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6ー10【訳あり騎士は囲われる(仮)】番外編4 sideディザード大公&サイカ1
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◇◇◇sideディザード大公ヴァイオラ
ガイスト侯爵家の消された第一子であるサイカ・オリエール。
第三騎士団入団試験日からわずか数日でロマネス公爵家の養子になり、ウォルフガングの婚約者となった。
これは当時、本人のあずかり知らぬことであった。
私はディザード大公家当主ヴァイオラ。この国の王の実弟で宰相の地位にある。嫡男のエアドアは私の補佐官で次期大公と次期宰相である。
今日はそんな我が家の次男ウォルフガングと、そのサイカの結婚式だった。
大公家と公爵家の婚姻のため、大神殿にて盛大に執り行われたが、お互い、第三騎士団団長と団長補佐官という立場ゆえ、いつ魔物討伐任務が入るか分からないということで披露宴はなし。
非番の騎士達に順に祝い酒を振る舞うことになっている。
……まあ、実際は披露宴が面倒だったという本音が強いだろうが。
それにしても、ここに来るまでに、色々とあったなぁ。
───私は宰相の執務室に戻り、書類を捌きながら、これまでのことを思い返す。
国王陛下である兄への奏上と、王家の影の使用許可。サイカへ贈るバンダナに付与する魔導師への依頼。
サイカの後ろ盾になるための婚約。そのためのロマネス公爵家への養子縁組。
これらすべてを極秘に、迅速に行う。
そして入団式当日に、ウォルフガングとスコーピオからサイカへの盛大なネタばらし。
そのあとはまあ、いくつかの騒動があって。
婚約期間が思ったよりも延びてしまい、ウォルフガングが切れそうにもなったが、結果的に両想いを確認して……。
しかし、一番大変だったのは、ガイスト侯爵家の一件だったな……。
『どうされました?』
『ああ、いや……。ここに至るまでのアレコレを感慨深く思い出していたところだよ』
宰相補佐官のエアドアがお茶を淹れてくれたので、そう応えて一息つく。
親子ではあるが、職場では上司と部下という間柄なので、きちんとわきまえて話す。
『ああ……。本当に、忙しなくて、ハラハラドキドキで、生きた心地がしなかったですよね。でもやっぱり、あの事件が一番、すわ破滅かって死を覚悟しましたよ』
『……ああ、それを私もちょうど思っていたところだったんだよ』
エアドアと二人、ちょっと顔を青くしながら、過去を振り返っていた。
◇◇◇sideサイカ
第三騎士団の入団試験日の衝撃から、早いもので、もう二年が経とうとしていた。
その間、俺の魔法がちょっと暴走したり、A級の魔物を単騎で倒したりと、かなり目立つことがあった。うん、これは反省してる。
俺は十七歳になっていた。
俺の顔はさらに美しさに磨きがかかって? 認識阻害の魔法を付与したバンダナをつけていても、隠しきれなくなっていたらしい。
自分じゃ気にしてなかったけど、色気が漏れ出てるとか何とか? よく分からないけど。
【精霊王の愛し子】の祝福は普通じゃなかったらしい。
どうやら、精霊王の美貌がその力とともに、俺にも反映されているのだそうだ。
確かに、見慣れたとはいえ、いつも俺に寄り添う精霊王は人外レベルの美貌だもんな。精霊は皆、男とか女とかっていう性別もないらしく、中性的な美人が多い気がする。
ある日、ウォルフが俺を連れて、王宮魔導師のゾフト・オリヴァーン公爵令息の元へ行ったことがあった。
バンダナの付与魔法を強化してもらうためだった。
そこに向かう途中の廊下で、中庭を挟んだ向かい側の廊下を歩くガイスト侯爵家当主と、一瞬だが、出会ってしまったのだ。
もちろん俺は、このときまで肉親であるガイスト侯爵の容姿を知らなかった。しかし、自分と同じ銀髪銀目の美中年の貴族を横目で見て、ハッと気づいた。
そしてガイスト侯爵家当主も、おそらく俺に寄り添う精霊の気配に気づいたのだろう。
一瞬の交錯。
それだけで十分だった。
お互いに、何事もなかったように無表情で歩き去ったが、内心では心臓バクバクだった。
『……ウォルフ……』
