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67 魔導師と隣国の魔剣士 4
しおりを挟む道中、何となく注目されてるな、とは思ったが、さすがに公爵家の騎士達がぐるっと周りを固めているおかげか静かなものだった。
暫くしてルラック公爵邸に到着したようで、ゆっくりと馬車が止まった。
「フォルレイク国魔導師団長セイリュウ殿、第三騎士団長ロザリンド殿。お疲れ様でございました」
そう言って馬車の扉を開けて出迎えたのはロマンスグレーの髪を後ろに撫でつけた50代くらいの優しそうな執事さん。
その奥には玄関先にズラッと並ぶ多くの使用人達。
「出迎えご苦労」
「・・・・・・ひえ・・・・・・」
ロザリンドは慣れているからか平然としているが、僕は若干腰が引けた。というか抜けた。
「セイリュウ?」
「・・・・・・ごめんなさい、腰が、抜けちゃった」
だって何時になっても慣れないよ、こんなの。前世は言わずもがな、今世もほとんど平民、何なら孤児扱いだったんだよ。
レグルス父様とお城でのお披露目の時も人がたくさんいたけど距離があったし、あの時だけ我慢すれば済んだし。
でも今回は三日も人に囲まれて愛想笑いもして、結構いっぱいいっぱいだった。
「人が、いっぱい・・・・・・無理、怖いよぉ」
思わず涙目になってロザリンドに縋っちゃった。もう緊張の糸が切れてしまって立て直せなかった。
「あぁ、すまない。セイリュウが疲れてしまったようだ。悪いが人払いを頼む」
「これは申し訳ありませんでした。急いでお部屋へ御案内致します」
ロザリンドが機転を利かせてそう言ってくれて、執事さんがパパッと手配してくれた。
本当に僕は自分が思うより参ってたらしい。
遠足前の子供のテンションでこの数日はアドレナリンが出まくってて気付かなかったけど、公爵邸についた途端に気が抜けて・・・・・・。
ごめんなさい、僕もう気絶していいかな?
───あれから何やらバタバタしていたらしいけど、ストレスで気絶寸前だった僕は周りの状況には気付かず。
ロザリンドにお姫様抱っこされて用意されていた部屋に運ばれ、ベッドに下ろされた瞬間に意識を失った。
それからどのくらい寝てたのか。僕は、見慣れない部屋で一人目が覚めて若干パニックになった。
僕は以前、辺境の神殿から攫われて魔導師団に無理矢理入隊させられた。
その時に目覚めた部屋が知らない部屋で一人で、やっぱりパニックになったんだ。
まあ、魔力枯渇でろくに動けなかったから見た目は落ち着いてたように見えたろうけど。
それがトラウマになったようで、たまに見慣れない部屋で目覚めるとその時の絶望感を思い出して怖くなってしまうんだ。
「・・・・・・ロザリンド? ロズ? ───どこ?」
転げ落ちるようにベッドから下りて、素足のまま寝室から続きの間の扉を開ける。
そこはリビングのようだったが、そこにもロザリンドがいなくて、僕はぼろぼろ泣き出した。
「ロズ・・・・・・ろず・・・・・・どこぉ・・・・・・ひっく」
一人にしないで。独りはやだよぉ。
開け放った扉の側にしゃがみ込んで膝を抱えて本格的にぐずぐず泣き出した僕。
頭の中が後ろ向きな考えでいっぱいになって、転移魔法でロザリンドのところに行くとか思い付かなくなっていた。
「───ッセイリュウ! セイ! すまない、一人にして・・・・・・!」
「・・・・・・ろず・・・・・・?」
バタバタと駆け寄ってくる複数の足音が聞こえたあと、聞き慣れた耳障りのいい声が響いて、僕は顔を上げた。
そこには焦ったような顔のロザリンドがいて、僕を抱き起こしてぎゅっと抱きしめてくれた。
ああ、ロズだ。ロズの匂い、ロズの温もり、ロズの・・・・・・。
抱きしめられてロズの胸元をスンスンと嗅いでようやく落ち着いてきた僕は、ふと、さっき聞こえた足音が複数だったことを思い出した。
「・・・・・・ロズ、誰かと来た?」
「ああ・・・・・・ルラック公爵・・・・・・お祖父様と」
「・・・・・・あのあの・・・・・・とーっても、気まずいんですけど・・・・・・?」
うわあ、なんてところを見られたんだ、恥ずかしい!
「気にするな。それよりすまない。少し席を外したせいで泣かせてしまった」
「あー、うん。僕の方こそごめん。前に攫われたときのことがトラウマでさ、知らない部屋に独りだと怖くて思わず・・・・・・。あの、公爵様もすみません」
恥ずかしいが、何とか顔を離してロザリンドとルラック公爵を見てそう言った僕の顔は、たぶん涙と鼻水でグチョグチョで見られたもんじゃないと思う。
「いや、こちらこそロザリンドを離してしまってすみませんでした。さっきまでは寝室にいたんですよ。許してあげて下さい」
「いやいや、怒ってないです! 大丈夫ですから!」
気まずげな公爵と焦る僕を見て、ロザリンドがとりあえず、と言った。
「セイリュウは着替えをして軽く何か食べながら今後の予定を話そうか。あと、邸内では普通に話していいよ。使用人達も事情は知っているから気にしなくていい」
「そうだね。普通にお祖父様と呼んでくれ。ん? ロザリンドが養子なら私は義父か。じゃあお義父様でもいいな! でもお祖父様も捨てがたい・・・・・・」
「はいはい、とりあえず出てって下さい」
若干興奮気味なルラック公爵・・・・・・えーととりあえずお祖父様が部屋から追い出され、僕は顔を洗って髪を結われて着替えさせられた。
その頃にはお腹がぐうぐう鳴っていて恥ずかしかった。
「・・・・・・一人にして本当にすまなかった。しかしお前は何時もそういうタイミングで何かやらかすな。運がないというのか何というか・・・・・・」
「・・・・・・スミマセン」
うん、僕もそう思うよ。オーディン公爵家での行き倒れ事件がね・・・・・・。ははは、笑えない。
乾いた笑いを浮かべて、身支度が整ったので移動することになった。
「ちょうど午後のお茶の時間だから、庭でゆっくりしようって」
「おお、庭! 楽しみ!」
きっと綺麗に整えられて凄いんだろうな。そんな庭でお茶会最高!
現金な僕はルンルン気分でロザリンドにエスコートされたのだった。
※御無沙汰! こんなにほったらかしててスミマセン。そして魔剣士出て来ない。まだ出ない。もう少しで出るはず・・・・・・。
久しぶりすぎて名前とか間違えそう。
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