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6ー8【訳あり騎士は囲われる(仮)】番外編2 sideスコーピオ&ロマネス公爵家
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◇◇◇sideスコーピオ
今年に入って二度目となる、秋の第三騎士団入団試験。
ここに興味深い受験者がいた。
一体どこへ行ったのか、本人不在の団長室に入り、執務室の机にある書類に目をやる。
それは事前に申請された入団試験受験者の書類だった。
一度目を通してはいるが、暇つぶしに見るかとめくっていると、とある家名で目が止まる。
最初に読んだときにも気になった名前だ。
『エリク・アリマージュ。老舗の大商会アリマージュ家の三男。第三騎士団でもかなりの商品を購入しているところだな』
あそこの専属の護衛団は、商会設立時にも尽力した一族で構成されていて、我が騎士団も一目置く腕前だ。何ならウチに欲しいくらいだ。そこで幼い頃より揉まれて鍛えられているという、商会の三兄弟の末っ子。
こちらにもその様子がよく耳に入ってくる。主に第三騎士団に出入りする兄達の弟自慢だったが、本格的に就職先を第三騎士団に決めたようだ。
兄達いわく、護衛団の団長も呻るほどの素晴らしい戦闘センスなのだとか。そこに加え魔力量もずば抜けて多く、魔法もすでに短縮詠唱で発動できるらしい。
それが本当ならば、久々の逸材だと、顔をほころばせる。
このときはまだ、エリクのことだけ気にしていればよかった。
まさかとんでもない爆弾が紛れ込んでいようとは、俺もウォルフガングも、このときは全く思いもしなかったのだ。
少しして、ウォルフが団長室に戻ってきた……んだが。
『おいウォルフ、どこに行ってたんだよ。それにその子、誰だ?』
ウォルフに続いて入ってきた子供に、一瞬、目を瞠った。
バンダナで左目を覆った、輝く銀髪銀目の綺麗な子供。成人したてくらいか?
俺が目配せすると、ウォルフはにっこり笑った。
オイコラ、あとで説明しろよ。
そしてウォルフとともに話を聞いて、左目を見せてもらうと───。
ガイスト侯爵家の、精霊の愛し子の証が、実に分かりにくいが、しかししっかりと刻まれていた。
騎士に案内されて団長室をあとにするオリエールをウォルフと見送り、再び防音結界の魔導具を発動する。
『まずいぞ、アレ。最初に見たときは目を疑ったが。あんな見事な銀髪と銀の瞳は、あの血筋でもここ見たことがない』
『まさか入団試験で目にすることになるとは……。あの噂は本当だったんだな』
全くコイツは。ちょっと目を離した隙に、とんでもない爆弾を持ってきやがった。
さすがにちょっと動揺しているウォルフを見て溜飲を下げる。
しかし、俺も平静を装ってはいたが、コイツにはバレバレだったな。まさか精霊王の愛し子だとは思わなかった。
『私は早急に動かねば』
『分かった』
お互い、やることが一気に増えた。
ウォルフは父である宰相殿に会いに行くのだろう。これからのウォルフの動きを予想して、俺も父であるロマネス公爵当主に連絡を取る。
もちろん、ウチの養子にするためだ。
サイカ・オリエールには悪いが、早急に、極秘で囲わせてもらうぞ。
ウォルフが団長室を出ていったあと、再び防音結界の魔導具を起動させ、執務机にある通信魔導具でロマネス公爵家にいる父に連絡をする。
[───はい、ロマネスです。どうかしましたか?]
団長室からの通信だったからか、ウォルフだと思ったのだろう。その丁寧な言葉につい笑うと、察した父が、即座に言葉遣いを変えた。
[おい、スコーピオだな。緊急時以外は自分の通信魔導具で連絡を入れろと、あれほど──]
『その緊急時なんだ。こちらは防音結界魔導具を起動している。悪いが、そちらも起動させてくれ』
[……分かった。よし、いいぞ。で?]