『ああ。おそらく、バレたな。さすがに直接会えば分かるだろうとは思ったが……しくじった。まさかこんなところにいるなんて』
『それは俺も思った。だって、いつも邸に篭もっていて、王宮にはめったに来ないって聞いてたから』
この先は、俺達が今向かっている王宮魔導師達の職場である塔があるだけ。
そこに精霊の祝福を受けたガイスト侯爵家の者が出入りすることはなかったから。
己の精霊魔法に並々ならぬプライドを持つ彼らが、自分達よりも下に見ている魔導師に会いに行くとは思わない。そもそも、これまで一度もなかったから。
『まあ、対策はあとで考えよう。王家の影がずっとついているから、この件もすぐに、陛下や宰相やロマネス公爵家に連絡がいくはず。今はとにかく付与魔法を強化してもらわないとね』
『う、うん。そうだな』
少しの焦りを見せつつも、冷静に魔導師の塔へと向かう。
そしてそこで待っていたゾフトから言われた言葉で、なぜガイスト侯爵当主がここにいたのか、納得した。
部屋に招かれ、一歩入ると、防音結界魔法が発動した。ソファを勧められて座ると、聞いてもいないのにゾフトが話し出した。
『さっき、ガイスト侯爵に会ったか?』
『──ああ、中庭の回廊で。まさかこんなところにいるとは思わず、油断した』
ウォルフの言葉に、苦い顔でゾフトが言った。
『実は、つい先ほどまで、俺に会いに来ていた。何やら、魔導具について聞きたいと』
『魔導具? なぜ?』
俺が会話の途中にもかかわらず、思わず聞くと、ゾフトは気にせず話してくれた。
『ああ、濁されてはいたが、どうやら精霊魔法がこれまでのようにうまく使えないらしく、それを補助するような魔導具を作れないかと。俺にそういう付与魔法を作って付与してくれ、というような内容だ。それも極秘にね』
『あー……。なるほど』
俺とウォルフは、腑に落ちて同じことを呟く。
俺は知らなかったことだが、数代前からガイスト侯爵家の権威は地に落ちつつあるらしかった。
精霊の祝福を受けた家として、最初はそれこそ、精霊とともに国に尽くしていたが、時代が平和になりつつあると、その力を発する機会は失われる。
国民からのありがたみや尊敬のまなざしはだんだんと失われていく。
栄誉や賞賛に承認欲求を満たされていたのに、それが目に見えて減っていく。
精霊の愛し子である銀髪銀目と五芒星の紋を持つ者も生まれにくくなり、結果的に愛し子は優遇し、持たぬ者は分家に養子に出したりしていない者のように処分するようになった。
そこで最悪の事態を迎える。
直系の第一子として生まれた銀髪の俺に、当時、どこにも愛し子の紋が見つからなかった。
実際はまだ開いていなかった銀色の瞳に刻まれていたのだが。
生まれたてで産声を上げている俺の瞳までは確認しなかったのだ。
そして、出来損ない、役立たずと捨てられた。それこそ死んでもいいと、死産届を提出させて、俺はいない者として処理されたわけだ。
おそらく、このときからすでに、ガイスト侯爵家の精霊の愛し子の祝福は消えかけてきていた。
だって、俺は精霊王の愛し子だから。
そんな俺がこんな憂き目にあっているのだから、そりゃあ、精霊王も怒って見切りをつけるだろうよ。
まあ、善良なガイスト家の血筋の愛し子は、そのまま精霊が寄り添っているだろうが。
『──理由は分かった。それで、お前は引き受けるのか?』
『いや? 俺も暇じゃない。興味はあるが、優先順位の低いものを軽々しく引き受けないさ。保留でお帰りいただいた』
『賢明な判断だ』
ウォルフが真顔で頷く。
俺としても、その方が助かるけどね。
『俺の一番の優先順位はサイカ殿だからな。興味深い精霊王の愛し子で、無尽蔵の魔力。これに興味を持つなと言う方がおかしいだろう!』
『! 止めんか!』
急に俺に向かって興奮して突進してきたゾフト。それを素早く押しのけて、俺を抱えて庇うウォルフに顔を赤らめつつ、バンダナを外して頼む。
『あの、これ、認識阻害の魔法を強化して付与してほしいんだけど、できる?』
『お安いご用さ! 今度はサイカ殿の魔力を上回る魔力の持ち主以外には平凡に見えるようにしようか』
『え、いや、それじゃあ、ウォルフにも分からなくなるんじゃ!? それに、今の見え方からあまり変わっちゃうと、違和感があるのでは?』
