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第27話 夜の校舎の警備員
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重たい鉄扉を開けると、冷たい風が校内から流れ込んでくる。
前回も思ったが、やはり夜の校舎は不気味だ。
「まずは回廊まで移動しないとな」
アルカミア魔法学校の校舎は、曜日や時間帯によって内部構造がまったく異なるものとなっている。なのでこの時間は回廊に向かうことも、意外と一苦労だったりする。
「おや? 今夜は一人かね?」
「うわぁ!? 急に話しかけられたらびっくりするではないか!」
回廊を目指して暗がりの廊下をおそるおそる進んでいると、突然真横の壁から声をかけられた。
時の罪人と噂の眠れる壁のジョニーだ。
いつ見ても気味が悪い老人だなと、無意識に身を一歩引いてしまう。
されど、これは意外とツイているかもしれないと考えを改め直す。
というのも、この壁老人は長年校舎の一部と化しているため、誰よりも校内に詳しい存在だとクレアが話していたことを思い出したのだ。
前回クレアと校舎に忍び込んだ際も、この罪人――眠れる壁のジョニーに図書室までのルートを教えてもらったことを思い出す。
「眠れる壁のジョニーよ。つかぬことを聞くが、迷いの回廊まではどうやって向かえばいいのだ?」
「それならここをまっすぐ進み、二回目の十字路を右に行くことだ」
「二回目の十字路を右だな。了解した!」
眠れる壁のジョニーに貴族然とした態度で礼を告げ、俺は案外早く目的の回廊にたどり着けそうだなと歩き出した。
――直後、老い声に呼び止められた。
「ん?」
なんだろうと眠れる壁のジョニーの方に顔を向けると、追手が来るから急いだ方がいいと言われた。
「追手?」
「ヴィストラールは夜の警備を強化している」
「見回りの教師を増やしたのか!」
これはうかうかしていられない。
俺は眠れる壁のジョニーにもう一度礼を言い、足早に校内を移動する。
「罪人の割に眠れる壁のジョニーは案外いいやつだな」
なんてことを思案しながら一つ目の十字路を通り過ぎた辺りで――
「え!?」
ふいに無数の足音が後方から響き渡ってくる。
「なんだ?」
思わず立ち止まり振り返った俺は、通り過ぎた十字路に目を光らせた。
「こちらに向かって来ている?」
靴音ではない奇妙な足音が、十字路から地響きのように迫りつつあった。
嫌な予感が背筋を冷たく流れる。
「あれは――」
まっすぐ延びた暗がりの先で、何かが赤く光って揺れた。
「――まずい!?」
あれは眼だ!
それもたてがみ一本一本と尻尾が蛇になっている、怪物の眼である。
性格は落ち着きがなく、せっかちであることが広く知れ渡っている狂犬――黒い双頭の犬である。
「あんな怪物を警備に当てるとか、ヴィストラールは一体何を考えておるのだ!?」
噛み合わせの良さそうな牙をカチカチ鳴らしながらばく進する狂犬が、こちらに向かって威嚇するように吠えた。
『グガァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「バカッ、よせ! こっちに来るなッ!!」
俺は咄嗟に腰の杖剣を引き抜き臨戦態勢に入る――が、同時に十字路からさらに二匹、凄まじい勢いで黒い双頭の犬が咆哮を響かせ姿を現した。
「三匹だと!? ――いや」
さらに二匹、奥から猪突猛進と突っ込んでくる。
「――五匹ッ!? バカもの多すぎだ!」
これにはさすがの俺も血の気が引く。
「一体何匹放っておるのだ!?」
数に圧倒された俺は一旦戦線離脱をしようと力走するも、走ることに特化した黒い双頭の犬を中々引き離せない。
「なっ!?」
ならばこのまま迷いの回廊を目指そうと二つ目の十字路を目指したのだけれど、目前で校舎が鳴動する。
「冗談だろ!?」
ガシャンガシャン――と眼前の十字路が音を立てて、ルービックキューブのように壁や天井が入れ替わっていく。
そして次の瞬間には、今の今まで廊下だった右側があっという間に階段に変わっていた。
「―――って此処もか!?」
さらに前方の通路は道が塞がり壁に早変わり。
しかも、現在俺が爆走中の廊下はどんどん道が細く狭くなっていく。
このままでは壁に押し潰されてしまう。
「まだ人が居るのだぞ!」
俺は壁に激突する勢いで速度を上げ、そのまま壁を蹴って左の廊下に素早く方向転換。
「ふぅー、死ぬかと思った」
袖口で額の汗を拭って安堵のため息を吐き出した、その時――
『ガルルルッ―――』
「へ?」
空腹の胃に吐き気がくるような不安を覚える。
「勘弁してほしいのだが……」
振り返り後方を確認すると、三匹の黒い双頭の犬が階段の前で唸声を上げている。
「……醜穢な」