真剣な話だと察して、すぐに対応してくれる。ありがたい。
『今日の入団試験なんだが、実は、ガイスト侯爵家の消された第一子が受験にきている』
[───はあ!? どういうことだ、詳しく説明しろ!]
まあ、そうなるよな。予想はしていたが、混乱っぷりがすごい。
俺は掻い摘まんで説明をした。
『それで、精霊王の愛し子ということで、ガイスト侯爵家に手出しさせないためにも、ウチの養子にして囲いたいんだ』
[本人はまだ、自分の出自を知らないんだな? そうなると水面下で動くしかない。分かった。後ろ盾としてディザード大公家も即刻動くだろう。ウォルフガング様とおそらく婚約することになるだろうから、色々とこちらも進めよう]
さすが父。ウォルフのことをよく分かっている。まあ、見た感じ、ウォルフの一目惚れらしいから後ろ盾云々は関係ないだろうが。
『頼む。──あ、そろそろ入団試験なんで、ひとまず終わる。またあとで』
[ああ、こちらで動くから、任せろ]
『じゃあ、また。今度は自分の通信魔導具を使うから』
[そうしてくれ]
時間が迫っているため、そう言って終わらせようとしたら、苦笑した声で通信が切れた。
───さて、コッチはウォルフが実技試験を見学できるように、色々と調整するか。最初は筆記試験だったな。
面倒だと思いながらも、俺もオリエールの実技試験を楽しみにしているので、ウキウキと団長室をあとにするのだった。
筆記試験会場の様子を窺うと、俺が最初に気にかけていたアリマージュ家の三男エリクと並んで、仲良く会話をしていた。
二人とも受付ギリギリだったようだから、すでにできつつあるグループに入り損ねたのだろう。
『しかし、これは嬉しい誤算だな。アリマージュとオリエールの二人が親しくなるのは、こちらとしても助かる』
見たところ、タチの悪そうな輩が五人いるグループがあるな。身元保証人はいるが、コネで入団試験を受けに来たようなヤツらばかり。いい噂を聞かない、性格に難ありのヤツらだ。とてもじゃないが、アレは即戦力にならないな。
案の定、オリエールに下卑た目を向けている。
要注意だな。そしてエリクはそんなヤツらに気付いている。頼もしい。
筆記試験が終わり、次は実技試験。
会場は騎士団の鍛錬場だ。防御結界魔導具で囲われているここなら、かなり暴れても被害は最小限で済む。
むしろ、ここを破壊するくらいっていうのは、かなりヤバいけどな。
───それがフラグだったと、あとで気付く…まあ遅かったわけだが。
ウォルフと一対一で試験をしていたオリエールの魔力がもの凄い量で動き出したのを察知する。
アイツ、多重魔法を発動するつもりだ。
元から無詠唱でガンガン魔法を放っていて、それも予備動作もなくいきなり発動させるため、予測がつきにくいんだが、さすがにこれは大きな魔力の動きに気付けた。
そう、俺や他の騎士達も分かるくらい、魔法をいくつも同時に発動するとか、もはや基準がおかしい!
『総員、結界を張れ! 全力でだぞ!』
被害を最小限にするために、試験会場にいた全員に声を張り上げて指示する。
エリク・アリマージュ。ぼさっとするな! お前もやるんだよ!