俺が慌てて言うと、ゾフトとウォルフがいい笑顔で応えた。
『その違和感さえ認識しづらくするから、違和感が違和感と感じなくなるんだよ。分かった?』
『…………? えーと……、たぶん?』
話半分も分からないけど、何やら専門的な単語が飛び交いだして、俺は早々についていけなくなった。
暇を持て余した俺は、ゾフトの部屋に付いてる小さなキチンで勝手にお茶を淹れて、インベントリに入れていたお茶菓子を取り出し、一人黙々と消費して時間を潰した。
やがて付与が終わったらしく、ウォルフが新しいバンダナを器用に巻いてくれた。
『よし、完璧!』
『さすが俺だな』
俺を見てそう言うウォルフとゾフトに苦笑する。
『俺にはいつも通りの俺が鏡に映ってるようにしか見えないから、変化具合が分かんないなあ』
毎日、鏡で見ている、見慣れた顔で。これがどうなって見えるのか、想像もつかない。
『付与魔法に特定の人の魔力をセットしておけば、その人にはいつも通りのサイカ(殿)にしか見えないけど、ちゃんと発動しているのは分かるから』
『ちなみに、今、セットしてあるのは、ウォルフとゾフトとスコーピオ、アリマージュの三男坊ね』
どうやら、俺が念じるとコマンドが浮かんでくるらしい。そこで選択をしてセットしたり解除できるそうだ。すごいね!
『ありがとうございます。大切に使いますね。あの、お礼は──』
『いつもの、その焼き菓子をたくさんちょうだい。糖分補給に最適なんだ。しかも精霊王の祝福付きで、体調もよくなって一石二鳥!』
『はあ。じゃあ、それで。ありがとうございます』
どうやら、俺が昔からの習慣で節約で作っていたクッキーやケーキに、精霊王の魔力が込められているらしく。
ゾフトいわく、貴重な研究材料になる上に元気にもなれていいんだって。
まあ、たぶんウォルフやスコーピオ義兄上辺りが、これとは別にお礼を渡してるとは思うんだけどね。だから気にしないことにしている。
こうして、来る前のガイスト侯爵当主のことをケロッと忘れていた俺は、このあと、とんでもない事件に巻き込まれることになる。
───いや、巻き込まれたんじゃなくて、当事者だった。
※長くなったので、次話に続きます。
ガイスト侯爵家の消された第一子であるサイカ・オリエール。
第三騎士団入団試験日からわずか数日でロマネス公爵家の養子になり、ウォルフガングの婚約者となった。
これは当時、本人のあずかり知らぬことであった。
私はディザード大公家当主ヴァイオラ。この国の王の実弟で宰相の地位にある。嫡男のエアドアは私の補佐官で次期大公と次期宰相である。
今日はそんな我が家の次男ウォルフガングと、そのサイカの結婚式だった。
大公家と公爵家の婚姻のため、大神殿にて盛大に執り行われたが、お互い、第三騎士団団長と団長補佐官という立場ゆえ、いつ魔物討伐任務が入るか分からないということで披露宴はなし。
非番の騎士達に順に祝い酒を振る舞うことになっている。
……まあ、実際は披露宴が面倒だったという本音が強いだろうが。
それにしても、ここに来るまでに、色々とあったなぁ。
───私は宰相の執務室に戻り、書類を捌きながら、これまでのことを思い返す。
国王陛下である兄への奏上と、王家の影の使用許可。サイカへ贈るバンダナに付与する魔導師への依頼。
サイカの後ろ盾になるための婚約。そのためのロマネス公爵家への養子縁組。
これらすべてを極秘に、迅速に行う。
そして入団式当日に、ウォルフガングとスコーピオからサイカへの盛大なネタばらし。
そのあとはまあ、いくつかの騒動があって。
婚約期間が思ったよりも延びてしまい、ウォルフガングが切れそうにもなったが、結果的に両想いを確認して……。
しかし、一番大変だったのは、ガイスト侯爵家の一件だったな……。
『どうされました?』
『ああ、いや……。ここに至るまでのアレコレを感慨深く思い出していたところだよ』
宰相補佐官のエアドアがお茶を淹れてくれたので、そう応えて一息つく。
親子ではあるが、職場では上司と部下という間柄なので、きちんとわきまえて話す。
『ああ……。本当に、忙しなくて、ハラハラドキドキで、生きた心地がしなかったですよね。でもやっぱり、あの事件が一番、すわ破滅かって死を覚悟しましたよ』
