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モブ令嬢と恋への抵抗
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三日後。私は再びシャスタに来ていた。
私は魔王と名乗るシュエルの元へ行きたいのだが、何せ魔界への行き方がわからない。なので、初めてシュエルに出会った場所の近くで待ち伏せしていれば、もしかしたら魔界に行かずとも会えるかもしれないと考えたのだ。
「――いらっしゃいませ」
今日は前回来たときよりも幾分か空いていて、私は自由な席へお座りくださいと店員さんに言われる。
一瞬思考した後、私は道が見やすいテラス席を選ぶ。
「ご注文は、前回と同じでよろしいですか?」
注文を聞きに来た店員さんの言葉に、覚えていたのかと驚きつつ。
私は「えぇ、それでお願いします」と頼む。
頼んだ品はすぐに届き、私はゆっくりと食べ始めるのであった。
それから、どのくらいの時間がたったであろうか。
私はもうすでに、レモンのタルトを食べ終え、紅茶も残りわずかになっていた。
ちなみにタルトは、いくら食べても前回のように意識が朦朧とするようなことはなく、最後まで美味しく食べることができた。
「やっぱり、曲がりなりにも魔王と名乗る人が、そう簡単に人間界に来るだなんて……てかこの世界に魔物っているんだ」
一晩で全クリしたため、あまり細かいことは覚えていないのである。
「……帰るか」
本当は今日中にシュエルに会いたいのだが、こんなところで時間をつぶすのは勿体ない。
そう考え、私は代金を支払い、屋敷へと帰ろうとしたのだが……
「 !? 」
シャスタから少し離れた場所で、シュエルとソフィアが一緒にいるのが見えた。
よく見ると、シュエルとソフィアは腕を組んでおり、私はシュエルもソフィアに魅了されたうちの一人だと思ったのだが……
「うん?」
シュエルは私に気が付き、口パクと私に何かを訴えかけている。
今の私はきっと、都合のいい解釈しかできないだろうけどなぁ、と思いながら、シュエルの言いたいことを読み取る。
「えぇ、と…… た す け て く れ ?」
私がそうつぶやきながら首をかしげると、シュエルはうんうんと頷き、ソフィアに気づかれない程度に控えめに私に手招きしてくる。
「……しょうがない」
これでシュエルに貸しができると思えば安いもの。
そう自身に暗示をかけながら、私は二人に近づく。
「――あら?ソフィアさん。こんなところで奇遇ですね」
「へ?……あぁ、えっと……」
「ふふっ、私の名前はヴィル・テイランですよ」
「あ、あぁ!公爵家の!!」
いや、どういう覚え方してんの、と突っ込みたい気持ちを抑え、私は微笑みながら「えぇ、そうです」と答える。
「そういえば、先ほどデイファン様が貴女を探していると言っていましたよ?」
「えぇ!?デイファン様が!!」
「えぇ」
嘘である。そもそも私は、婚約者がいるのに他の女になびく男などとは、もう二度と会話もしたくない。
「どこにいたの!?」
私が話しかけたときは興味なんて微塵もなさそうだったのに、デイファンの話をしたとたん、私に鬼気迫る勢いで話しかけてくる。
「えっと、確か……城下町のはずれのどこかだったような……」
「ありがとう!!……それと、シュエル様もお元気で!!」
私がソフィアに話しかけたあたりから蚊帳の外であったシュエルにもきっちりとあいさつし、ソフィアは私が言った情報を信じて疑わずに、城下町のはずれの方に走り去っていく。
「……ありがとう。君がまさか俺を助けてくれるだなんて……」
「いえ、貸しができると思えばお安い御用ですよ。それと、口調が前回よりもずいぶんお変わりになりましたね?」
「あ!?……い、いや、何でもない。忘れろ」
予期せぬ、シュエルに貸しだけではなく弱みも握れて、私は貴重な時間を割いてまでシャスタにいた甲斐があったというものだ。
「そういえば、魔王様がどうして人間界に?」
私は珍しく、本心からの興味を口にする。
「あぁ。この前会ったときに、貴様に魔界への行き方を教えていなかったからな。前回貴様を見つけた場所の近くにいれば、貴様を見つけられると思い、ここ数日はずっとここにいた」
「へ、へぇ……魔王様も随分暇なのですね」
私は正常を装いながら、内心はとてつもなく困惑していた。
ここ数日って……シュエルと会ったのは四日前……その日から、わざわざ私を待っていてくれたの?来るかどうかもわからないのに……?てかまるっきり私と思考回路同じだし!!
い、いやいや。ドキドキなんてしていない。あくまでシュエルは利用すべき駒。レイナの復讐のために、恋愛にうつつを抜かしている暇はないのに……!!
それに、こんなことでドキドキして恋をしてしまうだなんて、メインキャラのこと言えないじゃない……!!私は決して、恋なんて……!
「べ、別に、嬉しくなんかないんだから!!」
「は?別に貴様が喜ぶなんて微塵も思っていないが」
なんでツンデレみたいなこと言った!?
しかもシュエル塩だし!!
――あぁ、もういい!!とにかく今は復讐最優先!!他の余計なことは考えない!!
