7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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7番目の婚約者の元婚約者

第72話

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 上背があり容姿端麗なシキと、儚げな雰囲気を持ちかわいらしい令嬢であるサラの二人が並び立つ。
 そんな二人の姿にまた気持ちが揺れる。
 軍人として腕を磨くのに忙しく、恋愛や結婚なんて興味がなかったのに。
 どうして、こんな。


「殿下、お待ちしておりました」


 クリスティーナに気がついたサラが、嬉しそうに微笑んだ。
 そのサラの後ろを支えるような位置にシキがいる。


「ティナ、閣下と話はできましたか?」

「ええ。とても気遣ってくださったわ。それとお礼を辞退しようと思ったのだけど、閣下からお礼として泊っていってほしいと」

「ふふ、父らしいです」

「素晴らしい方ね。そういうことだから、シキ」

「かまいません。安全面とティナの怪我の具合を考えるとその方がいい」

「では、ゆっくりしていただけるのですね。うれしい。さっそくお茶を用意させていただきますね」


 無邪気に微笑みお茶の準備をするサラに、クリスティーナは目を細めた。
 無邪気に微笑むだなんて、自分は一体いつからできなくなっただろうか。
 それはもしかしたら、記憶を失う前からかもしれない。


「ティナ、お話が」


 シキがすっと傍にやってきた。


「何? もしかして、元婚約者のこと?」


 心の揺れを隠して、さらりと言ってのける。
 シキが困ったように眉を下げた。


「知っていたのですか。後でお伝えしようとしていたのですが」

「閣下が教えてくれたわ」

「早く私から話すべきでしたね。サラは私の二度目の婚約者でした。色々あって婚約は破棄されました」

「……彼女を手放すなんてもったいないわ」


 自嘲のような響きがこもってしまったかもしれない。
 シキはいいえ、とゆっくりと首を横に振った。


「彼女は体が弱くて、無理をするとすぐに倒れてしまう。お茶会の準備も侍女がいるのに気になってしまて。彼女を支えてあげたいと思いましたが、妹のような存在でした。ティナとは違う」


 はっとして顔を向けると、こちらを見ていたシキと視線がぶつかった。
 そこにはクリスティーナへの熱が込められているようで、吸い込まれそうになる。


「ごほごほごほっ、うぅ……ぐ……っ」

「お嬢様!」


 突然、侍女の叫びが中庭に響いた。
 その叫びに反応すれば、侍女がいる先にサラが倒れこんでいた。


「サラ!」


 シキが駆け出し、クリスティーナも後に続いた。
 地面にうずくまっているサラは激しく咳き込み、顔を真っ青にしていた。


 ドクンッ


 不意にクリスティーナの心臓が激しく動いた。
 目の前が一瞬で暗くなり、映像がフラッシュバックする。


(なに、これ……)


 金色の髪と紫紺の瞳を持つ、よく似た幼い兄妹が焦りをにじませていた。






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