『……ああ、それを私もちょうど思っていたところだったんだよ』
エアドアと二人、ちょっと顔を青くしながら、過去を振り返っていた。
◇◇◇sideサイカ
第三騎士団の入団試験日の衝撃から、早いもので、もう二年が経とうとしていた。
その間、俺の魔法がちょっと暴走したり、A級の魔物を単騎で倒したりと、かなり目立つことがあった。うん、これは反省してる。
俺は十七歳になっていた。
俺の顔はさらに美しさに磨きがかかって? 認識阻害の魔法を付与したバンダナをつけていても、隠しきれなくなっていたらしい。
自分じゃ気にしてなかったけど、色気が漏れ出てるとか何とか? よく分からないけど。
【精霊王の愛し子】の祝福は普通じゃなかったらしい。
どうやら、精霊王の美貌がその力とともに、俺にも反映されているのだそうだ。
確かに、見慣れたとはいえ、いつも俺に寄り添う精霊王は人外レベルの美貌だもんな。精霊は皆、男とか女とかっていう性別もないらしく、中性的な美人が多い気がする。
ある日、ウォルフが俺を連れて、王宮魔導師のゾフト・オリヴァーン公爵令息の元へ行ったことがあった。
バンダナの付与魔法を強化してもらうためだった。
そこに向かう途中の廊下で、中庭を挟んだ向かい側の廊下を歩くガイスト侯爵家当主と、一瞬だが、出会ってしまったのだ。
もちろん俺は、このときまで肉親であるガイスト侯爵の容姿を知らなかった。しかし、自分と同じ銀髪銀目の美中年の貴族を横目で見て、ハッと気づいた。
そしてガイスト侯爵家当主も、おそらく俺に寄り添う精霊の気配に気づいたのだろう。
一瞬の交錯。
それだけで十分だった。
お互いに、何事もなかったように無表情で歩き去ったが、内心では心臓バクバクだった。
『……ウォルフ……』
『ああ。おそらく、バレたな。さすがに直接会えば分かるだろうとは思ったが……しくじった。まさかこんなところにいるなんて』
『それは俺も思った。だって、いつも邸に篭もっていて、王宮にはめったに来ないって聞いてたから』
この先は、俺達が今向かっている王宮魔導師達の職場である塔があるだけ。
そこに精霊の祝福を受けたガイスト侯爵家の者が出入りすることはなかったから。
己の精霊魔法に並々ならぬプライドを持つ彼らが、自分達よりも下に見ている魔導師に会いに行くとは思わない。そもそも、これまで一度もなかったから。
『まあ、対策はあとで考えよう。王家の影がずっとついているから、この件もすぐに、陛下や宰相やロマネス公爵家に連絡がいくはず。今はとにかく付与魔法を強化してもらわないとね』
『う、うん。そうだな』
少しの焦りを見せつつも、冷静に魔導師の塔へと向かう。
そしてそこで待っていたゾフトから言われた言葉で、なぜガイスト侯爵当主がここにいたのか、納得した。
部屋に招かれ、一歩入ると、防音結界魔法が発動した。ソファを勧められて座ると、聞いてもいないのにゾフトが話し出した。
『さっき、ガイスト侯爵に会ったか?』
『──ああ、中庭の回廊で。まさかこんなところにいるとは思わず、油断した』
ウォルフの言葉に、苦い顔でゾフトが言った。
『実は、つい先ほどまで、俺に会いに来ていた。何やら、魔導具について聞きたいと』
『魔導具? なぜ?』
俺が会話の途中にもかかわらず、思わず聞くと、ゾフトは気にせず話してくれた。
『ああ、濁されてはいたが、どうやら精霊魔法がこれまでのようにうまく使えないらしく、それを補助するような魔導具を作れないかと。俺にそういう付与魔法を作って付与してくれ、というような内容だ。それも極秘にね』
『あー……。なるほど』
俺とウォルフは、腑に落ちて同じことを呟く。
俺は知らなかったことだが、数代前からガイスト侯爵家の権威は地に落ちつつあるらしかった。
精霊の祝福を受けた家として、最初はそれこそ、精霊とともに国に尽くしていたが、時代が平和になりつつあると、その力を発する機会は失われる。
国民からのありがたみや尊敬のまなざしはだんだんと失われていく。
栄誉や賞賛に承認欲求を満たされていたのに、それが目に見えて減っていく。
