35 / 62
34 水底に沈む記憶の中で
深く暗い水底にゆらゆらと沈む小さい身体。
喪ったはずの記憶。
忘れたはずの思い出。
水の中で、アシェルが微笑んでいる。
目の前にはアシェルと同じ黒い髪に、でもアシェルとは違うルビーのような紅い瞳の、少し痩せて大人しそうな男の子。
『ようこそウェイバー家へ。僕はアシェル。君と同じアルファだ。歓迎するよ、リアム。今日から君は僕の義弟だ。仲良くしようね』
そう言って握手を交わすアシェルの表情は、慈愛に満ちた、でもどこにでもいる普通の子供の顔だった。
『・・・・・・よろしくお願いします』
おずおずと手を握り返すリアムと呼ばれた子供は、顔を真っ赤にして俯いた。
『よろしくね、リアム義兄様。僕はルカです。オメガなんだ!』
隣にいた、アシェルと同じ黒髪に銀の瞳の末の弟がリアムに飛びついてぎゅっとした。
リアムは驚いてルカと一緒に倒れ込んだ。
『ルカ、危ないじゃないか! 気を付けないと怪我をするよ』
『えへへ、嬉しくてつい・・・・・・ごめんなさい』
『大丈夫? えと、ルカ君』
『えー? もう家族なんだし、ルカって呼んで欲しいな?』
『そうだよ。僕もアシェルで良いよ』
『・・・・・・ルカ・・・・・・アシェル・・・・・・』
そう言われてニコニコするアシェルが見えた。
───その後は、何故か暗い表情のアシェルばかり・・・。
アシェルの部屋だろうか。
ベッドのシーツに潜って泣いていた。
『・・・どうして。僕は何もしてない・・・。知らない。でも誰も信じてくれない・・・・・・』
違う日。
『リアムに、罵倒していたなんて・・・アレはただ気を付けるように注意しただけで・・・。ソレなのに・・・何故?』
部屋の隅で声を押し殺し、泣いていた。
───いつの間にか、何故か家の中の誰もがアシェルを悪者にしていた。
誰も信じてくれない。
庇ってくれる人はいない。
実の親でさえも、アシェルを嫌悪の表情で睨んでいた。
間もなく敷地内の別邸に一人閉じ込められて、無機質に掃除や食事の配膳をして去って行く使用人をただただ無言で眺める日々。
この別邸に移ってからは義弟や実弟さえも、寄り付かなくなった。
たった一人。
話し相手なんて当然いない。
そこそこの広さの邸にたった一人の10歳の子供。
誰もがアシェルを無視する。
空気のように、誰も目を合わせない、声もかけない。
当然、アシェルから行動して声をかけても素通り・・・。
だから声をかける事を諦めた。
『僕が何をしたって言うの?』
困惑と絶望。
知らないうちに、アシェルの居場所はとっくに無くなっていた。
たった一つ。
生誕祭だから仕方なく、という理由で一人別行動だったが、王都に連れられて。
王都の国王陛下の生誕祭でたまたま知り合った辺境伯の連れていたロルファングというアルファの子。
ルゥルゥと呼ばせてくれた彼。
二人でこっそり王都を散策したたった2日足らずの逢瀬。
その一時だけが幸せだった。
馬車での転落事故の時、思ったのはルゥルゥの事・・・・・・。
───ごめんね、ルゥルゥ。
───僕は、またね、が、もう出来ない。
───さよなら。
───大好きだったよ。
『───ッカ』
『・・・セ・・・・・・セッカ』
『愛してる』
『目を覚まして』
───優しい声。
暖かい、耳障りの良い声。
俺が大好きな人の・・・・・・。
「───セッカ・・・!」
「・・・・・・ルゥ・・・・・・?」
セッカがゆっくりと目蓋を開けると、綺麗な銀髪にアイスブルーの瞳の、俺が愛した愛しい男の顔がぼやけて映った。
「・・・・・・セッカ、良かった・・・泣いてるから、何処か辛いのかと・・・・・・」
「・・・・・・え?」
そう思って顔に手をやると、頬が濡れていた。
「───ああ、夢じゃ無かったんだ・・・」
ポツリと呟くセッカ。
「───セッカ?」
「・・・・・・ルゥに、逢えないと思って。馬車での転落事故の時、ごめんねって・・・ルゥに、泣いてた」
「・・・ソレって・・・」
「・・・・・・全部じゃ無いけど。所々、夢で見た感じ・・・。王都の生誕祭で、会ってたんだね、俺達。・・・・・・凄く幸せだった」
「・・・っああ、俺も。あの時またねって別れたのに、逢えなくなって・・・。今度もまた、逢えないかと・・・っ」
「───探してくれてたんだな。ありがとう。ごめんね、勝手に消えちゃって」
「セッカのせいじゃない」
そう言ってぎゅうぎゅうと抱き締めるロルフに、愛おしい気持ちが溢れてくる。
「ルゥ、顔をあげて?」
「・・・?」
キョトンとしているロルフの唇にチュッと自分の唇を重ねるセッカ。
「迎えに来てくれてありがとう」
そう言ってセッカは満面の笑みを見せた。
※ちょっと辛い記憶でした。アシェルの記憶の一部を夢で見た感じです。
実は奥底には残ってるんです。という話でした。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません
ミミナガ
BL
この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。
14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。
それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。
ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。
使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。
ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。
本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。
コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。