃあおれ帰るから。明日よろしくね」
「待て」
「なに?」
くるりと踵を返したダリスを引き止めると、困ったような、不快なような表情で振り返る。どれだけ早く帰りたいんだと突っ込みたいのを我慢して、口を開いた。
「セックスしよう」
「……。きも。しない。約束は終わりだよ。一回中出ししたらお金くれるって話だったでしょ?」
「それはそうだ。…が、俺たちは付き合っている」
ぶっとダリスが吹き出して、けらけらと笑う。
「ばーか!きもちわる!それはそういえば中出ししてくれると思ったからだよ。頭悪い?言っとくけど、おれはアインのこと全然好きじゃないから。むしろキモいし嫌いだよ。……幻滅した?でも約束は守ってね。おれ耐えたんだから」
おかしくてたまらないといった表情のダリスは饒舌に語った後、じわじわと込み上げる第二の笑いの波に耐えんと肩を振るわせていた。思いもよらない言葉に動揺して、しばらく声が出なかった。
「……でも。昨日、する前に好きって」
「あの一瞬は確かにアインのことアリかもって思ったけど、朝起きたらやっぱキモいしないわ~ってなった」
「なんだそれ」
「アインの性格が終わってるのが良くないと思うよ」
「その言葉そのまま返したいけどな。……。ところで、返済の見込みはあるのか?」
沈黙。
「ほら。ないだろ。このまま逃げる気だろう。」
「えー。そんなわけないじゃん。返すよ」
「……。絶対に逃さないからな。俺たちは付き合っている。お前は俺のものだ。」
ふっ、とダリスが鼻で笑う。
「付き合ってないし。ちゃんと返すから変なこと言わないで。」
「付き合っている。告白したのはお前だ。それはそうと、額的にだいたいお前の給料1.5ヶ月分くらいだろ。…‥頑張れば3ヶ月後には返せるはずだ。3ヶ月後に絶対に返せるよな?」
「えーと……それは……」
厳しい態度にダリスが言葉を濁す。やはり返す気などなかったのか、と察し、深くため息をついた。
「分かっているよな。返せなかったらどうなるか」
「あ……え……」
「ちゃんと約束しろ。3ヶ月後には返すと。利子もつけていないしかなり良心的なんだからな。」
再びの沈黙。
「あと、付き合っているんだからこれからもセックスはやめない。本当は毎日したいくらいだが、お前が体を壊すといけないし週一で手を打とう。まとめると、お前はこれから3ヶ月後に返済借金を返済し、週一で俺とセックスするんだ。分かったか?」
捲し立てると、やや引いたような目つきでダリスが見上げてきた。
「…………。あの。何度も言ってるけど付き合ってないから。週一セックスはおかしくない?」
「おかしくない。というか利子なしは俺の恋人サービスだからな。別れたら利子もゴリゴリにつけるぞ。いいのか?」
「すみませんでした」
「よし、じゃあ決まりだな。」
こほん、と咳払いをし、帰り支度を再開する。ダリスは去らず、そのまま残っていた。
「……えと。お金渡してもらっていい?」
明日に渡すと言ったにも関わらずそう言ってくる彼に内心呆れる。
「……しつこいな。いいだろう、すぐにでも渡そう」
銀行デートという意味の分からないデートを終え帰宅してすぐ、俺はPCを立ち上げた。目的はただ一つ。昨夜仕掛けた監視カメラだ。ダリスが力尽き眠りに落ちてすぐ、付き合っているのだから許されるのだろうと光の速さで帰宅し家から持ち込み設置した監視カメラだ。
俺はアプリを起動し、風呂にも入らず夕食も取らず延々と彼の動向を監視していた。金を受け取ったダリスはいつ逃げてもおかしくない。金の持ち逃げ程度構やしないが、ダリスが俺の手から離れることは何よりも耐え難いのだ。
数日にわたる長期戦と思われた監視戦は、思いの外すぐに幕を閉じた。23時を回った頃、早くも動きが見られたのだ。ダリスがキャリーケースに貴重品を詰め込み出したのである。これはもう間違いないと思い、すぐさま俺は家を飛び出した。
