異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月

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あの日

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「あら……せっかく“上”に乗ってあげているのに、またそんな悲しげな目をするのね?」

 薄明かりに浮かび上がるエマの肌は、淡い金粉を散らしたかのように輝いていた。
 乱れた吐息をこぼしながら、彼女はわずかに腰を揺らし、熱に染まった頬のまま俺を見下ろしている。
 その唇は熟れた果実さながらに赤く、妖艶な微笑を含んだまま、そっと俺の唇に触れた。

「俺……そんな目してたか?」 
「ふふ……ええ。例の“幼馴染み”のことでも思い出していたんじゃない?」

 エマの指先が、頬をなぞるように降りてきた。
 どこか見透かした声音。だが責めるような色はなく、むしろ、夜の女なりの優しささえあった。

 その問いに胸がわずかに疼き、俺は天井を見つめた。


 ◆


 ――数ヶ月前。

 まだ故郷・コルネ村の土の匂いを胸いっぱいに吸い込んでいた頃。
 俺には、一つ年上の幼馴染みがいた。

 名はユリアナ。

 俺が生まれて初めて「好きだ」と思った女の子で――
 そして、彼女もまた、同じ想いを俺に向けてくれていた。

 俺たちは、まるで影と本体のようにいつも一緒だった。
 森で木の実を拾うときも、川で遊ぶときも、時には手をつないで大人に叱られるときでさえ、必ず隣にはユリアナがいた。

 彼女が笑えば、世界も釣られて明るくなるように思えた。
 彼女が泣けば、胸の奥がどうしようもなく痛んだ。

 あの日――

 ユリアナに、│権能《オリジン》が現れる、その日までは。


 その日も、俺たちはいつものように村外れの小さな教会へと足を運んでいた。
 風に揺れる古い鐘楼。ひんやりとした石床。
 幼いころから変わらず、俺とユリアナはそこで女神に祈りを捧げてきた。

 ――だが、その静寂を裂いたのは、祈りではなかった。

 ユリアナの身体が、突如としてまばゆい光を放ちはじめたのだ。

「あっ……あつい……!」

 胸を押さえ、苦悶に耐えるように膝をつくユリアナ。
 その表情は、俺がこれまで見たこともないほど歪んでいた。
 光は一瞬ごとに強さを増し、教会の古びた壁までも白金に染め上げる。

「だ、誰かぁ──! 来てくれぇっ! ユリアナが……ユリアナが!」

 声が裏返るほど叫んだ。祈りの静けさなど吹き飛び、俺の叫びは教会中に響き渡った。

「これは……│権能《オリジン》……!?」
 「いや……ただの│権能《オリジン》ではない。この輝き……まさか、愛子……?」

 駆けつけた神父とシスターは、目も開けられぬほどの光の中で、息を呑んだ。
 長年数多の祈りを見守ってきた彼らでさえ、言葉を失うほどの光景だった。

「神父様! シスター! ぼーっとしてないで、ユリアナを助けてよ!」

 俺は神父の衣を掴み、縋るように揺さぶった。
 神父もシスターも動揺を隠しきれていなかったが、それでも必死に俺へ頷いてみせる。

「ロイド……すぐに村長を呼んできなさい。これは、村一つで抱えきれる事象ではない」
 「ユリアナは今……女神様からの寵愛を受けているのよ」

 “女神の寵愛”――。

 人は百人に一人の割合で│権能《オリジン》を発現する。
 火の精霊と心を通わせ、焔を操る者。
 触れた草木を瞬く間に蘇らせる者。
 それらは、いわば“個性”と呼ばれる小さな奇跡だ。

 だが、ユリアナの光は違った。

 それは、人が一生に一度目にするかどうかの奇跡――いや、“選別”だった。

 《愛子》と呼ばれる存在がいる。
 一般の│権能《オリジン》など遠く及ばぬ、女神が直接その魂に触れた者。
 かつて勇者と称えられた者。
 世界を癒やし、人々を導いた聖女。
 剣聖や賢者と呼ばれた名だたる人物たち。

 その全てが、例外なく“愛子”だった。

 そして今、ユリアナがその光をまとっている。

 俺はただ、立ち尽くすことしかできなかった。
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