───結果……。
爆心地なのにケロッとしているウォルフとオリエールと、結界を張れなかったが無事だった者と、結界を張ってもらったがビビって失禁している阿呆とに分かれた。
うん、アイツらは不合格。
そのあとの模擬討伐戦でも、オリエールやアリマージュは良い仕事っぷりだった。これは率先力。期待大だな。
実技試験も終わり、当日合否発表だと思い込んでいたオリエールをアリマージュがうまく連れ帰ってくれて助かった。
さすがにまだ、こちらで面倒は見られない。依怙贔屓になってしまうからな。
ホッと一息つくと、ウォルフが近付いてきて、小声で囁く。
『宰相から陛下に進言して、影を使わせてもらうことになった。すでに動いていると思う』
『こちらも彼をロマネス公爵家の養子にする手筈で動いてる。あと、お前との婚約もな』
『──ッバレバレか。まあいい。あとは魔法付与をさせたバンダナを、明日、彼に贈ろう』
『付与魔法は王宮魔導師……ゾフト・オリヴァーンに頼むのか? アイツ、腕は超一流だが、クセが強くて』
俺はゾフトの顔を思い出して、げんなりする。
アイツは俺達の幼馴染みでオリヴァーン公爵家の次男だ。魔法関係には異常に反応するが、それ以外はポンコツで何もできない。
料理は、まあ、貴族だからできないのは分かるが、簡単な服くらいは着替えられるだろうに、誰かが世話をしなければ着の身着のままで頓着しない。
そして連日研究室に篭もり、寝食を忘れて死にかけ、俺やウォルフに回収されるということを繰り返す魔法馬鹿。全く学習しない。
『アレに目をつけられたら、オリエールが大変だぞ』
そんなヤツが、あの魔法センスや精霊王の愛し子という特殊な事情を知ったら、きっと恐ろしいことになる。
『分かっているよ。でも頼めるヤツがアイツ以外にいなくて……』
極秘で、特別な付与魔法を依頼するには確かにそうだが。
……まあ、何とかなるだろう。目をつけられたら、そのときはそのときだ。全力で護ろう。俺の義弟になるわけだしな。
『お互い、やることが山積みだな』
『はあ……最後はお前のせいで疲れた。ゆっくり寝たい』
お互い愚痴をこぼしながら、俺達の濃い一日が過ぎていくのだった。
◇◇◇ロマネス公爵家アルビレオ
スコーピオからの通信が終わった。
防音結界魔導具を切ると、魔導具を使う前に人払いしていた側近のライオットを呼ぶ。
『お呼びですか?』
『ライオット、大至急動いてほしい案件だ』
どうやら通信中も外の扉の前で待機していたらしい。すぐに執務机にやって来た。
『すでにディザード大公閣下も動いているようだから、あちらと連絡を取って連係する』
そう言うと、ライオットは怪訝な顔になった。
『急に一体、どうなさったのです? 先ほどのスコーピオ様からの通信が関係あるのでしょうか?』
その疑問は当然だ。
私は一つ頷くと、ライオットに説明をする。
『ああ、そうだ。第三騎士団入団試験にガイスト侯爵家の第一子が受験しに来たそうだ。ウォルフガング様とスコーピオが直接対面して確認した。間違いないそうだ』
『っ!? まさか、あの噂の?』
例の真偽不明の噂は、貴族ならば一度は耳にしたことがあるだろう。ライオットも当然、聞いているはず。だからこの言葉だけで瞬時に察したのだろう。
まあ、さすがに驚きは隠せないが。
『サイカ・オリエール。オリエール男爵家の養子だそうだ。大至急、男爵家に承諾を得て、我がロマネス公爵家に養子にする手続きをしてくれ。くれぐれも極秘で、悟られぬようにな。そのあとは、ディザード大公家のウォルフガング様との婚約手続きだ』
『例の噂の第一子とはいえ、そこまで必要ですか?』
囲い込みの内容に、ライオットが戸惑う。まあ、普通ならば養子にすれば済むことだからな。
『ああ……彼は精霊王の愛し子だそうだ。ただ、本人は出自を知らないらしい。精霊の祝福も、精霊王の愛し子ということも。オリエール男爵家は把握しているらしいが。今まで、彼を護っていたようだ』
『……そんなことが……。分かりました。第一優先事項として、極秘に、なおかつ速やかに処理いたします』
『頼む』
納得したライオットは、早急に片付けるために私の執務室から退室して行った。
『さあて、忙しくなるぞ』
我が義息子でスコーピオの義弟となるサイカ。
『どんな子なんだろうな。スコーピオよりも可愛い子だといいなあ。スコーピオは、可愛いというよりはカッコいい部類だし、甘やかせてくれないんだよね』
ギュッとハグして頭を撫でてやりたいのに、恥ずかしいというより、本気で嫌がるんだよね。
サイカくんはそういうことさせてくれるといいな。
───そんな、とっくに成人したスコーピオが聞いたらドン引きするようなことを考えながら数日後。
こうしてサイカには内緒で、めでたく我が家の養子になる手続きが済み、わくわくしながら一月後の入団式を迎えた日。
色々とやらかして一発殴られたらしいウォルフガング様と息子のスコーピオと一緒に、初めて我が家に来て対面した義息子は、そりゃあ可愛くて可愛くて!