しかも残りの二匹は間に合わなかったようで、上半身だけが壁際に転がっていた。
どうやら下半身はプレスされてしまったようだ。
「いくらなんでも危険すぎるだろ!」
夜の校舎は安全装置が作動しないようになっているらしい。
もしも一歩遅れていたなら自分も……想像するとゾッとした。
「どうやら、やるしかなさそうだな」
このままでは埒が明かないと判断した俺は、改めて階段前を陣取る三匹の黒い双頭の犬に向けて勇ましく杖剣を構えた。
「犬猫好きな俺としてはお前たちと戦いたくないのだがな、引いてはくれぬか?」
『『『グガァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ―――』』』
猛々しくNOと吠えて牙を光らせている。
「だろうな」
懐くのであれば一匹ぐらい飼ってみたかったと思いながらも、俺は気持ちを切り替えて剣の腹にサッと左手を走らせる。
「昼寝うたた寝大あくび――眠り剣!」
無意味な殺生を好まない俺は、サシャール先生が使った眠り剣を発動させる。
これで斬った相手は深い眠りに落ちていく。殺さずの剣だ。
「遠慮はいらん。寝かし付けてほしいわんこから掛かってくるのだ!」
かかってこいと剣先をクイクイ動かせば、二匹の獰猛な黒い双頭の犬が勢いよく飛び出してくる。示し合わせたように壁を伝い、凶器のような牙や爪をもって空襲を仕掛けてくる二匹を躱した俺は、神速を以て杖剣を振り抜いた。
転瞬、一筋の閃光が闇に光る。
一弾指の時が過ぎると、辺りには突風と轟音が鳴り響く。
衝撃波によって窓ガラスは一斉に砕け散り、床には地割れが走った。
強烈な光が黒い双頭の犬を包み込めば、俺の足下にパタリと音が鳴る。
二匹はスヤスヤと寝息を立てていた。
「少しやり過ぎてしまった」
力加減を誤ってしまった俺は、危うく校舎を吹き飛ばしてしまうところだった。
反省する俺だったが、破壊してしまった壁や床は独りでに元に戻っていく。
どうやら校舎全体に修復・修繕魔法が掛けられているらしい。
「さすがアルカミア魔法学校だな!」
目ばたきの間に見事修復された。
で、お前はどうする? と残りの一匹に視線を流すと、『アンッ!』伏せの状態でパタパタとこちらに向かって尻尾を振っていた。
「現金なやつだな。ま、嫌いではないがな」
迷いの回廊までのルートがすっかり変更されてしまったため、俺は現金な黒い双頭の犬に道案内を頼んだ。
「最短ルートで頼むぞ!」
『アンアン!』
「よし、ではレッツラゴーだ!」
俺は黒い双頭の犬を従え、夜の校内を突き進む。
前回も思ったが、やはり夜の校舎は不気味だ。
「まずは回廊まで移動しないとな」
アルカミア魔法学校の校舎は、曜日や時間帯によって内部構造がまったく異なるものとなっている。なのでこの時間は回廊に向かうことも、意外と一苦労だったりする。
「おや? 今夜は一人かね?」
「うわぁ!? 急に話しかけられたらびっくりするではないか!」
回廊を目指して暗がりの廊下をおそるおそる進んでいると、突然真横の壁から声をかけられた。
時の罪人と噂の眠れる壁のジョニーだ。
いつ見ても気味が悪い老人だなと、無意識に身を一歩引いてしまう。
されど、これは意外とツイているかもしれないと考えを改め直す。
というのも、この壁老人は長年校舎の一部と化しているため、誰よりも校内に詳しい存在だとクレアが話していたことを思い出したのだ。
前回クレアと校舎に忍び込んだ際も、この罪人――眠れる壁のジョニーに図書室までのルートを教えてもらったことを思い出す。
「眠れる壁のジョニーよ。つかぬことを聞くが、迷いの回廊まではどうやって向かえばいいのだ?」
「それならここをまっすぐ進み、二回目の十字路を右に行くことだ」
「二回目の十字路を右だな。了解した!」
眠れる壁のジョニーに貴族然とした態度で礼を告げ、俺は案外早く目的の回廊にたどり着けそうだなと歩き出した。
――直後、老い声に呼び止められた。
「ん?」
なんだろうと眠れる壁のジョニーの方に顔を向けると、追手が来るから急いだ方がいいと言われた。
「追手?」
「ヴィストラールは夜の警備を強化している」
「見回りの教師を増やしたのか!」
これはうかうかしていられない。
俺は眠れる壁のジョニーにもう一度礼を言い、足早に校内を移動する。
「罪人の割に眠れる壁のジョニーは案外いいやつだな」
なんてことを思案しながら一つ目の十字路を通り過ぎた辺りで――
「え!?」
ふいに無数の足音が後方から響き渡ってくる。
「なんだ?」
思わず立ち止まり振り返った俺は、通り過ぎた十字路に目を光らせた。
「こちらに向かって来ている?」
靴音ではない奇妙な足音が、十字路から地響きのように迫りつつあった。
嫌な予感が背筋を冷たく流れる。
「あれは――」
まっすぐ延びた暗がりの先で、何かが赤く光って揺れた。
「――まずい!?」
あれは眼だ!
