無償の愛などあり得ない

夜道に桜

文字の大きさ
6 / 21

ロディの心情①

しおりを挟む

「ロディ。こんな絵を百枚持ってきても、一銭にもならんよ」

無慈悲にそう宣告した画商は、今まで唯一ロディと取引をしていた人物であり、それはつまり事実上の業界からの追放を意味していた。

彼の心中は失意のどん底にあった。

だが、画商はさらに続けて言った。

「とはまあ、言ってみたが、実は一人だけ『お前』に興味を示されたお方が居る。まだ、お若いが、高貴なお方だ。どうだ? 会ってみるか?」

誰しもが、自分に救い手の手が差し伸べられていたと、たとえ錯覚であったとしても感じたならば、その手を取らずにはいられない。

ロディもそうであり、首が取れてしまうのではないかと思う程、ブンブンと首を縦に振った。

☆★☆

「やぁ、君がロディ君か。初めまして。私はデューク。に興味があるものだ」

「よ、よろしくお願いします!」

「堅いなぁ……。そんな緊張しなくていいのに。……それで? さっそくで悪いけど、絵を見せてくれないか?」

指定された密会の場としてよく利用される店に足を運んだロディ。

画商が言っていた高貴な人という通り、先に席に着き、紅茶を優雅に啜り、庶民では絶対に買う事の出来ないモノばかりを身につけていたデューク。

間違いなく貴族だ。

初めての経験に、胃が捻じれそうな思いだったが、そんな弱気ではいられない。

言われた通り、ロディはデュークに、画商には烙印を押された絵画を見せた。

――結果。

「――良いね。素晴らしい」

「!」

「……まったく、これが駄作だなんてあの画商、節穴も良い所だ。僕だったらこの絵を他の誰かの目に触れる前に、自分の物にするね。本当にいい絵だ」

「そ、それじゃあ!」

「うん、買わせてもらうよ。金貨100枚でどうだろうか?」

破格の値段。

まさか、そんな価値を付けてもらえるなんて。

ロディは歓喜した。

「――でも、条件が一つあるんだ。この絵、グレコの作品をモチーフにしただろ? 」

「そ、そうですけど。……何ですか?」

喜ぶのが早かったか。

デュークは、人差し指を上に突き立てて言った。

「この絵の作者は……君じゃなくてグレコの名で出してもいいだろうか?」

「え。……それはどういう……?」

「やだなぁ。君もこの業界にいるなら一回ぐらい耳にしたことぐらいあるだろう? 『贋作』として売ってくれ、って頼んでんだよ。勿論、金はさっきも言ったように出す」

「――っ」

贋作――それはオリジナルとは別の作者によって模写・模作され、作者の名を騙って流通する絵画の事。

犯罪である。

思わず、首をブルルと震わせて断りを入れようと考えたロディ。

だが、それを見透かしてかデュークは言った。

「良いのかい? こんな誘いは二度とないよ? 君はこの世界で生計を立てていきたいって聞いたんだけど、それは嘘なのかい?」

「ですが、贋作……なんて。そもそも俺とグレコの画風は似ていますが、全然違います。グレコに詳しい人が鑑定すれば、一発でバレますよ。すいませんが……この話は無かったことにしてください」

「あ、そう? なら、仕方がないね。僕だって無理強いはしたくないからね。無理強いは」

ロディは断り、そそくさと席を立った。

デュークも特に止めることもなく、カップにまだ残っている紅茶を飲み始めた。

☆★☆

 店を後にした後、ロディは「これで本当に良かったのだろうか」という後悔と、「画家」としての誇りを失わずに済んだ安堵が入り交じったもやもやとした気持ちだった。

自分の画家としての人生はほぼ終わった。

父に頼めば、まだ画家としての道は残されているかもしれないが、それは考えたくもなかった。

ロディは父を身勝手な男だと考えていたから。

仕事ばかりで、母や自分の事に一切興味を示さない父を。

その癖、母以外の女性を今も愛し、たまに様子を伺いに会いに行っている事にロディは激しい嫌悪感を抱いていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

王の影姫は真実を言えない

柴田はつみ
恋愛
社交界で“国王の妾”と陰口を叩かれる謎の公爵夫人リュミエール。彼女は王命により、絶世の美貌を誇る英雄アラン公爵の妻となったが、その結婚は「公爵が哀れ」「妻は汚名の女」と同情と嘲笑の的だった。 けれど真実は――リュミエールは国王シオンの“妾”ではなく、異母妹。王家の血筋を巡る闇と政争から守るため、彼女は真実を口にできない。夫アランにさえ、打ち明ければ彼を巻き込んでしまうから。 一方アランもまた、王命と王宮の思惑の中で彼女を守るため、あえて距離を取り冷たく振る舞う。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...