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あの日の帰り道、私はまだララの温もりを手のひらに感じていた。
カラオケで二人きり、マイクを取り合って笑って、隣で大きな声で歌って、声が裏返って笑い崩れて、飲み物をこぼして、私が拭いて――。
どれも、ただの些細な出来事だったはずなのに、私はそれを何度も反芻していた。
(ララって、やっぱ最高に可愛いな……)
ぽつんと、そう思ってしまった。
何度目か分からない感情。でも、それはどんどん輪郭を増していて、もう“憧れ”でも“親友”でも説明がつかないのは、自分でもわかってた。
(もし私が男だったら……)
そんなこと、何度も思ってきた。
でもそれは叶わない、だから私は――“親友”でいるしかない。
そうやって、ずっと隣にいようと決めていた。
でも、変化は本当にあっさりと訪れた。
月曜日の朝。
教室のドアが開いて、いつも通りララが入ってくる。
「おはよーっ!」
元気な声、いつもの笑顔。そこまでは、何も変わらない。
だけど私は、視線が一瞬でララの耳に引き寄せられた。
「……イヤリング?」
ピンクゴールドの、小さなフープタイプ。
光を反射して、さりげなく揺れている。
「ふふっ、昨日ね、なんか衝動買いしちゃった。駅前の雑貨屋で」
「珍しいね。今までアクセとか興味なかったのに」
「うーん、なんか気分で……イメチェンってやつ?」
ララは笑いながら机に座る。
その笑顔が可愛すぎて、私はうまく返事ができなかった。
(……もしかして、好きな人でもできたのかな)
なんて、思ってしまう自分がいた。
昼休み。
いつものように二人で机を並べて、コンビニのおにぎりを食べていたとき、ララが話し出す。
「ねえ、サナ」
「ん?」
「今度の日曜、ちょっと人に会うことになったんだ~」
ごく自然にそう言ったララの横顔は、少しだけ照れているようだった。
「……誰と?」
「タクマくんって人。隣の高校の。知り合いの先輩が“感じのいい子だよ”って紹介してくれて……LINE交換して、ちょっとだけやり取りしてるの」
タクマ。
聞いたことのない名前。
「ふーん、会うの?」
「うん。日曜に、駅前のカフェでちょっとだけ。どんな人か分かんないし、すぐ帰ると思うけどね」
「……ララがそういうの乗るの、珍しいなって思って」
「私もそう思う~。でも、なんか文章の感じがやわらかくて、変に気張らなくていいっていうか」
うまく言えないんだけど、と笑うララに、私は「そっか」とだけ返した。
胸の中が、じわじわと苦かった。
日曜日。
ララからは、一度も連絡が来なかった。
LINEを開いて、何度も打っては消した。
「どうだった?」と聞いてみたかったけど、なんだか聞いちゃいけない気がして――私はただ、スマホの画面を眺めるだけだった。
そして、月曜日。
登校してきたララは、また少しだけ違っていた。
リップの色が、普段より濃い。
前髪が少しだけ斜めに流れている。
スカートの丈が、ほんの少し短い。
「おはよ、サナ」
「……なんか、雰囲気変わったね」
「え? そうかな?」
ララは笑うけど、その笑顔の奥に、私の知らない誰かの影が見えた気がした。
そして、その日のお昼。
ララが唐突に、ぽんっと言った。
「タクマくんね、いっぱい彼女さんいるんだって~」
「……は?」
「びっくりだよね。しかもみーんな可愛くて、おしゃれで、超レベル高いの! 私なんか場違いかなーって思ったけど、なんか……逆に気が楽だったかも」
ケラケラ笑うララ。
冗談を言っているわけじゃない。
本気で、気にしてない顔だった。
「……それって、平気なの?」
「うん? わかんない。まだ“付き合おう”って言われたわけじゃないし、何番でもいいかなーって」
「……は?」
「ふふ、変なこと言ってるよね。でも、タクマくんって、そういうの全部隠さないで話してくれるからさ。“俺は一人に縛られたくないけど、それでも好きって思ってくれる子がいればいい”って」
私は、言葉を失った。
それが“優しさ”に聞こえるなんて、どうかしてる。
(ララ……どうしてそんな顔で笑っていられるの)
それでも、言えなかった。
親友の私が、口を挟む資格はないのかもしれないって、思ってしまった。
(私が男だったら)
(私だったら、絶対ララを一番にするのに)
喉の奥で、何かがせり上がるのを感じた。
放課後、ララは誰よりも早く教室を出ていった。
