無償の愛などあり得ない

夜道に桜

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破滅の足音

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「そうだ……」

ピタリと、ロディは足を止めた。

(俺はマリー……姉さんと誰にも邪魔をされずに暮らしたいんだ。あの小屋で姉さんと一生幸せに暮らしたいんだ。……でもその為には俺がしっかり金を稼がないと……)

――その時、ロディの中にあった画家としての矜持は瓦解した。

(そうさ……。あのデュークとかいう貴族のボンボンに取り入れば、俺は莫大な金を手にすることが出来る。そうすれば、その金で父からの援助も貰わずに、姉さんと生きていける……!)

早く引き返さなければ。

もうあの男は帰ったかもしれない。

今すぐに戻らなくては。

間に合うか?

思うが否や、ロディは全速力で引き返した。


☆★☆

さっきの店に引きかえすと、デュークはまだ席で紅茶を飲んでいた。

そして、息があがって今にもその場に倒れこんでしまいそうな勢いのロディに対して、

「やぁ。遅かったね。もうこれを飲み干したら、君を諦めようと思っていたところだ。……それで、ここに戻ってきたという事は君の意思は決まったということで良いのかい?」

不敵に笑うデューク。

「えぇ! やりますよ、俺は。贋作だって何だって貴方の言われた通りにします!」

デュークのよく磨かれた革靴でさえも、地面に這って舌で舐めそうなほどに、忠誠を誓うロディ。

それを見て、デュークも満足げに、

「フフフ。嬉しいなぁ。君程の腕利きが僕の為に絵を描いてくれる。これほどの喜びはないよ。……でもさ、念のために聞くけど、何でこんな短時間で君の気持ちは変わったんだい?」

疑問をぶつける。

ロディは迷わずに答えた。

「どうしても守りたい人がいるって気付いたからです」

「ふーん。……守りたい人ってことは、つまり恋人ってことになるのかな?」

「こ、ここ恋人!?」

デュークのツッコミに対して、顔を真っ赤にし明らかに動揺するロディ。

「あれ? 違うのかい? そう考えれば納得できるんだけど。何せ、君の描いたあの絵は、情熱的な恋をしていないと決して描けない代物だよ」

「……そう、なんでしょうか? いや、しかし恋では……」

デュークに指摘され、ロディは確信に触れられたような気がして、ドキッとしたが、

「まぁいいさ。重要な事は、君がこれから僕のビジネスの一員として加わってくれることなんだからさ。これからバンバン描いてくれよ。謝礼は弾むから、そこは安心してくれ」

「は、はぁ……」

デュークはそれ以上深堀をすることはなく、その場で金貨100枚を手渡しで貰った。

――こうして、ロディは贋作画家としての道を歩むことになった。


☆★☆


マリーに経緯を話すと、あまりその業界に通ではない彼女でも事の重大さが分かった。

ロディは今、違法な事に手を染めようとしているのだ。

だから、

「……あの、余計なことかもしれないんですが、それはいけない事じゃないんですか……?」

心配げな様子のマリー。

ロディは不安を取り除くように、

「いけない事? んー、贋作って聞くとさ確かに聞こえが悪くて、そう思っちゃうかもしれないけどさ……。大丈夫さ。だって、俺は言われた注文を描いているだけで、相手も分かってて買ってくれるんだ。これは同意が得られた上で行われているんだから、違法じゃない。安心してくれ」

「そ、そうなんですか……」

マリーは、それでも一抹の不安を胸に抱えていたが、それ以上はロディの事であると、自分に言い聞かせ、引き下がることにした。

そんなマリーに対して、ロディはデュークに報酬として得た金貨100枚が入った大袋を取り出し、

「それよりさ。これからは収入が増えて、もっと豊かな生活を送ることができるんだ。見ろよ、この金。美味しいものや宝石だって買えるんだ。何か買ってやろうか?」

「い、いえ! そんな……無理を言って住まわせてもらっているのに、これ以上迷惑はかけられません! その金はロディのお金です! 私が使うなんて……」

「遠慮しているのか? いいって」

「でも……」

「いいって」

「……じゃあ一つ花買って貰っていいですか」

(どうしたのかしら? こんな強引な人だったかしら? もしかしてロディ……。……ウウン、きっと仕事が入って舞いあがっているだけよ。そうに決まってる……)

ロディはもっと寡黙な男であるというのが、マリーの印象であったが、それが今ではすごく積極的だ。

本当に同一人物であるかと疑いたくなるほどであり、それが自分の影響を受けてではないか?、と疑いを持ちそうになったが、必死にその気持ちを打ち消した。


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