ララのことが好きだった私が、ララの彼氏に操られて、彼の“彼女の一人”にされるまで

夜道に桜

文字の大きさ
2 / 6

2

しおりを挟む
 あの日の帰り道、私はまだララの温もりを手のひらに感じていた。

 カラオケで二人きり、マイクを取り合って笑って、隣で大きな声で歌って、声が裏返って笑い崩れて、飲み物をこぼして、私が拭いて――。
 どれも、ただの些細な出来事だったはずなのに、私はそれを何度も反芻していた。

(ララって、やっぱ最高に可愛いな……)

 ぽつんと、そう思ってしまった。
 何度目か分からない感情。でも、それはどんどん輪郭を増していて、もう“憧れ”でも“親友”でも説明がつかないのは、自分でもわかってた。

(もし私が男だったら……)

 そんなこと、何度も思ってきた。
 でもそれは叶わない、だから私は――“親友”でいるしかない。
 そうやって、ずっと隣にいようと決めていた。

 

 でも、変化は本当にあっさりと訪れた。

 

 月曜日の朝。
 教室のドアが開いて、いつも通りララが入ってくる。

「おはよーっ!」

 元気な声、いつもの笑顔。そこまでは、何も変わらない。
 だけど私は、視線が一瞬でララの耳に引き寄せられた。

「……イヤリング?」

 ピンクゴールドの、小さなフープタイプ。
 光を反射して、さりげなく揺れている。

「ふふっ、昨日ね、なんか衝動買いしちゃった。駅前の雑貨屋で」

「珍しいね。今までアクセとか興味なかったのに」

「うーん、なんか気分で……イメチェンってやつ?」

 ララは笑いながら机に座る。
 その笑顔が可愛すぎて、私はうまく返事ができなかった。

(……もしかして、好きな人でもできたのかな)

 なんて、思ってしまう自分がいた。

 

 昼休み。
 いつものように二人で机を並べて、コンビニのおにぎりを食べていたとき、ララが話し出す。

「ねえ、サナ」

「ん?」

「今度の日曜、ちょっと人に会うことになったんだ~」

 ごく自然にそう言ったララの横顔は、少しだけ照れているようだった。

「……誰と?」

「タクマくんって人。隣の高校の。知り合いの先輩が“感じのいい子だよ”って紹介してくれて……LINE交換して、ちょっとだけやり取りしてるの」

 タクマ。
 聞いたことのない名前。

「ふーん、会うの?」

「うん。日曜に、駅前のカフェでちょっとだけ。どんな人か分かんないし、すぐ帰ると思うけどね」

「……ララがそういうの乗るの、珍しいなって思って」

「私もそう思う~。でも、なんか文章の感じがやわらかくて、変に気張らなくていいっていうか」

 うまく言えないんだけど、と笑うララに、私は「そっか」とだけ返した。

 胸の中が、じわじわと苦かった。

 

 日曜日。
 ララからは、一度も連絡が来なかった。

 LINEを開いて、何度も打っては消した。
 「どうだった?」と聞いてみたかったけど、なんだか聞いちゃいけない気がして――私はただ、スマホの画面を眺めるだけだった。

 

 そして、月曜日。

 登校してきたララは、また少しだけ違っていた。

 リップの色が、普段より濃い。
 前髪が少しだけ斜めに流れている。
 スカートの丈が、ほんの少し短い。

「おはよ、サナ」

「……なんか、雰囲気変わったね」

「え? そうかな?」

 ララは笑うけど、その笑顔の奥に、私の知らない誰かの影が見えた気がした。

 

 そして、その日のお昼。

 ララが唐突に、ぽんっと言った。

「タクマくんね、いっぱい彼女さんいるんだって~」

「……は?」

「びっくりだよね。しかもみーんな可愛くて、おしゃれで、超レベル高いの! 私なんか場違いかなーって思ったけど、なんか……逆に気が楽だったかも」

 ケラケラ笑うララ。
 冗談を言っているわけじゃない。
 本気で、気にしてない顔だった。

「……それって、平気なの?」

「うん? わかんない。まだ“付き合おう”って言われたわけじゃないし、何番でもいいかなーって」

「……は?」

「ふふ、変なこと言ってるよね。でも、タクマくんって、そういうの全部隠さないで話してくれるからさ。“俺は一人に縛られたくないけど、それでも好きって思ってくれる子がいればいい”って」

 私は、言葉を失った。

 それが“優しさ”に聞こえるなんて、どうかしてる。

(ララ……どうしてそんな顔で笑っていられるの)

 それでも、言えなかった。
 親友の私が、口を挟む資格はないのかもしれないって、思ってしまった。

(私が男だったら)

(私だったら、絶対ララを一番にするのに)

 喉の奥で、何かがせり上がるのを感じた。

 

 放課後、ララは誰よりも早く教室を出ていった。
 スマホを見つめて、ふわりと笑って。

 私は、その後ろ姿を、ただ見ていることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...