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ロディの心情④
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――胸が熱い。苦しい。締め付けられるようだ。
自分の異変に気がついたのは、姉との生活が始まって一週間もたっていない頃。
どうにもこうにも何をしても、絵を描いている時ですら落ち着かない。
こんなに気が散った事は今までにない。
そして、その胸のざわめきが落ち着く時は、唯一つ――マリーが視界に入っている時だけ。
仕草、言動、細かい所までに。目が釘付けになる。
――そしてそれが顕著になるのは、決まって食事をしている時だ。
自分が料理したシチューを、物静かにスプーンで掬って、口に運ぶマリー。
そんな姉を知らず知らずのうちにじっと見つめていると、マリーも、視線が気になったのか、
「……あの、どうかしましたか?」
「い、いや、おいしそうに食べるんだなって……思っただけだ。美味しい……か?」
咄嗟に思いついた言い訳。
まさか、「何故だが分からないけれど、貴女から目が離せない」なんて言えるわけがない。
間違えるな。
相手は姉なんだ。
決して、そんな感情を抱いていいはずがない。
平静を保っている(つもりだ)が、うまく誤魔化せているだろうか。
バクバクと今にも心臓を打ち破ってしまいそうな鼓動の音が、姉に聞こえていないだろうか。
しんどい。
理性を保つのが、こんなに難しいなんて。
ロディは歯で口の中をギュッと噛み、痛みと、溢れ出る鉄の味を噛みしめることで、我慢していた。
――幸か不幸か、ロディの必死の自制によって、彼の内に秘めた感情は、マリーにはバレてはない様子だった。
マリーは、ここに来てからは一度も見せたことのなかった微笑を浮かべて、
「ええ、美味しいです。ロディの作ってくれる料理は、どれも私の住んでいた所では見たことなくて新鮮です」
「……そ、それは良かった。僕も作った甲斐があったってもんだ。皿は洗っておいてくれたら助かる」
「勿論です。いつも本当にありがとうございます。……でも、あの一つだけ聞いてもいいですか?」
「ん? 何だ?」
話の途中に、急にマリーが言いにくそうになったのを見て、ロディは少し身構えた。
「その、変な事を言っているとは私も分かっているんですけど、その、私と一緒に生活して……変になったりしませんか?」
「……変? 何だいソレ?」
ドクンと心臓が脈を打った。
まさか自分の気持ちがマリーに知られてしまったのか?
「い、いえ! 何もないならいいんです! 本当に何も……ないなら……」
「何も、ないよ」
一度、言葉に詰まったが大丈夫だ。
まだ、バレてない。
こんな感情、知られるわけにはいかない。
墓場まで持っていくべきなんだ。
自分の迫真の演技が功を奏したのか、マリーは少し安堵した表情になって、
「……良かった。あ、でも本当に何かあったら言ってください。ロディに何かあれば、私すぐにここ出て行きますから……」
「え?」
マリーがそう告げた瞬間、何か得体のしれないモノが、自分を包み込んでいく気持ちにロディは襲われた。
自分の異変に気がついたのは、姉との生活が始まって一週間もたっていない頃。
どうにもこうにも何をしても、絵を描いている時ですら落ち着かない。
こんなに気が散った事は今までにない。
そして、その胸のざわめきが落ち着く時は、唯一つ――マリーが視界に入っている時だけ。
仕草、言動、細かい所までに。目が釘付けになる。
――そしてそれが顕著になるのは、決まって食事をしている時だ。
自分が料理したシチューを、物静かにスプーンで掬って、口に運ぶマリー。
そんな姉を知らず知らずのうちにじっと見つめていると、マリーも、視線が気になったのか、
「……あの、どうかしましたか?」
「い、いや、おいしそうに食べるんだなって……思っただけだ。美味しい……か?」
咄嗟に思いついた言い訳。
まさか、「何故だが分からないけれど、貴女から目が離せない」なんて言えるわけがない。
間違えるな。
相手は姉なんだ。
決して、そんな感情を抱いていいはずがない。
平静を保っている(つもりだ)が、うまく誤魔化せているだろうか。
バクバクと今にも心臓を打ち破ってしまいそうな鼓動の音が、姉に聞こえていないだろうか。
しんどい。
理性を保つのが、こんなに難しいなんて。
ロディは歯で口の中をギュッと噛み、痛みと、溢れ出る鉄の味を噛みしめることで、我慢していた。
――幸か不幸か、ロディの必死の自制によって、彼の内に秘めた感情は、マリーにはバレてはない様子だった。
マリーは、ここに来てからは一度も見せたことのなかった微笑を浮かべて、
「ええ、美味しいです。ロディの作ってくれる料理は、どれも私の住んでいた所では見たことなくて新鮮です」
「……そ、それは良かった。僕も作った甲斐があったってもんだ。皿は洗っておいてくれたら助かる」
「勿論です。いつも本当にありがとうございます。……でも、あの一つだけ聞いてもいいですか?」
「ん? 何だ?」
話の途中に、急にマリーが言いにくそうになったのを見て、ロディは少し身構えた。
「その、変な事を言っているとは私も分かっているんですけど、その、私と一緒に生活して……変になったりしませんか?」
「……変? 何だいソレ?」
ドクンと心臓が脈を打った。
まさか自分の気持ちがマリーに知られてしまったのか?
「い、いえ! 何もないならいいんです! 本当に何も……ないなら……」
「何も、ないよ」
一度、言葉に詰まったが大丈夫だ。
まだ、バレてない。
こんな感情、知られるわけにはいかない。
墓場まで持っていくべきなんだ。
自分の迫真の演技が功を奏したのか、マリーは少し安堵した表情になって、
「……良かった。あ、でも本当に何かあったら言ってください。ロディに何かあれば、私すぐにここ出て行きますから……」
「え?」
マリーがそう告げた瞬間、何か得体のしれないモノが、自分を包み込んでいく気持ちにロディは襲われた。
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