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6 騎士は過去に思いを馳せる 1
しおりを挟むロザリンドは、セイリュウが宮廷魔導師団に攫われるように連れられて入団することになった原因である、とある事件を思い出していた。
---今から4年前、まだロザリンドが平騎士だった頃、年に一度行われる宮廷魔導師団の演習場所に辺境地が選ばれた。
寂れたその地の神殿にいるのが王弟殿下とは極一部の者しか知らないことだった。
かく言う我が公爵家もその極一部である。
当然、魔導師団の師団長も知っていたが、当時の副師団長は知らなかった。
この時の副師団長は家柄で選ばれたような、選民意識の強い貴族で実力は大したことが無く、極秘情報を与えるに足る者とは言えなかった。
その為、情報は秘匿され、結果としては何もない場所だから演習に向いていると強引に決めてしまったのだ。
この頃すでにご高齢だった魔導師団の師団長は現場から離れて久しい。
だから副師団長の言い分がまかり通りやすい状況だったのだ。
だが決まってしまったことは仕方が無いと、我ら第三騎士団も護衛のために着いていくことになった。
ちなみに師団長は高齢の為、王都で留守番である。
事前に神殿には連絡をし、宿もろくに無い為、神殿近くの平野を野営地に借りてテントを張ったり忙しくしていた。
そんな時、偶然彼を見かけたのだ。
肩で切り揃えられた黒髪に濃い青紫色の大きな瞳、背は160cmくらいだろうか。
書庫から本を持ってきたのか、数冊腕に抱えて小走りで渡り廊下を進んで行った先には神官長である王弟殿下の姿が・・・。
その髪色と相まって、本当の親子のように見えた。
「お父様」
そんな声が微かに聞こえて、ドキリとした。
神官長は俺に気付いていたようで、彼に気付かれないようにチラッとこちらを窺って、そっと人差し指を口に当てて『内緒』の仕草をした。
俺は小さく頷いた。
おそらく神官長も俺の素性を知っているのだろう。
お互い、この事は秘密としたのだった。
---思えばこの時すでに一目惚れをしていたのかもしれない。
その日は野営の準備で終わり、翌日から演習の予定が組まれた。
森へ入り、魔物を倒すのである。
魔導師に騎士が補佐で付き、魔導師の呪文詠唱の間の盾となるのだ。
しかし今回は様子が違った。
通常なら弱い魔物でも頻繁に出る辺境地に魔物の気配がほとんど無い。
さすがにこれはおかしい。
しかし騎士団が演習を中止して調査をしようと提案した途端、魔導師団副師団長が猛烈に反対してきた。
「たまたま少ないだけだろう? 演習は予定通り行う! そうだ、ならば魔物寄せの香を焚けば良い!」
「---はぁ?! 何を言っている! 特別な許可が無いとそのような事は出来ないぞ! 危険すぎる!」
魔物寄せの香はその名の通り、魔物が好む匂いを調合した特別なお香で、よほどの理由でもない限り使用が禁止されている物だ。
時と場所、量をよくよく考えて使用しないととんでもないことになる。
過去に数人やらかしたヤツがいて、その結果、香も厳重に管理され、持ち出せないようになっているのだ。
それを何故か副師団長が所持していた。
大慌てで魔導師達も騎士団員達もそれを奪おうとしたが、副師団長は構わずに魔物寄せの香を焚いてしまった。
しかも大量に、それこそ通常の何倍もの量を。
副師団長は知らなかったのだ。
適量を、それを使うことのリスクを・・・。
穏やかだった森は一転、あっという間に魔物の気配で溢れ出した。
表立って出て来なかっただけで、魔物はしっかりと存在しているのだから当然だ。
当然、場は混乱を極めた。
パニック状態で、森では禁忌の火の魔法を放ったり、敵味方関係なく魔法を放ったり。
魔物のスタンピードを人為的に起こしてしまった副師団長は我先にと逃げ出していた。
アイツを確保して責任を取らせねばと跡を追っていると、神殿の結界付近で神官長と彼がいるのが見えた。
副師団長は神官長の足元に、縛られて足蹴にされていた。
おそらく副師団長は神殿の周りに張ってある悪意を弾く結界に拒まれて右往左往したのだろう。
そこを結界を越えてこちらにやって来た神官長に確保されたようだ。
「オーディン、彼の護衛を頼めますか?」
真剣な顔で自分の名を呼ぶ神官長に、こちらも背筋を伸ばして応えた。
やはり俺の素性はバレていたか。
「---っはい」
「よろしい。では行きなさい。・・・本当に良いのか、セイリュウ」
「はい、皆の為に。その為の力ですから---すみません、神官長様・・・」
「『お父様』と。・・・これがそう呼んで貰える最後かもしれないから・・・」
「---っ・・・お父様、行って来ます」
「お前も気を付けて・・・私の愛しい子、セイリュウ」
神官長が彼をぎゅっと抱きしめて額に口付けを落とす。
防御の魔法だろう、彼が仄かに光った。
「くれぐれもよろしく頼みます」
「この身に代えましても」
「・・・代えちゃ駄目でしょう? セイリュウが哀しむ」
「・・・一緒に頑張ります」
「ふふふ、ありがとうございます」
そういって神官長は自分にも魔法をかけてくれた。
そうして彼と現場に戻ると、そこは阿鼻叫喚の様相を呈していた。
もはや指揮をとる者も居らず、両者入り乱れて敵も味方も無いような有様で・・・。
「・・・っコレほどとは・・・」
そう呟いたセイリュウに呆然としていた自分もハッとして辺りを警戒する。
「ええと、オーディン様? 僕が魔法を使っている間、護ってくれますか?」
「---っもちろんです!」
「じゃあ安心ですね」
彼はそういって強張った顔を何とか笑顔にすると、無詠唱で魔法を展開した。
眩い光が辺り一面を覆い尽くし、思わず目を瞑る。
次に目を開けると、そこら一帯の魔物は消え失せ、傷付いた騎士や魔導師達が倒れているだけだった。
「---へ?」
その次には広範囲の魔法が展開されて、見える範囲の怪我人は全て完治していた。
「・・・・・・すみません、亡くなった方はさすがに無理ですが・・・それ以外の怪我は治しました」
「---奇跡だ」
四肢損壊していた者の体が復元されている。
有り得ない・・・。
僅か14歳の少年が成した事だなんて、誰が信じようか・・・。
ああ、だからか。
神官長が『本当に良いのか?』『お父様と呼んで貰える最後かもしれない』と言ったのは・・・。
この力は脅威となる。
知られれば確実に国に囲われるだろう。
それを分かった上での覚悟だったのだ。
---レグルス様、彼は俺が、護ります。
細い体の、決意の瞳で森を見据えるまだあどけない少年を、俺が護らずに誰が護るというのだ・・・。
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