魔女の白昼アプセット~誰か俺を助けてください~

火箸プレパラット

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一章

10★

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 あれから王女が如何に魔女なり得ぬか説明し尽くされた。

 特別ですよと片目を瞑って笑う自動人形は、安全装置の是と非の上を何回反復横飛びしたのだろう。

 存在が奇跡であり再現不能とされるそれは、王族関係以外の稼働に厳しい制限を設けられている。“巫女服”の機能まで開示してくれたのは、制限範囲を優に超えるのではないか。

「母さんは本当に凄い調律師だったんだな」

 屋敷で独り夕食を食べている。

「そのようです。マスターの調律が入るまで、ゴードンは私を下回る感情表出しか出来なかったと言っておりました」

 自動人形は食事を取れない。そして王家のように湯水の如く魔力供給し続ける技術はこの屋敷にない。

「そうか、イーライはゴードンと会うのが初めてだったな」

「はい」

 代わりに名前を呼んで会話をし、供給をしてやる。自分にしか出来ない方法である。

 ナイフとフォークを右に揃えて食事の終わりを示す。ソーサーに乗せられた空のカップが目の前に置かれ、紅茶を注がれる。

「最初は指定された場所をぐるぐる巡回してるだけの、まさに人形だったよ」

 カップを持ち上げて紅茶に映る自分を見つめた。

「それが“いつか人間になりたい”って言い始めるまでになった」

 母によく似たそれは寂しげだ。

 ――じゃあ腕によりをかけて、いつか人間にしてあげる! どんな形でも文句は無しよ!

 執事と笑い合って楽しそうな母の瞳に、俺は映っていなかった。

 紅茶を一口飲んで、横に控えるイーライを見上げ、努めて笑う。

「すでに土台が出来上がっていたゴードンは弄りにくかったと思うよ。だから凄さが際立つんだろうな」

 こちらの表情を読み取って微笑みを返す従者は、あの執事に比べると随分乏しいように見える。だけどイーライはこれで良い。

「いつもありがとう、イーライ」

 脈絡もなく感謝された従者が目を丸くする。表情の処理に困ったのだろう。

 イーライは母からの唯一で最大のプレゼントだった。他者に頼らずイチから作り上げ、起動したときから何も変わらない美しいその姿は、きっと母の趣味全開で。これを恵まれていると言わずして、何というのか。

「アルトス様」

 声の方を見ると、エールが開け放った食堂前で一礼をした。

「入浴の準備が出来ました」

※※※

 入浴を終えスッキリとした気分で寝室に入って、日中魔女から接触が無かったことを思い出す。

「そういえば今日は大人しかったな」

 ベッドサイドにベルが戻されていることを確認し、横になった。

 ……もうあの魔術具は意味がない気がする。

 しかしそれを言い出すことはできない。あって困るものでもないし、いらないと言えば理由を聞かれる。理由を聞かれたら何をされたのか、何が起きたのか言わなければならない。

 それだけは嫌だ。

「私は誰、か――」

 額に手を当て、下ろした時だった。

「え」

 真っ黒な影を身に纏った魔女が、睨め付けるように枕元に立っていた。

「昼間は、何をしていた」

 明らかに前と様子が違う。ひりつくような緊張感に全身からどっと汗が噴き出すのを感じた。

「お、王城に――」

「あの女と何をした」

 そう、これは怒っている。何故か見られてはいけないものを見られた気がして、言い淀んだ。

「キスをしたのか」

「してない」

「抵抗しなかった」

「出来なかったんだよ!!」

 そこまでやり取りすると魔女は消えた。蛇に睨まれたなんとやらだ。上体を起こし額の汗を手で拭って、周りを見渡し――。

「ぁっ!」

 ぞわり、と何かが這い回る感覚がした。思わず身体を抱き締めるもそこには何もない。ここ数日で与えられ慣れた甘い感覚、しかし今回は異色だった。

「なんだよこれ……っ」

 這い回る感覚は、人の手ではない。言うなれば全身を生きた粘液に貪られている、そんな表現がぴったりだった。

「あぁッ、い、あッ!!」

 雄の部分だけ避けて全身から刺激を与えられる。あっという間に身体は出来上がり、情けない声を上げた。

「はぁっ、やめ……ッ、あ!!」

 耳、口、胸、脇、ヘソ、太ももの付け根からつま先まで。一番気持ちのいい部分を避けて愛撫してくる。

「く、ぅッ! ん、あ、あッ!!」

 絶対にわざとだ。もどかしさでどうにかなりそうだ。額に髪が張り付いて気持ちが悪い。甘い刺激に耐えきれず仰向けに倒れ、身体をくねらせた時。

 背筋が凍った。寝室のドアが開いて、イーライが入ってきた。

「恐れ入ります、ドアをノックしたのですがお返事が無くて」

 ――いやだ。

 イーライが無表情で近付いてくる。その間にも煽るような快感が全身を襲い、震えた。

 ――みるな。

「呪いの効果が出ているようですね。少し失礼いたします」

 思わず閉じようとした脚の間に身体を割り込ませられ、両手首をベッドに縫い付けられた。

 魔術の作用を確認しようとしているのだろう。イーライに他意がないことはわかっている。

 ただその視線の先には涙と涎に濡れた顔と、先走りでぐちゃぐちゃになった股間が寝間着に張り付いて、窓から差す月明かりで陰影が強調されている。屈辱的だ。男に犯される女の気分だ。

 “今度私の癪に触ったら”

 やめろ。

 “女のようにイかせてやる”

「見るな!!!」

 腰をひくつかせながら身体を捻る。

「しかし解呪の手掛かりが」

「出て、いけぇ!!」

 イーライは眉間にシワを寄せ、逡巡している。ただこっちも必死だ。

「“命令”だイーライ! っ、頼むよぉ……っ」

「!」

 命令という名の懇願に、即座に解放される。力を振り絞って前屈みに自身を隠し、汗がベッドに垂れた。

「見るな! 聞くな! そのまま出ていけ誰も近付かせるな!!」

「――はい」

 忠実なる従者は目を背けたまま、喘ぐ主を置いて寝室から出ていった。

 イーライに、一番見られたくない身内に、まじまじと痴態を見られた。

「ああっ……!!」

 邪険にした罪悪感が、快感によって溶けて訳がわからなくなる。人の目がなくなって、びしょびしょになった寝間着を脱ぎ捨てた。

 窮屈だった半身が解放されて、戦慄く。冷えた空気に、温もりがない。

「……っ」

 何故か無性にイラついた。全身が貪られる快楽の中、ベッドサイドに這いながら手を伸ばす。

「んっ、ふ、ぐぅッ!」

 乱暴に開け放った貴重品入れの奥に、綺麗にたたまれたハンカチがあった。握りしめて思いきり匂いを嗅いだ。

 ――花の香りだ。イライラする。

「ふざけるな、っ俺は男だぞ!!」

 ハンカチに頬を擦り寄せ、自身を扱く。せめて男として、という気持ちがそうさせる。香りに煽られて、頭の中がチカチカした。頬に吸い付く口付け、優しく触れる指先、柔らかな胸の感触、劣情をそそる太ももに、その奥、ひくつく蜜口の――。

「あっ、んあッ、あっ!」

 いち、に。いち、に。

 頭によぎる、甘い声。火花が散った。

「ぁっ、――っぐ、くぅっっ!!!」

 自分でも信じられないくらい一気に、高みに昇って吐精した。
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