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平日の放課後。
駅前の雑居ビルの6階。
チェーンのカラオケに、私とララ、二人きり。
「サナ、次なに歌う? またバラード? テンション下がるんだけど~」
唐突にマイクを向けられて、私はドリンクのストローを咥えたまま目を細めた。
「じゃあララが選べば? どうせまた恋愛ソングばっかでしょ」
「恋の歌のなにが悪いのー! 乙女の本能だよ?」
「うるさい乙女だな、まったく」
言いながらも、私は楽しかった。
本当に、楽しかった。
制服のままカラオケに入って、フライドポテトを頬張りながら交代で歌って、どうでもいいことで笑い合って――
(こういうのが、ずっと続けばいいのに)
冗談っぽくツッコんでるフリをして、私はいつもララを目で追ってる。
前髪をかき上げる仕草とか、ふいに真顔になる瞬間とか、歌詞を追いながら目を細める表情とか――
全部、ずっと見ていたいって思ってた。
……でもそれは、絶対に“言っちゃいけない気持ち”。
「ふふ~ん♪ じゃあ私は~これいきまーす」
そう言ってララが選曲したのは、アイドルのラブソング。
「彼氏ができたら歌いたいランキング1位!」らしい。
「……ねえ、それって私に向けて歌ってんの?」
「ちっがーう! 妄想だよ、妄想! イメトレイメトレ!」
「どんだけイメージしてんだよ」
言いながらも、私は画面よりもララのほうを見てた。
リズムに合わせて体を揺らして、楽しそうに手拍子するララ。
少し高めの声が、時々音を外すのも含めて、全部可愛かった。
(私が、男だったら――)
もしそうだったら、
絶対、ララのことを好きになって。
絶対、ララと付き合って。
絶対、ララのことを誰よりも大切にして。
絶対――こんなふうに“親友”じゃなくて、“彼氏”として隣にいた。
……それなのに、私は女で。
ララは、何の疑いもなく「親友」として私に甘えてくる。
くっついて、笑って、歌って、手を握ってきたりして。
だけど、それ以上の意味は、きっとララの中にはない。
(でも……それでもいい)
ララがこうして笑ってくれるなら、それで。
この時間が終わってほしくないって、心の底から思ってた。
ララが歌い終えて、照れ笑いを浮かべながらソファにごろんと横になった。
「疲れた~……ちょっとだけ寝る~」
「歌っただけで寝るなよ。まだ時間あるって」
「大丈夫~……サナの声、子守唄みたいで眠くなる……」
「バカ」
そのままララは、私の肩にもたれかかるようにして目を閉じた。
腕が、髪が、ふわっと触れる。
あったかくて、柔らかくて、ドキドキして、嬉しくて――
でも、胸の奥が苦しくなった。
(お願いだから……今だけは、このままでいて)
私は目を閉じて、そっと肩を貸した。
誰にも見られてないから、
ほんの少しだけ、ララの髪に顔を寄せる。
――その瞬間、涙が一粒、頬を伝った。
(私、どうして女に生まれたんだろう)
そんなこと、今さら考えたって仕方ないのに。
今日のララが、あまりに可愛くて、優しくて、近すぎて。
私は、自分の感情を持て余していた。
この瞬間が永遠に続いてほしいなんて、
きっと願ってはいけないことなのに。
駅前の雑居ビルの6階。
チェーンのカラオケに、私とララ、二人きり。
「サナ、次なに歌う? またバラード? テンション下がるんだけど~」
唐突にマイクを向けられて、私はドリンクのストローを咥えたまま目を細めた。
「じゃあララが選べば? どうせまた恋愛ソングばっかでしょ」
「恋の歌のなにが悪いのー! 乙女の本能だよ?」
「うるさい乙女だな、まったく」
言いながらも、私は楽しかった。
本当に、楽しかった。
制服のままカラオケに入って、フライドポテトを頬張りながら交代で歌って、どうでもいいことで笑い合って――
(こういうのが、ずっと続けばいいのに)
冗談っぽくツッコんでるフリをして、私はいつもララを目で追ってる。
前髪をかき上げる仕草とか、ふいに真顔になる瞬間とか、歌詞を追いながら目を細める表情とか――
全部、ずっと見ていたいって思ってた。
……でもそれは、絶対に“言っちゃいけない気持ち”。
「ふふ~ん♪ じゃあ私は~これいきまーす」
そう言ってララが選曲したのは、アイドルのラブソング。
「彼氏ができたら歌いたいランキング1位!」らしい。
「……ねえ、それって私に向けて歌ってんの?」
「ちっがーう! 妄想だよ、妄想! イメトレイメトレ!」
「どんだけイメージしてんだよ」
言いながらも、私は画面よりもララのほうを見てた。
リズムに合わせて体を揺らして、楽しそうに手拍子するララ。
少し高めの声が、時々音を外すのも含めて、全部可愛かった。
(私が、男だったら――)
もしそうだったら、
絶対、ララのことを好きになって。
絶対、ララと付き合って。
絶対、ララのことを誰よりも大切にして。
絶対――こんなふうに“親友”じゃなくて、“彼氏”として隣にいた。
……それなのに、私は女で。
ララは、何の疑いもなく「親友」として私に甘えてくる。
くっついて、笑って、歌って、手を握ってきたりして。
だけど、それ以上の意味は、きっとララの中にはない。
(でも……それでもいい)
ララがこうして笑ってくれるなら、それで。
この時間が終わってほしくないって、心の底から思ってた。
ララが歌い終えて、照れ笑いを浮かべながらソファにごろんと横になった。
「疲れた~……ちょっとだけ寝る~」
「歌っただけで寝るなよ。まだ時間あるって」
「大丈夫~……サナの声、子守唄みたいで眠くなる……」
「バカ」
そのままララは、私の肩にもたれかかるようにして目を閉じた。
腕が、髪が、ふわっと触れる。
あったかくて、柔らかくて、ドキドキして、嬉しくて――
でも、胸の奥が苦しくなった。
(お願いだから……今だけは、このままでいて)
私は目を閉じて、そっと肩を貸した。
誰にも見られてないから、
ほんの少しだけ、ララの髪に顔を寄せる。
――その瞬間、涙が一粒、頬を伝った。
(私、どうして女に生まれたんだろう)
そんなこと、今さら考えたって仕方ないのに。
今日のララが、あまりに可愛くて、優しくて、近すぎて。
私は、自分の感情を持て余していた。
この瞬間が永遠に続いてほしいなんて、
きっと願ってはいけないことなのに。
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