『ふつつか者ですが、あの、よろしくお願いします。……義父上、義母上……?』
『───っぐはっ! 何この子、可愛すぎでしょ! ああああもう、よろしくねえ、サイカちゃん!』
男の子なのに美人で可愛くていじらしくて天然で素直な天使に、私の父性愛が爆発した。
ちなみに私の妻ベガも、あまりの可愛さにぷるぷるしながら膝から崩れ落ちた。
スコーピオの二歳下の実弟シリウスはスコーピオに似て冷静だったが、それでも可愛い義弟ができて嬉しそうだった。
『アルビレオ殿! いくらサイカが可愛いからといって、抱きつかないでいただきたい!』
思わずサイカにハグをしながら頭を撫で繰り回していたら、ウォルフガング様に引き剥がされた。
消毒だと言って、サイカを抱きしめ返している。
サイカはと言うと、恥ずかしそうにしながらもそれを黙って受け入れている。
ふむ。これならば政略結婚などではなく、普通に恋愛結婚でもいけそうだ。よかった。
そうなると、まあ、ウチの長男もいい加減そういう相手を見つけてきてほしいものだが。
シリウスは幼馴染みの公爵令息と婚約しているから、まあ焦らなくてもいいか。
まだまだ、サイカのためにやることが残っているから、義父達、頑張っちゃうよ!
※書き溜めて、何とかまとまったので投稿します。
この期に及んで新キャラ登場させてますが、たぶん書く余裕はないです。
(書きたい欲求はありますが、時間がない)
今年に入って二度目となる、秋の第三騎士団入団試験。
ここに興味深い受験者がいた。
一体どこへ行ったのか、本人不在の団長室に入り、執務室の机にある書類に目をやる。
それは事前に申請された入団試験受験者の書類だった。
一度目を通してはいるが、暇つぶしに見るかとめくっていると、とある家名で目が止まる。
最初に読んだときにも気になった名前だ。
『エリク・アリマージュ。老舗の大商会アリマージュ家の三男。第三騎士団でもかなりの商品を購入しているところだな』
あそこの専属の護衛団は、商会設立時にも尽力した一族で構成されていて、我が騎士団も一目置く腕前だ。何ならウチに欲しいくらいだ。そこで幼い頃より揉まれて鍛えられているという、商会の三兄弟の末っ子。
こちらにもその様子がよく耳に入ってくる。主に第三騎士団に出入りする兄達の弟自慢だったが、本格的に就職先を第三騎士団に決めたようだ。
兄達いわく、護衛団の団長も呻るほどの素晴らしい戦闘センスなのだとか。そこに加え魔力量もずば抜けて多く、魔法もすでに短縮詠唱で発動できるらしい。
それが本当ならば、久々の逸材だと、顔をほころばせる。
このときはまだ、エリクのことだけ気にしていればよかった。
まさかとんでもない爆弾が紛れ込んでいようとは、俺もウォルフガングも、このときは全く思いもしなかったのだ。
少しして、ウォルフが団長室に戻ってきた……んだが。
『おいウォルフ、どこに行ってたんだよ。それにその子、誰だ?』
ウォルフに続いて入ってきた子供に、一瞬、目を瞠った。
バンダナで左目を覆った、輝く銀髪銀目の綺麗な子供。成人したてくらいか?
