パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

文字の大きさ
41 / 42

41 とりあえず常識を学ぼう 1

しおりを挟む

婚約のお祝いをして貰った翌日、すっきり目覚めたカムイは、朝食後、アルト達が仕事に行くのを見送ってから、書庫に籠もった。

自分には圧倒的に知識が足りない。

いや、知識はある。
何なら【パライソの住人】のゲーム知識は腐るほど持ってる。
なんせだからな!

だけど、この世界の知識、常識に関しては赤ん坊同然だ。
何度アルト達に怒られたか。

いや、呆れられたという方が近いのかな?

とにかく、迷惑かけるし自分のためにもここは早いところ常識を学ばねば!

幸い、速読で読みまくれるからね。
今日は何処まで読もうかな?

書庫の扉の前には僕の護衛騎士さん。
ご苦労様です、とぺこり。

そしてウキウキしながら本棚へ向かう俺を微笑ましそうに見守りながら待機している侍女さん。
お茶要員だそうです。
でも前もって言っておこう。
ごめんなさい、読み出したら止まんないと思う。

だから一応、声をかけても反応しなかったら遠慮なく揺さぶって(叩くのはさすがに無理だそうだ)くれと頼んでおいた。

背もたれのない椅子を一つ側に置いて、座って読むようにと念を押された。
前にずっと立ち読みしてたのをアルトに聞いたみたい。

ほんとーにごめんなさい。

「じゃあ行きますか」

大量の書籍を前に不敵に笑うと、見上げるほどの高さの本棚へ挑んでいった。


どのくらい経ったのか、侍女さんが頑張ってゆさゆさ揺らしてくれたのにハッと気付いて顔を上げる。

どうやら10時くらいで、ちょうどお茶休憩の頃だったようだ。

「すみません、ジェイド様。お声がけしたのですが全く気付かれなくて・・・結局、揺さぶってしまいました。そろそろ一旦休憩なさって下さいませ」
「・・・ああ、ありがとう。ごめんね、そうさせて貰おうかな」

困り顔の侍女さんが申し訳なさそうに言うのに苦笑してカムイも応える。

確かに気付くと疲れたし、喉も渇いた。

「こちらに御用意致しましたので、どうぞ」

そう言って一旦書庫から出ると、庭のテーブルにお茶とお菓子があった。

すでに別の侍女さんと別の護衛騎士さんも待機していた。
スミマセン。

「ありがとう。美味しそう!」

色とりどりのテーブルの上のモノに思わずぱあっと顔を綻ばせて、そそくさとテーブルに着くカムイに侍女や護衛騎士もほわんと和んだ。

「頂きまーす!」

紅茶を一口飲んでから、クッキーを一枚、サクリ。

甘い、バターの香りに目を輝かせてサクサクと齧っていく。
見た目は小動物の食事風景。

もぐもぐ、ゴクン。
コクコク、ごくん。

黙々とクッキーを消費して、紅茶を飲み干していく。
無意識なので本人は気付いていないが、食事のマナーはしっかりと躾けられたもので優雅で完璧だった。

あんなにはむはむしてるのにクッキーの食べカスも落とさない。

まあ、胃袋に入っている量は優雅とはほど遠いモノだったが・・・。

細いカムイの為に、なるべく気の済むまで食べさせようという邸の者達の心づもりであった。
その為、焼き菓子の他に軽食のサンドイッチも並べられている。

食欲が刺激されたのか、そちらにも手を伸ばして一口、はむり・・・。

「---っ!」

むぐむぐしながら目尻が下がるカムイを見て、影でガッツポーズを取る侍女達。

表情で分かってしまうカムイにニコニコ顔でお茶のお代わりをする。

「お味は如何ですか?」
「---んぐ。最高!! ちょうど良い塩加減で、辛さも多からず少なからず! 野菜もシャキシャキしてて、俺、こんな美味しいサンドイッチ、生まれて初めて食べたよ! 料理人さん達にお礼を言いたいくらい」

口の中をゴックンと飲み込んでから、嬉々としてそう話すカムイに侍女も護衛騎士もにっこりが止まらない。

「それはようございました。料理長も喜びます。実はあそこで見守っておりまして・・・」

侍女が指す方には、大きな体を縮こまらせた年配の男性。

「あ、あの。とっても美味しいです。お菓子もご飯も! 何時もありがとうございます。あんまり食べられなくて、ごめんなさい」
「とんでもないです! ありがたいです。何か要望があれば何でも仰って下さい」
「はい、その時はよろしくお願いします!」

カムイは思いがけず料理人さんにお礼が言えてほくほく顔で、次のサンドイッチに手を伸ばした。

その様子に一同、ほわんと癒やされるのだった。






※半分書きかけだったので、何とか書けました。
長らくお待たせしております。
他の停滞中の話も、一応完結を目指してるので気長にお待ち頂けると・・・。

読者様の感想ありがたいです。

サブタイトルの頭に数字振りました。
誤字脱字、話の齟齬など気付きましたら番号で教えて下さると助かります。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれた料理人の話

ミミナガ
BL
 神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。  魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。  そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています

水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。 一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。 前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。 これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。

処理中です...