ドアスコープの死角に立ち、インターホンを鳴らす。一回目では出てこなかったが、間をおいてもう一度鳴らすとあっさり彼は出てきた。
「…………」
俺の姿を捉えたがすぐ勢いよくドアが閉まるが、俺の足が挟まる方がコンマ数秒早かった。ドアの隙間からため息が漏れる。
「……急にどうしたの?もう遅いよ。迷惑。セックスはしない。帰ってね」
「壊してでも入る。お前逃げようとしていただろう?馬鹿にするのもいい加減にしろ。ふざけるな。逃げられると思うな。今すぐここを開けろ」
意表を突かれたダリスの動揺が伝わる。
「……。何の話?ドア壊したら管理のひとも困っちゃうよ。何かあるなら明日言いにきて。おれもう寝たい」
「しらばっくれるな。夜逃げでもするつもりだったんだろう?逃がさない」
手に力を込めると、キンっと甲高い音がしてチェーンが張った。ドアノブを掴んだままだったダリスが体勢を崩し、前に倒れかける。
「……ちょ、うそでしょほんとに壊すつもり?」
金属が擦れる音を前にしたダリスが、ようやく事態を飲み込んだのか青ざめて問いかける。
「このままだとな」
「っ、~~~~~っ……………!!!どいて!!!!!」
観念したのかダリスが叫び、ドアチェーンを外した。俺はそのまま勢いよくドアを開け、部屋へ侵入する。この期に及んでも俺から逃げるダリスは、部屋の隅で震えていた。
「このトランクケースは何だ」
「……」
「逃げる気だったんだろう」
「……」
否定する気力もないのか、ダリスはただ項垂れる。
「そうなんだろう」
「…………はい」
「それに、お前は他に言うべきことがある」
「本当にすみませんでした」
真剣なトーンで謝罪するダリスだが、その顔色は誠意より恐怖に満ちていた。
「そうだな。それでどうするつもりだ?」
「え、ど、どうする……って」
「まさか口頭の謝罪程度で許されると思っていたのか?」
言葉に詰まったダリスがまた俯く。その耳は恐怖でへたっていた。
「黙ってばかりでは困るぞ。」
「ぅ……あ、えと…………」
「で?」
「…………ほんとに、本当にすみませんでした。おれにできることならなんでもします」
「何でもするって?前も言った挙句あんな嫌がったのに。おかしな話だ」
「それは…!…………。はい…」
弱々しい声が止まる。目の端にいっぱい涙を溜めて不安がるダリスを見ていると、流石に可哀想になってきた。
「……。分かった。明日は休みだ。今日と明日を俺にくれるのなら、良い」
「……!」
ぴくりと耳が揺れた。その程度でいいの!?と分かりやすく顔に書いてある。
「…………あと、俺たちは付き合っているよな?」
「____っ、……。はい」
「良かった。もう取り消しなんて無しだからな。」
心なしかダリスの顔色が悪くなったように見えたが、満足した俺は微笑みながら彼の頭を撫でた。彼はただ黙っていた。
「じゃあ、ベッドに行こうか」
そのままベッドに連行しようとする俺を跳ね除けて、彼はユニットバスに逃げた。ドアを叩き抗議するが、おそらく中を洗っているのだろう、不規則な水音とたまに出る甘い吐息がドア越しに聞こえて納得した。
「……いいよ」
時間をおいてドアを開けたダリスは服も着ず、バスタオル一枚を胸元に当てただけの姿だった。
とことことベッドへ歩む彼の後をついて行く。薄くて華奢な引き締まった尻と、その付け根から生えている尻尾が可愛らしい。
「いつでも挿れられるようにしたから。どうぞ」
バスタオルを取り払ったダリスは諦めたように目を伏せ、雰囲気も何もない投げやりな態度で股を開いた。指で見せつけるように開かれた中は、ひく♡ひく♡と内側の肉をちらつかせていた。
「ねぇ。あのさ。渡してもらっていいかな?」
「何のことだ」
突然の話に困惑しながら問うと、呆れ顔でダリスが返した。