精霊の愛し子である銀髪銀目と五芒星の紋を持つ者も生まれにくくなり、結果的に愛し子は優遇し、持たぬ者は分家に養子に出したりしていない者のように処分するようになった。
そこで最悪の事態を迎える。
直系の第一子として生まれた銀髪の俺に、当時、どこにも愛し子の紋が見つからなかった。
実際はまだ開いていなかった銀色の瞳に刻まれていたのだが。
生まれたてで産声を上げている俺の瞳までは確認しなかったのだ。
そして、出来損ない、役立たずと捨てられた。それこそ死んでもいいと、死産届を提出させて、俺はいない者として処理されたわけだ。
おそらく、このときからすでに、ガイスト侯爵家の精霊の愛し子の祝福は消えかけてきていた。
だって、俺は精霊王の愛し子だから。
そんな俺がこんな憂き目にあっているのだから、そりゃあ、精霊王も怒って見切りをつけるだろうよ。
まあ、善良なガイスト家の血筋の愛し子は、そのまま精霊が寄り添っているだろうが。
『──理由は分かった。それで、お前は引き受けるのか?』
『いや? 俺も暇じゃない。興味はあるが、優先順位の低いものを軽々しく引き受けないさ。保留でお帰りいただいた』
『賢明な判断だ』
ウォルフが真顔で頷く。
俺としても、その方が助かるけどね。
『俺の一番の優先順位はサイカ殿だからな。興味深い精霊王の愛し子で、無尽蔵の魔力。これに興味を持つなと言う方がおかしいだろう!』
『! 止めんか!』
急に俺に向かって興奮して突進してきたゾフト。それを素早く押しのけて、俺を抱えて庇うウォルフに顔を赤らめつつ、バンダナを外して頼む。
『あの、これ、認識阻害の魔法を強化して付与してほしいんだけど、できる?』
『お安いご用さ! 今度はサイカ殿の魔力を上回る魔力の持ち主以外には平凡に見えるようにしようか』
『え、いや、それじゃあ、ウォルフにも分からなくなるんじゃ!? それに、今の見え方からあまり変わっちゃうと、違和感があるのでは?』
俺が慌てて言うと、ゾフトとウォルフがいい笑顔で応えた。
『その違和感さえ認識しづらくするから、違和感が違和感と感じなくなるんだよ。分かった?』
『…………? えーと……、たぶん?』
話半分も分からないけど、何やら専門的な単語が飛び交いだして、俺は早々についていけなくなった。
暇を持て余した俺は、ゾフトの部屋に付いてる小さなキチンで勝手にお茶を淹れて、インベントリに入れていたお茶菓子を取り出し、一人黙々と消費して時間を潰した。
やがて付与が終わったらしく、ウォルフが新しいバンダナを器用に巻いてくれた。
『よし、完璧!』
『さすが俺だな』
俺を見てそう言うウォルフとゾフトに苦笑する。
『俺にはいつも通りの俺が鏡に映ってるようにしか見えないから、変化具合が分かんないなあ』
毎日、鏡で見ている、見慣れた顔で。これがどうなって見えるのか、想像もつかない。
『付与魔法に特定の人の魔力をセットしておけば、その人にはいつも通りのサイカ(殿)にしか見えないけど、ちゃんと発動しているのは分かるから』
『ちなみに、今、セットしてあるのは、ウォルフとゾフトとスコーピオ、アリマージュの三男坊ね』
どうやら、俺が念じるとコマンドが浮かんでくるらしい。そこで選択をしてセットしたり解除できるそうだ。すごいね!
『ありがとうございます。大切に使いますね。あの、お礼は──』
『いつもの、その焼き菓子をたくさんちょうだい。糖分補給に最適なんだ。しかも精霊王の祝福付きで、体調もよくなって一石二鳥!』
『はあ。じゃあ、それで。ありがとうございます』
どうやら、俺が昔からの習慣で節約で作っていたクッキーやケーキに、精霊王の魔力が込められているらしく。
ゾフトいわく、貴重な研究材料になる上に元気にもなれていいんだって。
まあ、たぶんウォルフやスコーピオ義兄上辺りが、これとは別にお礼を渡してるとは思うんだけどね。だから気にしないことにしている。
こうして、来る前のガイスト侯爵当主のことをケロッと忘れていた俺は、このあと、とんでもない事件に巻き込まれることになる。
───いや、巻き込まれたんじゃなくて、当事者だった。
※長くなったので、次話に続きます。
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