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16 下界は外界ともいう
しおりを挟む「アルトは結界の外の魔獣とかと戦った事ってある?」
身体強化で走りながらカムイが話しかけてきた。
「───あるが、めちゃくちゃ強いから騎士団総出で一体を相手かな。間違っても一対一はない」
「・・・・・・へぇ・・・そーなんだ」
自分から聞いてきたくせに、目を逸らして口を噤んだカムイにジト目を向ける。
「まさか一対一になったことが・・・?」
「・・・・・・あー、うん・・・・・・初日にね、ちょっと・・・」
「・・・・・・で?」
アルト君、尋問慣れてるね?
俺は仕方なく白状した。
「そんなこと知らなかったから、結界を一歩出た瞬間にでーっかいイノシシみたいな魔獣に跳ね飛ばされました」
「───はああ───?!」
思わず敬語。
そして案の定、アルトの叫び・・・。
「お前っ、それで、怪我はっ?!」
「全く無かった、ので、イケると思って次は一刀両断しました・・・・・・やっぱりヘン?」
「・・・・・・」
でも仕方ないじゃん。
ハイスペックでE・Eなんだから。
「そんな細腕で・・・・・・?」
「煩いなあ、どうせアルトの半分も無いよ!」
ぷんすか怒る。
「後で腕前を見せてあげるよ」
「・・・・・・本当に大丈夫?」
論より証拠って言うじゃん。
なんだか信用無いな。
目的地は綺麗な水をたたえたかなり大きな湖だった。
不思議と、ここは世界樹と同じ結界で覆われていた。
「ここに来たかったのか?」
「うん。湖があるのは知ってたけど、道中長いからさあ、独りじゃ怖いじゃん。アルトがいて助かった」
そう話をしていたら湖がキラキラと光って、カムイよりも大きい人型の精霊が現れた。
「───うわ、綺麗・・・」
「・・・・・・嘘だろう?」
カムイは感嘆の、アルトは驚愕の声を出した。
《ふふ、お久しぶりね、ジェイド》
鈴のような声を発した精霊に首を傾げる。
「・・・・・・あの、会ったこと、ありましたっけ?」
《・・・まあ、本当に忘れてるのね? アスガルド神の言ったとおりね。かれこれ10年以上の仲なのに、哀しいわ》
そういってシクシクと涙を零す精霊さん。
───ええ? この世界で精霊の知り合いなんて本当に知らない・・・・・・ん?
「・・・・・・10年前?」
ちょうど【パライソの住人】が発売されて、高校生だった俺は親の残した金を使いたくなくてバイト代で機器一式揃えてプレイしたんだっけ。
それで一番最初に、精霊魔法の為に契約した精霊が・・・。
「・・・・・・ウンディーネ?」
《思い出してくれたの? でもそうじゃなくて、名前、付けてくれたじゃない》
そうだ。
あの時、俺は水の精霊の総称だったウンディーネを嫌がって、特別な呼び名を付けたんだ。
「・・・・・・『ミズチ』」
《! そうよ、ジェイド。思い出してくれたの?! 嬉しい!》
そういって俺をギュッと抱き締めてくれた。
ひんやりして気持ちいい。
思わずすりっと顔を擦り付けてしまった・・・胸に。
直後、蚊帳の外だったアルトに引っ剥がされたが。
ヤキモチか?
でもミズチは精霊だよ?
俺の(契約精霊)だからあげないよ?
《あらあら、堪え性のない子ねぇ。嫉妬かしら? 心配しなくてもジェイドとは主従・・・知己の間柄よ》
「───いや、俺は別にっ・・・・・・!」
俺を後ろからギュッと抱き締めてわたわたするアルトが可愛い。
《・・・無意識なのかしら? ああでも、ジェイドはそれに輪をかけた鈍感ど天然だからねぇ・・・》
ミズチがブツブツと独り言を言っているが、俺は気になったことを聞いてみた。
「ミズチがいるって事は、他の精霊もいるのか?」
《───ええ、もちろん。ただ、ジェイドが消息不明になってからここ6年ほどは散り散りになってしまって、多分何処かで眠っているんじゃないかしら?》
ミズチの話に衝撃を受けた。
───ええ?
俺、消息不明だったの?
6年も?!
どういう事だ?!
疑問符が頭にいっぱい浮かんでいたのだろう。
ミズチが詳しく話をしてくれた。
《まず最初に、貴方が急に私達のテリトリーから消えたのよ。ぱあっと光ってね。何も言わずに転移しちゃって、珍しいなって思っていたら、その後、ウンともスンとも反応しなくなって》
ミズチが真面目な顔で続ける。
《他の子達と彼方此方探したけど見つからなくて・・・私達精霊は、契約した相手から貰う魔力で活動していたのよ。もちろん普通は元々の魔力で十分だったけど、私達は名を貰っていたから、貴方の魔力が足りないと活動出来なくなるのよ》
「───ああ、そう言えばそうだった」
ただの精霊として契約すればそんなに魔力を渡すこともない。
でも俺は天涯孤独だったから、ゲーム内だけでも俺の家族のような存在が欲しかった。
裏切らない、心の綺麗な・・・。
《それで活動限界を迎えた私達はそれぞれ眠りについたって訳。その間貴方がどうしていたのかは分からないわ》
「───俺は、光に巻き込まれて・・・・・・次に気付いたらこの森だったんだ。それしか、分からない」
《そう。・・・アスガルド神が仰っていたわ。ジェイドは色々と記憶を失っていると。でも、私達の事を思い出してくれた。それだけで十分よ》
傍で聞いていたアルトが躊躇いがちに聞く。
「・・・・・・何故、アスガルド神がカムイをそんなに気にかけるんだ?」
「・・・・・・それは・・・」
巻き込まれ召喚の罪滅ぼしなんです、とは口が裂けても言えない!
《それはね、ジェイドがアスガルド神の加護を授かっているからよ》
「「───はぁっ?!」」
なんて事ないようにサラッと言ったな、ミズチ!!
聞いてないよ---?!
「ステータスオープン。・・・うわ!! 本当に付いてる! いつの間に?!」
「・・・・・・称号にあるな。『アスガルド神の加護』」
アルトも確認した。
見間違いじゃ無かった。
俺、どうすりゃ良いのさ・・・。
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