「その……お金。約束はちゃんと終わらせたよ。貸してくれるって話だったでしょ?」
「……ああ、そういえばそうだったな。分かった。明日にでも渡そう」
そう言うと、得意げにダリスが笑む。
「ん、ありがと。じゃあおれ帰るから。明日よろしくね」
「待て」
「なに?」
くるりと踵を返したダリスを引き止めると、困ったような、不快なような表情で振り返る。どれだけ早く帰りたいんだと突っ込みたいのを我慢して、口を開いた。
「セックスしよう」
「……。きも。しない。約束は終わりだよ。一回中出ししたらお金くれるって話だったでしょ?」
「それはそうだ。…が、俺たちは付き合っている」
ぶっとダリスが吹き出して、けらけらと笑う。
「ばーか!きもちわる!それはそういえば中出ししてくれると思ったからだよ。頭悪い?言っとくけど、おれはアインのこと全然好きじゃないから。むしろキモいし嫌いだよ。……幻滅した?でも約束は守ってね。おれ耐えたんだから」
おかしくてたまらないといった表情のダリスは饒舌に語った後、じわじわと込み上げる第二の笑いの波に耐えんと肩を振るわせていた。思いもよらない言葉に動揺して、しばらく声が出なかった。
「……でも。昨日、する前に好きって」
「あの一瞬は確かにアインのことアリかもって思ったけど、朝起きたらやっぱキモいしないわ~ってなった」
「なんだそれ」
「アインの性格が終わってるのが良くないと思うよ」
「その言葉そのまま返したいけどな。……。ところで、返済の見込みはあるのか?」
沈黙。
「ほら。ないだろ。このまま逃げる気だろう。」
「えー。そんなわけないじゃん。返すよ」
「……。絶対に逃さないからな。俺たちは付き合っている。お前は俺のものだ。」
ふっ、とダリスが鼻で笑う。
「付き合ってないし。ちゃんと返すから変なこと言わないで。」
「付き合っている。告白したのはお前だ。それはそうと、額的にだいたいお前の給料1.5ヶ月分くらいだろ。…‥頑張れば3ヶ月後には返せるはずだ。3ヶ月後に絶対に返せるよな?」
「えーと……それは……」
厳しい態度にダリスが言葉を濁す。やはり返す気などなかったのか、と察し、深くため息をついた。
「分かっているよな。返せなかったらどうなるか」
「あ……え……」
「ちゃんと約束しろ。3ヶ月後には返すと。利子もつけていないしかなり良心的なんだからな。」
再びの沈黙。
「あと、付き合っているんだからこれからもセックスはやめない。本当は毎日したいくらいだが、お前が体を壊すといけないし週一で手を打とう。まとめると、お前はこれから3ヶ月後に返済借金を返済し、週一で俺とセックスするんだ。分かったか?」
捲し立てると、やや引いたような目つきでダリスが見上げてきた。
「…………。あの。何度も言ってるけど付き合ってないから。週一セックスはおかしくない?」
「おかしくない。というか利子なしは俺の恋人サービスだからな。別れたら利子もゴリゴリにつけるぞ。いいのか?」
「すみませんでした」
「よし、じゃあ決まりだな。」
こほん、と咳払いをし、帰り支度を再開する。ダリスは去らず、そのまま残っていた。
「……えと。お金渡してもらっていい?」
明日に渡すと言ったにも関わらずそう言ってくる彼に内心呆れる。
「……しつこいな。いいだろう、すぐにでも渡そう」
銀行デートという意味の分からないデートを終え帰宅してすぐ、俺はPCを立ち上げた。目的はただ一つ。昨夜仕掛けた監視カメラだ。ダリスが力尽き眠りに落ちてすぐ、付き合っているのだから許されるのだろうと光の速さで帰宅し家から持ち込み設置した監視カメラだ。
俺はアプリを起動し、風呂にも入らず夕食も取らず延々と彼の動向を監視していた。金を受け取ったダリスはいつ逃げてもおかしくない。金の持ち逃げ程度構やしないが、ダリスが俺の手から離れることは何よりも耐え難いのだ。
