異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月

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プロローグ

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 夕暮れの鐘が鳴り止むころ、王都レルシェイドの歓楽街【ミストヴェイル】は、ゆっくりと息を吹き返す。

 まるで、日中の眠りから覚醒した巨獣が、喉奥で低く唸り声を上げるように。

 魔導灯が一斉に火を呑み、通りはつい先ほどまでの夕闇を忘れ、昼よりも明るい色彩に満たされた。

 赤、青、金――無数の光が石畳に降り注ぎ、人々の影は目映い舞踏を始める。胸元をはだけた楽師が奏でる笛の音が、香草酒の甘く酔わせる香りと混じり合い、ただ歩くだけで魂の底が浮き立つような、奇妙な高揚を運んできた。

「――あらロイド、今日は寄っていかないの?」

 それは、ミストヴェイルの夜が本格的に動き出す合図のような声だった。
 振り向けば、プラチナブロンドの巻き毛を揺らし、胸元を惜しげもなく開いたドレスの女――いや、一輪の毒花と呼ぶべきか――《エマ》が、艶を含んだ笑みをこちらに投げかけていた。

 エマ。今年二十二歳。だが、歳月の数など意味を失うほど、彼女は成熟していた。

 かつては辺境の村の、ありふれた娘にすぎなかったらしい。口減らしという名の非情に押し流され、この街に辿り着いたと聞く。

 だが、そこで生き延びるための才覚は、むしろ女達の手本となるほどだった。

 ひとたび彼女に抱かれた男は、二度と自由には戻れない――そんな噂から、いつしか彼女は“微笑のラミア”と呼ばれるようになった。甘美に絡みつき、離さない。

 ミストヴェイルの頂点に立つ日も、そう遠くはなかろう。

 そんな彼女が俺に親しく声をかける理由は単純だ。ミストヴェイルでの初めての客が――俺だったのである。

「ん~~……今日は、少し安くしてくれたり……?」
 「ふふ、ケチな男はね、ほんとにモテないのよ?」

 言われてみれば至言だ。
 この世は所詮、金。金がなければ女を抱けず、女を幸せにすることなど夢のまた夢。
 逆に言えば、金さえあれば醜男であろうと、女は星の数ほど寄ってくる――悲しいが、これが現実だ。

 そして何より、金がなかったからこそエマはこの《ミストヴェイル》にいる。

「この間、また値段上がったよな?」 
「ええ。あたしの価値に、ようやく男達が気づき始めたみたいよ」

 確かに、エマは美しい。
 さらに、あの曲線美は罪深いほどに魅力的だ。誰だって、一度は抱きしめてみたくなる。

 ――だが、財布の方がそろそろ悲鳴を挙げている。
 俺は貴族の坊っちゃんでも、大商会の跡取りでもないのだ。

「で、今いくらだ?」 
「一晩、八万ギル」
「……っ」

 高い。あまりにも高い。
 前は七万一千ギルだったはずだ。わずか数日で九千ギル値上げとは、強気にも程がある。

 ……いや、待て。
 エマの美しさと技量なら、まだ納得できる範囲かもしれない。
 高級嬢ともなれば十万ギルは下らないのだ。今のうちに手が届くというだけで奇跡なのだろう。

 しかし、八万ギル――。
 今夜彼女を衝動買いすれば、明日からの生活は火の車だ。
 だが、次に会うころには九万か十万になっているかもしれない。

 思案に沈む俺の視界の端で、文字が奔流のように流れ始める。

 :エマちゃん買え!
 :はよ買ってエロ見せろ!
 :ここで買わなかったらもう観ねぇ
 :むしろ八万なら安い
 :エマちゃん本番あり?
 :初見か?
 :ここで買わなかったら順位下がるだけ
 :エロ枠なんだからケチケチすんな
 :お前順位低いんだからケチケチすな
 :そのうち追跡者に消されんぞ

 ――視界に映る《配信画面》。 
 十六歳で│権能《オリジン》に目覚めたその日を境に、別世界の“見る者たち”――神にも等しい存在が、俺の一挙手一投足をずっと見つめている。

 はぁ……。
 よりによって、なんでこんな意味不明な│権能《オリジン》なんだよ。

 しかも“見る者”の大半は、俺にいやらしい展開を望んでいるらしい。
 │権能《オリジン》の性質上、彼らを無碍にはできない。

 ……まあ。
 行為自体が嫌いかといえば、むしろ好きな部類だが。

 ならば――選ぶ道はひとつだ。

「ロイド、だいすきよ♡」
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