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ロディの心情①
しおりを挟む「ロディ。こんな絵を百枚持ってきても、一銭にもならんよ」
無慈悲にそう宣告した画商は、今まで唯一ロディと取引をしていた人物であり、それはつまり事実上の業界からの追放を意味していた。
彼の心中は失意のどん底にあった。
だが、画商はさらに続けて言った。
「とはまあ、言ってみたが、実は一人だけ『お前』に興味を示されたお方が居る。まだ、お若いが、高貴なお方だ。どうだ? 会ってみるか?」
誰しもが、自分に救い手の手が差し伸べられていたと、たとえ錯覚であったとしても感じたならば、その手を取らずにはいられない。
ロディもそうであり、首が取れてしまうのではないかと思う程、ブンブンと首を縦に振った。
☆★☆
「やぁ、君がロディ君か。初めまして。私はデューク。君に興味があるものだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「堅いなぁ……。そんな緊張しなくていいのに。……それで? さっそくで悪いけど、絵を見せてくれないか?」
指定された密会の場としてよく利用される店に足を運んだロディ。
画商が言っていた高貴な人という通り、先に席に着き、紅茶を優雅に啜り、庶民では絶対に買う事の出来ないモノばかりを身につけていたデューク。
間違いなく貴族だ。
初めての経験に、胃が捻じれそうな思いだったが、そんな弱気ではいられない。
言われた通り、ロディはデュークに、画商には烙印を押された絵画を見せた。
――結果。
「――良いね。素晴らしい」
「!」
「……まったく、これが駄作だなんてあの画商、節穴も良い所だ。僕だったらこの絵を他の誰かの目に触れる前に、自分の物にするね。本当にいい絵だ」
「そ、それじゃあ!」
「うん、買わせてもらうよ。金貨100枚でどうだろうか?」
破格の値段。
まさか、そんな価値を付けてもらえるなんて。
ロディは歓喜した。
「――でも、条件が一つあるんだ。この絵、グレコの作品をモチーフにしただろ? 」
「そ、そうですけど。……何ですか?」
喜ぶのが早かったか。
デュークは、人差し指を上に突き立てて言った。
「この絵の作者は……君じゃなくてグレコの名で出してもいいだろうか?」
「え。……それはどういう……?」
「やだなぁ。君もこの業界にいるなら一回ぐらい耳にしたことぐらいあるだろう? 『贋作』として売ってくれ、って頼んでんだよ。勿論、金はさっきも言ったように出す」
「――っ」
贋作――それはオリジナルとは別の作者によって模写・模作され、作者の名を騙って流通する絵画の事。
犯罪である。
思わず、首をブルルと震わせて断りを入れようと考えたロディ。
だが、それを見透かしてかデュークは言った。
「良いのかい? こんな誘いは二度とないよ? 君はこの世界で生計を立てていきたいって聞いたんだけど、それは嘘なのかい?」
「ですが、贋作……なんて。そもそも俺とグレコの画風は似ていますが、全然違います。グレコに詳しい人が鑑定すれば、一発でバレますよ。すいませんが……この話は無かったことにしてください」
「あ、そう? なら、仕方がないね。僕だって無理強いはしたくないからね。無理強いは」
ロディは断り、そそくさと席を立った。
デュークも特に止めることもなく、カップにまだ残っている紅茶を飲み始めた。
☆★☆
店を後にした後、ロディは「これで本当に良かったのだろうか」という後悔と、「画家」としての誇りを失わずに済んだ安堵が入り交じったもやもやとした気持ちだった。
自分の画家としての人生はほぼ終わった。
父に頼めば、まだ画家としての道は残されているかもしれないが、それは考えたくもなかった。
ロディは父を身勝手な男だと考えていたから。
仕事ばかりで、母や自分の事に一切興味を示さない父を。
その癖、母以外の女性を今も愛し、たまに様子を伺いに会いに行っている事にロディは激しい嫌悪感を抱いていた。
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