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「電車で来ているので、ぜひ頂きます」
裕也が応えると、結花子はにこりと笑った。
「裕也くん? あなたはミュスカデで良いわよね」
急に名前を呼ばれて、裕也は驚いた声を上げた。
「スイーツの部門立ち上げのお祝いでお話したじゃない。ほら、ワインは酸味がはっきりした柑橘系のが好きだって言っていたから」
裕也は先の打ち上げのことを思い出した。そこに確かに結花子は来ていて、少し会話をした記憶はあったが、何を話したかまでは覚えていなかった。そういえば確かにどんなワインが好きかというような話をしたような気はする。それを彼女が覚えていたというのが驚きだった。
「――はい。よく覚えていますね……」
結花子はワインをグラスに注ぎ、裕也に近づくと小さな声で囁いた。
「私、かわいい子と話したことは忘れないのよ」
思わず動きを止めて、結花子の顔を見る。彼女はふふっと悪戯っぽく笑った。
大人の女性、といった雰囲気が崩れたその少女のような様子に、裕也は視線を奪われた。
「すごーいっ、華やかですねっ」
一方、香澄はリビングを見渡して歓声を上げた。
リビングはランチョンマットやナプキンなどのテーブルウェアと揃えた青を基調とした飾りで飾られていた。
「パーティーセットというか……普段のメニューではなく、ちょっと高級指向のイベント用の宅配ミールセットを考えているんだ。これはその案なんだけど」
拓真が裕也と香澄に説明する。
うん、うんと香澄は大きく頷いた。
「とっても素敵だと思います。ねえ、ゆうくんっ、こんなの家でできたら素敵だよねえ。子どもがいたら、お誕生日会とかでもお洒落じゃない?」
裕也は一瞬ぴくっと止まってから、「そうだな」と頷いた。結花子はパスタを皿に盛りつけながら、その様子を見つめた。
□
4人は談笑しながら食卓を囲んでいた。
「普段はどちらが料理するんだい?」と拓真が聞いて、香澄が裕也だと答える。
「そうか、じゃあ、普段は桜井くんが食事を作ることが多いんだね」
「私が作ったのだと、ゆうくん、味がちょっと違うなって直しちゃうんですよ。でもそっちのが美味しいんです」
「うちの会社の男の子はそういう子が多いかもなあ。私の場合は、結花子の方が美味しいんだけどね」
ははは、と拓真が笑う声が室内に響いた。
(ゆうくんって、会社の人の前でそんな呼び方すんなよな)
裕也は「ゆうくん」と砕けた口調で自分を呼ぶ香澄に思わずため息をついて腰を上げた。
「すいません、お手洗いはどちらでしょうか」
「こっちよ」と結花子は立ち上がると、リビングの奥へ裕也を案内した。
裕也が応えると、結花子はにこりと笑った。
「裕也くん? あなたはミュスカデで良いわよね」
急に名前を呼ばれて、裕也は驚いた声を上げた。
「スイーツの部門立ち上げのお祝いでお話したじゃない。ほら、ワインは酸味がはっきりした柑橘系のが好きだって言っていたから」
裕也は先の打ち上げのことを思い出した。そこに確かに結花子は来ていて、少し会話をした記憶はあったが、何を話したかまでは覚えていなかった。そういえば確かにどんなワインが好きかというような話をしたような気はする。それを彼女が覚えていたというのが驚きだった。
「――はい。よく覚えていますね……」
結花子はワインをグラスに注ぎ、裕也に近づくと小さな声で囁いた。
「私、かわいい子と話したことは忘れないのよ」
思わず動きを止めて、結花子の顔を見る。彼女はふふっと悪戯っぽく笑った。
大人の女性、といった雰囲気が崩れたその少女のような様子に、裕也は視線を奪われた。
「すごーいっ、華やかですねっ」
一方、香澄はリビングを見渡して歓声を上げた。
リビングはランチョンマットやナプキンなどのテーブルウェアと揃えた青を基調とした飾りで飾られていた。
「パーティーセットというか……普段のメニューではなく、ちょっと高級指向のイベント用の宅配ミールセットを考えているんだ。これはその案なんだけど」
拓真が裕也と香澄に説明する。
うん、うんと香澄は大きく頷いた。
「とっても素敵だと思います。ねえ、ゆうくんっ、こんなの家でできたら素敵だよねえ。子どもがいたら、お誕生日会とかでもお洒落じゃない?」
裕也は一瞬ぴくっと止まってから、「そうだな」と頷いた。結花子はパスタを皿に盛りつけながら、その様子を見つめた。
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4人は談笑しながら食卓を囲んでいた。
「普段はどちらが料理するんだい?」と拓真が聞いて、香澄が裕也だと答える。
「そうか、じゃあ、普段は桜井くんが食事を作ることが多いんだね」
「私が作ったのだと、ゆうくん、味がちょっと違うなって直しちゃうんですよ。でもそっちのが美味しいんです」
「うちの会社の男の子はそういう子が多いかもなあ。私の場合は、結花子の方が美味しいんだけどね」
ははは、と拓真が笑う声が室内に響いた。
(ゆうくんって、会社の人の前でそんな呼び方すんなよな)
裕也は「ゆうくん」と砕けた口調で自分を呼ぶ香澄に思わずため息をついて腰を上げた。
「すいません、お手洗いはどちらでしょうか」
「こっちよ」と結花子は立ち上がると、リビングの奥へ裕也を案内した。
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