俺が目配せすると、ウォルフはにっこり笑った。
オイコラ、あとで説明しろよ。
そしてウォルフとともに話を聞いて、左目を見せてもらうと───。
ガイスト侯爵家の、精霊の愛し子の証が、実に分かりにくいが、しかししっかりと刻まれていた。
騎士に案内されて団長室をあとにするオリエールをウォルフと見送り、再び防音結界の魔導具を発動する。
『まずいぞ、アレ。最初に見たときは目を疑ったが。あんな見事な銀髪と銀の瞳は、あの血筋でもここ見たことがない』
『まさか入団試験で目にすることになるとは……。あの噂は本当だったんだな』
全くコイツは。ちょっと目を離した隙に、とんでもない爆弾を持ってきやがった。
さすがにちょっと動揺しているウォルフを見て溜飲を下げる。
しかし、俺も平静を装ってはいたが、コイツにはバレバレだったな。まさか精霊王の愛し子だとは思わなかった。
『私は早急に動かねば』
『分かった』
お互い、やることが一気に増えた。
ウォルフは父である宰相殿に会いに行くのだろう。これからのウォルフの動きを予想して、俺も父であるロマネス公爵当主に連絡を取る。
もちろん、ウチの養子にするためだ。
サイカ・オリエールには悪いが、早急に、極秘で囲わせてもらうぞ。
ウォルフが団長室を出ていったあと、再び防音結界の魔導具を起動させ、執務机にある通信魔導具でロマネス公爵家にいる父に連絡をする。
[───はい、ロマネスです。どうかしましたか?]
団長室からの通信だったからか、ウォルフだと思ったのだろう。その丁寧な言葉につい笑うと、察した父が、即座に言葉遣いを変えた。
[おい、スコーピオだな。緊急時以外は自分の通信魔導具で連絡を入れろと、あれほど──]
『その緊急時なんだ。こちらは防音結界魔導具を起動している。悪いが、そちらも起動させてくれ』
[……分かった。よし、いいぞ。で?]
真剣な話だと察して、すぐに対応してくれる。ありがたい。
『今日の入団試験なんだが、実は、ガイスト侯爵家の消された第一子が受験にきている』
[───はあ!? どういうことだ、詳しく説明しろ!]
まあ、そうなるよな。予想はしていたが、混乱っぷりがすごい。
俺は掻い摘まんで説明をした。
『それで、精霊王の愛し子ということで、ガイスト侯爵家に手出しさせないためにも、ウチの養子にして囲いたいんだ』
[本人はまだ、自分の出自を知らないんだな? そうなると水面下で動くしかない。分かった。後ろ盾としてディザード大公家も即刻動くだろう。ウォルフガング様とおそらく婚約することになるだろうから、色々とこちらも進めよう]
さすが父。ウォルフのことをよく分かっている。まあ、見た感じ、ウォルフの一目惚れらしいから後ろ盾云々は関係ないだろうが。
『頼む。──あ、そろそろ入団試験なんで、ひとまず終わる。またあとで』
[ああ、こちらで動くから、任せろ]
『じゃあ、また。今度は自分の通信魔導具を使うから』
[そうしてくれ]
時間が迫っているため、そう言って終わらせようとしたら、苦笑した声で通信が切れた。
───さて、コッチはウォルフが実技試験を見学できるように、色々と調整するか。最初は筆記試験だったな。
面倒だと思いながらも、俺もオリエールの実技試験を楽しみにしているので、ウキウキと団長室をあとにするのだった。
筆記試験会場の様子を窺うと、俺が最初に気にかけていたアリマージュ家の三男エリクと並んで、仲良く会話をしていた。
二人とも受付ギリギリだったようだから、すでにできつつあるグループに入り損ねたのだろう。
『しかし、これは嬉しい誤算だな。アリマージュとオリエールの二人が親しくなるのは、こちらとしても助かる』
見たところ、タチの悪そうな輩が五人いるグループがあるな。身元保証人はいるが、コネで入団試験を受けに来たようなヤツらばかり。いい噂を聞かない、性格に難ありのヤツらだ。とてもじゃないが、アレは即戦力にならないな。
案の定、オリエールに下卑た目を向けている。
要注意だな。そしてエリクはそんなヤツらに気付いている。頼もしい。
筆記試験が終わり、次は実技試験。
会場は騎士団の鍛錬場だ。防御結界魔導具で囲われているここなら、かなり暴れても被害は最小限で済む。
むしろ、ここを破壊するくらいっていうのは、かなりヤバいけどな。
───それがフラグだったと、あとで気付く…まあ遅かったわけだが。
ウォルフと一対一で試験をしていたオリエールの魔力がもの凄い量で動き出したのを察知する。
アイツ、多重魔法を発動するつもりだ。
元から無詠唱でガンガン魔法を放っていて、それも予備動作もなくいきなり発動させるため、予測がつきにくいんだが、さすがにこれは大きな魔力の動きに気付けた。
そう、俺や他の騎士達も分かるくらい、魔法をいくつも同時に発動するとか、もはや基準がおかしい!