スマホを見つめて、ふわりと笑って。
私は、その後ろ姿を、ただ見ていることしかできなかった。
カラオケで二人きり、マイクを取り合って笑って、隣で大きな声で歌って、声が裏返って笑い崩れて、飲み物をこぼして、私が拭いて――。
どれも、ただの些細な出来事だったはずなのに、私はそれを何度も反芻していた。
(ララって、やっぱ最高に可愛いな……)
ぽつんと、そう思ってしまった。
何度目か分からない感情。でも、それはどんどん輪郭を増していて、もう“憧れ”でも“親友”でも説明がつかないのは、自分でもわかってた。
(もし私が男だったら……)
そんなこと、何度も思ってきた。
でもそれは叶わない、だから私は――“親友”でいるしかない。
そうやって、ずっと隣にいようと決めていた。
でも、変化は本当にあっさりと訪れた。
月曜日の朝。
教室のドアが開いて、いつも通りララが入ってくる。
「おはよーっ!」
元気な声、いつもの笑顔。そこまでは、何も変わらない。
だけど私は、視線が一瞬でララの耳に引き寄せられた。
「……イヤリング?」
ピンクゴールドの、小さなフープタイプ。
光を反射して、さりげなく揺れている。
「ふふっ、昨日ね、なんか衝動買いしちゃった。駅前の雑貨屋で」
「珍しいね。今までアクセとか興味なかったのに」
「うーん、なんか気分で……イメチェンってやつ?」
ララは笑いながら机に座る。
その笑顔が可愛すぎて、私はうまく返事ができなかった。
(……もしかして、好きな人でもできたのかな)
なんて、思ってしまう自分がいた。
昼休み。
いつものように二人で机を並べて、コンビニのおにぎりを食べていたとき、ララが話し出す。
「ねえ、サナ」
「ん?」
「今度の日曜、ちょっと人に会うことになったんだ~」
ごく自然にそう言ったララの横顔は、少しだけ照れているようだった。
「……誰と?」
「タクマくんって人。隣の高校の。知り合いの先輩が“感じのいい子だよ”って紹介してくれて……LINE交換して、ちょっとだけやり取りしてるの」
タクマ。
聞いたことのない名前。
「ふーん、会うの?」
「うん。日曜に、駅前のカフェでちょっとだけ。どんな人か分かんないし、すぐ帰ると思うけどね」
「……ララがそういうの乗るの、珍しいなって思って」
「私もそう思う~。でも、なんか文章の感じがやわらかくて、変に気張らなくていいっていうか」
うまく言えないんだけど、と笑うララに、私は「そっか」とだけ返した。
胸の中が、じわじわと苦かった。
日曜日。
ララからは、一度も連絡が来なかった。
LINEを開いて、何度も打っては消した。
「どうだった?」と聞いてみたかったけど、なんだか聞いちゃいけない気がして――私はただ、スマホの画面を眺めるだけだった。
そして、月曜日。
登校してきたララは、また少しだけ違っていた。
リップの色が、普段より濃い。
前髪が少しだけ斜めに流れている。
スカートの丈が、ほんの少し短い。
「おはよ、サナ」
「……なんか、雰囲気変わったね」
「え? そうかな?」
ララは笑うけど、その笑顔の奥に、私の知らない誰かの影が見えた気がした。
そして、その日のお昼。
ララが唐突に、ぽんっと言った。
「タクマくんね、いっぱい彼女さんいるんだって~」
「……は?」
「びっくりだよね。しかもみーんな可愛くて、おしゃれで、超レベル高いの! 私なんか場違いかなーって思ったけど、なんか……逆に気が楽だったかも」
ケラケラ笑うララ。
冗談を言っているわけじゃない。
本気で、気にしてない顔だった。
「……それって、平気なの?」
「うん? わかんない。まだ“付き合おう”って言われたわけじゃないし、何番でもいいかなーって」
「……は?」
「ふふ、変なこと言ってるよね。でも、タクマくんって、そういうの全部隠さないで話してくれるからさ。“俺は一人に縛られたくないけど、それでも好きって思ってくれる子がいればいい”って」
私は、言葉を失った。
それが“優しさ”に聞こえるなんて、どうかしてる。
(ララ……どうしてそんな顔で笑っていられるの)
それでも、言えなかった。
親友の私が、口を挟む資格はないのかもしれないって、思ってしまった。
(私が男だったら)
(私だったら、絶対ララを一番にするのに)
喉の奥で、何かがせり上がるのを感じた。
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