癒しが欲しい魔導師さん

エウラ

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72 魔導師は魔剣士団長と出会う

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むちゃくちゃ最悪の気分だったけど。

謁見の間に着くまでずっとピリピリした空気だったけど、さすがにここまで来てコレはないわと僕は気持ちを切り替えて、フォルレイク国王陛下の従兄弟と魔導師団長の猫を三匹くらい、いや、五匹くらい被った。

重厚な扉の前で、先導していた近衛騎士がよく通る声で名乗りをあげる。

「フォルレイク国魔導師団長セイリュウ・ヴァルム・レイクード様、同じく第三騎士団長ロザリンド・デューク・オーディン様並びにルーク・デウク・ルラック公爵様ご到着です」

ちなみに僕の名前はフルネームだとこうなる。
以前父様の実子としてお披露目をするときにレグルス父様に改めて大公爵を与えられたので、対外的にもフルネームはこう名乗るようにしている。

扉が開いて、僕達は絨毯の敷かれた道を進む。
王様はこのあと来るらしい。僕はレグルス父様から教わっていた礼儀作法にならい頭を下げ、入場を待つ。

「ホウオウ国王陛下のご入場でございます」

その声に合わせて玉座の段の向かって左側の扉から国王陛下が一人の騎士とともに入場してきた。といっても顔を上げるわけにいかないので俯いたまま、チラッとベール越しに流し見ただけなんだけど。

「リヴァージュ国王ホウオウである。遠路はるばるご苦労であった。面をあげて楽にせよ」

その言葉でようやく顔を上げると、ベール越しにとはいえ直視はマズいので彼らの口元辺りに視線を止める。

───と、国王陛下とともに入ってきた騎士の口元が小さく動いた。

『』

───は?
僕は一瞬、固まった。

『』

思わず凝視しているともう一度動く。やっぱり見間違いじゃない。
僕は意を決して、ベール越しに小さく口パクをした。

『』

それを正確に読み取ったのだろう。その騎士は口の端を微かに上げた。

隣でロザリンドが一瞬怪訝な顔をしたが、場所が場所だけに静観することにしたようだ。
あとで色々聞かれるかもしれない。

国王陛下は定型文の挨拶をして僕達を労い、傍らの騎士の紹介をしてから、このあとは陛下の私室で語らおうと退席した。

そう、一緒に入ってきて口パクをした騎士が、今回の対談を希望した魔剣士団長スザク・フィニクスその人だった。

燃えるような深紅の髪を後ろで一つに括り、紫がかった紅いきつめの瞳。
黒い騎士服を纏ったこの国最強と誉れ高い魔剣士団長。

───見た感じ、ロザリンドよりも少し年上っぽいかな? 20代半ばくらいか。
でも生真面目そうなロザリンドと違ってお茶目な印象が強い。

───さっきのもそう。
口パクで呟いた言葉は『日本』。
それもこの世界の言葉じゃなくて、ガッツリ日本語だった。

だから最初、反応できなかった。
日本語なんて、この世界に生まれて今まで一度も聞いたことがないから。
脳が理解するのに時間がかかってしまって、もう一度言われたことで急激に動き出した。

それでも前世振りの日本語に口が上手く動かなくて、どもっちゃったけど。

『に、日本人です』

それをしっかり読み取ってニッと笑った彼に、ロザリンドとは違う安心感を覚えたのも確かで・・・・・・。

コレからその彼と話をする。もしかしたら『日本』のことを話せる前世の記憶持ちの人かもしれない。
そう思ったらロザリンドには悪いけど、さっきまでのやさぐれた心がちょっと穏やかになった。

そんな僕の様子をベール越しに見ていたロザリンドがどういう気持ちでいたのか気付きもせずに───。

「セイリュウ、手を───」

そう言われてハッとする。そうだ、陛下の私室に移動するんだった。
エスコートするために差し出された手に自分の手を乗せようとして───。

「は───」
「───ローズゥ! お話終わったんでしょー? 迎えに来たよぉ!」
「───ぃ?」

謁見の間だというのに、扉をバーンと開けて凄い勢いで駆けてくるさっきのユリアナと呼ばれていた子に、僕は腰が引けて思わず後退った。

そんな僕をロズが引き寄せようとするが、その手が届く前にその子がロズの腰にガッツリ腕を回してしがみ付く。
それを目にした僕は嫌悪感と不快感で無意識に更に後退り、そして吐き気を覚えてその場に蹲った。

「───ッセイ!」
「・・・・・・ぅ」
「セイリュウ殿!?」

さすがにロズも焦ってその子を乱暴に引き剥がしたようだけど、僕は吐き気を堪えるので精一杯で、差し出されたロズの手を思わず振り払ってしまった。

───気持ち悪い。その子に触れた手で、僕の身体を触らないで。

たぶん全身でそう拒否したんだと思う。

でもそのときの僕は自分の感情をどうにも出来なくて、そのままその場で意識を失った。

───だからそのあとの騒ぎを知らない。

気付いたときには見たことのない豪奢な部屋の天蓋付きのベッドで眠っていて、全てを拒絶するようにそのベッド周りを堅強な結界で覆って閉じ籠もっていたから───。

「・・・・・・なにこれ・・・・・・」

自分の意思で張ったのかも分からない。解除も出来ず、自分で出ることも出来ない。

神殿の結界を更に強固にした強い結界だった。
のちに誰も自分に触れられないことに気付き、秘かに安堵したのは内緒だ。

それくらい、今の僕は誰かの接触を拒んだ。

───愛おしいロザリンドでさえも・・・・・・。

今はただ、一人になりたかった。
───ああでも・・・・・・。

スザクさんには会いたいな。
何か、前世の話を聞きたい。してみたい。
それが現実逃避だと分かっていても、今の僕には心の平穏が必要だった───。





















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