数日にわたる長期戦と思われた監視戦は、思いの外すぐに幕を閉じた。23時を回った頃、早くも動きが見られたのだ。ダリスがキャリーケースに貴重品を詰め込み出したのである。これはもう間違いないと思い、すぐさま俺は家を飛び出した。
ドアスコープの死角に立ち、インターホンを鳴らす。一回目では出てこなかったが、間をおいてもう一度鳴らすとあっさり彼は出てきた。
「…………」
俺の姿を捉えたがすぐ勢いよくドアが閉まるが、俺の足が挟まる方がコンマ数秒早かった。ドアの隙間からため息が漏れる。
「……急にどうしたの?もう遅いよ。迷惑。セックスはしない。帰ってね」
「壊してでも入る。お前逃げようとしていただろう?馬鹿にするのもいい加減にしろ。ふざけるな。逃げられると思うな。今すぐここを開けろ」
意表を突かれたダリスの動揺が伝わる。
「……。何の話?ドア壊したら管理のひとも困っちゃうよ。何かあるなら明日言いにきて。おれもう寝たい」
「しらばっくれるな。夜逃げでもするつもりだったんだろう?逃がさない」
手に力を込めると、キンっと甲高い音がしてチェーンが張った。ドアノブを掴んだままだったダリスが体勢を崩し、前に倒れかける。
「……ちょ、うそでしょほんとに壊すつもり?」
金属が擦れる音を前にしたダリスが、ようやく事態を飲み込んだのか青ざめて問いかける。
「このままだとな」
「っ、~~~~~っ……………!!!どいて!!!!!」
観念したのかダリスが叫び、ドアチェーンを外した。俺はそのまま勢いよくドアを開け、部屋へ侵入する。この期に及んでも俺から逃げるダリスは、部屋の隅で震えていた。
「このトランクケースは何だ」
「……」
「逃げる気だったんだろう」
「……」
否定する気力もないのか、ダリスはただ項垂れる。
「そうなんだろう」
「…………はい」
「それに、お前は他に言うべきことがある」
「本当にすみませんでした」
真剣なトーンで謝罪するダリスだが、その顔色は誠意より恐怖に満ちていた。
「そうだな。それでどうするつもりだ?」
「え、ど、どうする……って」
「まさか口頭の謝罪程度で許されると思っていたのか?」
言葉に詰まったダリスがまた俯く。その耳は恐怖でへたっていた。
「黙ってばかりでは困るぞ。」
「ぅ……あ、えと…………」
「で?」
「…………ほんとに、本当にすみませんでした。おれにできることならなんでもします」
「何でもするって?前も言った挙句あんな嫌がったのに。おかしな話だ」
「それは…!…………。はい…」
弱々しい声が止まる。目の端にいっぱい涙を溜めて不安がるダリスを見ていると、流石に可哀想になってきた。
「……。分かった。明日は休みだ。今日と明日を俺にくれるのなら、良い」
「……!」
ぴくりと耳が揺れた。その程度でいいの!?と分かりやすく顔に書いてある。
「…………あと、俺たちは付き合っているよな?」
「____っ、……。はい」
「良かった。もう取り消しなんて無しだからな。」
心なしかダリスの顔色が悪くなったように見えたが、満足した俺は微笑みながら彼の頭を撫でた。彼はただ黙っていた。
「じゃあ、ベッドに行こうか」
そのままベッドに連行しようとする俺を跳ね除けて、彼はユニットバスに逃げた。ドアを叩き抗議するが、おそらく中を洗っているのだろう、不規則な水音とたまに出る甘い吐息がドア越しに聞こえて納得した。
「……いいよ」
時間をおいてドアを開けたダリスは服も着ず、バスタオル一枚を胸元に当てただけの姿だった。
とことことベッドへ歩む彼の後をついて行く。薄くて華奢な引き締まった尻と、その付け根から生えている尻尾が可愛らしい。
「いつでも挿れられるようにしたから。どうぞ」
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