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38 閑話 ウェイバー侯爵家次男リアム視点 1
しおりを挟む───どうしてこうなってしまったんだろう。
僕はただ、この家の養子になれただけで満足だったのに。
たった1人の母親に死なれて孤児院に入れられるときに鑑定でアルファと分かり、平民ながらこの地の領主様・・・ウェイバー侯爵家に養子縁組をされて、貴族として暮らすことになった。
僕の二つ上の義兄ももちろんアルファで、綺麗な黒髪に透き通った銀色の瞳の、可愛らしい顔立ちの人だった。
急に引き取られて義弟となった元平民の僕にもイヤな顔をせず接してくれて、些細な事にも気を配ってくれる優しい義兄だった。
最近は病気療養中だとかで全く会えなくて、でも早く良くなって欲しくて我慢してた。
───それなのに・・・。
「───え? 義兄様が?」
「はい。王都の外れの森の中で馬車の転落事故で・・・・・・亡くなった、と」
「・・・・・・うそ、でしょ?」
「・・・・・・捜索隊が組まれてしらみつぶしに探したそうですが、壊れた馬車の残骸と、引き裂かれた衣服が残っていただけと・・・おそらく、魔獣に・・・」
僕付きの侍従がそう言っているが、信じられなかった。
あの優しくて聡明な義兄様が?
---病気ではなく、事故で・・・・・・死んだ?
「───っリアム様?!」
それを聞いて僕の意識はブラックアウトした。
次に目覚めると義父様がベッドの側に座っていた。
「・・・リアム・・・目が覚めたようだね。大丈夫かい?」
「───っ義父様・・・アシェル義兄様が・・・、本当に・・・?」
「・・・・・・残念ながら、捜索の甲斐もなく・・・」
義父におそるおそる聞いたが、返ってきた応えは侍従と変わらなかった。
はらはらと涙を溢す僕を心配する表情で抱き締め、続けて言われた言葉に息を飲む。
「今日から、リアムがウェイバー侯爵家の次期当主だ。ルカと婚約して、この家を継いでおくれ」
「・・・・・・っ」
それって、もう、本当に義兄様が死んだって決まったから?
だから僕を跡取りにしたって事?
───本当に・・・もう・・・・・・義兄様は、帰ってこないんだ・・・・・・。
───その日は哀しみのあまり、眠れずに一晩中泣いた。
それから間もなく、侯爵家の実子で義弟のルカと婚約して次期当主としてのお披露目をして、名実共にウェイバー侯爵家の跡取りとなった。
アシェル義兄様を忘れるように勉学や剣術などに打ち込み、あっと言う間に月日が流れた。
誰もアシェル義兄様の事を口にしない。
───亡くなったとされる命日に誰も花を手向けない。
・・・それが異常だということも気付けないほど可笑しくなっていた。
僕の胸で揺れて光る義兄様の小さな魔石のネックレス。
御守りだとプレゼントしてくれた、宝物。
それが、僕と義兄様の大切な、唯一の想い出。
───あれから9年・・・・・・。
何となく、婚約者で義弟のルカとの仲を進展出来ずに過ごしていたある日。
半年前にマンティコア討伐の為に購入した『悪魔の吐息』の残りを不法に所持していると王宮騎士団がウェイバー侯爵家にやって来た。
「───え? あれは使い切り、残っていないと報告を上げていましたよね、義父上?!」
「ああ、そうだね。だから王宮の方が間違えているんじゃないかな?」
私が義父上に確認すると、躊躇いもせずにすぐに応えた。
確かに中身を確認して報告書に記入して提出したのだ。
あの薬は王宮の錬金術師のみ作成できて、厳しく使用目的を精査してから購入できるものだから、王宮で管理され、偽造は許されない。
───それを偽造した?
誰が? ルカが?
「・・・・・・そんなまさか・・・」
「───アレを偽造するなんて、重罪だぞ!」
私と義父上が思わず詰め寄ると、騎士団長が更に衝撃的な事を告げた。
「その毒薬を使っての殺人未遂の容疑もかかっております。・・・心当たりがあるのでは? ルカ・レア・ウェイバー殿」
「ーっルカ?! 本当なのか?! 一体誰を───?!」
「・・・・・・」
義父上がルカの肩をがしりと掴んで揺さぶるが、無言を貫くルカ。
騎士団長は続けた。
「・・・・・・アシェル・ノーチェ・ウェイバー侯爵嫡子だった方です」
「・・・・・・どういう・・・・・・」
「アシェル殿は生きておられます。しかし馬車の転落事故のせいで自身がアシェル殿だという記憶はほとんど無い状態です。・・・が、魔力は誤魔化せません。そこのルカ殿は魔力を元に冒険者ギルドの職員に金を握らせて調べさせたのです。コレも違反で罪に問われますね」
騎士団長の言葉に一同、唖然とした。別の意味で・・・。
「───アシェルって、誰だっけ?」
「そんなの、いたか?」
「さあ、知らない」
そんな言葉があちこちから漏れる。
それに騎士団長達が嫌悪感を醸しながら眉間に皺を寄せた。
「・・・・・・どういう事だ?」
「・・・分かりません。そこまで蛇蝎の如く嫌悪していたのでしょうか・・・?」
騎士団長が部下に尋ねるが、部下も困惑顔だ。
侯爵などは『アシェル・・・そう言えばそんな名前の息子が、いたような・・・』等と言う始末。
どういう事だろうか。
だがリアムは覚えていたようだ。
「義兄上が生きていた! 記憶喪失で自分が誰か分からないから帰ってこられなかったんだな。じゃあこちらから迎えに行けば───」
きっと思い出してくれる。
以前のように自分に微笑みかけてくれる。
などと考えていたリアムが自分の甘さを知ったのは、この後すぐであった。
※長くなってしまいました。
申し訳ありませんが、ココでいったん切って、次話に続きます。
※『悪魔の吐息』を息吹やら囁きやら、何かおかしく混じって誤字ってたので結構前の話から確認して修正しました。
まだ誤字があったら教えて下さいませ。
申し訳ありませんでした。
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