それもたてがみ一本一本と尻尾が蛇になっている、怪物の眼である。
性格は落ち着きがなく、せっかちであることが広く知れ渡っている狂犬――黒い双頭の犬である。
「あんな怪物を警備に当てるとか、ヴィストラールは一体何を考えておるのだ!?」
噛み合わせの良さそうな牙をカチカチ鳴らしながらばく進する狂犬が、こちらに向かって威嚇するように吠えた。
『グガァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「バカッ、よせ! こっちに来るなッ!!」
俺は咄嗟に腰の杖剣を引き抜き臨戦態勢に入る――が、同時に十字路からさらに二匹、凄まじい勢いで黒い双頭の犬が咆哮を響かせ姿を現した。
「三匹だと!? ――いや」
さらに二匹、奥から猪突猛進と突っ込んでくる。
「――五匹ッ!? バカもの多すぎだ!」
これにはさすがの俺も血の気が引く。
「一体何匹放っておるのだ!?」
数に圧倒された俺は一旦戦線離脱をしようと力走するも、走ることに特化した黒い双頭の犬を中々引き離せない。
「なっ!?」
ならばこのまま迷いの回廊を目指そうと二つ目の十字路を目指したのだけれど、目前で校舎が鳴動する。
「冗談だろ!?」
ガシャンガシャン――と眼前の十字路が音を立てて、ルービックキューブのように壁や天井が入れ替わっていく。
そして次の瞬間には、今の今まで廊下だった右側があっという間に階段に変わっていた。
「―――って此処もか!?」
さらに前方の通路は道が塞がり壁に早変わり。
しかも、現在俺が爆走中の廊下はどんどん道が細く狭くなっていく。
このままでは壁に押し潰されてしまう。
「まだ人が居るのだぞ!」
俺は壁に激突する勢いで速度を上げ、そのまま壁を蹴って左の廊下に素早く方向転換。
「ふぅー、死ぬかと思った」
袖口で額の汗を拭って安堵のため息を吐き出した、その時――
『ガルルルッ―――』
「へ?」
空腹の胃に吐き気がくるような不安を覚える。
「勘弁してほしいのだが……」
振り返り後方を確認すると、三匹の黒い双頭の犬が階段の前で唸声を上げている。
「……醜穢な」
しかも残りの二匹は間に合わなかったようで、上半身だけが壁際に転がっていた。
どうやら下半身はプレスされてしまったようだ。
「いくらなんでも危険すぎるだろ!」
夜の校舎は安全装置が作動しないようになっているらしい。
もしも一歩遅れていたなら自分も……想像するとゾッとした。
「どうやら、やるしかなさそうだな」
このままでは埒が明かないと判断した俺は、改めて階段前を陣取る三匹の黒い双頭の犬に向けて勇ましく杖剣を構えた。
「犬猫好きな俺としてはお前たちと戦いたくないのだがな、引いてはくれぬか?」
『『『グガァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ―――』』』
猛々しくNOと吠えて牙を光らせている。
「だろうな」
懐くのであれば一匹ぐらい飼ってみたかったと思いながらも、俺は気持ちを切り替えて剣の腹にサッと左手を走らせる。
「昼寝うたた寝大あくび――眠り剣!」
無意味な殺生を好まない俺は、サシャール先生が使った眠り剣を発動させる。
これで斬った相手は深い眠りに落ちていく。殺さずの剣だ。
「遠慮はいらん。寝かし付けてほしいわんこから掛かってくるのだ!」
かかってこいと剣先をクイクイ動かせば、二匹の獰猛な黒い双頭の犬が勢いよく飛び出してくる。示し合わせたように壁を伝い、凶器のような牙や爪をもって空襲を仕掛けてくる二匹を躱した俺は、神速を以て杖剣を振り抜いた。
転瞬、一筋の閃光が闇に光る。
一弾指の時が過ぎると、辺りには突風と轟音が鳴り響く。
衝撃波によって窓ガラスは一斉に砕け散り、床には地割れが走った。
強烈な光が黒い双頭の犬を包み込めば、俺の足下にパタリと音が鳴る。
二匹はスヤスヤと寝息を立てていた。
「少しやり過ぎてしまった」
力加減を誤ってしまった俺は、危うく校舎を吹き飛ばしてしまうところだった。
反省する俺だったが、破壊してしまった壁や床は独りでに元に戻っていく。
どうやら校舎全体に修復・修繕魔法が掛けられているらしい。
「さすがアルカミア魔法学校だな!」
目ばたきの間に見事修復された。
で、お前はどうする? と残りの一匹に視線を流すと、『アンッ!』伏せの状態でパタパタとこちらに向かって尻尾を振っていた。
「現金なやつだな。ま、嫌いではないがな」
迷いの回廊までのルートがすっかり変更されてしまったため、俺は現金な黒い双頭の犬に道案内を頼んだ。
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