『総員、結界を張れ! 全力でだぞ!』
被害を最小限にするために、試験会場にいた全員に声を張り上げて指示する。
エリク・アリマージュ。ぼさっとするな! お前もやるんだよ!
───結果……。
爆心地なのにケロッとしているウォルフとオリエールと、結界を張れなかったが無事だった者と、結界を張ってもらったがビビって失禁している阿呆とに分かれた。
うん、アイツらは不合格。
そのあとの模擬討伐戦でも、オリエールやアリマージュは良い仕事っぷりだった。これは率先力。期待大だな。
実技試験も終わり、当日合否発表だと思い込んでいたオリエールをアリマージュがうまく連れ帰ってくれて助かった。
さすがにまだ、こちらで面倒は見られない。依怙贔屓になってしまうからな。
ホッと一息つくと、ウォルフが近付いてきて、小声で囁く。
『宰相から陛下に進言して、影を使わせてもらうことになった。すでに動いていると思う』
『こちらも彼をロマネス公爵家の養子にする手筈で動いてる。あと、お前との婚約もな』
『──ッバレバレか。まあいい。あとは魔法付与をさせたバンダナを、明日、彼に贈ろう』
『付与魔法は王宮魔導師……ゾフト・オリヴァーンに頼むのか? アイツ、腕は超一流だが、クセが強くて』
俺はゾフトの顔を思い出して、げんなりする。
アイツは俺達の幼馴染みでオリヴァーン公爵家の次男だ。魔法関係には異常に反応するが、それ以外はポンコツで何もできない。
料理は、まあ、貴族だからできないのは分かるが、簡単な服くらいは着替えられるだろうに、誰かが世話をしなければ着の身着のままで頓着しない。
そして連日研究室に篭もり、寝食を忘れて死にかけ、俺やウォルフに回収されるということを繰り返す魔法馬鹿。全く学習しない。
『アレに目をつけられたら、オリエールが大変だぞ』
そんなヤツが、あの魔法センスや精霊王の愛し子という特殊な事情を知ったら、きっと恐ろしいことになる。
『分かっているよ。でも頼めるヤツがアイツ以外にいなくて……』
極秘で、特別な付与魔法を依頼するには確かにそうだが。
……まあ、何とかなるだろう。目をつけられたら、そのときはそのときだ。全力で護ろう。俺の義弟になるわけだしな。
『お互い、やることが山積みだな』
『はあ……最後はお前のせいで疲れた。ゆっくり寝たい』
お互い愚痴をこぼしながら、俺達の濃い一日が過ぎていくのだった。
◇◇◇ロマネス公爵家アルビレオ
スコーピオからの通信が終わった。
防音結界魔導具を切ると、魔導具を使う前に人払いしていた側近のライオットを呼ぶ。
『お呼びですか?』
『ライオット、大至急動いてほしい案件だ』
どうやら通信中も外の扉の前で待機していたらしい。すぐに執務机にやって来た。
『すでにディザード大公閣下も動いているようだから、あちらと連絡を取って連係する』
そう言うと、ライオットは怪訝な顔になった。
『急に一体、どうなさったのです? 先ほどのスコーピオ様からの通信が関係あるのでしょうか?』
その疑問は当然だ。
私は一つ頷くと、ライオットに説明をする。
『ああ、そうだ。第三騎士団入団試験にガイスト侯爵家の第一子が受験しに来たそうだ。ウォルフガング様とスコーピオが直接対面して確認した。間違いないそうだ』
『っ!? まさか、あの噂の?』