「とにかく!!……わ、私は、」
「なぁ、話は後にしないか?ソフィアとかいう小娘が戻ってくるかもしれんしな」
シュエルがそう言った瞬間、指が鳴る音がし、気が付けば私は、シュエルと初めて会話した場所に立っていたのだった。
私は魔王と名乗るシュエルの元へ行きたいのだが、何せ魔界への行き方がわからない。なので、初めてシュエルに出会った場所の近くで待ち伏せしていれば、もしかしたら魔界に行かずとも会えるかもしれないと考えたのだ。
「――いらっしゃいませ」
今日は前回来たときよりも幾分か空いていて、私は自由な席へお座りくださいと店員さんに言われる。
一瞬思考した後、私は道が見やすいテラス席を選ぶ。
「ご注文は、前回と同じでよろしいですか?」
注文を聞きに来た店員さんの言葉に、覚えていたのかと驚きつつ。
私は「えぇ、それでお願いします」と頼む。
頼んだ品はすぐに届き、私はゆっくりと食べ始めるのであった。
それから、どのくらいの時間がたったであろうか。
私はもうすでに、レモンのタルトを食べ終え、紅茶も残りわずかになっていた。
ちなみにタルトは、いくら食べても前回のように意識が朦朧とするようなことはなく、最後まで美味しく食べることができた。
「やっぱり、曲がりなりにも魔王と名乗る人が、そう簡単に人間界に来るだなんて……てかこの世界に魔物っているんだ」
一晩で全クリしたため、あまり細かいことは覚えていないのである。
「……帰るか」
本当は今日中にシュエルに会いたいのだが、こんなところで時間をつぶすのは勿体ない。
そう考え、私は代金を支払い、屋敷へと帰ろうとしたのだが……
「 !? 」
シャスタから少し離れた場所で、シュエルとソフィアが一緒にいるのが見えた。
よく見ると、シュエルとソフィアは腕を組んでおり、私はシュエルもソフィアに魅了されたうちの一人だと思ったのだが……
「うん?」
シュエルは私に気が付き、口パクと私に何かを訴えかけている。
今の私はきっと、都合のいい解釈しかできないだろうけどなぁ、と思いながら、シュエルの言いたいことを読み取る。
「えぇ、と…… た す け て く れ ?」
私がそうつぶやきながら首をかしげると、シュエルはうんうんと頷き、ソフィアに気づかれない程度に控えめに私に手招きしてくる。
「……しょうがない」
これでシュエルに貸しができると思えば安いもの。
そう自身に暗示をかけながら、私は二人に近づく。
「――あら?ソフィアさん。こんなところで奇遇ですね」
「へ?……あぁ、えっと……」
「ふふっ、私の名前はヴィル・テイランですよ」
「あ、あぁ!公爵家の!!」
いや、どういう覚え方してんの、と突っ込みたい気持ちを抑え、私は微笑みながら「えぇ、そうです」と答える。
「そういえば、先ほどデイファン様が貴女を探していると言っていましたよ?」
「えぇ!?デイファン様が!!」
「えぇ」
嘘である。そもそも私は、婚約者がいるのに他の女になびく男などとは、もう二度と会話もしたくない。
「どこにいたの!?」
私が話しかけたときは興味なんて微塵もなさそうだったのに、デイファンの話をしたとたん、私に鬼気迫る勢いで話しかけてくる。
「えっと、確か……城下町のはずれのどこかだったような……」
「ありがとう!!……それと、シュエル様もお元気で!!」
私がソフィアに話しかけたあたりから蚊帳の外であったシュエルにもきっちりとあいさつし、ソフィアは私が言った情報を信じて疑わずに、城下町のはずれの方に走り去っていく。
「……ありがとう。君がまさか俺を助けてくれるだなんて……」
「いえ、貸しができると思えばお安い御用ですよ。それと、口調が前回よりもずいぶんお変わりになりましたね?」
「あ!?……い、いや、何でもない。忘れろ」
予期せぬ、シュエルに貸しだけではなく弱みも握れて、私は貴重な時間を割いてまでシャスタにいた甲斐があったというものだ。
「そういえば、魔王様がどうして人間界に?」
私は珍しく、本心からの興味を口にする。
「あぁ。この前会ったときに、貴様に魔界への行き方を教えていなかったからな。前回貴様を見つけた場所の近くにいれば、貴様を見つけられると思い、ここ数日はずっとここにいた」
「へ、へぇ……魔王様も随分暇なのですね」
私は正常を装いながら、内心はとてつもなく困惑していた。
ここ数日って……シュエルと会ったのは四日前……その日から、わざわざ私を待っていてくれたの?来るかどうかもわからないのに……?てかまるっきり私と思考回路同じだし!!
い、いやいや。ドキドキなんてしていない。あくまでシュエルは利用すべき駒。レイナの復讐のために、恋愛にうつつを抜かしている暇はないのに……!!
それに、こんなことでドキドキして恋をしてしまうだなんて、メインキャラのこと言えないじゃない……!!私は決して、恋なんて……!
「べ、別に、嬉しくなんかないんだから!!」
「は?別に貴様が喜ぶなんて微塵も思っていないが」
なんでツンデレみたいなこと言った!?
しかもシュエル塩だし!!
――あぁ、もういい!!とにかく今は復讐最優先!!他の余計なことは考えない!!
「とにかく!!……わ、私は、」
「なぁ、話は後にしないか?ソフィアとかいう小娘が戻ってくるかもしれんしな」
シュエルがそう言った瞬間、指が鳴る音がし、気が付けば私は、シュエルと初めて会話した場所に立っていたのだった。
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