例の真偽不明の噂は、貴族ならば一度は耳にしたことがあるだろう。ライオットも当然、聞いているはず。だからこの言葉だけで瞬時に察したのだろう。
まあ、さすがに驚きは隠せないが。
『サイカ・オリエール。オリエール男爵家の養子だそうだ。大至急、男爵家に承諾を得て、我がロマネス公爵家に養子にする手続きをしてくれ。くれぐれも極秘で、悟られぬようにな。そのあとは、ディザード大公家のウォルフガング様との婚約手続きだ』
『例の噂の第一子とはいえ、そこまで必要ですか?』
囲い込みの内容に、ライオットが戸惑う。まあ、普通ならば養子にすれば済むことだからな。
『ああ……彼は精霊王の愛し子だそうだ。ただ、本人は出自を知らないらしい。精霊の祝福も、精霊王の愛し子ということも。オリエール男爵家は把握しているらしいが。今まで、彼を護っていたようだ』
『……そんなことが……。分かりました。第一優先事項として、極秘に、なおかつ速やかに処理いたします』
『頼む』
納得したライオットは、早急に片付けるために私の執務室から退室して行った。
『さあて、忙しくなるぞ』
我が義息子でスコーピオの義弟となるサイカ。
『どんな子なんだろうな。スコーピオよりも可愛い子だといいなあ。スコーピオは、可愛いというよりはカッコいい部類だし、甘やかせてくれないんだよね』
ギュッとハグして頭を撫でてやりたいのに、恥ずかしいというより、本気で嫌がるんだよね。
サイカくんはそういうことさせてくれるといいな。
───そんな、とっくに成人したスコーピオが聞いたらドン引きするようなことを考えながら数日後。
こうしてサイカには内緒で、めでたく我が家の養子になる手続きが済み、わくわくしながら一月後の入団式を迎えた日。
色々とやらかして一発殴られたらしいウォルフガング様と息子のスコーピオと一緒に、初めて我が家に来て対面した義息子は、そりゃあ可愛くて可愛くて!
『ふつつか者ですが、あの、よろしくお願いします。……義父上、義母上……?』
『───っぐはっ! 何この子、可愛すぎでしょ! ああああもう、よろしくねえ、サイカちゃん!』
男の子なのに美人で可愛くていじらしくて天然で素直な天使に、私の父性愛が爆発した。
ちなみに私の妻ベガも、あまりの可愛さにぷるぷるしながら膝から崩れ落ちた。
スコーピオの二歳下の実弟シリウスはスコーピオに似て冷静だったが、それでも可愛い義弟ができて嬉しそうだった。
『アルビレオ殿! いくらサイカが可愛いからといって、抱きつかないでいただきたい!』
思わずサイカにハグをしながら頭を撫で繰り回していたら、ウォルフガング様に引き剥がされた。
消毒だと言って、サイカを抱きしめ返している。
サイカはと言うと、恥ずかしそうにしながらもそれを黙って受け入れている。
ふむ。これならば政略結婚などではなく、普通に恋愛結婚でもいけそうだ。よかった。
そうなると、まあ、ウチの長男もいい加減そういう相手を見つけてきてほしいものだが。
シリウスは幼馴染みの公爵令息と婚約しているから、まあ焦らなくてもいいか。
まだまだ、サイカのためにやることが残っているから、義父達、頑張っちゃうよ!
※書き溜めて、何とかまとまったので投稿します。
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